7魔将がアナタの町のお手伝いをします
別に何事も起きていなかった数か月……。
「いたって、平和だな~」
「平和じゃないだろうな。普通に考えれば……。人間の町を7魔将が闊歩しているんだ」
テレサの館でゼディスは上位悪魔のテトとゼロフォーと食事をとっている。
他のメンバーは仕事である。
仕事内容は国の復興……ラー王国、神聖ドートピオ王国、ユニクス王国を再建している最中だ。
本日、休暇なのはテトとゼロフォー。ゼロフォーは先に食事を終えて手持無沙汰でワイングラスを回しながら透かしたり、匂いを嗅いだりしている。
「まさか、俺たちが人間の役に立たなきゃならないとはな……」
「私たちが復興を手伝えば早いですし、罪滅ぼしの一環となるでしょうからね」
ゼディスの予想外の結果になっている。7魔将は受け入れられないと思っていた。国の復興を手伝ってもきっと、石など投げられたり、嫌な目に遭うと思っていたら、街の人たちの大半は快く受け入れてくれた。
「以外過ぎるだろ」
「俺の人徳だろ!」
「アナタに人徳などあるとは思えませんがね」
白身魚のフライにナイフを入れながら、見向きもせずにゼロフォーの人徳を全面否定する。
「なんだ? 俺がこの前、魚屋のおばさんからお土産を貰ったことが気にくわないのか?」
カラカラと笑いながらワインを煽る。
信じられんことに、街の人と馴染み過ぎている。魚屋のおばさんがゼロフォーにお土産で魚を差し入れてくれたのである。
たしかに、この前魚屋の修理を手伝ってはいるのだが……彼女たちが壊したと言っても過言ではない、魔族が壊したりしてるのだから……。
「ベグイアスなんかは子供たちと球を使ったスポーツで大活躍だったとか話してたぞ?」
「なんで、街の人たちはそんなにすぐに魔族と馴染んでいるんだ?」
「さー、俺に聞かれても困るなー。町の人にきいてくれ。あー、貴族のじいさんなんかいいぞ。暇を持て余していて、チェスをしながら三時間も一方的に話していたから、いくらでも話し相手になってくれるんじゃないか?」
「ゼロフォー。お前、すごいなー。俺なら途中で帰ってるぞ」
ゼディスも魚のフライを食べながらゼロフォーの根気を称える。両手を組んで偉そうに『まーな!』とふんぞり返る。
そもそも、復興の手伝いをさせているのには理由がある。
もちろん、罪滅ぼしも理由の一つであるが、シンシスが言った話が原因ともいえる。
「ドキサさんやショコさんが手に入れた能力は『光』と『闇』。両方を手にすれば、今までの勇者以上の力がだせるはずです」
「具体的には?」
「勇者たちは『覚醒と怒り』だと思います。それに7魔将たちが『光』の力を手に入れるには……」
「え? 魔族って『光』の力を使えるの?」
「おそらくは……勇者の力の結晶は『信頼』ですから、街の人たちに信頼されるようになれば『光』も使えるのではないでしょうか?」
「単純じゃないか? だいたい7魔将は魔族に信頼されていただろ?」
「魔族は『恐怖』で抑えつけていて『闇』の力を手に入れたんだと思います」
「具体的にはどうする?」
「『覚醒』してない勇者たちは黒の塔に閉じ込めましょう」
「閉じ込める……って……」
「あそこは色々な世界に繋がっています。理想的な『覚醒と怒り』が得られるのではないでしょうか? それから、魔族は人間たちの信頼を得ましょう」
「どーする。ちょっとやそっとじゃ難しいだろう?」
「国の再建です」
「ちょっとでそっとだな……信頼には程遠くないか?」
「たぶん大丈夫じゃないかと思いますよ」
「楽観的だな……」
と、その時は思ったのだが、まぁ、見事に上手くいっている。なんて単純なんだ人間って……戦争が遭ったのに……。
シンシス曰く『悪意ない者に対してはこの大陸の人間は寛大です』とのこと……寛大すぎだろ!
ルリアスなど、何人もの貴族からプロポーズがあったとか言っていた。ただ本人は『迷惑だ』と言っていた。あまりにしつこい貴族もいてブッ飛ばしたところ、貴族がしょっ引かれて、ルリアスは注意されただけで帰ってきていた。
グファートなどは軍隊の再編と訓練に役立っているらしい。切っても死なないしな。練習相手にはもってこいと言った感じだ。
首など取り外して持ち歩いているのに、兵士のあいだでは人気が高い。彼女に勝てたら告白しようという輩もいるとかいないとか……。
スアックは建築物の立て直しの設計などを行っている。宮廷魔術師との話し合いなどをするのかと思ったら、そんな場合ではないらしい。彼女の知識は建設に大いに役立っている。手動式エレベーターを取りつけたりする案が挙がっている。食器や道具などを運ぶのに便利らしい。手動式ではあまり重たい物は無理だとか……。彼女が黒の塔から得た知識らしい。
……バベルの塔……それ以外では名前は出してはいけないらしい。……隠語として用いられるのが黒の塔。
ベグイアスは建築作業の方で、まー重宝されてます。足が多いは、糸が使えるは、高いところからぶら下がるは、で、色々役に立ちます。
しかも、若い大工さんから親方大工まで仲がいい……あんな性格なのにウケている。帰りに飲み屋で一杯、引っかけて帰って来ることもある。
ブラックは、建築作業……兵の訓練……庭掃除に巡回……五十人がフル活用。別名、街の便利屋。この前見かけたときは八百屋の呼び込みをしていた。どういう経緯でそーなったのかは知らないが……。
休みの日は球技のスポーツに呼ばれ練習相手もさせられている。威厳無いなー。
まぁ、ゼディスが褒めてやればそれで満足するので問題は起きない。
テトとゼロフォーも役に立っている。今日はたまたま休みなだけ……。一日中、ゼディスに甘えているだけの二人。そもそも二人とも積極的に甘えるのは苦手らしく、何かに託けてゼディスに甘える。『これは仕方なくだ』とか言いながら……。
基本、彼女たちは野放しといってもいいくらいだが、念のためドキサとショコが見回りをしている。現状では彼女たちの命令に従うように言ってある。
外では……屋敷の中は別らしい……込み入った事情で……。
シルバ、エイス、ゼティーナⅡ世、ブロッサム、葉弓は黒の塔……何やら大変らしい。『覚醒』しているゼティーナⅡ世、ブロッサム、葉弓も入れている。
『闇』の力を手に入れるために、何やら酷いところに送り込まれているとか……。
シルバとエイスは結局今回の戦争では『覚醒』しなかった。
食事を終え、ホークとナイフを置くテトがゼディスに問いかける。
「何故ですか?」
不意をつかれ、ゼディスはテトの言いたいことがわからなかったが、ゼロフォーは理解しているようだった。おそらくゼロフォーにも同じ疑問があったのだろう。
「俺たちをこれ以上強くしようという理由だよ。確かに魔族である俺らは強くなりたいと思っているが、人間には脅威になる。それなのにゼディスやシンシスは俺たちを強くしようとしている」
「私たちを強くする理由が見つからない。魔王が降臨しないとなれば……」
そう、魔王は降臨しなかった。
ルリアスが魔王降臨の儀を行っている洞窟に戻ってみると、生贄が捧げられていた。残念なことに他の7魔将はテレサの館に帰っていた。
慌てず冷静に対処していくルリアス。
勝手気ままに壊してしまうと、それこそ暴走した魔王が降臨しかねない。そういった点ではグファートやゼロフォーがいなくて助かったともいえる。冷静な対処に信頼は無いかわいそうな二人。
まずは杯から魔力を抜く。それから、魔法陣に描かれている呪文を順番に削除していく。削除の順番も間違えてはならない。
途中で生贄になっている男を取り外す。それまでは魔力の枷が男から魔力を吸収している。
「だいぶ抜かれているな……」
想像していたより生贄から魔力が抜かれている。少し前の魔王ならここまで魔力を吸収していれば降臨の兆しを見せていてもおかしくない。
考えられることは三つ。
一つはもうすでに降臨していて雲隠れしている。何せ7魔将が誰もいないで降臨させるなどおかしな話だ。状況を調べているのかもしれない。……が、こちらの可能性は低いだろう。
魔王ほどの力を持っていて、何を恐れることがあるのか……と言ったところだ。
もう一つは、この程度の魔力では足りない。
強力になり過ぎて地上に降臨するには、より多くの生贄や魔力が必要という場合だ。こちらの場合は幸か不幸か地上には降臨していない。もう一度降臨の儀式をしない限りは二度と地上に現れない。
どんなに強力になっていたとしても、地上に降臨できない以上、関係ないともいえる。
三つ目は……。
イレギュラーな事態。これは想像できない。要は勝手にゴブリンロードやコボルトキングが降臨の儀式を行ってしまったのだ。何か余計な起動をさせていることが考えられる。
そうなると、魔王の強さもわからないし、すでに降臨している可能性もある。
この状態では手に負えないし、真実はわからない。
とりあえずは、これ以上、儀式が出来ないように解体するのが現実的で最も正しい判断だろう。
生贄を取り外した後は、再び魔法陣の解体。その辺の魔族に命令して柱を丁寧に取り外していくように命令する。一人ではいくら手があっても足りない……。
「そこで、私の出番のわけですね」
「ここに居たのか……逃げたのかと思ったぞ」
「あとで、状況の説明もしますが、まずは解体作業をお手伝いします」
エキドナだ。
すでに、ルリアスの行うべき行動を先読みしていたらしく。細かい置物や飾り物は取り除かれている。それに、全体が見やすいように必要最小限の配置にされている。
「お前には……」
「色々、言いたいことがあるでしょうが、まずは魔族たちに柱を取り除かせています。それから魔法陣解体後の台座の取り外しの命令も出してあります。次のご命令を……」
「次か……今は無いな。台座と取り外せば、だいたい終わりだ」
「ルリアス様に魔力、供給のアイテムを用意させておきます」
いたって優秀。
自分の魔力を回復するのを忘れていた。魔方陣解体も魔力を大量に消費していく。その後を狙って攻撃されたら魔法は唱えられない。
唱えられないからといって、負ける気もしないが……。とにかく助かる。
「優秀なのにな」
「ありがとうございます」
今は魔族として活躍しているため、ルリアスに『様』を付け恭しく頭も下げる。ただゼディスについては、まったくと言っていいほど引くことを知らない。
「ものは相談なんだが……」
「ダメです」
「……」
取りつく島もない。
「悪い話では……」
「お断りします」
「少しくらぃ……」
「NOです」
話に耳も貸さない。テキパキト解体作業だけを手伝っていく。時には自分より立場の下の魔族を使い、時には自らが動き……こんなに優秀な魔族がいたとは知らなかった。むしろ、ゼディスに取られたのが惜しいとも思えるほどだった。
解体は組み立てよりも早く終わる。準備する道具も何も必要ない。半日ほど働きづめだがその程度で済む。終われば、魔族全体に休憩を出す。ルリアス自身もさっさと自室に戻る。
休憩になると、ゼディスに褒めてもらえそうな気がしてにやけてしまいそうになるが、部屋の扉をノックする音に顔をパンパンっと叩き、引き締める。
そういえば、エキドナが何か『説明する』と言っていたのを思い出した。
「ひょっとして、勝手に生贄をささげられていた実態とか、経過を知っているのかもしれんな……」
その行為はルリアスとエキドナにとって、ゼディスに仇名す共通する敵意だと認識している。
部屋にエキドナが入ってくる。誰にも聞かれていないことを確認する。
「どういうことか説明してもらおうか?」
「あの人間の王が現れるところまでは計算通りだと思うのですが、ゴブリンロードとコボルトキングが勝手に生贄に捧げました。おそらく、想像なされていると思いますが……その後、予想外のことが起きまして……」
「予想外?」




