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アラクネの7魔将vs剣士

 魔法の矢(マジックミサイル)が葉弓を狙った。もちろん確実に葉弓を狙う魔法なのだから当然だ。だが、その矢は全て葉弓の拳によって粉々に打ち砕かれていく。


 エイスもベグイアスも勘違いしていた。

 彼女は刀で魔法を切る能力ではなかった。刀じゃなくても魔力を打ち砕く。


「なに、なになになにっぃぃ!? そんな能力知らなぃ! ベグイアス知らないっぃいぃ!?」


 蜘蛛の足でガサガサと勢いよく後ずさる。何か危険な感じを察知する。そう、それこそ相性的なモノ……動物的直観……蜘蛛だけど……で葉弓と闘うことに本能が警鐘を鳴らしている。


「どうしたでござるか!?」


 急に下がり逃げ出したベグイアスを追いかけ拳で攻撃を試みる葉弓。それと全く組み交わそうとしないベグイアス。

 『雨船』を振り近づけないようにしつつ、ビョンビョンと壁や柱に飛び移る。だが、それに合わせて葉弓も飛び回り追いかける。完全に一方的な展開になってくる。


 呪文を唱えても全部、打ち砕かれる。彼女の能力は『魔力無効化』だと思った。刀で切っていたのではない。刀を通じて無効化しているのではないか。ただ触れたところから無効化されていくから切れているように見えた。辻褄は合う。


「理解……したようでござるな。もっとも、武器を通じて『魔力破壊』は難しく、なかなか上手くいかないでござるけれども……」


 『無効化』かと思ったが、葉弓がバラした結果はベグイアスにとっては最悪の相性『魔力破壊』能力。バラされなければ、気づかなかったかもしれない。


 それはベグイアスが吸収している最中の魔力も破壊できる可能性がある。

 吸収している最中に破壊されたら、最悪の場合、連鎖的に体内にある魔力まで破壊され死に至ることもあるのではないだろうか?

 想像でしかないが、直接、相手の魔力に触れなければ破壊できないのでは……いや、そうとも限らない。刀を通して破壊して見せている。そうなると可能性は低いだろうが、体に触れただけでも、体内魔力を破壊する可能性もある。


 ベグイアスは相手の能力に気を取られ過ぎて、葉弓の攻撃を右手に受けてしまう。魔力破壊はされなかったものの『雨船』を落してしまう。それを軽く掬い上げるように拾う葉弓。


「やっと、本領発揮といけるでござるな」


 『雨船』を持つと、右手の機能『ブラッケン』で籠手と『雨船』の一体化した武器へと変形させる。それ自体はベグイアスの脅威とはならない。だが、その刀の攻撃に魔力破壊があれば話は別だ。

 どうすることも出来ない。どうするべきか考える。攻撃するべきか逃げるべきか……。


 立場が逆転する。


 全てが全て破壊できるわけではないだろう。とくに『呪壁の指輪』の魔法陣の盾は壊されていない。なにかルールがあるはずである。


「逃げる一方でござるか?」

「う~ん、そうね。予想外だったわ。ホント予想外! でも、でも、でもっぉぉおお」


 先ほど逃げ回っていたのから一転、一気に間合いを詰め、蜘蛛の前足で攻撃してくる。一瞬、葉弓が不意をつかれ防戦に回ってしまう。

 これに驚いたのは、エイスだった。今までの様子ならベグイアスの撤退は間違いなかったはずだが、何か葉弓の能力の弱点を見つけたらしい。

 容赦なくガンガン攻めていく。魔方陣の盾も使い、葉弓の攻撃も防いでいる。

 だが、ベグイアスも『魔力吸収』で『雨船』を破壊しない。


「どういうことだ?」


 今の状況で葉弓とベグイアスの能力を把握していないのは自分だけだとエイスは思った。二人は間違いなく互角に渡り歩いている。もし、今、彼女たちのどちらかと闘う羽目になったら勝つことは出来ないだろう。


 魔力を絞っているのかベグイアスの出す魔法は極端に減っている。ピンポイントでしか『呪壁の指輪』も使用しない。

 ベグイアスが魔法の矢(マジックミサイル)を短距離で使う。『今さら?』と言う気持ちがエイスにはあったが、葉弓はそれの破壊が間に合わない。


「くぅっぅ!!」

「やっぱり、やっぱり、やっぱりっぃいっぃ!!」


 どうやら、『魔力破壊』についてベグイアスはそれなりに分析できたようだ。


「さすがに7魔将。簡単には倒させてくれないでござるな!」

「当然、当然、当ぜぇえっぇんんん!!」


 エイスもようやく理解した。

 接近戦で魔法の矢(マジックミサイル)の利点などほとんどない。ベグイアスだから詠唱中も攻撃できるが、ただの魔法使いなら詠唱中に切られてしまう。それなのにあえて近距離で試したのは、咄嗟には『魔力破壊』が使えないことを確認するためだろう。

 ようするに接近戦では『魔力破壊』を発揮するのは難しいということだ。もし『呪壁の指輪』の魔法陣の盾がずっと出ていれば破壊できるのだろうが、短時間しか出されないと壊しづらいのだろう。


 だからといって、ベグイアスが『雨船』を抑えてから破壊するまでは時間がかかり過ぎる。その場合はベグイアスの手が持っていかれる可能性がある。

 前回の『ブラッケン』を破壊したので調子づいて、もう一度やろうとすればどうなるかわからない。おそらく葉弓も刀の魔力を吸収しているとは思わなかっただろうからだ。

 今度は吸収している最中に魔力破壊を行うことは間違いない。


 接近戦で互いの能力を発揮できない状況になっていると言ってもいい。

 そのせいで決定打が生まれない。


 その時一人の男が唐突に、この場にやってきた。


「派手にやってるな~。エイス、無事か?」

「ゼディス!? なんで、ココに!?」


 やってきたのはユニクス王国に入る前に別れたゼディスだった。

 どうやってここまで来たのかわからない。いや、聞きたいことが山ほどあるが、ゼディスは怪しげなボウガンを取り出している。


「うーん。話せば長い話になるんだが……知らない奴もいるし……まずはあの二人を仕留めるか」

「待て。一人は味方だぞ?」


 なんとなく、ゼディスがやろうとしていることを察知するエイス。珍しい小型のボウガンを抑えつける。


「大丈夫、外傷はないから」

「あぁ、外傷(・ ・)はないだろうな」

「くっ……バレていやがるか……」


 ぐぬぬぬぬ、とエイスもゼディスも小型ボウガン『魔弩ファフィット』から手を離さない。ゼディスが『ブラットラクト』を放とうとしているのがどーやらバレているっぽいぞ。


「普通に7魔将を倒せ! それでもって葉弓は味方だ! それを撃ち込む必要はない!」

「まぁ、社長! そう言わずに!」


 エイスが突然、後ろから羽交い絞めにされる。


「なっ! 何者!?」


 見たことのない赤いドラゴニュートの女性がエイスを抑えつけている。只者ではないことが見ただけでもわかる。

 葉弓とベグイアスの方を見上げると、そちらも同じドラゴニュート数人に襲われている。


「な、なんだ。これは?!」

「なんで、なんで、なんで? ブラックが襲ってくるのっぉおぉ??」

「なんでござるか強力な魔法に……ドワーフ!?」


 葉弓には見たことも無いような上級魔法が襲い掛かる。一段目は破壊したものの後ろにもう一段、魔法が隠されており、吹き飛ばされた後に、ドワーフが葉弓を抑えつけた。


「ドキサ!?」


 エイスも葉弓もベグイアスでさえ、状況がわからない。


「話す前にとりあえず、撃ち込まないとな~」

「何を考えている! それに7魔将と交戦中なんだぞ!?」

「7魔将も仲間の方がいいだろ?」


 エイスの問いに答えながら、葉弓とベグイアスに『ブラットラクト』を撃ち込んでいく。さすがに今回は調整してある。

 あまり強力だと……7魔将・ブラックは首にまとわりついている……ということがないように、ちょうどいい量というモノを考慮してある。


 ベグイアスは魔力吸収なので放っておいても吸収してくれるだろうが、葉弓は一発目は『魔力破壊』で破壊されてしまった。


「やめるでござる~ぅっぅ」


 と叫ぶ葉弓をちゃんと撃っておく。


「あれ? 死なないでござるよ?」


 撃たれたが何の変化もないことに、解放された葉弓は手を広げ確認する。魔力が増えた感じがするだけで特に問題は無さそうだ。あとは、緊張のせいか心拍数が高い……。とくに、この男の顔をみると……おかしいことに気づく。明らかにおかしい、男の顔は平凡で特出したところはないはずなのに?


 新しくこのホールに入ってきた人間が……魔族も含め多すぎる。

 葉弓はあったことのない者がほとんどで、エイス、ベグイアスにしても知らない人間、魔族が混じっている。


 説明するために、ゼディスが場を収める。


「よーし。じゃぁ、説明するから集まってくださーい。いいですか? 敵と味方がいますが争わないように、仲良くしてくださいね~」

「いや、いや、いや! 待つでござるよ! 7魔将と仲良くとか無理でござろう!」

「そうよ、そうよそうよ~ん。なんで、今さら、そいつらと仲良くしなきゃいけないのぉ? まぁ百歩譲ってアナタはいい男だから、仲良くしてあげてもいいけれどぉ」


 ベグイアスの言葉に一斉に恐ろしい視線が投げつけられる。7魔将と言えども恐怖を感じるほどのプレッシャーだ。


「いや~ねぇ。冗談よ、じょ・う・だ・ん。みんな本気にし過ぎよ~ん。ただ、ちょっと味見するだけ……ウソ、嘘、嘘、うそ、ウソですから~。そんな怖い顔しないでぇ~ん」


 ここで仲良く出来ないということは大多数を敵に回すことになることを、葉弓とベグイアスがようやく理解する。それにゼディスに嫌われたくないので言うことを聞くべきだと理解するが……当然の疑問が先に立つ。


「申し訳ないが、先に一つ質問してよろしいでござるか?」


 だが、ドワーフ……ドキサだが……が質問よりさきに、答えを教える。


「さっきの矢は、この男を『好きになる魔法の矢』よ。名前は……忘れたわ。どーでもいいし。まぁ、最低な男だから、当然、そのうち報いを受けてもらおうと思ってるけどね!」

「私のご主人様にそんなことはさせませんよ!」


 ブラックがその言葉に噛みつくが、現在のドキサの力を知っているから、ゼディスの影に隠れながら粋がっている。ブラックはドキサに、ゼディスから離れるように言われたが、どうやらそこは譲れない所らしい。


「え? ま、待つござるよ? それって? あれ? どーいうことでござるか?」

「頭の回転の鈍い娘ね~ん。ようするに、その男と私が夫婦になると……ジョーク、冗談、笑い話っぃいぃ。怖いから怖いから~ん!!」


 サイクロプスの7魔将・スアックが物凄く睨んでいる。目から光線でも放ちそうなほど……。

 エイスがため息を吐く。


「はぁ~。収拾がつかなくなるだろう? それがわかっていてこんな状態にしたのか?」

「平和が一番!」


 ドキサにブッ飛ばされる。どうも平和じゃないらしい。


「わかってる? 分かってるわよね? 滅茶苦茶、いざこざが起こってるのよ?」

「まぁまぁ、ドキサさん。ゼディス様もわかっていますよ」


 ブロッサムがゼディスの介抱をする。


「は、話が進まん……いいか、もう一度。大人しく話を聞くように……。このままだと、俺の命が危険で危ないでーす。それに、まだ、やらなきゃならないことがあるので、皆さん大人しく聞いてくださーい! まずはラー王国に行ってきたことから話すから……」


 そう、もうすでにラー王国に行って来ていた。そしてそこで起こったことから話すことにする。

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