砂糖菓子みたいなお城。
少し前、仕事で砂のお城を作ることになった。
色のついた砂に特殊なワックスを混ぜて固まり易くした、お家の中でも遊べる砂場セット。
いくつかの型が入っていて組み合わせることでお城が作れる。
売り場のサンプルにと、開いた時間にコツコツ一人で作っていた。
一見楽しそうに見えるけど、これがなかなかくせ者で、型に砂を押し込めて、出す作業だけでも大変なのだ。
きっちり砂を詰め込まないと、型から出しただけで崩れてしまうし、反対に詰め込めば型を外せない……。
何回も失敗を繰り返して、コツを掴めた私はパーツ一つ一つを丁寧に型から取り出していた。
汗だくでやっていると、私の姿に気付いた新入社員のコが声をかけてくる
「わぁ、なにやってるんですか?」
「お城作ってるんだよ」
遊んでるわけじゃないよ~、とへらへらしながらまた型に砂を詰め込み、それを取り出す。
「……これ、砂?」
興味深そうにそれをみて首を傾げる
「そう、砂」
「へぇ~、こんなに固まるんですね……」
彼がそっ、と先程作りたてホヤホヤのお城の壁に手を伸ばす……
「あっ」 「あ……」
彼と私の声が重なった。
出来たてホヤホヤの壁は彼がほんの少し触れたら、ポロポロと元の砂に戻ってしまった。
「あっ、すみません」
やってはいけないことをしてしまったかのように、申し訳なさそうにする彼。
「コレ、壊れ易いんだよ~、まぁすぐに作り直すから大丈夫」
今度はもっとイイ壁作るから、とつけたして仕事に戻ってもらう。
崩れて砂に戻った壁をまた型に入れ直して、今度は違う色の砂を入れてしましまの壁を作ってみる。
さっき壁のより時間は掛かったけれども彼に言った通りに、前の壁よりイイものが出来た。
そして、沢山作ったパーツを積み上げたり、組み合わせたりしながら、ビニールの砂場に砂糖菓子のようなお城が建った。
お城がお客さんに壊されないように、ケースを被てもらう。
夏休みの間はこの場所にずっとお城が建ってるのだ。
屈折、3時間ちょっと。
頑張った、私。
うーん!と背伸びをすると
「これ、壊したら怒る?」
ケースを被せてくれたヤツがふざけて聞いてくる
「怒る、作るの大変だったんだから!」
この砂糖菓子みたいなお城はほんのちょっとした衝撃で崩れてしまう、パーツを組み立てるのにどれだけ神経使ったかわかんないだろう、お前は。
「冗談だよ!」
「わかってるよ」
へへと笑っていると、さっきの新入社員が壊した壁を思い出した。
――ほんの少しの衝撃で壊れてしまった壁。
――それでも、また作り直したら前のものよりいいものが出来た。
「――さん、お城作り終わったら帰っていいよ~!」
他の場所で売り場を作っていた部門長が「お疲れ様」と声をかけてくれる。
「はーい、お疲れ様です」
私は頷き、手に着いた砂を払って碧が茜と交じりあった外の世界にとびたした。
――物事は、あの砂糖菓子みたいな砂のお城とおんなじで、ちいさなきっかけ一つで崩れてしまう。
そんなきっかけを前にしたら、積み上げてきた時間や想いなんてあまりにも無力……。
そして、ソレはいつだって私達の傍らに潜んでいる。
――幸せと同じように。
……それでも、また築きあげることが出来るのだと、私は信じたい。
あの砂の壁のように。
きっとあのお城も夏休みが終わったら壊されてしまうのだろう、それはもう呆気なく、一瞬にして。
そうしたらまた、冬休みにもっと出来のイイお城を作ろう。
コツを掴んだ私は砂遊びが楽しくなっていた。
ご機嫌で黄昏れに染まる空を歩いた、次の日、腕が砂遊びで筋肉痛になってたのはここだけの秘密だ。
――私が作った砂糖菓子みたいなお城は今もお店の中でひっそりと佇んでいる。