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下準備

 おかげで、魔王降臨の儀は中断したが……。


「エキドナ! 貴様、騙したのか!!」

「はい」


 ケロッとした顔でルリアスの言葉を肯定するエキドナ。

 さらに頭に血が上るダークエルフ。


「今、この場で殺してやる!!」

「ご主人様の使い魔である私を殺すというのですか? それは、ご主人様と『敵対する』ということですね?」

「ぐっ」


 途中まで魔法詠唱していたが、すぐに詠唱をやめる。


「意外と理性的で助かります。もしルリアス以外でしたら、私を殺す7魔将は多いでしょうから」

「まったくだ! 私でも殺してやりたいと思うのに……」


 歯軋りしながら堪えている。

 ゼディスの名前を出さなかったら本気で危ないだろうが、エキドナはそのあたりも織り込み済みである。


「仲良くしろよ?」

「そうですよ、ルリアス? じゃないとご主人様に捨てられてしまいますよ」

「そ、それは……困る。その……仲良くする。……が、待て、エキドナ! なんで私を呼び捨てにしている! 私はお前の上司、上官だぞ!」

「魔族での地位など、どうでもよろしいではありませんか。別に魔族になど戻る気もありませんし……ただし、ご主人様のお役に立つために、内情を調べるためだけの仮の姿は続けますが」

「ぐっ、コヤツ……わ、私だってゼディスの為に役に立つぞ。例えば7魔将の情報をいくらでも持ってきてやる! こんなエキドナなんかより……」


 うん、でも7魔将の情報はもういらないのだが……。本人から聞けばいい、が言い出せる雰囲気でもない。もう少し様子を見ることにする。


「張り合い過ぎるなよ」

「もちろんわかっています。張り合うとボロが出かねないですからね。ご主人様にご迷惑をおかけするようなことは致しません。もちろん、ご褒美を頂ければもっと役に立ってみせますよ」

「ズルいぞ、エキドナ、自分だけ! 私だって張り合うつもりはない! ただ、今までコイツが私を騙していたから、それを言及しているだけで……。これからだって、コイツが騙さないとは限らないだろう!」


 かなりご立腹のようだが、当の本人エキドナは涼しい顔。その態度が余計にルリアスを腹立たせる。そもそも、部下だったのにこの態度の大きさが許せないのだろう。


「よかろう! 百歩譲って、ゼディスの役に立つことは認めてやる。だが、それでも私の部下だろ! まずは私が先で、お前は後だ」

「残念ですが、それを決めるのはルリアス、アナタではなく、ご主人様ですよ」

「むっ……た……確かにそうだが……」


 納得いかない様子だが、反論の余地はない。

 しかし、エキドナは責めたてるだけではない。フォローも入れておく。ゼディスの『威』を借るエキドナ。


「とはいえ、能力的にはルリアスの方が上で役に立つと思えます。私よりもルリアスの方を上位に持ってくるのが適当ではないかと思います」


 と、ゼディスに進言する。


「どういうつもりだ?」


 急に態度を一変させたことでエキドナに対する疑念が湧くルリアス。

 今度はゼディスがルリアスに指摘する。


「本当にお前らしくないな……冷静に考えればわかりそうなものだが」

「私が冷静じゃないだと?」


 すぐに口を噤み考える。思い当たる節はいくらでもあるだろう。だが、仮にも7魔将だった魔族だ。一度、熱が冷めれば頭の回転は速い。


「ゼディスに好かれるには、争わないこと。地位にこだわる必要はないということか……」

「さすが、ルリアスですね。あらかた、全貌が見えてきているようです」

「私は騙されたわけか……本来の目的は『私』ではなく、魔王降臨の儀を中断させること……」

「いや、それも一つだがお前を手に入れることも目的に入っている」


 そう言われただけで冷静さが吹き飛び、ルリアスはフニャフニャになってしまう。


「本当か!? ならば」

「そんな場合でもないようですね……」


 耳をつんざく甲高い電波のような音が小屋の周りから響いてくる。ルリアスがすぐさま外にでる。


「まさか、私の結界を破ろうとしているのか!? そもそも、結界がココにあることを知っている者などいないハズ!」


 空と地上との間に亀裂が入って行く。透明な結界がひび割れてきている。

 敵がどこにいるか現在、認識出来ていない。少し、大きめに結界を張ったため、視界に入らない所から、結界の破壊を試みているのかもしれない。


「だが、こんな短時間で結界をここまで壊せるヤツなど7魔将でもいないぞ!?」


 防御用の結界ではないといえ驚異的な破壊力と思えた。

 が、ゼディスとエキドナは心当たりがある……。


「ご主人様……私は隠れますので……」

「え? 俺はこの後どうしたら……」

「……頑張ってください」


 スルスルと森の中へと逃げていくエキドナ。あとを追いかけて逃げようか迷うゼディス。

 考えるよりも早く割れてしまう結界……。そこに駆け込んでくる影……。


「あら~ん。あらあらあら~ん。ルリアスじゃなーい。こんなところで何やってるの~」

「ベグイアス! 貴様が私の結界を破ったのか!」


 だが、ルリアスは彼女が破壊したのではないとわかっていた。彼女なら結界の魔力を吸収するため、もっとも時間がかかるだろうが。


「壊したのは俺らだよ!」

「ゼロフォー! ……と誰だ? 人間……か?」

「拙者は葉弓 楓と申す。以後お見知りおきを……」

「味方……か?」

「うんにゃ。どちらかと言えば敵だろう」

「敵と手を組んで結界を破ったというのか!」


 同じ魔族だというのに人間と組んでルリアスの結界を破ったというのだ。腹も立つがそれ以前に自分が魔王を裏切っていることは棚上げしておく……バレてないと思っているから……。


「敵である前に、今はお前が一番の敵だからな」

「テト!? なんでテトまでいるんだ……それに私が……敵だと……」

「心当たりがあるだろ?」

「……」


 魔王を裏切ったことを言っているのだと思っているルリアス。まさか、7魔将全員がゼディスを奪い合っている状況になっているなど、つゆにも思うまい。


「しかし、どうやってこの場所を特定した」


 とりあえず、裏切っているかどうかは置いておいて、結界の位置を特定した方法を聞き出してみる。


「私たちがいますから」

「スアックまで……それと人間もか」


 知らない人間がまた一人いる。魔法使いのようだ。


「この調子だと、ブラックやグファートもいるわけか……」

「もちろん。貴方がやったことは重大な裏切り行為ですから、見逃すわけにはいきません」

「だが、私が大人しくやられるとでも?」

「今のアナタでは彼女たちは止められないでしょう」

「ブラックとグファートを……か? それとも7魔将全員を……か?」

「どちらも違います。ドキサさん、ショコさん」


 ルリアスは聞いたことのあるような名だと思ったが咄嗟には思い出せなかった。そして思い出すよりも早く、体に衝撃があったと思った瞬間には地面にねじ伏せられていた。


「ぐっぅ!!」

「おひさしぶり、ルリアスちゃん。テレサの屋敷以来……かしら?」

「無理には動かないでくださいね~」

「貴様はドワーフ、それに獣人……たしかゼディスと一緒にいた……どうなっている?」


 色々なことがどうなっているのかルリアスにはわからない。7魔将が自分を狙うのはわかる。魔王降臨を中断したのだ。裏切りと言われることは理解できるのだが……。


「まず、なぜ7魔将と勇者たちと手を組んでいる!? それに、このドワーフがなぜこんなに強くなっている。昔のままなら、問題なく捻り潰すのなど造作もない事だったのに……」

「どうなってるのか、聞かれているぞ、ゼディス」


 森からまた一人……エイスが現れる。いや、勇者側で見た面々がゾロゾロと……7魔将と仲良く……。


「本当にどうなっている? それにゼディスに聞く話とは……」


 急速に頭の中で何かが繋がっていく。


「まさか……」

「おそらく、その『まさか』じゃろうなぁ」


 ドワーフのドンドランドが抑えつけられているルリアスに近づき憐みの目で見ている。


「まさか、これだけのメンバーを全員!?」

「あらあら、そういうことになりますね~。ドンドランドさんと私は『別』になりますが……。『裏切り』につきましては『魔王への』ではないんですよ?」

「ちょ、ちょっと待て! 色々とちょっと待て!! え!? ひょっとして私、一人で魔王降臨させようとしていたということか!! お前たちがゼディスと『いいこと』をしていた間に一生懸命、頑張っていたのは!?」


 7魔将は誰もルリアスと目を合わそうとしない。ドンドランドが肩を叩いて慰める。


「裏切り者はお前たちじゃないか!!」

「そー言っても、結局はルリアスも楽しんだんじゃないの~?」

「まったく、私のご主人様をこんな小屋に閉じ込めて……一晩中う?……じゅるり」


 グファートとブラックもルリアスの口撃に対し反撃する。

 それを制するようにシルバが手をパンパンと叩く。そしてゼティーナⅡ世が話を進める。


「みなさん、落ち着いてください。魔王は封印しておくかは後回しにしまして、ゼディスの所有権について話合いたいと思います」

「え? なにそれ? 本人の俺が知らないんですけど?」

「大丈夫です。ゼディスさんの意見など聞いていませんから。私たちで話し合いますのでそれまでは拘束されていてください」

「いや、そもそも、魔王後回しっておかしいだろ! どう考えたって魔王をどうにかしないと!」


 ゼディスの前に7魔将や勇者の凶悪な武器が付きつけられる。


「俺たちに指図できる立場だと思ってるのか?」

「そうだな、少し黙っていてもらおうか」

「大丈夫よ~ん。みんなで美味しく頂いちゃうから~」

「あんたは黙って見ていなさい!」


「はい……」






 その頃、魔王降臨の儀がある場所

 一人の男がズルズルと二人の魔族により連れて来られていた。


「本当にいいのか?」


 コボルトキングが相方のゴブリンロードに尋ねる。


「あぁ、構いやしねぇ。この男で間違いねーし、魔王様を降臨させて怒られることなんてねーだろ?」

「そーじゃねーよ。まだ、途中じゃねーか……って聞いてるんだよ」

「知らねーけど、こんだけ終わってりゃーなんとかなんだろ」

「しかし、自ら殺されに来るかね~。この男バカなんじゃないのか?」

「どこかの王様だったらしいぜ。こんなに臭せぇーのに、しかも頭、悪そう!」

「人間の王だぜ。頭悪くて当たり前だ」

「ちげーねぇ」


 ゲタゲタと笑う二人の魔族。

 連れられてきた元・王という男……彼は『絶望したらココに来い。人間たちを皆殺しにしてやろう』と言われていた。

 もはや、この男は生きること以外考えられなかった……考えられなかったがゆえに、自分以外を殺そうとした……。自分が生贄になるとも知らずに……。

 そして、何日も、何週間もかけてこの洞窟に這いずるようにやってきていた。

 ちょうど、魔王降臨の儀ができあがるであろうくらいの日に……ルリアスの計算通りに……。


 計算外だったのは、その場にルリアスがいなくなり、魔族たちが勝手に儀式を始めてしまおうとしていたことだった。

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