7魔将とシステム
「と、言うわけでゴーレムも性別があります」
「うん、理屈はさっぱりわからなかったが、性別があることは理解した」
現在地はテレサの館。
勇者と七魔将の大半がいる状況。
テレサの顔は真っ青で、半泣き状態。
エルフの王国からドンドランドは帰ってきていた。というか、援軍で出かけていた。大活躍だったらしい。
「この斧は危険すぎるぞぃ。危うく死にかけたわい!」
魔族に殺されそうにはならなかったが、『吸斧ノベール』の力を使うために吸血され出血多量でフラフラになったとか……それどころか、戦場の真ん中で倒れたとか……危ないな~。
「それはそれとして……ワシの座るところはどうなるのじゃ?」
大きな食堂を左右に分け
右側にドキサ、ショコ、エイス、シルバ、ゼティーナⅡ世、ブロッサム、葉弓、シンシス
左側にブラック、テト、グファート、ベグイアス、ゼロフォー、スアック
両者、睨みあっております……。武力衝突は禁止されているため、口撃戦のみ……。実質、只の口喧嘩。
「だいたい、アンタ達は敗戦したんだから、おとなしく処刑されるべきじゃない?」
「何言ってるんだ、このドワーフ? 今は俺の性別について話合ってたんだろ」
「女性でも男性でもどうでもいいことですね。大人しく魔界に帰るか処刑されるかだと思います」
「私に剣を折られた雑魚が何か言ってるっぅ、なになになにぃい?」
「だからと言って、オヌシこそ拙者に勝てたわけではあるまい。黙っていてもらおうか?」
「ゼディス様はどう思いますか?」
「ご主人様は魔族の味方ですよねぇ? というか私の味方?」
「なぜそうなる、ブラック。お前は少しゼディスに抱きつき過ぎだ!」
「それに関してはエイスに同感だな」
「テトやエイスは我慢しすぎなんじゃないの? あぁ、でも、この前はすごかったわね~」
『この前』とグファートが言ったが、ゼロフォーを仲間にしてから、すでに二週間ぐらいたっている。
その間に、全員、抱いた。やることをやった。そして全員、ゼディスに勝てないことを悟った。ほぼ二日まるまる、それだけに時間を費やし、彼女たちが動けなくなるまでやってやった。
おかげで、しばらくは大人しかったのだが……。具体的には動けるようになるまでの一~二日程度。
その二週間程度の間で、大陸の勢力図は大きく書き換えられている。
グレン王国には難民で溢れ返っている。国自体は、魔族にそそのかされた国を撃退し領地は広げたが、荒地同然。そこにラー王国や神聖ドートピオ王国の難民が流れ込んできている。
城の改築は終わっていたが、大量の難民を受け入れられる状態ではない。だが、とりあえず、魔族からの脅威はこのテレサの館以外には無い。
テレサは大所帯になったため、屋敷の改築を余儀なくされていた。かなり部屋数を増やしたので、一人当たりでは結構狭くなっている。
勇者側も7魔将側も文句を言っていたが、ゼディスが『嫌な人は出ていって構わない』と言うと、全員押し黙る。シンシスすら出ていかない……彼女の場合はお目付け役的なところがあるが……。
テレサの屋敷の領地は広がっている。ドンドランドの活躍により、屋敷の敷地を増やしてもらっていた。というか、7魔将が入っていることを女王陛下たちが知っているため、問題を起こさないようにとの配慮ともいえる。
グレン王国やラー王国などの将軍クラスは知っている事実……できれば、近づきたくない館となっている。
ドンドランドは7魔将側に座る。
「なぜ、そちらに座るんですか!?」
「こちらの方が、席が空いておるからだ。お前らの話を聞いていたらいつまでたっても座れん!」
シルバの問いに、面倒くさそうに答えるとテレサに食事と酒を頼む。アワワとしているテレサも言われたとおりに食事とお酒を運んでくる。
「私も私も私もっぉ。テレサ、私も食事の用意をお願いっぃ。羊と赤ワインがいいわっぁん」
「たしかに、お腹が減ってくるわね。人の食事を見ていると……」
「そうですね。とりあえず食事にしましょうか~?」
「私~、パンとスープと鶏肉と……」
「あー、鶏肉はいいでござるな。拙者もごはんと鶏肉を」
「私は牛肉をレアで頂こうか。それに赤ワインだな」
「赤が人気ですね」
「そうね、肉といえば赤ワインでしょうし」
食事をとっている時は、一時休戦となる。ゼディスは一番、上座に座りながら『ずっと食事なら問題ないのでは』と無茶なことを考えながら様子を見ている。
ここ二週間程度で、ゼディスが口を挟むとロクなことがないことは学習済みだ。だいたい、どちらかの意見に賛成、反対すると総叩きに遭う。もともと、ゼディスの責任なのだから当然なのだが……。
食事のタイミングは、ドンドランドが食べ始めるとそれを合図のようにみんな食べ始めるのが半ば習慣的になっていた。
ドンドランドにとってはもはや、7魔将も勇者もただのうるさい小娘と変わらない状況。話合いに参加するのもバカらしいと言った感じだ。
そもそも話合いというが、ほとんどはゼディスの処遇……または所有権の主張と言った感じでどうでもいいと言わんばかりだ。
テレサは手際よく食事を作り運んでくる。同時に運べるため公平に配膳されていく。これで『誰かが早い』とかなったら、それはそれでうるさそうだ。
食費が増え働かなきゃならないんだが、それより先に解決しなければならないことが多い。
「具体的に言えば7魔将の処遇だな」
エイスが魚を塩焼きにしたモノにナイフを入れながら話を戻す。
エイスの言う通り、7魔将の処遇である。
普通に考えれば……というか、グレン、ラー、ドートピオの各王国の判断は処刑が妥当とする案だったが、当然、7魔将が受け入れなかった。
王たちも7魔将を前にしてまで、頑なに処刑を進めるのは無理と言えた。恐怖が先に立つ。勇者がいたとしても、その場で暴れて取り押さえるのは、至難の業と言える。
結局はグレン王国女王リンの提案でゼディスに一任することになる。
一任と言えば聞こえがいいが、要は丸投げ。問題が起こればお前を『処分するぞ』と脅されているようなもの。
だから、7魔将も大人しくしている。ゼディスに迷惑をかけるのは不本意だ。が、やりたいことをやりたい。大人しくしているのはストレスが溜まるのである。
そこで、冒険者ギルドの仕事をさせようかと思ったが、シンシスが言うには『やり過ぎです』とのこと。
確かにそう思う。どう考えたってやり過ぎだ。ゴブリン退治に7魔将、一人でも出ただけでダンジョンごと消滅しかねない。お目付け役として、勇者を付ければいいかと思ったが、シンシス曰く『余計暴れます』、ごもっともな意見だ。仲が悪いのにお目付け役になるわけがない。
ただ一人、例外の7魔将がいるが……。
「ルリアス以外は縄を付けてないと危ないでござるからね」
「俺から言わせてもらえば、ルリアスだって似たようなもんだがな!」
今回の闘いのとき以来、姿を見せないルリアス。ゴブリンの洞窟で魔王降臨の儀式を中断していた。正確に言えば中断させたのだ。
ゼロフォーを捕まえようとしている時の話だ。
使い魔のエキドナから連絡が入る。ゼロフォーの捕縛の指揮をブロッサムとスアックに任せる。
「なにか、あったか?」
エキドナに確認を取りつつ、視覚を共有して周りを確認すると昔入ったゴブリンの洞窟内にいることがわかった。そこに数人の魔族と……ダークエルフの7魔将・ルリアスがいた。
なにやら、魔法陣を描き色々な杯を七方に置いたり、柱を立てたり忙しい。
「何してるんだ?」
「魔力が溜まりそうらしいんです」
「魔王降臨のか?」
「はい、今回の大規模戦争の目的の一つ、人間からの魔力解放が九割以上成功したようなんです。と、言うかご主人様は魔王降臨のシステムをご存じなのですか?」
荷物を運びながら、脳内会話するエキドナ。意外と魔王降臨の儀式は大変なのである。そもそも、千年たたなければ魔王を地上に呼ぶことは出来ない。
「大体知ってる。千年に一度だけ地上に魔王を降臨させることが出来る。理由は七つの杯……魔力の器だな」
「それは知りませんでした。ただ、千年に一度しか魔王を降臨できないとしか聞いてなかったので……」
「まぁ、封印の類なんだ。魔界の決め事ではなく、天界が魔族を抑えこむために考えたシステム。それまでに人間が対抗策を考えられるようにとの計らいということだ」
「それなら、絶対に魔王が出れないようにしてしまえば天界としてはいいんじゃないですか?」
「そうすると、魔王たちが協力して地上に出ようとする。一人、出れるなら魔族が争わないわけがないだろ? それに、永久的に抑え込むには天界側が断続的に魔力を注がなければならないし、力を合わせた魔族に破られないとも限らないわけだ」
エキドナの目を通じて周りを見ると、ほとんど改装と言ってもいいくらい作り変えている。かなり時間を費やしているのがうかがえる。
「千年たつと杯が魔力の受付を出来るようになる」
「その辺からは知っています。人間を殺し宿っている魔力を解放すると杯が勝手に魔力を回収するんですよね。それが七つ満たされれば、魔王が降臨できる。一人の魔将に一つの杯を持たせ魔力を集めるわけですね」
「それも、正確ではないんだけどな。人間を殺す必要はない。放っておいても魔力は微量だが集まる」
「そうなんですか?」
「そうじゃなきゃ、天界が人間を殺すことを推奨してるみたいじゃないか?」
「言われてみれば……どういうことです?」
「魔力は魔界の空気、魔瘴気が地面を通り木々や石などのフィルターを抜けることで出来るモノなんだ。正確に言うなら、魔瘴気自体がマナで、地上に上がる際に色々なモノを通して人間に害のないモノに変わる」
「あぁ、だから魔族が魔瘴気を吸うと強くなれるわけですね」
「人間に害があるのもその辺の理由だ。 で、話を戻すが、マナ自体は溢れているわけだがそれを人間が消費してしまうために杯に魔力が溜まり辛くなる。魔瘴気のままだと濁り過ぎているため杯は満たされない」
「で、魔法を使う人間を殺せば、その分だけ魔力が使用されなくなる」
「それに、人間が持っている魔力も回収できるわけだ」
「なるほど……」
納得する。やはり人間を殺した方が効率がいい。
「天界側は何を考えているんですか? そのままではやはり人間を殺した方が……」
「人間と魔族が共存できる可能性が一つ。人間を殺さずにも魔力は溜められるわけだ。もう一つは魔族が来ている危機を伝える。魔王降臨より先に魔将たちが地上で人間を殺しはじめれば警戒するだろ?」
「たしかに、そんな気もしますね……でも、今回は人間同士でかなり殺し合ってくれましたが……」
「天界も人間同士が争うことは計算外なんじゃないかな」
「同種族同士で戦う所は魔族に似てますよね」
そんなことを話していると、準備が着々と進んでいっている。止めなくてはならないんだった。
「とりあえず……」
「ルリアスのところに行った方がいいですね?」
「そういうことだ。問題はどうやって止めるかだな~」
「ゼディス様の『ブラットラクト』を受けているなら、簡単に止まると思いますよ?」
「そんなもんかね~」
半信半疑でルリアスのいる場所へとエキドナを向かわせることにする。




