真っ暗
どうも、こんにちは。俺です。
巷ではゼディスの名で通っています。
それにしても、気持ちが悪い。
朝……いや、もう昼過ぎ? 暗いから夜か? まぁいいや、起きたらベットにグルグル巻きで動けない状態。なんでこんなことになっているのか、見当がつかない。
ひょっとしたら、勇者や7魔将の『好意の魔力』が切れたか? という考えも無いでもない。
だが、テレサがいろいろ説明してくれる。
まずは、彼女たちが魔法をかけて眠らせて、麻痺させたり、大量の薬を飲ませたり……普通の人間なら死ぬぞ、と思うくらい睡眠薬とかの空き瓶が転がっているんですが……いや、普通、空き瓶が一つでもあったら危ないと思うのですが、気のせいですか? そうですか……。
それから現状、魔王の降臨。多分順番が逆だろうが、寝ていたためにわからない。
なんか映像が空に浮かび上がって『皆殺しにするぞー』みたいなことを言っていたとか。
それを止めに行くために、彼女たちは行ってしまったらしい。で、俺を危険な目に遭わせないために置いていったとのこと……。
それに万が一、殺された場合の保険として置いていった。蘇ったら再び魔王と戦うとのことだが、そう何度も彼女たちを戦わせる気もない。
そのほかにも、彼女たちの能力レクチャーを、テレサ先生から受けるわけだが、先生そんなに役に立たない。
説明下手……というか、彼女自身よくわからないらしい。魔力反射とかそんな話をするが、言葉だけでなんとなく理解するしかない。
目覚めたことで鎖などを取り外すのにテレサの力を借りる。それでも一苦労である。頑丈に巻いたらしく、テレサの力をもってしても中々解けない……ってーか、呪いとかかかってないか? 俺自ら解呪の呪文をかけたりしながら、鎖をほどく。念の入れ過ぎだ。
それから町の様子を話す……というか、スケッチブックに書いているわけですが……その内容からすると、どうやら、街中にゾンビが放たれているようで、シンシスとドンドランドはお出かけ中とのこと。
ドンドランドに『吸斧ノベール』を貸しておけば良かったと思うが仕方ない。おそらく今から貸し出しに行っても間に合わないだろう。
シンシスの方はこの前、錫杖が壊されたが修復出来てなかったなぁ~。まぁ、シンシスなら大丈夫か、ゾンビなら神官にとっては得意とする相手だし……。
テレサに一般人に、この屋敷の解放とゾンビを入れないように言って外に出る。
欠点としては、一般人にこの屋敷にテレサがいることを教えていないことだが、そんな時間もないし諦めよう。
人間何事も諦めが肝心だ。
それにしても、外は真っ暗で、ゾンビが平然と歩いているな~。
そもそも、魔王のお城まではココから遠いだろう。たぶん、元・遺跡の……前・ゴブリンの洞窟に居城を構えているんだろうな。
『呪壁の指輪』で……無い? あれ? 指にはめていたハズだが……持ってかれてる? マジか!?落ち着け!?
寝ている間に持ってかれたのかよ~。マジかよ~。こっから歩いていくの? 遠いっつーの。もうこの時点で魔王の城まで行くの挫折しそうだよ。俺、便利な移動道具を覚えた現代っ子だよ。歩きなんて今さら考えられないぞ。
そんなことを考えつつ群がってくるゾンビやグールに死者追放魔法で、追い返したり破壊したりする。失敗すると追い返せないし、大成功で破壊できる。
こんなところで、無駄に魔力使ってないでサッサと行かないと……。とりあえず『魔倉の指輪』か……やっぱり『銀脚レードル』が早いかね~。
他は移動用じゃないし……ってーか『銀脚レードル』も移動用じゃないんだけど、こんな使われ方は不本意だろうに……。
とはいっても他にないので『銀脚レードル』で街中を駆け抜けていく……だんだんと、死体のレベルが上がっているようだ。
『死体のレベルが上がる』とは変な言葉だが、そう例えるのが妥当だと思える。いままではゾンビやグールだったが、レッサーヴァンパイアやレイス、ファントムといった、少し強い死体となってきている。
時間が経てばより一層、強くなってきそうだ。
それにしても、死体だけとは徹底している。生きた魔物も排除して、最終的には死体達も浄化するつもりだろう。
目的は地上の魔力ということか。神魔級にランクアップが目的で間違いなさそうだ。というか、魔王が他のことを考えるとも思えないわけだが……。
どーでもいいようなことを考えながら、アンデット達を蹴り壊しつつ町の外へと進んでいく。
まったく、どれくらい俺は寝ていたのか……空が暗いせいでわからない。
『銀脚レードル』で町から数十キロ離れたとき、空に人影が見えた。人影? 魔王影か?
「もう少し、人里離れた場所に移さないか?」
「どうせ、数日で全て殺す」
「一日で全滅させないんだ。ずいぶん、寛大なご処置で……」
「魔王だからな」
巨大な魔力だ。
名乗らなくても魔王だということはわかる。
魔王がここに居るということは、勇者や7魔将が死んだと考えていいのだろうか? そんなに寝てたのか俺?
「いくつか質問してもいいかな?」
「魔王を前にして、そんな態度をとれる人間がいるとはな。いいだろう、だがあまり時間はやらんぞ」
「まずは勇者や7魔将はもう殺されたのか? 今の彼女たちの実力ならそう簡単に死にはしないと思うんだが?」
「それは、私を低評価しすぎじゃないか?」
「ということは……やられている?」
自分でも驚きの感情だ。彼女たちが倒されたと思うとイラつきに似た感情が沸き起こる。不快というか、あまり起こらない感情だ。
そもそもの計画では彼女たちは死ぬはずなのだから、それならそれで問題ないはずなのだが……。
「腹立たしいな……」
「なに?」
「独り言だ、魔王。気にするな。それなら、一つ頼みがあるんだが聞いてくれないだろうか?」
「言ってみろ」
「彼女たちを復活させたいが構わないかな?」
「彼女たち全員をか?」
「そうだ」
「貴様の態度が気に喰わんなぁ……。だが、それはそれで、面白い見世物だ。貴様が全員、復活させるまで身体が持ち、精神が持ち、生きながらえることが出来るというのか? おそらく、一人二人ではないか?」
「見てみたいだろ?」
「あぁ、貴様が苦痛に喘ぐ姿が見てみたい。許可しよう。その前に私も見てみたいものがある。そちらが先だ」
「なんだ? さっさとしてく……ッっぅ」
魔王の姿は空中に無かった。
俺の胸から真っ赤な手が出てきている。
これは、魔王の腕か? 赤いのは俺の血か? あぁ、そうか、俺を殺そうとしているのか……。
「で……。見たい……モノって……なん……だ?」
勇者や7魔将が死んだ今、人間一人、死んだところで面白い見世物だとは思えない。魔王が見たいものが気になる。
「ほぅ、人間。まだ生きているか? すぐには死なないモノなのだな。普通ならショックや苦痛で死ぬだろうに、さすがは勇者や7魔将に魔力を植え付けるだけのことはある」
魔力の質を見極めて、俺を探り当ててきたわけだ。そうなると、俺の早合点か。まだ、彼女たちは生きている。それで、俺の死体を彼女たちの前に転がし、反応を見たいわけか……。
予想通りだ。
宙に転移魔法陣の盾が出来る。ブラックが俺から持っていった『呪壁の指輪』の転移魔法陣だ。
魔王は彼女たちが出てくるのを待っている。俺を地面に転がし踏みつけ、出血をコントロールしながら……。
「やはり『魔瘴気の指輪』の檻から『呪壁の指輪』なら出てこれるか」
とは、言っているが計算ずくだろう。俺を突き刺していたのだから……出られないと思っているなら、この場で俺を殺す必要はない。力ずくで連れて行けばいい。それでは間に合わないと見たからこその行為だ。
知っている顔が次々と出てくる。
ちょっと前まで一緒だったのだ、懐かしくもない。懐かしくもないが、安心している。アホか俺は……彼女たちは死んでいる前提だったのに……それに、俺の方が殺されかけているとは情けない。
彼女たちは元気そうだ。傷一つない……。激しい戦闘が遭ったとは思えないが、無いはずがない。おそらくゼティーナⅡ世が完全回復したのだろう。
誰かの声が聞こえる。
「ゼディス様!!」
「ゼディス!!」
ヤバイなぁ。俺の心配などしている場合ではないだろうに……。
さて、どうしたものか。俺自身の意識もヤバいことになってきている。すでに、音が聞こえないし、視界もぼやけてよく見えない。
何か、戦闘が行われているのであろう、振動だけが伝わってくる。誰かが俺の傍まで来るが、すぐに消える。
当然だ。俺の所に来れば狙い撃ちだ。助け出そうとすれば間違いなく強力な攻撃を受ける。
ゼティーナⅡ世も俺の所に来られる状態じゃないらしい。来ない方がいい。下手に近づけば死ぬ可能性が高いのだ。俺など放っておくのが一番なのだが、それを伝える術がない。
口を開いても血が流れるだけで、声が出ない。
情けない。
彼女たちが死んでから、復活魔法を唱えるまでが目的だったのに、俺の心配などさせるとは……。
彼女たちでは魔王に勝つことは出来ない。
確かに強くなった。だが、その格差は大きすぎる。
たとえ、俺が理解していない能力を手に入れたとしても、彼女たちが勝つことはない。それほどまでに差は大きい。確かにココまでは善戦しただろう。しかし、それだけのこと……。
本当にヤバイ……意識が……。
ショコとルリアスが叫んでいた。
「ゼディス様!!」
「ゼディス!!」
『魔瘴気の指輪』で閉じ込められ、途方に暮れたがブロッサムの案で『呪壁の指輪』で出られるかもしれない、ということになった。
ブラックはそのことを忘れていたが、これもちょっとした賭けに近かった。魔力を大量に消費し出れなかったら目も当てられない。
だが、賭けは成功。
ゼディスがいるであろうグレン王国の町の近くに出る。
真っ先に目に入ったのは血だらけで倒れるゼディスとそれを踏みつけている魔王の姿だった。
おそらく、全員がゼディスの名を叫んでいただろう。そして怒り心頭だっただろう。
魔王の言葉を聞く前に、ドキサとテトが突っ込んでいっていた。人質ということも考えられたが、それ以上に頭に血が上っていた。
魔王はあっさりと引き下がり、彼女たちにゼディスの様子を確かめさせると、巨大な炎 の 球を百発近く撃ち込んでくる。
ゼディスを回収しようとしていたが、慌てる二人。そこにベグイアスが飛び込み魔力吸収。だが、吸収しきれず吹き飛ばされる。
その土煙を利用して、ゼティーナⅡ世がゼディスに近づき回復魔法を唱えようとした。
が、その土煙を利用したのは彼女だけではなかった。
「貴様がいると戦闘が長引くのでな」
ゼティーナの耳元で声が聞こえたと思ったら、喉に魔王の爪が頸動脈から喉を通って貫通している。声が出ない。
慌てて動脈を抑えるが助かる術などない。何せ今、魔王に体も貫かれているのだから……。
自分の行動の浅はかさを呪った。
自分は回復の要だというのに、ゼディスを助けたい一心で罠にまんまとはまったのだ。これで重要な回復役がいなくなる。それだけで無茶な戦い方が出来なくなる。
全部、自分のせいだ、ひょっとしたら、魔王を抑えこみゼディスを助ける方法があったかもしれないのに……。
「ゼティーナっぁ!!」
スアックが駆け寄ろうとするのを、ショコが止める。
「後回しにしないと、二の舞を演じることになるわ」
ショコを睨み付けるスアックだが、彼女の方が正しいし、睨み付ける相手ではない。すぐに魔王を探す。
今まで以上に魔王を倒すという意志が強くなっていった。




