表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/100

千年間の経緯

 「千年前、魔界の王の一人だった俺が地上に出る機会を得た。

 これは順番ではない。魔力量の多さ、強さによるものだ。

 もっとも強いからと言って地上に出る気のない魔王もいる。その場合はその次に強い魔王となる。

 他の魔王より強かった俺が、地上に出られるわけだ。


 とはいえ、すぐには地上に出られない。そのために必要なものがる。地上の純粋な魔力が憑代となる。そのために、自分の部下を地上に送り、魔力を集めさせる。


 他にも方法はある。

 たとえば強い魔力の人間や魔族を憑代にするという手段とか。ただ、その場合、憑代になったモノの理性も肉体も失われ、魔力だけが乗っ取られる形になる。

 魔力量が足りなければさらに、集めなければならないという面倒を被るので好ましくない。


 魔力を集める役目は自分の部下……7魔将が基本的に行うことになる。

 それぞれに一つずつ杯を渡す。儀式と7魔将の地上へ出るための鍵となるものだ。魔力が集まれば地上に降臨できる。


 元々、俺は魔界では苦痛の王と呼ばれていた。あらゆる苦痛を受け、その分だけ魔力を骨に蓄積できる魔王だ。ようするに、常に苦痛であるために骨でいる。

 アンデットがおぞましい叫びをあげている場合が多いのは、常に肉体が裂けている苦痛の為だ。死してなお苦しみを負うのがアンデット。そして俺はそれを魔力に変えられる。


 痛みしか知らない王という名もある。

 攻撃されればされるだけ魔力が溜まるわけだから、闘いたがる魔族も少なかった。

 さらに、相手の能力を修得できるんだから、そんな凶悪な能力を魔族は嫌がった。


 ただ俺は争いを好まない魔王としても有名だった。なにせ、闘うこと自体が面倒だからな。部下になりたいと言うやつは大抵は部下にした。命令を聞かない者は排除していった。

 その排除に役に立った7人を魔将にしたわけだ。


 そのうちの一人がインキュバスロード・レレガント。


 コイツの能力はただ単に、人間の女性に憑りつき虜にし衰弱させていくだけの能力だったが、俺は気に入っていた。素晴らしい能力だろ。色んな意味で……。


 それにずいぶん役に立ってくれた。

 地上に出ると言った時はずいぶん、喜んでくれた。いや彼自身は地上を征服するつもりだったようだ。

 彼が野心家だったことに俺は気付いていなかったため『地上に出て何ができるのか?』と言った時にうっかり口を滑らせてしまったのだ。


 魔王なら全員が知っている事実なのだが、7魔将が知る者はいなかった……神魔クラスへの昇格、そしてその方法。


 俺自身はそんなことをやるつもりは無かった。人間界に別荘でも作ってのんびり暮らすつもりだった。レレガントの魔力を借りて、ハーレムでも作って……などと考えていたのだ。


 だから7魔将に人間界の侵攻など命令はしなかった。ゆっくりと魔力を集めるようにとレレガントを7魔将のリーダにして頼んでおいた。


 それから俺が思っていたより、早く地上に出れることになった。

 なぜ、そんな事態になったかと言えば簡単だ。7魔将が俺の命令を無視し、人間たちを殺していたからだ。

 もっといえば、レレガントが他の7魔将を騙し、俺の命令と称し地上を侵攻していたからだ。


 俺にはその時、レレガントがそんなことをしているとは思いもしなかった。

 ただ地上に降臨して、のんびりと美人や可愛い娘をナンパしようとか考えていた。


 まずは玉座に着き、魔王なりの身なりを整え一息ついていた。

 基本はローブと大きな鎌。それに三つの指輪『呪壁の指輪』『魔瘴気の指輪』『魔倉の指輪』を右手にはめている。


 ただ、玉座に座ったというのに魔族どころか、7魔将の一人も現れない。

 それどころか現れたのは、魔王を倒そうとする勇者たちだ。


 やっと一息ついたと思ったら、早速お客さんだった。友好的に行こうと思ったら、そこにレレガントがいるじゃないか。

 そこで理解した。レレガントの目的は俺を倒すことだと……いや、違うな。俺を封じ込める……と言った方が正しいだろう。


 勇者たちは魔力からして、まったく話にならない。ようするに、レレガントにとっては勇者たちは生贄だ。おそらく、彼らが死んだときの魔力を抜き取り自分のモノにし魔王となろうという魂胆だろうと俺は考えた。


 まさか、レレガントに裏切られるとは思わなかった。

 しかも、俺だけでなく勇者たちを裏切ろうとしているのに『愛』だの『友情』だのを語る。

 彼らと闘ってわかり合った演技をしている。

 そのとき、魔王である俺が何を言ったとしても、勇者たちは耳を貸そうとはしないだろう。そして、レレガントはそこまで計算済みだろう。


 仕方なかった。

 闘いたくないがレレガントと勇者たちを引き離す方法が咄嗟に思いつかなかった。

 魔族が人間を数多く殺しているため話し合いはその時点でない。

 面倒だからそのまま悪を演じ無理矢理、引き離すことを考えたわけだ。


 レレガントをその場で殺すという選択肢もあったが、これは勇者たちに火に油を注ぐ結果になりそうなので避けたい。

 できるだけ、人間たちと争わない方向がベストだ。


 勇者たちをレレガントから離せればそれでよかったのだから、全力で戦う必要はない。ただ、勇者たちはなかなか引き下がらなかった。

 結局は、彼らが立ち上がれなくなるまで攻撃せざるを得なくなってしまった。


 あとは悪を演じながら、レレガントを魔界に引きずり戻すだけだった。

 満身創痍の勇者たちを痛めつけるつもりはない。妥協案を出したが、それでもレレガントの為に闘おうとする。その男が裏切るということも知らずに……。

 だから強引にレレガントだけを魔界に連れて帰った。


 一度、魔界に戻ってしまうと杯は千年、魔力を受け付けない。千年は地上に来れないことを覚悟して……。心底、がっかりしたよ。何にもしないで一日ほどで魔界に帰還だからな。

 たっぷり、ナンパしようと思っていたのに……。


 だが、レレガントは魔界に連れて帰られることまで織り込み済みだった。地上で無駄に人間を殺していたわけではなかった。

 レレガントは地上から魔界に戻る時の油断と言っていい状態のときを狙っていた。

 彼は杯の魔力を自分に取り込んでいた。ある能力を得るために……。


 『魔力と能力の均一化』……。

 俺はインキュバスロードの力を半分ほど受け継ぎ、レレガントも俺の魔力を半分受け取る。

 だが、俺とレレガントでは、受ける魔力がまるで違う。

 それは俺が、骨であることが魔力を保つ意味があることからだ。俺は骨に魔力を受け、レレガントは肉体に魔力を受けている。


 インキュバスロードはバンパイアロードのように肉体の消滅が無い。そのため、骨だった身体に肉体が宿ってしまう。

 そうすると本来、骨を媒体にする俺の魔力は完全に防がれ外に出すことが出来なくなる。

 いうなれば魔王の魔力を完全に防がれた状態になりインキュバスロードの半分の能力しかなくなってしまう。

 ただし、肉体の消滅は無いから、滅多なことでは死なないし、肉体は回復する。


 この時点でレレガントを下回っていた。


 レレガントは魔王の能力を体に受けている。肉体の回復もそうだが、魔王の能力も使用できる。いや、さらに杯の魔力も手に入れているので実質、俺を蹴落とし魔王になったと言っていい。

 そして神魔級になる方法も俺が教えてしまっているために知っている。


 俺は部下であった7魔将を全て奪われ、レレガントに他の魔王に差し出された。元・魔王として……。


 能力としては7魔将の半分の力しか持ち合わせていない。と、いいたいところだが、実際はそんなことはない。レレガントにはバレていなかったが全身の肉を引きはがせば、骨の魔力を引き出せる。要は自分の体を骨だけになるまで焼くなり、切るなりすればいい。

 そうすれば、魔王の力も引き出せる。

 まぁ時間的には数分程度で、肉体は戻ってしまうが……。


 そこから地上に出てくるまでに色々あった。

 まぁ、インキュバスロードの能力は使い勝手が良かった。色々シミュレーションしていたし、思った通りに仕えた。

 魔族の女に『ブラットラクト』を使えば、他の魔王から逃げ出すことが可能だった。それはそれで危なかったがな。


 そこから地上に上がる方法は大して難しくもない。

 魔王以外なら、杯が必要とはいえ7魔将も地上に出れるのだ。この時点では7魔将以下の魔力しかない俺が地上に出ることはたやすい。


 魔界にいるようにレレガントには見せかけて地上に這い上がり反撃の機会を伺うことにした。

 魔王が降臨するまでに少なくとも七百年ある……地上に出るまでに三百年かかってるんだがな。

 レレガントを倒す方法を色々考えていた。


 この肉体を削ぎ落す方法は、ご存じの通り復活の呪文。

 これは回復能力が通用しない。素晴らしい考えだったが、欠点は仕える神様だ。仕方ないので神魔級の中から害の無さそうな神魔を適当に選んだ。

 元魔王というだけで喜んで、神官にしてくれたが、こいつがグータラで基本何にもしてくれない。まぁ怠惰神なので仕方ないが……。まったく当時は俺とは似つかない神魔を選んでしまったと思ったもんだ。


 『セインヒローナ』? あれは神聖魔法じゃない。インキュバスロードの方の能力だ。


 それから、すぐにでも魔王として復活しようかと思ったが、半分は魔力が取られている。このまま、レレガントと闘うとしたら勝つ可能性は無い。ならば、勇者や7魔将を味方につけようと思ったわけだ。


 それまでは、勇者探しや7魔将を仲間にする方法。対魔王用の手段・手法を考えたりして、人間として暮らし、バレないようにしていた。


 もちろん、そのままの勇者や7魔将では力不足であろうと考えていた。なにせ千年前の勇者たちや7魔将は俺の足元にも及ばなかったわけだ。そこで考えた手段が『光』と『闇』の両方を持たせること。


 インキュバスロードの魔力を与えることだ。『ブラットラクト』……これが非常に役に立つ。魔族の魔力を勇者に与えられるからだ。怒りや憎しみによって勇者たちは『闇』の力を手に入れられる。

 逆に7魔将たちはインキュバスロードの魔力を帯び、人間の異性に信頼や愛情を受けやすくなる。そうすれば問題ないく『光』を手に入れやすくなるという算段だ。


 で、魔王復活まで勇者や7魔将を強くし、死んだら復活させる。

 そうすることで、同時に俺も復活できるというわけだ。


 ただ、欠点もある……復活させた人間は『好意の魔力』は無くなっちゃうんだよね~

 これは、レクサで実証済みなんだけど……。そこが欠点。


 場合によっては、みんな一緒に戦ってくれない可能性があるわけだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ