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甘く見ると痛い目に遭う

 本格的に魔王が戦うために石畳の上に降りたつ……が、速いかどうかのタイミングを黙って見ているほど悠長なモノは誰一人としていない。


 そのタイミングを一番最初に掴んだのはグファート。

 赤く輝く剣が魔王を捕えるが、簡単に片手で防いでしまう。そして魔力を振動させ空気の圧力を高め一気に放ち、吹き飛ばす。ちょっとした爆風だ。魔力反射を警戒して直接、魔力を当てない。

 吹き飛ばされはしたもののグファートにダメージは無い。


 その間にもドキサとゼロフォーが接近戦を挑んでいく。が、魔王との間に分厚い魔力の鎧があるようで、なかなか刃は身体まで届かない。

 初弾の葉弓の魔力破壊を行わなければ、肉体に辿り着くことは無さそうだ。


 イラついてはいるものの、冷静さをかいているわけではない魔王は、邪魔されながらも着地する。


「やれやれ、降り立つのも待てないとはな。死骸を見つけたハイエナか?」


 そんな安っぽい挑発が耳に入るほど、彼女たちには余裕はない。ブロッサム、スアックの魔術師コンビとエイス、ルリアスの精霊術コンビは魔法を大量に撃ち込む。

 光と闇を織り交ぜた魔法、炎と氷を合わせた魔法、時間と空間をまとめた魔法など今までになかった魔法を魔王に叩きつける。

 しかし、直撃はしない。魔力による防御と回避力の速さで、わずかに掠める程度。


 直撃すればダメージがいくかもしれない。そんな風にも考える。今まで魔王との力の差を考えれば、かなり彼女たちは力を付けたといえる。

 魔王が回避しなければならないということに、ほんのわずかだが、勝機が感じられる。

 もし、今回が駄目でも次に蘇った時にはもっと大きな可能性になっているはずだと、感じずにはいられない。


「なかなか、やるではないか。私が回避しなくてはならないとはな。それに知らない攻撃……知らない力を手に入れているようだ。驚かされる、本当に驚かされる」


 魔王も反撃の魔法を唱える。

 その魔法の攻防で小高い丘だった城は崩れ始めるが、互いに攻撃の手を緩めない。

 崩れゆく中、瓦礫の上を飛び回り、魔法や接近戦の応酬が繰り広げられていく。


 瓦礫の死角となるところから、一斉に八方からブラックが襲い掛かる。

 今までに見たことないような強烈な竜 の 息(ドラゴンブレス)

 一瞬、魔王を仰天させた。

 それもそのはず、レットドラゴニュートのはずが、その色は黄金色に輝いている。それに明らかに今までとは形が違う。


古 代 竜(エンシェントドラゴン)のゴールドドラゴニュートだと!?」


 古 代 竜(エンシェントドラゴン)のその力は7魔将を上回る。瓦礫の中から突然出てきた数十体の|古 代 竜(エンシェントドラゴン)の一斉攻撃。


 今までで最も焦った瞬間だった。二重三重に最大級の防御呪文を唱え、時間を稼ぎ、長時間詠唱が必要な強力な範囲衝撃魔法で魔法で竜 の 息(ドラゴンブレス)を相殺する。


「こんなゴミどもにっぃぃい!!」


 崩れた丘から大地に着地すると、魔王を覆っている魔力だけで、瓦礫を吹き飛ばし怒りを露わにする。


「そんなことで怒ってちゃぁ、そこが知れるぜ、魔王!!」

「ひょっとしたら、イケそうじゃない?」


 先ほど魔王の魔力の前に斧もパンチも通らなかった二人組、ゼロフォーとドキサが切りかかる。

 この二人の攻撃は先ほど防いだ。特質したことは何もない。ただの時間稼ぎだ……と甘く見る。


「それは、間違いです!」


 シルバが手をゼロフォーとドキサに向ける。

 その動作だけで、魔王はすぐさま、先ほどと違うことをしようとしていることに感づく。


 そう、先ほどは壊せなかった魔王の魔力の衣が、ゼロフォーは吸収し、ドキサは破壊していく。二人の攻撃は魔王まで届くが、すぐに魔王は回避していた。


 歯軋りをする魔王。

 思うように事が運ばない。

 自分は王魔級でこれから神魔になる者。それをたかだか7魔将……将魔級ごときの奴らに手こずるなど、あってはならない。


「絶対に殺す……いや、殺すだけでは飽き足らん。生かしておいて、お前らの大事なモノが壊れていくところを見せ付けてやる。そのあと身体を切り刻んで虫のエサにでもしてやる」


 接近戦は確実に二人でやってくる。

 ショコとテト……シルバが手をかざすと、どちらかが魔力を破壊し、どちらかが魔力を吸収する。


「いい加減にしろ!!」


 魔王は口から魔力の塊をテトに向かって放った。が、その魔力は魔王自身が受け吹き飛ぶ。

 すぐに魔王は理解した……魔力反射だ。


 シルバの能力は味方の能力の入れ替え。

 テトとグファートの能力を入れ替えて、グファートの『魔力反射』をテトに付属させていた。そう下手な攻撃はこのメンバーでは反射に繋げることが出来る。

 シルバはその機会を伺っていた。 魔王自身の攻撃なら魔王に通じるだろうとの目論見から……。


 初めにゼロフォーとドキサの攻撃が通らなかったのは油断させ、反撃に移らせるまでの伏線だった。


 やりづらい……魔王は完全に勇者や7魔将を舐めていた。それがこの結果だ。

 一人一人の個性を生かした攻撃……その程度なら力で丸め込めると思っていた。だが、基本能力値が千年前とはまるで違う。

 どうやら、千年間、遊んでいたわけではないようだ。


「面倒だ……魅了魔法(チャーム)を使おう」


 それで、コイツラを縛り上げ殺せばいい。こんな奴らごときに本気でやり合う必要などない。絶望は他の人間で楽しもう。

 怒り心頭ではある。だが、こんな奴らごときに、魔力を大量に消費するつもりはない。


 範囲魔法で詠唱を唱える。これならばグファートの魔力反射は一人しか使えない。反射したところで自分の魔力なので魔王自らにかかることも無い。


 彼女たちは、魔王が詠唱している呪文は魅了魔法(チャーム)だとわかるが、それが自分たちに効果があるかわからない。

 ゼディスの魔力が体の深くに突き刺さっている……とはいえ、相手は魔王だ。それ以上の魅了魔法(チャーム)で上書きできるかもしれない。


 だが、そんなことはないと確信するように……いや、ゼディスを信じて魔王へと一斉攻撃を開始する。それより早く魅了魔法(チャーム)が発動する。


 緊張が彼女たちに走る。ゼディスと似た魔力が彼女たちを覆い、心を蝕もうとするが……。


「効果が無いだと?」


 彼女たちの攻撃が止まることがなかった。魔法自体は成功し彼女たちを虜に出来る状態にはあるはずなのに……そう思いながら、攻撃を防ぐ。

 原因をじっくりと探っていく。自分の魔力が彼女たちの体内にある……だが、そのいちばん深いところに別の魔力が存在していることを確認した。


「すでに対抗策を講じていたわけか」


 この状態では精神系の呪文は全て無効化されるだろう。攻撃や防御だけでなく、精神攻撃にも対応できるようになっている。ただ、この状態はすでに呪文による支配ともいえる。

 そして、彼女たちの守るべきものがこの魔法の術者だということはわかった。


「お前たちが守るべきものは世界じゃないわけか」


 その言葉に一瞬だけ全員、怯んでしまう。ゼディスのことなどバレるわけがないが、それでも魅了魔法(チャーム)が効かなかったことで、裏に誰かいることはバレてしまうわけだ。

 そして、その一瞬は魔王による反撃へと移行するには十分な時間とも言えた。


 反撃に移った魔王は素早かった。範囲魔法で接近戦を挑んでいる者を吹き飛ばし、そのうち一人を引っ掴み遠距離魔法を繰り出すものへ飛び道具のように投げつける。

 シルバの能力の入れ替えも間に合わない。


 さらに攻撃してくるグファートの体を拳で突き破ると、腕から触手のようなもので体内の神経に直接、痛覚を攻撃する。


「ぐぁああっぁ!!」


 死にはしないものの、激痛が止むことも無い。永遠に苦しみかねない。


 すぐさま、ブロッサムがゼロフォーに武器魔力付加(エンチャントウエポン)を唱え、オリハルコンの腕を強化しエイスが具現化させる。

 ゼロフォーは魔王の腕を目がけて、魔法の拳を飛ばす。威力は十分だが、魔王はグファートを盾するように前へと移動する。


 グファートが吹き飛ばされ、体がズタズタになるが魔王の腕から逃れることが出来る。


「もう少しマシな助け方は無いのかしら!」


 すぐに、ボロボロのグファートをショコが引き揚げその場から離れる。


「グファート、救出のための一撃か……魔力反射が作動すると思ったが、ここで能力の入れ替え……というわけか。打撃や斬撃は無効ではなく回復だから切断されても問題ない訳か」


 なかなか、上手いことを考えている。

 とくに獣人などは、グファートが転がりつく先も見えていたようだし、反応が早い。カンガルーのようなバネ足で一段飛んだあと、白鳥のような白い翼で急上昇して、魔王から離れていた。


 グファートは打撃を受けた体が回復していっている。

 それは問題ない。魔力を断てば彼女たちの回復能力は無くなる。


「そう、地上の魔力を無くせば、お前たちの回復どころか魔法も何もかも使えなくなる」


 そんなことは、彼女たちだってわかっている。が、そんな方法は無い。この地上は魔力で溢れている。魔界から魔瘴気が噴き出し、地上に上がり魔力に変わっているのだから、枯渇することはない。

 そして、魔王は今、それを手に入れるために戦っているのではないか? なのに何故そんな無茶なことを言っているのかと思う。


「魔力を無くすことが不可能だと思っているのか? 部分的になら可能だろ? たとえば魔法陣で結界を張るとかな」


 たしかに、一時的に一定の空間の魔力を空にすることは出来ないことじゃない。ただし、儀式的になり時間や魔力を膨大に使う。魔王と言えども瞬時に出来るモノだとは考えづらい。その間に隙ができる。攻撃のチャンスになる。


「瞬時に魔力を無くす方法はない……と、思っているんじゃないか?」


 魔王は左手の甲を……正確には人差し指にはまっている指輪を見せる。

 『魔瘴気の指輪』……オリジナル。

 レプリカは魔瘴気を排出するものだった。もちろん、オリジナルも出来るが、今の彼女たちにその効果を期待するのは無理という話。そうなると、もう一つの能力が役に立つ。


 魔力遮断……。

 一定空間に魔力を一切入らなくする。それどころか、空間内は魔法自体使用不可になる。しかもこの空間から出るには方法は二つ。空間を解除するか、指輪を付けているかのどちらかでしか出ることが出来ない。優秀な檻ともなる。


 魔王は危なくなれば、この空間から出て体力、魔力を回復すればいいが、彼女たちは一切魔力を回復する手段はない。魔力回復アイテムを使っても、魔力が体内に吸収されないという異質な空間なのだ。


 もちろん、こんなモノを使わなくても勝てる自信はある。

 だが、勝敗の問題ではなかった。


 瞬時にして魔王と勇者・7魔将を空間が包み込む。

 魔力の異常を感じ取るが、再生能力のない者たちは、初めから自分の体内にある魔力だけで闘っているようなもの、大した問題はない。

 グファートやゼロフォー、それにブラックなどは注意が必要だがそれだけのこと……と思ったが、魔王がこの空間から出ていく。


「逃げるつもりか!」

「逃げる? 心配するな、すぐに戻ってくる。ゲストを連れてな……」

「ゲスト?」


 ドキサが首を傾げる。

 この期に及んで何を言っているのかと……。


 だが、魔王は先ほどの魅了魔法(チャーム)で、それの対抗策を講じた魔力の元を見つけていた。そこから、どんな人物でどこに住んでいて、何をしているかまでわかっていた。

 今度は彼女たちが、魔王の魔力を解析する能力を甘く見ていた。


「ゼディスという名か? 生きたまま連れてくるか……殺して連れてくるか……どちらがいい?」

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