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 まだ、この血だまりに自分以外に生きている者がいたことに魔王は驚く。


「貴様、まだ生きていたのか? そういえば、神官か? リ・キュアとかいう魔法か?」

「ふぅ~。まだ、そんな寝ぼけたこと言ってるのか? まぁいいや、約束だ。今度は俺がこの場のみんなを復活するところを見ておいてもらおうか?」

「なに? あぁ、そんなことも言っていたような気もするなぁ。だが、そんな気も無くなった。このゴミ共の態度が私の気分を害した。諦めてお前も死ね」

「やれやれ……」


 頭を掻くゼディス。

 リ・キュア以外の方法でこの場に復帰しているという。だが魔王はそんなことに興味は無かった。ただの殺し損ね。しっかり致命傷を与えていればリ・キュアも効果を表さない。


 魔王の事を無視して周りをテクテクと歩き、勇者や7魔将たちを確認してしゃがみこむ。


「どうだ、お前の大切な女たちの亡骸の山にいる気分は?」

「あぁ、想像していたより最悪な気分だ。もっと、すっきりした気分になると思っていたんだがな」

「貴様!?」

「返してもらうぜ!」


 ブラックから『呪壁の指輪』を外していた。

 魔王は全員、殺したことに満足していた。そのために『呪壁の指輪』を取り上げることを後回しにしていた。いや最悪、敵となる存在がいないのだ。指輪自体必要ないとも考えていた。


「ここにきて、まだ足掻くか!?」

「黙って、復活呪文を見てろよ! ロード! 『鏡盾ガシュウディ』!」

「『魔倉の指輪』か!? 厄介なモノを」


 『鏡盾ガシュウディ』は単純な盾だ。

 この盾の装備者の有効範囲内にいる者全てと装備者のダメージを共有する能力。要するに装備者がダメージを受けていれば、他の者も同等のダメージを受ける。しかし、装備者は相手がダメージを受けていてもそれを共有することはない。対等な体力なら、この盾を持っている方が勝つ可能性が高い……有効範囲内なら。

 いかんせん有効範囲が狭く、遠距離攻撃には盾としてしか使い道は無いのが欠点ではある。


 ゼディスは右手の聖衣の手袋を外す。骨の右手が剥き出しになる。


「すでに、一人……復活に成功しているわけか……。だが、この人数を復活できると思っているのか? それに『鏡盾ガシュウディ』を装備しているからと言って、私が何もせずにお前の儀式を眺めていると思っているのか?」

「出来れば、黙って見ていてほしいんだけどなぁ~。さっき約束したのに~」


 駄々をこねるように魔王に抗議するが、そんなものが受け入れられないことも承知している。サッサと呪文詠唱を始める。それと同時に魔王も詠唱を始める。


 魔王の最初の呪文は七色龍(レインボー)だった。遠距離から一撃で片づけてしまい『鏡盾ガシュウディ』の装備者を亡き者にし、自分へと被害を無くそうと考えた……。しかし、それは焦り過ぎというほかない。


 今さっき『呪壁の指輪』を手に入れたばかりのゼディスが魔法陣の盾を使わないわけがない。魔王にその魔法を直接返す。

 が、魔王も七色龍(レインボー)はベグイアスの『魔力吸収』で無傷である。


「チッ!!」


 自分の単純なミスに苛立つ魔王。

 それに比べて、ゼディスが選んだ魔法は、ルリアスが得意としていた魔法。『連続詠唱』。

 右手の骨に無数に小さく気味の悪い口がついていく。おそらく、二十近くの口が歌うように詠唱を始める。


「ほう、考えたな。そんな魔法もあるのだな」


 魔王は普通に感心する。ルリアスは遠距離で攻撃していたため『連続詠唱』の能力を知らなかった。しかし、これで魔王は『連続詠唱』の能力を得る。

 魔王は試しに二の腕あたりに口を付けてみるが、これはこれで闘いづらいことが判明する。


「なるほど、筋肉を阻害し行動を制限するのか。だから骨の部分に……。魔法限定にすれば有効だが接近戦を行おうとすると存外邪魔になるわけだな」


 ルリアスは武器を持たずに精霊魔法に専念するために、手の平に付ける場合が多かったのもこの為だった。魔王が言うように近距離と遠距離を両立させるのには向いていない。


 ゼディスはそのことを理解していて魔王に『』連続詠唱』を見せておき、間稼ぎを謀った。ゼディスを邪魔しようとしたら近距離になりがちだ。『連続詠唱』能力は邪魔になる。

 魔王が一歩遅れている間に、高速詠唱呪文を唱え、復活呪文を高速化させる。

 高速詠唱は儀式系の呪文の時間が十倍~五十倍の短縮になる。それは術者のレベルによって変わって来るのだが、それをいくつかの口にやらせて、十四の口には復活呪文をいっぺんに唱えさせる。


 魔王は人数を増やし一斉に遠距離呪文を唱える。盾と指輪だけでは防ぎきれないが防ぐ必要はない。遠距離攻撃なら『呪壁の指輪』で空間移動で回避できる。

 とはいえ、あまり遠くに行ってしまうと、みんなを復活できないので近辺を移動するくらいだがそれで十分と言える。

 魔王は自分が傷つくことを嫌い接近戦を行わない。最悪、全員復活したところでまた倒せばいいだけのこと。それに目の前の男は、復活呪文の苦痛で絶命するかもしれない。


 すでにゼディスの体から爪が毟り取られるように剥がれ血が噴き出している。それは左手だけでなく、足も同時に行われている。高速化しているために、ものすごいスピードで全身の皮膚が引き裂かれていく。しかも、ハンマーのような殴りつけるような剥ぎ取り方。

 さらに、そこから剥き出しになった筋肉や神経はかき出し、ペンチで捻り切られるようにちぎり取られていく。それは体の全てに起こっている。腕も足も上半身も下半身も、顔すら例外ではない。

 元のゼディスの姿からは程遠い。この状態で生きていること自体が不思議なほどだ。


 魔王は攻撃を止め、高みの見物を始めた。

 そこで、ゼディスが魔法により呪文を詠唱だけを続けているのだろうと結論付けた。

 たとえ死んでも、自動詠唱という方法をとっているに違いないと……。

 すでに生きているかも怪しいものだ。


 肉や血が神の供物となっていく。どんな回復魔法でも回復することはない。元に戻る方法は無い。


 今は目玉が無くなっていっている。

 ゼディス自身は動かなくなっているところを見ると、死んでいるのであろう。だが、呪文詠唱と体が無くなっていく行為は続いている。

 内臓も引きちぎられ、無くなっていく……全て、無くなっても全員復活は難しそうだが、執念だけはすごいモノだと感心させられる。


 そして、儀式は終わった。

 ゼディスの肉体も魔力も無くなり、骨だけとなった。


「さて、あの男の復活呪文は成功したかな?」


 復活呪文が失敗し全て無駄であるほうが面白い……と思ったが、そうそう魔王の思い通りにはならなかったようだ。

 全員ユラリと立ち上がってくる。まるでゾンビのようだと、形容したくなるようにフラフラではあるが……。


 所詮、蘇ったところで行動は同じ。まずは、あの男を助けようと行動するはず。と、魔王はゼディスを確認しようとしたがその場所にはいなかった。

 すでに、助け出したのかと首を傾げる。彼女たちが動いた様子など無かった気がしたが……。


「誰か、お探しかな?」


 耳元で声がし慌てて飛び退く。

 おそらく、ゼディス……白骨化しているから分かり辛いが、この場にスケルトンとなる男は他にいないだろう。

 何故動けるのか……そんな疑問が一瞬よぎったが、魔法を使っていたのなら不可能ではない。


「そうか、アンデット化か! 自らをバンパイアやリッチなどに変える呪法があったな。全身が骨だということはリッチか? いや、お前ほどの男だ。死者の王(ノーライフキング)か?」

「悪くない線だ。が、もう少し考えたらどうだ?」

「ずいぶん、偉そうじゃないか? 魔王に対して……」


 そこまで言って魔王は、一歩後ずさる。そして逃げ出すように大きく飛び上がる。


「貴様、まさか!」


 だが、骨となったゼディスは魔王を無視して、勇者と7魔将の方に寄っていく。

 どうやら、魔王がゼディスに気を取られている間に、ゼティーナⅡ世がみんなに回復魔法を唱えたらしい。武防具はボロボロだが肉体的には全快と言った感じだ。


「おう! どうだ、調子は?」

「私は絶好調だけど……あんたは、ずいぶん見た目変わったわね~」


 ドキサが軽口を叩く。体調は絶好調だろうが、意識の方がついていっていないようだ。ときたま、頭を振っている。

 顔色も悪い。当然か……と思える。先程までは死人だったわけだ。すぐに気分がよくなることも無いだろう。

 みんな、ゼディスにフラフラと寄ってくる。精神的には参っているようだが、怪我は治っている。


「先に説明するか?」

「だが、魔王は大丈夫か?」


 攻撃してくるのでは?というテトの言葉に全員、空に退避している魔王を見上げる。しかし魔王もゼディスの説明を聞こうとしていることは明らかだった。

 骨の姿で生きていることに疑問を持ったショコが尋ねる。


「あの~、ゼディス様で間違いないんですよね? 雰囲気とか、骨で生きていること、とか……アンデットになっちゃったんですか?」


 骨になったというのにあんまり悲しくない。生きてるからか? ……生きてはいない、アンデットだから……。


「アンデットになった……という言い方は正確じゃないな? お前もそう思うだろ、魔王?」

「くっくっく。あぁ、なった(・ ・ ・)んなない。戻った(・ ・ ・)んだからな」

「戻った?」


 もともと、アンデットだったということだろうかと小首を傾げるルリアス。そして、その考えは大体あっていた。

 魔王が確認するように、ゼディスを指さす。


「前・魔王だな」

「そういうことだ。レレガント」


 彼女たちの青かった顔が更に青ざめる。

 間違いなく魔王はゼディスのことを『魔王』と呼んだ。


 ゼディスは魔王を『レレガント』と呼ぶ。


 その名を聞いた時、エイスが考え込む……。


「『レレガント』? どこかで聞いたことのある名だな……」

「あら~ん? それって、先代の7魔将に居ませんでしたっけ? いた? いた?」

「どういうことですか? たしか……人間側についた先代7魔将の名前じゃ?」


 確認を取るように、ベグイアスとシルバが口を開く。何人かが喉を鳴らす音が聞こえる。


 たしか、千年前の闘いで人間側に仲間になった7魔将が一人だけいた。その名がレレガント。


 グファートが混乱してきている。いや、みんな状況が読み取れない。


「えーっと、ちょっと待って? ゼディスが前・魔王で現・魔王が昔の7魔将で、人間の味方だったのに、現在は人間の敵で魔王で……ゼディスが人間の味方で?」


 見事に混乱している。どちらの魔王が人間の敵かわからない。

 そもそも、なぜ、魔王同士が敵なのか。ゼディスが魔王だったとしたら、なぜ、人間の姿をしていたのか。

 勇者と7魔将が魔王レレガントと魔王ゼディスを見比べる。


「そんな大した話じゃないさ……千年前の話だ」


 ゼディスは千年前の魔将大戦の事を語り出す。

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