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黒い楕円の物体

 予想外な出来事というエキドナが目撃したものは、光る生贄だった。

 

 ゴブリンロードとコボルトキングが生贄を鎖につないで、魔法陣を起動させたらしい。その起動方法はエキドナが見た感じではどこかぎこちないように感じたということ。

 しばらくして、生贄の王は苦しみだし魔力が引き抜かれていっているのか、ミイラのように干からびていったらしい。それから一瞬、大きく輝いたということ。だが、それ以降、うんともすんとも言わなくなったとか……。

 そのあとに、ルリアスがその場に現れた。


 ……この時点で、魔王が降臨した事実はない。が、生贄が光った事が気にかかる。


「生贄が光った?」


 その現象をルリアスも知らない。

 普通に考えれば、魔王が生贄の体に降臨したのではないかと考えるのが妥当だろうか?

 先程、生贄を魔法陣から取り除いた時は確実に死んでいた。魔力がほとんど抜き取られた状態だったのだ。その身体に魔王が降臨していると考えるのは不自然な気もする。

 魔力が無い体に降臨することに意味があるのだろうか? それに、降臨しているなら何故行動を起こさないのだろうか?


「どう思う?」

「魔王降臨となにか関係があると思うのですが、降臨したというには物足りないと思います」

「ようするに、魔王降臨が失敗ということか?」

「油断できませんが、その可能性は高いかと思われます。ゼディス様には報告してあります」


 ルリアスはエキドナが羨ましいが、今はそれを言っている場合ではない。


「で、どうしろと?」

「こちらで『適当に頑張ってくれ』とのことです」

「『適当に』って……」


 考え方によってはルリアス達を信用しているとも取れるが、ゼディスのことだ。面倒くさいことは全部任せてしまおう、と考えていることが伺える。


「まずは、生贄の確認だな。それから念のため炎で灰に箱に詰めて封印を施すか」

「妥当な判断だと思われます」

「それでも、物足りない気もするな」

「しかし、それ以上の方法もないのが事実です。封印までして、しばらくは監視を付けるのがよろしいかと存じ上げます」


 念には念を入れなければならないが封印までして、それ以上のことなど思いつかない。

 それでも、嫌な予感しかしない。


「私たちは何か見逃していないだろうか?」

「分かりかねます。もし、魔王が降臨していたとしたら、私たちの想像の付かない手法を取っている可能性もあります。どちらにしてもしばらくは様子を見るしかないのではないでしょうか?」

「そうだな……」


 ルリアスは深く椅子に腰を沈めると目を瞑り考え込んだ。

 念には念を入れる……スアックに相談した方がいいだろうし、魔王が降臨している可能性を考えるとさらに強くなる必要がある。





 それから、数日間は灰にして封印した生贄を部下に監視させていたが、変化は無かったためルリアスは一度、テレサの館に戻ることにする。

 その間に、7魔将の処遇について話し合いが行われていたらしい。


 7魔将が街中で色々な手伝いをして入るという話だ……人間の? 疑いたくもなるが、まずは魔王降臨の儀についての説明だった。が、これはゼディスとシンシスとスアック、ルリアスの四人だけで極秘に行うこととなった。


「当然の処置ですね」


 スアックが眼鏡をかける。単眼だと、少し滑稽に見えるがそれでもスアックの容姿からするとカッコ良さが勝っている。


「当然の処置か? 7魔将全員に話しておいた方がいいんじゃないか?」


 ルリアスは一致団結した方がいいだろうと判断する。それに、念のため力を付けておいた方がいい。説明せずに、ただ『力をつけろ』といって納得するだろうか?

 納得しそうだ……彼女たちなら……。


「まずは、騒ぎを大きくしないことが重要ですね~。主要機関……まぁ、各国の王様には連絡しておいた方がいいでしょうね。あくまでも、可能性として……重要視するか、楽観視するかは各国で対応してもらいましょう」


 シンシスはテレサにローズティーを入れてもらっている。当然だが、テレサに隠し事は出来ない。

 テレサが口を割ることはないと思うが、7魔将あたりが脅しをかけたら、さすがにわからない。

 わからないが、そもそも魔王降臨の話題が上らなければテレサを問い詰めることも無い。


 事実を知る人数を減らせば減らすだけ、秘密は保持しやすくなる。

 ゆえに国家機関については知らないが、ここに居るメンバーは厳選したと言っていい。


 ゼディスはエキドナから情報を得ている。ルリアスは当事者。魔族側から一人と勇者側から一人と考えた場合。スアックとシンシスという結果になった。


 まずやるべきことをルリアスが提案する。


「監視だな……これは、できるだけ私とエキドナでやるつもりだが、スアックも交代を頼みたい」

「確かにそうですね。私も確認しておきたいですし、ゼディスやシンシスは魔族にも監視させている場に行かせるわけにもいきませんね」

「それにしても、納得いきませんわね~。スアックさん?」

「その点は私も同感です。魔王は降臨するはず。私が調べた書物では……調べ損ねたものもあるかもしせませんが……。ただ、正確に明記されているモノが少なく『儀により降臨』としか描かれていない場合が多い。降臨しないとは考えられないのですが……」

「そう考えれば今回の事柄は降臨の何かしらの前兆と考えるべきか。しかし、灰にした上に封印もしてある。早々、復活は出来ないだろう」

「そーですね~。それまでに、彼女たちを出来るだけ強くしておかないといけませんね~。ハッキリ言って、ただの勇者や7魔将のままでは勝ち目はゼロでしょうからね~」


 ゼディスは椅子を後ろにギィギィとゆすりながら話を聞いていたが、後ろに倒し過ぎてそのまま転ぶ。が、誰も助け起こさない。

 カッコ悪いが、起き上がるのも面倒なので、床に転がったまま話す。


「もしも本当に魔王が地上に降りたら、力を付けたところで勇者や7魔将じゃ太刀打ちできないだろうな~」

「……」


 誰も返答しない。

 たしかにドキサやショコが途方もなく強くなった。それでも魔王を倒すには不十分だとゼディスは絶望的に考えているらしい。


「しかし、方法はこれくらいしか……」


 ルリアスが思いつく限りでは、これ以上の手立てはない。監視と訓練。他の方法があるだろうか。

 そう思っていたが、シンシスが思い当たることがあった。


「ゼディスさんが自ら闘えばどうでしょう?」

「ゼディスが?」


 確かに7魔将と対等の魔力を持ち、得体のしれない能力を持つ。

 だからといって、魔王に通じるとは思えず、少なくともスアックは反対する。


「そんな、危険な目に遭わせるわけにはいきませんね」

「あらあら、ゼディスさん自身はどう思っているのかしら?」

「んぁ? 俺か? 難しいんだよね……この状態じゃぁ戦って勝つ可能性はゼロだろうしなー。それに、このまま『魔王は降臨しませんでした~』って可能性もある。様子を見てみるのも一つの手じゃないかと……」

「そんな手は無いな! 色々手段を講じておくべきだ。 対魔王用に……」


 それからも、話し合いは続いたが、結局のところは監視と訓練は変わらない。それ以外に新たな研究と国での対応などを考慮に入れたりする。

 もし、魔王が封印を解くようなことになれば、すぐさま対応できるようにする。


 シンシスは各国にまわり現状を王様たちに話して回ることになる。そのお供にドンドランドを連れていく。

 各国の王たちは対応に追われることとなる。

 こういう時は人間たちは一致団結する。凶悪な脅威に立ち向かうべく手を組む。国民に不安を与えないように配慮しつつ、軍備の強化及び多国間の交流などが一気に盛んになる。

 魔王が現れた場所にすぐに軍を派遣できるように……


 しかし、魔王は数か月たっても現れなかった……。

 勇者や7魔将の強化が順調に終わりかけていた頃……各国の王たちが魔王降臨を疑い始めたころ……とうとう、魔王が動き出す。





 始まりはゴブリンロードだった。

 生贄をささげたゴブリンロードは自分の巣穴に返されていた。勝手に生贄をささげたことはお咎めなし。というか、ロードとしては、むしろ褒められるべきだと思っていた。


「くっそ! あの褐色クソエルフが! 俺様がわざわざ生贄をささげてやったのに!」


 苛立つロードをなだめようとしたのは初めの数匹のゴブリンだけだった……その数匹はロードに頭を砕かれている。それ以降、ゴブリン達は恐ろしくて近づくことが出来ない。

 それなのに食べ物や飲み物を運ばせては『マズイ!』と言って、また殴り殺す。


 荒れているが、ゴブリン達にとっては日常の光景ではあった。

 ロードは大抵、暴れている。敵でも味方でも関係ない。ただ、強い者には逆らわない。


 そんなある日、いつものようにロードが一匹のゴブリンを殺した……何気ない日常だと、その時のゴブリン達はみんな思っていた……が、明らかに様子がおかしかった。


 潰れたゴブリンが液状になり、そのままロードの腕から吸収されているような状況なのだ。


 理解できず、呆気にとられるゴブリン達。

 言葉も発しないロードの異変に気づき、一斉にゴブリン達は逃げ出した。動物的感が今までのロードとはまるで違う生き物だと訴えている。


 メスも子も関係ない。片っ端から叩き潰しては吸収していく。

 この巣穴から、ゴブリンがいなくなった時にはロードの体は一回り大きくなっていた。


「足りないな……」


 ゴブリンロードが発した声はらしからぬ、知性ある声だった。

 森の中から、ロードと同じくらいの大きさのコボルトキングが現れる。そう、このロードと一緒に生贄を運んだコボルトキングだ。


「あぁ、足りない」


 キングがそういうと、持っていたロングソードでゴブリンロードを真っ二つにした。液体化するロード……それを吸収していくコボルトキング。ヌメヌメとした液体が絡まるとどす黒い卵のような、繭のような楕円形になっていく。


 それがその場から動かなくなる。

 何時間も……何日も……何週間も……何か月も……。


 ……このあたりに住む村人に見つかるまでは……。

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