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抑えこむ

 上級悪魔(グレーターデーモン)の7魔将・テトが全力で戦うのはこれが初めてだった。相手は7人の勇者の力を受け継ぐ獣人。だが『覚醒』などという生易しいものではなかった。


 テトは自分の力を段階ごとに分ける能力を有している。普段は『ギア零』の段階。全体のおよそ二十%。『ギヤ1』で四十%。『ギア2』で六十%……現在は『ギア5』、百二十%の状態。限界を超えている。この状態では身体はそう長くはもたない。ただし、魔力抵抗も物理抵抗も相当なモノになる。


 それでも、目の前の獣人の爪の一撃に、肩から胸まで裂け、吹き飛ばされる。

 先ほどまでとはまるで違う生き物と言っても差し支えは無い……それこそ、見た目からだ……。邪魔な周りの者を片付けてから、途端に獣人に怒りが満ち『覚醒』したと思った。


 物凄いスピードでテトに突進してくる。そのスピードはけた違いに上がっていた。それどころか犬の獣人だったはずだが、足はチーターへと変わっている。振り上げた手はクマになる。


 普段の獣人のチーターやクマ程度ならテトが遅れを取るはずもないが、ただ、その脅威だけ受け継いだ全く別物。『ギア4』でも、まったくスピードにもパワーにも追いつけなかった。


「凄いじゃないか。これが覚醒か?」


 だが獣人は目が光り、口から蒸気を吐いているだけで、返事はない。意識があるのかも怪しい


「あまり勇者の能力……というには見た目が悪いな……」


 言っては何だが、テトと変わらない化け物と言っていい姿だ。とても勇者の力とは言い難い。だが、それでも圧倒的に、テトを上回っている。


「初めてだ……ギア5まで入れることになるのは……」


 能力限界を突破するギア5。瞬時に獣人の顔面を拳が捉える。その拳はミスリル銀でも砕くことは可能だろう。だが、獣人は吹き飛ばされることも無く、その場に踏みとどまるとテトを殴り返してきた。


「ぐっぅっぅ!!」


 地面に叩きつけられる。ギア5で体が軋みを上げるほどの力を発揮しているのに、目の前の獣人はそれ以上だということを、嫌でも思い知らされる。

 テトは初めて笑った。


「楽しい……この感情をいうのだろうな。勝てる気がしない!」

「……」


 獣人がテトの声など聞こえないか、どうでもいいのか、蹂躙するように上から爪を引き下ろす。ズーンと言う激しい音とともに小さなクレーターが出来る。しかし、それより早くテトは空を飛んで回避していた。上から黒い電 撃(ライトニングボルト)を撃ち降ろしまくる。自分の持っている魔力を全て撃ち込むように……周囲が大きく破壊されていく。


「空からの攻撃はどうする?」


 テトには翼がある。使わない手はない。が、一瞬しゃがんだと思ったら、電 撃(ライトニングボルト)に直撃しながらジャンプしてくる。しかも、ほとんど無傷と言ってもいいほどのダメージしか受けていない。

 だが、テトは慌てることなく真横にゆっくりと移動する。それだけで避けられる。獣人は突き抜けテトよりだいぶ高いところまで上がり雲の陰で見えなくなる。

 あとは、落ちてくるところ魔法で狙い撃ちするだけで終わる。巨大な魔法を使うために詠唱を始めるが!


「ぐがっ!!」


 背中から攻撃を受け真っ逆さまに地面に叩きつけられる。強力な一撃だった。ギア5のテトを撃ち落とせるものなどあの獣人しかいないハズだったが新手かと思った。

 が、そこにいたのは、例の獣人だった……。


「鷹の翼……か」


 あらゆる動物の能力を強化して使える能力が、あの獣人にあることを悟った。動物の能力の強化幅が途方もない。悪魔を遥かに凌駕している。

 これが、今まで自分と対峙してきた人間の感覚なのだと知る。勝てない相手に向かっていく無謀さ。一人では勝てない……グファートの力を借りるべきだ。

 振り返ると、予想外の出来事が起きていた。





 グファートは倒れていた。

 立ち上がろうとしてもフラフラで血反吐を吐いている。


「何をしたのかしら、小娘!?」


 立っているのはレクサ一人だった。他は切り捨てられている。シルバは背中から切られたがまだ生きている。

 第一王子は無理だろう。上半身と下半身が生き別れだ。

 第二王子もすぐに助けようとして切られた。生きている可能性はあるが、何とも言えない状況。


「色々、試しただけですわ」


 グファートには数本のナイフが刺さっている。目も狙ったのだが、それは防がれた。が他は全弾命中。というか、そもそも避ける気すらなかった。


「それにしても、意外と単純な弱点でしたわね。本来なら、もう二~三本ナイフを撃ち込んでおきたいところですが、まずは兄たちの様子を確認して来ますから、もっと、そこで苦しんでいてください」


 グファートの吐血が止まらない。溢れ出る血が止まらない。手足が痺れる。

 気づかなかった。グファートを蝕んでいるのは無色透明、無味無臭……マンティコアの毒だった。彼女は毒に対する免疫を持ち合わせていなかった。

 単純と言えば単純。だが、あらゆる攻撃を許さなかった彼女が毒ごときで倒れると考える方が難しかった。


 どうやら第二王子もシルバも大丈夫らしく、回復薬を使っていく。


 だが、それはグファートを甘く見過ぎていた。

 確かに彼女の弱点は毒である。しかし、その回避方法が無いわけではない。自分の体を自分の赤く染まる剣で切り刻んでいく。動脈と言う動脈を切りつけ血を噴き出す。


 毒抜きである。

 普通の人間なら出血多量で間違いなく死ぬが彼女ならではの毒抜き方法だった。それでも細胞の部分部分まで染みこんでいて、切り刻むのが難しい。

 時間をかけて完全に取り除いていく。


「やってくれるじゃない。お姫様!!」


 どれくらいの時間がかかっただろうか……だが、マンティコアの毒が完全に抜ける。ようやく立ち上がれる。

 その様子をレクサが驚きの表情で見つめている。


「ここからは、地獄を見せて上げましょうか」

「それは、無理ね」


 レクサはすぐに落ち着いてグファートから視線を外し、立ち上がる。どうやら二人の回復も終わったようだ。


「無理? なにを……ぉ?」


 背中に何か打ち込まれた。痛みはない。目の前のレクサ達を襲うつもりはあるが、まずは自分に何が起きたか後ろを確認する。

 ボウガンを持った男がいる。


 その男に興味を引かれる。だが、後ろから攻撃してきたのはこの男だろう。他にも魔法陣からゾロゾロと人が出てきているが、それは後回しでもいいだろう。

 まずは、目の前の男をどうするか考えなければならない。


 どうするか……自分のモノにしたい……。


 そう考えただけでヨダレが出てきてしまいそうになる。素晴らしい考えに思える


「どう思う? ちょっと魔力が弱かったか?」

「もう二~三発撃ち込んどいた方がいいんじゃないですか? グファートの能力は『魔力反射』ですから魔力受け渡し(トランスファー)でも反射している可能性もありますし……」


 ドラゴンニュートがボウガンを持っている男に抱きついている。イラっとするが7魔将のブラックだということにしばらくしてから気が付く。

 レクサが声をかけてくる。


「ちょっと助けに来るのが遅いんじゃありませんの!?」

「なっ!? お前、この男をっぉっぉ!!」


 ボウガンを持った男はグファートがレクサの方を向いた瞬間にさらに数発撃ち込んだ。実際問題として魔力受け渡し(トランスファー)は反射されないのだが、それを知る由もない。

 魔力受け渡し(トランスファー)は味方支援魔法なので反射されないのであった。


 グファートの息が荒くなっていく。むしろ、少し撃ち過ぎている。ブラック程じゃないにしても……。もう、グファートはレクサのことなどどうでも良くなっていた。それよりも……。


「それよりも、ブラック! その人から離れろ!」

「何だと! グファート! 私と殺ろうってーのか!!」


 ボウガンを持っている男にベッタリ抱きついているブラックに挑戦状を叩きつける。


「あー、俺の意見は?」

「まぁ、ゼディスの意見は後回しでいいでしょ。それよりショコを止めに行ってくる。ほら、二人!付いてきて! 場合によっては二人がかりであの悪魔止めて。私はショコの方を止めるから」

「「イエッサー!!」」


 ドワーフの後ろを魔法使いと7魔将のスアックが付いていく……?


「ん? スアック? あれ? 何だ? どーなってるんだ?」

「よそ見していていいのか!? 塵にするぞ!!」


 ブラックがグファートに襲い掛かる。

 その間にボウガン男ことゼディスが、王子の様子を確認する。

 レクサがどうにかならないか相談している。


「どう? 私のときのように助けられない?」

「体、真っ二つをか? 普通に考えて無理だ」


 分かっていたが、死の宣告である。唇を噛みしめるが、ゼディスが意外なことを言う。


「普通に考えれば無理だが、助ける方法もないわけじゃない。魔王の力が必要になるけどな」

「え? なに? 助かるんですの?」

「魔王が協力すれば……協力すればの話だが、今回、死んだ人間、魔族の大半は生き返らせることが可能だろう」

「じゃぁ、味方にすれば!」

「わかってるか? どんな無茶言ってるか?」

「7魔将なら?」

「無理、せいぜい十人前後の復活がいいところ。もちろん、それなりの肉体の消滅が必要だとして……」


 と、言って手袋の右腕を見せる。


「でも、元はと言えば彼女たちが殺したわけだから!」

「彼女たちは魔王と闘う戦力になるから、犠牲にするわけにはいかない」


 グファートとブラックが戦っている。不毛ともいえるような戦い。どちらも致命傷を負うことはない。いくら攻撃しても攻撃無効のグファートと、一体、二体倒したところで数が減らないブラック。


 そろそろ、遊んでいる場合じゃないので遊びを終わらせる。


「グファート! どうだ、俺の仲間にならないか?」

「なっ……なにを、バカなことを……だ、だいたい、お前の仲間になったところでどんな利益がある」

「そうです。ご主人様! こんな奴仲間にしたって、私とイチャイチャする時間が割かれるだけです!」


 レクサが白い目で見ている。見られている。

 だが、意外と食いついてきたのはグファートだった。


「待て! イチャ……イチャイチャしていいのか!? い、いや騙されんぞ!」

「フッフーン!!」

「な! なんだ、ブラック! 貴様!! な、仲間になってやる!」

「グファートなんて、仲間になったって、邪魔なだけよ!大人しく敵でいれば~?」

「冗談じゃない! 私はゼディスの味方になる……それで、あんなことやこんなことを……」

「そんなの駄目に決まってんじゃない!! それは私が!!」


 二人を放っておき、シルバ達に回復魔法をかけてみる。薬で大体回復していた。気を失っているらしい。それ以上の回復は見込めない。

 第一王子は棺桶に入れるくらいしかないだろう。あとは氷の魔法などで固めて保存するくらいか?


 ショコの方を見る。

 前回のドキサの暴れっぷりを見れば、そう簡単に止まらないだろうし、止められるのはドキサくらいだろうと思っていた。

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