プロローグ
はじめまして。はじめましてじゃない方はお久しぶりです。
タンバです。
今回は軍師とは少し違う戦記物です。
駄文ではありますが、お付き合いいただけると幸いです。
少女が先頭を切って、馬を走らせる。
俺はそのすぐ後ろを追っていた。
この平原には無数の死体が転がっている。
折れた剣や槍が戦いの激しさを物語り、風に乗って漂う強い血と臓腑の匂いが、いまだにここが戦場であることを俺に認識させる。
しかし。
「あんまりのんびり馬を走らせていると、置いていくぞ?」
俺の少し先を走る薔薇色の髪の少女は、平時と変わらず凛とした美貌に明るい笑みを浮かべている。
その声は、血と臓腑の匂いを吹き飛ばすような清冽さを含んでいて、俺は少々困惑する。
彼女を見ていると、ここが戦場であることを忘れそうだからだ。
しかし、ここが戦場なのは変わらない。
現に周囲は敵兵ばかり。
敵の陣形に突撃しているのだから、当然だ。
しかし、周囲の敵の剣も槍も少女には届かない。そして俺にも。
見えない壁のようなモノに阻まれてしまうのだ。
しかし、こちらの攻撃は届く。
少女が振るう剣は、一人、二人と、いとも簡単に敵兵を死体へと変えている。
後ろにいる俺が剣を振るわなくていいくらいだから、進路上の敵はほぼ一人で片づけているということだろう。
そんな少女を止めようと、狙いすました矢が飛んでくるが、それも俺や少女の手前で見えない光の壁に阻まれる。
この現象は、俺と少女だけに起きているわけじゃない。
俺と少女の後ろ。
少女が率いる騎士たちにも同様の現象が起きている。
だから彼らは防御を捨て、攻撃に専念できる。ゆえに強い。
この現象を起こしているのは、先頭を行く少女だ。
少女の名前は、エルトリーシャ・ロードハイム。
白光の薔薇姫と呼ばれる、レグルス王国の常勝不敗の名将。
同時に、使徒と呼ばれる特異な力を持つ存在でもある。
片や、俺はしがない辺境の貧乏貴族の息子。しかも彼女とは別の国だ。
なぜ、そんな俺が彼女のすぐ後ろを馬で駆けているかというと……。
そこで思考は中断される。
「ユウヤ! 敵将は目の前だ! どちらが先に首を取るか勝負だ!」
「勘弁してくれ……エルト。俺は敵の将軍なんかとやりあう気はない」
「意気地なしだな」
「なんとでも」
馬を走らせながら、俺は肩を竦める。
面白くなさそうにエルトは俺から顔を背けた。
だが。
「ふん、ならいい。とりあえずついてこい。特等席で私の勝利を見せてやる!」
「いや、だから、人の話聞いてる? あ、ちょっと!!」
エルトが速度を上げる。
同時に、エルトに付き従う騎士たちも速度を上げる。
そうなると俺も上げざるを得ない。エルトの力の範囲外に出るのはまずい。なにせ、ここは敵軍の真っ只中なのだから。
「あ~……ついてきたの失敗だったかなぁ」
呟き、ため息を吐く。
どうせ、将軍の首を刎ねたときに、傍にいなければ不貞腐れるか、怒るかのどちらかだ。
敵の将軍よりもエルトの機嫌を損ねるほうがよほど恐ろしい。
だから俺は、もうかなり離れたところにいるエルトの背中を見据えて、馬の腹を蹴った。