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使徒戦記  作者: タンバ
第三章 マグドリア編
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第四話 飛んだ先は?




「っ!?」


 目が覚めたら、森林の中。

 腕の中ではまだアリシアが気を失っている。


 先ほどまで遺跡の中だったのに、外に出ている。

 そして先ほどの奇妙な感覚。


「転移か……!」


 転移トラップ。

 もしくは転移魔法の実験室。


 どちらにしろ、とんでもないものを引き当てた。

 引き当ててしまった。


 魔法で神威を再現するのは、これまでも行われてきた。

 いやな話だが、セラもその実験の被験者だ。


 一つの魔法を極限まで強化すれば、神威に近づけるのではないか、なんて馬鹿げた発想の下、探知魔法のみを限界まで強化させられている。


 セラの場合は人だが、装置を使って神威に近い魔法を発動させるとは。

 さすがは魔法遺跡というべきか。


 ここがどこだかわからないが、場所によってはあの遺跡は国と国とのパワーバランスを崩しかねない。


 しかも日が沈んでいる。

 先ほどまでは朝だったのに、もう夕方のようだ。


 転移に時間が掛かるのはシルヴィアも同様だったし、下手すれば俺たちは数時間ではなく、数日間を飛び越えた可能性すらある。


「いや、そんなことは後でいいか」


 今、大事なのは状況確認。

 遺跡の影響なんて二の次だ。


 ブライトフェルンやクロスフォードの領地にある森林なら見覚えがあるはずだが、ここは見覚えがない。

 少なくとも、俺の知っている場所ではない。


 下を見れば、遺跡にあったのと同じ台座がある。

 周囲には遺跡の残骸っぽいのもあるし、似たような遺跡の跡地といったところか。


「やっぱりトラップってよりは魔法が偶然、発動しただけか」


 それなら危険は少なくなる。

 外敵を排除するためのトラップなら、ここには危険が一杯のはずだからだ。


 ただの転移魔法の発動ならそこまで危険はないはず。


 そう考えたとき、俺は近づいてくる音に気付く。

 聞き慣れた音だ。


 軍靴が大地を踏みしめると音と、鎧と鎧がぶつかり合う音だ。


「ちっ!」


 舌打ちをしながら、俺は未だに起きないアリシアを抱えて、ゆっくりと木の陰に隠れる。

 まさか他国に飛ばされたということはないだろうが、兵士には荒くれ者が多い。


 アリシアも俺も今は身分を証明できる物を持っていない。

 事情を説明しても、助けてくれるとは限らない。


 特に俺は急激に名を挙げている貴族だ。

 多くの貴族が排除したいと思っている。


 加えてアリシアはブライトフェルンの跡取り娘。

 ここで事故を装って亡き者にすることができれば、ブライトフェルンは跡取りを失う。


 女性である分、殺される以外の選択肢も十分あり得る。


「厄介なことになったな……」


 呟きながら、歩いてくる者たちを窺う。


 できれば良心的な貴族の兵士であってくれ。

 そう思いながら見た彼らの胸には、とある紋章が描かれていた。


 統一された紋章が描かれている鎧を身に着けているということは、領主である貴族ではなく、国に仕える騎士ということだ。


 問題なのはそこではない。

 描かれていた紋章だ。


 描かれていたのは、黒い狼。


 各国ともに国旗、軍旗には象徴となる獣を使っている。

 その中で狼を使っているのは。


「マグドリア……!?」


 なんてこった!

 想定以上に最悪だ。


 最悪の中の最悪といってもいい。

 ここがマグドリアなら俺とアリシアは見つかったら、殺されるだけじゃすまないぞ。


「おい、本当に光ったのか?」

「ああ、本当だ。確かに光ったんだ。絶対、何かがあると思うんだけどなぁ」

「見間違いじゃないのか? そろそろ戻らないと隊長にどやされるぞ」


 マグドリアの騎士たちはそう言いながら、周囲を調べ始める。

 まずい。

 詳しく調べられた足跡を見つけられる。


 アリシアを担いでいた分、俺の足音は間違いなく残っている。


 しかも今の俺は手ぶらだ。

 あの時、とっさにブルースピネルを投げたから、武器を持っていない。


 アリシアが起きれば、魔法でどうにかできるが、あの転移からそうそうに復帰できるとは思えない。


 まずい。

 本格的にまずい。


 強化を使って、なんとか二人を撃退できるか?

 兵士ならまだしも騎士だぞ。


 無手でどうにかなるだろうか。

 剣を奪えれば問題ないが。


 いや、剣を奪っている間に仲間を呼ばれかねない。

 二人だけのわけがない。

 こんなところにいるということは、哨戒か何かなんだろう。


 そこまで考えたとき、騎士が何かに気付いた。


「おい……」

「なんだ?」

「気付かないのか?」

「だからなんだよ?」


 一人が驚愕の表情を見せながら、俺とアリシアが隠れている方向を見つめている。

 いや、正確にはその上を見つめている。


「あ、あれは……煙!?」

「おいおい……あっちは俺たちの砦の方向だぞ!」

「まさかレグルスの連中が攻めてきたのか!?」

「冗談だろ!? 国境付近の砦で食い止めてるんじゃ!」

「とにかく急ごう! 国境の砦が突破されたなら、あの女が攻めてきたんだ!」

「暴風……レイナ・オースティン!!」


 聞き覚えのある名前を聞いたことで、俺は二つのことを確信した。


 一つはここが戦場、しかも最前線に限りなく近いということ。

 そしてもう一つは。


 また使徒に関わらなければいけないという、絶望的な事実だった。


 しかし、使徒と関わることを嫌っている場合ではない。

 なにせ、ここは間違いなくマグドリア国内。


 そこからアルシオンに独力で戻るのは無理がある。

 武器もなく、金もない。

 ならば伝手を使うしかない。


 幸い、レイナとは面識がある。

 彼女なら俺の身分を保証してくれるはずだ。


 そうなればアルシオンに帰る方法でいくらでもある。


 今はアリシアもいるんだ。

 手段を選んでいる場合じゃない。


 俺はチラリと騎士たちを見る。

 騎士たちは慌てた様子でここから離れていく。


 身近な危機は去ったが、安心はできない。

 さて、どうするか。


 煙が出ているということは、砦が攻められているということだろう。

 攻城戦中にいきなり現れて、レイナに会わせろと言っても会わせてはくれないだろうな。


 そうなるとタイミングが大切だ。

 まずは敵ではないことを示さないと。


 しかし、どうするべきか。


「うーん……」


 俺が頭を悩ませていると、アリシアが微かに目を開けた。

 だが、視線が安定しない。


 仕方ないか。

 あんな転移を経験したら、誰だってそうなる。


 静かな場所でまだ寝せていたいが、残念ながらそうもいかない。


「おはよう。お寝坊さん。記憶ははっきりしてるか?」

「おはよう……微妙……どうして外にいるの?」

「俺も完全に理解したわけじゃないんだが、どうやらマグドリアに飛ばされたらしい」


 それを聞いたアリシアは、何度か頭を振ったり、叩いたりしている。


「ごめんなさい。聞き間違いしたみたい。もう一回言ってくれる?」

「何度でも言ってやる。マグドリアに飛ばされたみたいだ。ここはレグルスとの国境近くってところかな」

「……まだ寝ぼけてるのね。私、もう一度寝るわ。次に起こすときは屋敷でお願い」

「おい、現実逃避をするな。寝たらここに放置するからな」

「……ユウヤ。私、思うんだけど。最近、女性の扱いが適当じゃないかしら?」

「その女性にひどい目に遭わされてるからじゃないか。いいから移動するぞ。できればレグルス軍に接触したい。最悪捕まっても、マグドリアよりはマシだろし、上手くすればオースティン公爵に会えるかもしれない」


 使徒の軍なら軍紀もしっかりしているだろうし、もしかしたら客人として扱ってくれるかもしれない。


「ユウヤ。今、あなたが考えてることを当ててあげましょうか? もしかしたら、客人として扱ってくれるかも、って思ってるでしょ? ここが前線なら絶対にありえないわ。マグドリアの間者として投獄されるのがオチよ。賭けてもいいわ」

「お前なぁ……少しは楽観視できないのか?」

「無理よ。現実的に考えて、この状況でアルシオンの貴族を名乗っても信じてもらえないわ。たとえ、あなたが使徒と面識があっても、会えないんじゃどうしようもないわ」


 そう言いながら、アリシアは自信満々な表情を浮かべていた。

 どうやら作戦があるらしい。


 なんだかんだ言って、頭の回る奴だし、ここは任せてみるか。

 最悪、暴れて引っ張る出すか。


 そんな物騒なことを考えつつ、俺とアリシアは燃えている砦へと向かった。







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