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収拾

 ショコの姿は今までの犬の姿とはまるで違っていた。顔は犬だが、上半身はクマ、下半身はチーター、背中には鷹の翼が生えている。ちょっとした合成獣(キメラ)かスフインクスのような生き物だ。目が恐ろしいほど輝いている。吐く息は熱がこもっているらしく蒸気と化している。


 近くには見慣れない上位悪魔(グレーターデーモン)が血反吐を吐いて倒れている。指一本動かす力も残っていないようだ。

 それに対しショコはまだ余裕がある。


 ドキサは説得を試みる。理性が残っているかわからない。


「ショコ! 大人しく降りてきなさい! もう大丈夫だから!」


 金色に光る眼でドキサを捕え、羽を広げゆっくりと降りてくる。言葉を理解しているか判断しかねるところだった。

 念のため、ゼディスがボウガンを構えておく。多少は憎悪を抑える効果も無きにしも非ず? それより、攻撃方法を考えるべきか?


 ショコはドキサにいきなり襲いかかってきた。

 ……かに見えたが、ただ単に抱きついてきただけだった。


「よかった~!! ドキサちゃんが正常にもどってるよっぉ。心配してたんだよっぉ!!アイツがゴルラ中隊長を殺したから、ドキサちゃん精神が不安定になってたでしょ? だから、すぐにアイツを片付けてドキサちゃんの所に行こうと思ってたんだ……けれど、もう、平気みたいだね~」

「私はあんたの方が心配だったよ、まったく! そんな格好だから理性がブッ飛んでるのかと思ったわ!」

「あぁ、これ? 倒すのにこの方が便利だと思ったら、そうなったの。便利だよ?」

「見た目が悪いわ」

「そういえば、あの悪魔も似たようなこと言ってたっけ? とりあえず、殺しとく? ゴルラ中隊長の仇だし?」

「そのことについては……ゼディス!」


 指を鳴らすドキサ。そこにゼディスが膝を付いて現れる。


「ははっ、ココに……って、なにさせるんだ!」

「そんなことはどうでもいいのよ!」

「わーい、ゼディス様。お久しぶりです!」


 ショコがゼディスに体当たりで抱きついてくる。鳩尾あたりに頭が当たる。


「ぐふっ!」

「あぁ、知らない間に大怪我をしていたんですね!? 救護班んんんん!!」

「わかっていると思うけど、ショコのせいだから。救護班、呼ばないように! それはともかくこの動かなくなったゼディスじゃなくって……上位悪魔(グレーターデーモン)もそのボウガンで撃つんでしょ?」

「痛たたたぁ……まぁ、仲間にしておきたいからねぇ……ほら、俺って蒐集癖があるじゃん?」

「知らんよ、アンタの性癖なんて……」

「いや、性癖ではないんだが……コンプリートしたい訳よ。それに対魔王戦には必要でしょ」

「そんなに必要?」

「魔王は強いよ。文字通り桁外れに……今のドキサとショコでも歯が立たないと思われるわけで……」


 話しながら7魔将・テトに矢を射ち込んでおく。

 テト自身はそれが何だかわからず、死を覚悟したが外傷がなく疑問を感じている。が、その辺は後で説明すればいい。


 これで、この戦場に関しては、ほぼ制圧した。ブロッサムとスアックが現状の人間勢力と魔族勢力を抑えに行っている。

 ドキサの判断だ。7魔将を抑えるために、彼女たちに頼もうと思ったが、すでに終わっていたので、普通に戦争を終結させる方に回されている。


「後の奴らも戦争、抑えるのに回して欲しいんだけどね~」


 ブラックとグファート……それにシルバとレクサ……手は出さないまでも何か激しく言い争っている。


「ゼディス様。死者を何とかできませんか? じゃないと、みんなまた争いそうですし……ゴルラ中隊長も生き返った方が嬉しいですし……」


 シルバ達が言い争っているのもその辺の話だろう。だが復活の呪文はリスクが大きい。ショコだってそんな簡単でないことはわかっているが、ゼディスなら何とかできるのではないかと思ってしまう。


「魔王をなんとかすれば、何とかなるよ。」

「的を射ない回答だこと……なにが、どうなるの?」

「魔王の魔力を開放して使用すれば、魔族も人間も蘇らせることが可能だ……って話」

「「!?」」


 そのとき、ラー王国の城が大きく崩れ落ちる。どうやら、センマ級かキシマ級がいたのだろう。町まで到達しているようだった。

 全員復活の話は後回しにして、この場の収拾をさせることにする。ブラックやグファートにも命令する。人間のことも魔族のこともどうでもいい二人だが、ゼディスに嫌われたくないので渋々承諾。

 シルバやレクサ……第二王子と赤の将軍エデットが人間側を収集に当たらせる。


 ちなみに……エデットはどこに行っていたのかと思ったら、レクサの盾になりグファートに吹き飛ばされていたらしい。その陰からレクサがマンティコアの毒を付着させたナイフを投げたとか……。


 その間にドキサとテト、ショコと次の作戦を考える。


「待て? 私がいつ仲間になると言った?」


 ゼディスに対して好意を持っているものの、テトはそれがみんなにバレていないと思っている。それに今まで敵だったのに『はい、そうですか』と仲間になるのはおかしいと常識的に考えていた。


「意外と常識人ね」

「本当ですね? あっちのデュラハンの人はすぐに寝返ったのに、どうしてですかゼディス様?」

「ただ、単に常識があるんじゃないか?」


 思ったように進まなかったので小声で、ドキサ、ショコ、ゼディスが相談する。


「もう少し、矢を射ち込んだ方がよかったか?」

「てーか! ゼディスは矢に頼り過ぎだろ!」

「そうですよ。だいたい7魔将に好かれてどうするんですか! 私がいればいいじゃないですか!」

「ショコ、そういう問題じゃないからね?」


 問題解決しないが、とりあえず話し合いを試みることにする。


「あー、まず、互いの名前を確認しよう。俺はゼディスだ。お前は?」

「7魔将のテトだ」

「では、テト君。君は我々に負けたわけだ。敗者は勝者に従う。とはいっても、酷いことをしようと言うわけではない。君たちを我が軍に取り込むつもりだ。異論はないかね?」

「残念だが、早速、異論ありだ。我らは死ぬまで戦うつもりだ」

「なぜだね? そこまで憎しみ合う必要はあるまい」

「7魔将は魔王様の軍だ。魔王様が降臨するまでに命令されたことを遂行するためにいる」

「その為に力を貰い、7魔将になれている。キシマ級からショウマ級にはそうそうなれない。ただし、魔王の力を貰えればショウマ級になれる。その恩義、あるいは力を取り上げられる恐怖から7魔将は魔王に従う。だが、負けた以上、その必要もあるまい? それに魔王は7魔将の力を与えることが出来ても取り上げることは出来ない」

「……なんだと……なぜ、取り上げることが出来ないと言い張れる?……」


 その問いに答えるのがショコだった。


「シンシスさんと言う方が、千年前の魔将大戦のときに魔王を裏切った7魔将の一人がいたんですよ~」

「ソイツは、魔王から力を奪われなかった?」

「そういうことです。魔王を裏切っても力的には問題はない、と言うことです」

「人情的には問題ありだな」

「悪魔なのにね~」

「だが……」


 チラリとゼディスを見るテト。先ほど言われたように、すでに自分は敗者だ。選択権が無いと言えばない。それに、この男に興味がある。先程の外傷のない矢の事や、ブラック、スアック、グファートと仲間に引き入れていること。興味がある点は多い。


 テトは一度溜め息を吐く。


「魔王様が降臨するまでは仲間でいてもいいだろう」

「休戦状態……ってこと?」


 ドキサが尋ねる。仲良くする気はないのだろうと思ったが……。


「いや、仲間と思ってもらって構わない。そちらに有益な情報などを出そう。私は敗者なわけだからな」

「それを信用するのは難しいですね~?」

「大丈夫だろ? 別にこっちで判断すればいいんだから。最悪、ブロッサムに虚偽判別魔法(センスライ)をかけてもらう方法もあるしな~。まぁ、とりあえずよろしく頼むよ」


 ゼディスはテトの頭をグシャグシャと撫でる。普段ならイラつくところだが、この男に頭をグシャグシャにされることに嫌な感じがしない……どころか嬉しく思える。テトの知らない感情が沸き起こっていることに自分自身で驚いている。

 まぁ、ゼディスの好意の矢(ブラットラクト)のせいなんですけどね~。


「さて、遊んでいる暇はない。次にエイスを助けないと首を切られかねないぞ!」

「ねぇ、ついでにユニクスの王様、殺してもいいんじゃないかしら?」


 ドキサが真顔でゼディスに尋ねる。


「普通に考えれば駄目だな」

「なるほど、普通に考えなければO.K.ってことね」

「ずいぶん、ポジティブにとるなー」


 エイスの話をしていると、グファートが飛んでくる。


「あー、エルフちゃんを助けに行くなら、ちょぉっと待って~! あそこ、色々罠仕掛けてあるから~。しかも最後には7魔将のベグイアスちゃんに頼んでおいたから厄介よ。楽しそうにしてたもん。『楽し楽し楽しいっぃいいぃ!!』って喜んでたから、私を連れてった方がいいわよ」

「あー、ご主人様。こいつはココの戦争の責任者の一人ですから、置いていった方がいいですよ」

「たしかに、ココの戦争の責任者は置いていった方がいいな。収拾が着くまでは……。じゃぁ来たときのメンバーでエイスのところに行こう。そんでもって、残りの7魔将はどこに?」


 グファートもブラックも知らない……というか自分の戦闘地域しか興味なかったようなのでテトが教えることにする。

 テトとかスアックみたいなメンバーがいなかったら7魔将ボロボロだな……と思ったが、黙っておくことにする。


「まずゴーレムの7魔将・ゼロフォーは神聖ドートピオ王国でゼティーナⅡ世を狙いに行っている。それからルリアスは魔王の宮殿跡地……ゴブリンがいた洞窟に向かっている」

「いまさら?」


 なんか、あったっけかな~? とゼディスは考える。前見たときは見つからなかった新発見があったのかテトに尋ねる。


「もちろん、何もなくそんなところにはいかないだろう。魔王降臨に最適な地なのは言うまでもない。その下準備に向かっているはずだ」

「あぁ、なるほど……」

「いやゼディス様! 『なるほど』言ってる場合ちがいますよ!!」


 ショコが大慌てである。

 ルリアスの元々の目的は魔王降臨であるから、当然の行動である。本当に実行する可能性としては半々だ。

 魔王を取るかゼディスを取るか……。


「いずれは闘わなければならないだろうし、とりあえずエイスが先でいいだろう」


 エイス救出を優先することにする。それにシンシス達の現状もわかっていないのだ。降臨するかしないかわからない魔王は後回しとすることにした。

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