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暗黒斧の在り処

 そんなわけでユニクス王国で説明を終える。


「次は神聖ドートピオ王国なわけだが……」

「待って、待って、待って~ん。ゼディス様ぁ~」

「む、拙者の主に近づくな! 女郎蜘蛛女!」

「『アンタの』じゃないでしょ~。そんなエセ侍は放っておいて、聞いて聞いて! ここに斧があるはずなんですよぉ」

「斧? いや、え? 魔法の斧ってことか?」

「暗黒斧ですよ~ん」

「それって……」


 勇者の一人、暗黒斧ドギニ……当然、ドギニが持っていた斧『暗黒斧ドイ』の事だろう。

 食いついてくるのはドキサ。


「どーゆうこと?」

「あら~ん、あらあらあら~ん。知らないの、知らないのぉ、ドワーフなのにぃ? ここの先々代の王様がラクーレ王国のドワーフたちから盗んだのよぉ」

「詳しく」

「ほーんと、何にも知らないのね~」

「そもそも暗黒斧は勇者しか持てないんじゃないのか?」

「そーですよぉ、ゼディス様ぁ~。だから先々代のユニクス王はドワーフ達と交渉を始めたんですよぉん。でも、頑固なドワーフは言うことを聞きませんでした~。それでドワーフの子を人質にこの城に暗黒斧を運ばせたんですよん」

「それでドワーフと戦争が勃発……」

「まだまだですわ~。先々代王は運んだドワーフとその子を皆殺しにして、証拠を隠滅したんですわん。証拠がなくともドワーフ達は怒りました~。突然の襲撃を受けて先々代王は殺されるわけですが、ここで戦争が起きま~す」

「まだ、ドワーフたちに負ける要素が無いな」

「いいえ、あるんです、あるんです、あるんですぅ。ドワーフたちは先々代王を殺して斧を返してくれれば水に流すと言ったんですよぉ。で、話し合いの場を設けることにして、ユニクス王国の先代王が主要ドワーフ達を暗殺し、ラクーレ王国を急襲したんですよぉ。宣戦布告も無しに、すでに話し合いの場に大量の軍隊を配備していたんですね~」

「清々しいくらい卑怯だな」

「もちろん、隣国も黙っていませんでしたが、でしたがぁ~。すでに軍事に巨額の予算をつぎ込んでいたんですね~。さらにドワーフを捕まえ奴隷にして、盾として戦争を始めたため、隣国も戦いづらい状況に追い込んだわけですね~。ただ、暗黒斧の事実はこの時点で忘れ去られたのでした~」

「それで、現・王様もそのことを知っている?」

「もちろん、もちろん、もちろんんん!! だから、ドワーフが怖くて怖くて怖くてっぇ仕方ないんですよぉっぉ。復讐されるのが怖くて一人たりとも生かしておきたくないんですよぉ。ただ、ドワーフ達が奴隷としていることで国が回っていたため、処刑するのが難しくなっちゃったみたいですけど~。そのおかげで魔族を引き入れてからは、罪状関係なしに処刑したみたいですけど~ぉ」

「クラーレ王国が復活した……という噂で、大慌てでドワーフたちの処刑が開始されたわけか……生き残っているドワーフがいたらすぐに解放をしてくれ」


 と、言う前にブロッサムとスアックが行動していたようだ。この場から離れ処刑台へと向かっていっているようだった。


 ドキサは考えている。


「ちょっと王様に会ってくる」

「ん? あぁ、よろしく言っといてくれ」


 ゼディスは特に考え無しにドキサを見送る。と、エイスが慌ててドキサを止めに入る。


「待て、行かせるわけにはいかん! ゼディスもあっさり見送るな! 王殺しなどさせるわけに行くか!」

「いいじゃない。今さら……この城も半壊してるんだし、魔族に殺されたことにすれば!」

「魔族に濡れ衣を着せるのか!?」


 反論を言うエイスに対し、魔族のベグイアスとブラックは特に問題は無さそうだった。


「あら~ん。いいわよ、別にぃ」

「なんだったら、私が直接、殺してやろうか?」


 ゼディスの為になるとでも考えたのかと思ったが、そうではないらしい。本当にどうでもいいことのようだ。魔界では弱い相手を殺すことに躊躇はない。


「お前たちも下手な考えは慎んだ方がいいぞ」


 エイスがベグイアスとブラックを睨み付けるが、二人はエイスなど怖くもない。『覚醒』もしていない者など恐るるに足らず!


「ゼディスの立場を悪くすることになるんだからな!」

「王を殺そうなんて考えたこともありません!」

「そうそうそう、そうなの~ぉ。冗談よ。じょ・う・だ・ん!」


 二秒で手の平を返す二人。万が一にもゼディスに嫌われることを恐れているようだ。エイスは意外と7魔将は扱いやすいのではないかと思えた……とはいえゼディス限定だが……。


 二人の7魔将を制している間にドキサはドンドン先に進んでいて、すでにこの場にいなかった。慌てて後を追いかけるエイス。

 その後ろ姿に、ドワーフ救出から戻ってきたブロッサムが一抹の不安を覚える。


「大丈夫でしょうか?」

「さー、どうだろーかね~。ドキサは沸点低いから……」


 その言葉にスアックが『自分たちも行った方が良いのでは?』と提案するが、それよりも暗黒斧を探すように頼む。

 行ってドキサを抑えこむことが出来るだろうが、解決することは出来ない。どういう結果になるかわからないが、ゼディスは王に対し恩もなければ義理もない。もしドキサに殺されるようなら自業自得と言える。

 別に多くの人間を助けるためにゼディスが働いているわけではない。




 どこの城も作りは似ている。

 大抵、中央に位置するところに王様との謁見の間がある。ボロボロに崩れているが、道のりに問題はない。途中、ゴブリンやら強盗やらが襲ってきたが、ドキサが素手でねじ伏せていた。武器を取り出すまでもない。

 エイスも素手で出来ないことはないが、ドキサのやり方は力任せと言ってもよかった。面倒くさそうに叩き潰すような、それでいて圧倒的な力を見せつける。


「少し会わない間に急激に強くなったな。それが『覚醒』というやつか?」


 ドキサは手を見つめながらグーパーして力の感触を試しているようだった。そしてエイスに答える。


「たぶん『覚醒』とも違う。『覚醒』もしているかもしれないけど、なにか『邪悪』な力にも目覚めたみたいな感じね。義父の死を感じたとき怒りで目覚めた感じ……勇者の力も邪悪な力も『覚醒』したのかもしれないわね。おかげで黒い魔力も白い魔力も使えるようになってるし……魔法使いの魔法のハズなのに……」


 ドキサ自身なにか納得いっていないような口ぶりである。もちろん邪悪な力など良いモノのハズはないが、魔王を倒すまでは必要だともエイスは思えた。


 謁見の間までやってくる。虚ろな兵士たちがドキサとエイスを見つめているが、認識はしていないようだった。中央の玉座では王様が喚き散らし、兵士たちに何か命令しているが、何を口走っているのかもよくわからない。

 そんな様子でも、ドキサは構わず前へと進んでいく。一瞬、エイスはドキサを押しとどめようか迷ったが、そのままドキサの後ろを着いていく。

 ドキサは両手を広げ、声を謁見の間に響き渡らせながら歩いていく。


「初めまして、親愛なるユニクスの王様。そしてドワーフたちの仇となる王」

「!!?」


 今まで激しく怒鳴り散らしていた王が、ドキサの顔を見て真っ青になる。


「ドドドド、ドワーフだ!! 誰か捕えろぉ!! いやこの場で処刑しろ! 何をしている! 早く、早く、早くっぅうう!! 余を殺すつもりだぞ!! 誰かそやつを殺せっぇ!! 誰でもいい兵でも魔族でもなんでもいいから殺すのじゃ!!」

「どうやら、まだ、ドワーフを認識できるだけの知識は持ち合わせていたみたいで嬉しいわ」


 容赦なく王へと近づいていくドキサの肩をエイスが抑える。


「どうするつもりだ?」

「どうもしないわよ。ただ暗黒斧のある場所を聞くだけ。文句ある? あれは元々ドワーフのモノでしょ?」


 にこやかに笑うドキサ。信じていいのかエイスは迷うが肩から手を離す。と、再びドキサは前進する。邪悪な笑みを浮かべながら……。


「王様、私たちの暗黒斧はどこに隠してあるの?」

「ドワーフを殺せ!! 殺せ!!」

「暗黒斧の場所さえ教えてくれれば、この場から退場してあげてもいいわよ~」

「あれは我ら王族の物だ。小汚いドワーフには必要ないっぃ!! 死ね! 死ね! 死ねっぇ!」

「意外と言葉が通じるのね~。嬉しいわ。王様、よーく聞いて。あの斧はどこにあるのかしら? あの斧があれば、真っ赤に染まるところを見せて上げられるわ。ドワーフの宿敵の血でね……」


 ドキサの顔は、まさに王の目と鼻の先まで来ていた。

 その言葉で王が発狂する。


「うわっぁああっぁあぁうっぅあっぁっぉ!!!」


 喉が切り裂けんばかりに叫んだかと思ったら、口から泡を吐きグッタリしている。玉座が小便で濡れていく。


「まぁまぁの見世物だったわね」

「気が済んだか?」

「まっさかぁ! 本当ならもっと、いたぶりたいところだけど、今はこれでいいわ。こんな状態の王じゃぁ苦しめ甲斐が無いしね~。それにしても、アンタが黙って見ている方が私としてはビックリだわ」


 手の甲でポンポンとエイスの胸を叩く。

 下手すれば、後ろからエイスに切られることくらいは考えていた。なにせ自分の国の王を守らない将軍はいないだろうから……。


「意外か? エルフはドワーフたちが処刑されているのを見て平然としていると思っていたか?」


 ドキサはそれこそ意外そうな顔をする。

 どうやら、ユニクスの王に腹を立てていたようだ。立場や領土が無ければエイスが何をしでかしていたかわからない。そんな激しい表情をしている。エイスも領土にいる人間を人質に取られているようなものだったのだ。


「別にドワーフが好きなわけではない。だからと言って無罪の者が殺されていくのを見ているのはキツイ。謝って済む問題ではないが、お前には悪いことをしたと思っている」

「高飛車なエルフでも謝ることがあるとは、意外、意外♪ まぁ、別に私に謝っても仕方ないし、私は許すよ、エイス! それより暗黒斧を探しましょうか?」

「そうだな。おそらく王の寝室だろう」


 気絶し失禁している王を放っておいて、二人は暗黒斧を探しに行った。


 寝室に入ると、ご丁寧に大きな斧が飾ってあった。

 闇色に輝く斧……『暗黒斧ドイ』。

 ただ、その名前を語られることがなかったため暗黒斧としか、呼ばれなくなっていた。


「ドキサ。コイツで間違いないか?」

「しっくりくる。こいつっぽいわね……でも、禍々しくない?」

「あまり、勇者の武器とは思えない色と艶だな」

「なんか由来とか、効果とかあるのかしら?」

「シンシスに聞いてみた方がいいかもしれないな。魂を削りそうなデザインだ。不用意に使うなよ」

「ちょっと、脅かさないでよ。デリケートな乙女を脅かして楽しいの?」

「誰が乙女だ。王様を脅して失禁させた奴が!」

「あ~ん? こんな可愛いドワーフ捕まえて何言ってんの、このエルフ?」

「『可愛い』?普通の可愛いとはドワーフのカテゴリーは違うようだな?」


 ゼディスが寝室をのぞいてみると、なぜかドキサとエイスが言い争っている。


「エルフとドワーフは仲が悪いから別行動にさせた方がいいな……」

「そーですね」

「同感です」


 ゼディスと一緒に入ってきたブロッサムとスアックが、言い争っている二人を見て納得していた。

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