コピペ (数学講師シリーズ)
「ダメだ。こんな論文。コピー・アンド・ペーストがあるじゃないか。
研究者を目指すならもってのほかだ。お前分かっているのか?」
その時、電話が鳴った。
数学講師は、男子学生にすまないという顔をしてから、その電話を取った。
「分かりました。直ぐに向かいます」
電話を置くと、ノートパソコンを閉じた。
「ごめん、来客だから、話は後な」
数学講師はそう言い残すと、ゼミ室を出て行った。
男子学生は自分の席に着くと、手に持った論文を睨んだ。
「なんでダメなんだ?」
小首を傾げると、椅子を90度回転させた。
「どうしたの?」
隣のデスクの女子学生が彼の方を向く。
彼は持っていた論文を掲げて、
「太田さん、論文見せてくれない?」
と彼女の頼んだ。
「いいよ」と言って、彼女は論文を渡した。
「ありがと」と言うやいなや、ページをめくり始めた。
ページをめくり終えると、しかめ顔をした。
「どうしたの?」
「この論文、どういう評価だった?」
「よくできてるって、この調子で頑張れって」
男子学生は小首を傾げた。
2時間が経った頃、数学講師が帰ってきた。
「先生ッ!」
男子学生は論文を持って、数学講師の後についた。
数学講師は席に着くと、男子学生を睨んだ。
「まだ分かってないみたいだな」
「納得いきません。どうして僕のはダメですか?
太田さんの論文とどこが違うんですか?彼女も…」
「コピー&ペーストと言いたいのか」
男子学生は見据えた。
「太田さん、論文を持ってきてくれないか」
数学講師は女子学生を呼んだ。
彼女から論文を受け取ると、最後のページを開いた、
「ちゃんと、参考文献がリストアップされているだろう。
お前の論文はそこが曖昧なんだよ」
「それにお前は研究者を目指しているんだろう。
だったら、もっとオリジナリティを大切にしろ」
男子学生は瞬時に何も言い返せなかった。
「だったら、太田さんはいいんですか」
「ああ、彼女はいいんだ」
「どうして?」
「彼女は卒業したら、研究者の道に進まず、社会に出るんだ」
えっ、と漏らし、学生は彼女の顔を見た。そんな話は聞いてなかった。
「でも、社会に出るなら、どうしていいんですか?」
「企業ではオリジナリティより効率化が重視される」
「オリジナリティより?」
男子学生は怪訝な顔をした。
「ああ、俺もサラリーマンをしていたことがあるからな。
オリジナリティを活かせる仕事なんてほとんどない」
「だいたい、何%くらいですか?」
「10%もないだろう」
「そんなに少ないんですか」
「会社の仕事なんて、ベースが同じで、ちょっとずつ数値なんかを変えてったものだ。
だから、コンピュータが必需品なんだ」
男子学生は黙って聞いていた。
「だから、会社員はコピペがうまく使えないとダメなんだ」
男子学生の顔は晴れ晴れとしていた。
「そうですね。テレビはコピペを批判してますが、テレビの番組もほとんどコピペですね。
テレビ東京で外国人ものが当たると、一斉に多極でもやり始めたし。
コピペをもっと活用するべきですね」
「でも、ダメだぞ。お前は研究者を志しているかな」
数学講師は男子学生にクギを刺した。
面白かったら、数学講師シリーズの『統計学』、『確率論 ブラジルワードカップ編』、『微分』も読んでみてください。