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魔力吸収

 煙と炎が葉弓とエイスを避けて通っているように見える。あの爆発から身を守ったのは精霊魔法の風 の 盾(ウインドシールド)だろう。

 物理的な飛び道具を一切寄せ付けない。風が渦巻き、爆炎も彼女たちを避けて通ったのだと予想される。相当な魔術レベルである。

 だが、それ以前に疑問は残る。


「不思議、不思議、不思議っぃ? 首輪はどうしたの? 呪文が唱えられないように首輪をしていたじゃない?」


 アラクネの7魔将・ベグイアスの言う通り、牢に入れるときに首輪を付けさせていたハズだ。だが、その首輪は見つからない。

 それをこともなげに葉弓が言う。


「切ったでござる」


 切れた首輪を持っている。


「あら、あら、あら~ん? なんで爆発してないのぉ?」

「え!? 切ると爆発するのでござるか?」


 切った本人の葉弓がビックリしている。今にも爆発するのではないかと、慌ててその辺に放り投げる。

 呆れるのはエイス。助かったからいいようなものの、危うく首輪の爆発で死ぬところだった。


「……知らなかったのか。助かったから礼は言うが、考えて行動した方がいいぞ」

「ま、まぁ、俗にいう『結果おーらい』と言うやつでござるよ」


 額の汗をぬぐいながら、にこやかにエイスに言い訳をする。


 これで二対一になったように見えるが、エイスは弱り切っている。とりあえず、回復薬と魔力回復薬を使ってはいるが、気力や体力は目に見えて疲労している。戦力になるかと言われれば怪しい。


「どうぞ、どうぞ。エイス殿は端の方で休んでいるといいでござる。拙者があの面妖な女郎蜘蛛の妖怪を倒すでござるよ」


 一緒に行動すると、何かと首輪のことで愚痴られそうだと、恐れをなしてエイスを休ませることを画策する葉弓。


「あら~ん? あなた一人で私を倒すつもりぃ? 無理じゃない。無理無理無理無理っぃい?」


 ベグイアスは長距離から魔法の矢(マジックミサイル)を放つ。残念ながら風の盾(ウインドシールド)では物理的な遠距離攻撃しか流すことが出来ない。魔法で形成された矢は風の盾(ウインドシールド)突破して葉弓を狙う。


「ハッ!!」


 だが、必ず当たるとされる魔法の矢(マジックミサイル)を『ブラッケン』の右腕の刀で当たり前のように切り落としていく。

 ベグイアスもエイスもその出来事は理解できなかった。


「なんで、なんで、なんでっぇ!?」

「え!?」


 物理攻撃で魔法を破壊することは想像することは難しい。魔法の媒体から起こる物理攻撃なら破壊は可能だが、魔法自体を切りつけるということは知る限りでは行われていない。


 二人が驚いていることに、葉弓が驚く。


「あ、あれ!? 拙者、また、なにか失敗したでござるか!?」

「いや、失敗じゃない。なんで魔法が切れたんだ?」

「あははは、魔法は切れるモンでござるよ!」


 エイスには笑いどころがわからない。何がおかしい!? しかも、当たり前のように『魔法が切れる』ことが前提だ。どうやら、彼女は魔法が切れることが普通で、特に考え無しだったらしい。


 それならば、首輪が爆発せずに切れたことも納得がいく。首輪はマジックアイテムだ。とくに爆発に関わる原理には重要にかかわっている。魔力を切断するすべをもっているなら、簡単に切ることが出来たのだろう。ただし、必ずできるかどうかは怪しいが……。


「へー、なるほど、なるほど。まさか魔法を切れる娘がいるなんて、ベグイアス、予想外っぃぃ!!」


 カシャカシャと足を動かしたかと思ったら、鼻が触れ合うほど葉弓の近くまで来ていた。

 葉弓は虚を衝かれたが、いたって冷静だった。この距離からの攻撃があれば反撃は簡単だった。ただ、先制を取るのにはいささか難しい。そして、それはお互いに同じで先に動いた方が不利になる状況。

 用は只のこけおどし、ただし驚いて先に攻撃してしまうと返し技から強力な反撃を食らいかねない。


「いいわ~。そう簡単に引っかからないその姿勢! でも、ここからが本番!」

「そうでござろうな」


 互いに後ろへ一歩飛び退くと、そこからの連撃が始まる。特に目を見張るのはベグイアスの攻撃だった。手数……いや足数か……『雨船』と前足の四段攻撃に加え、さらに二本の前足で呪文も放つ。防御はいくつもの『呪壁の指輪』で発生させる魔法陣の盾。シルバより攻撃が軽いのか、魔法を切れる葉弓でもその魔法陣の盾を破壊するまで至らない。


 だからと言って、葉弓が負けているわけでもない。たしかに、一歩間違えれば大惨事になりそうな状況で的確に攻撃を抑え、反撃を繰り出している。『考えている』と言うよりは体がそう動くと言った感じだ。まるでセニードランドローを使っているかのように、今までの経験と訓練が彼女の体を的確に動かしている。


 剣の混じり合う音と火花。魔法の切り裂かれる閃光。よどみなく繰り返されていく。有利なのはベグイアスに見える……だが、実際は魔法が切れるまでのことだ。魔力を使い果たしてしまえば、一気に形勢は逆転する。


 7魔将ではあるが魔法攻撃と『呪壁の指輪』でいっぺんに魔法を消費している。どこまで、その魔力がもつかである。

 ここでエイスが加勢したいところだが、体力的には現在は無理だし、魔法はベグイアスの能力『魔力吸収』があるため、結局のところ何もできない。


「さて、そろそろ、決着つけちゃおうかしら~。いいかしら~。これ以上、何もないなら殺しちゃうわよぉん!」

「意外でござる。今、追い詰められているのはそなたかと思ったら拙者でござったか!? なにやら不穏な空気でござるな」


 切り札がまだあるのだと、エイスも感じた。ただ、相手の出方を伺っていただけに過ぎない。進展がない以上、ベグイアスは一気に攻勢に打って出る。


 ベグイアスは左手で、葉弓の刀化している腕を受け止める。葉弓の腕前なら、そのまま腕を切り裂けると思ったが『ブラッケン』の刀を受け止めている。

 そのまま、ギリギリと力を入れていくと、刀の中心からバキーンッと音がして真っ二つに折れた。……まるで、アルスの剣のように……。


「なっ!? 拙者の刀が!?」

「あら~ん。武士の命が折れちゃったじゃな~い? 死ぬの、死ねば、死んじゃえっぇ! きゃはは!」


 ベグイアスは『雨船』で横切りすると、葉弓は踵でステップし後ろに飛び退く。


「まぁ、折れてしまったものは仕方ないでござるね」

「え? それでいいのか?」


 エイスの方が驚く。そんな単純な。

 しかし、それよりも厄介なのは、どうやって刀を折ったかだ。何かしらの能力と考えるべきだ。7魔将なら、普通の剣を素手で握り砕くことは出来るだろう……。

 だが、ミスリル銀やオリハルコンという魔法金属になれば、7魔将と言えど容易く折れるものではないハズ……。おそらく、葉弓の『ブラッケン』も魔法金属で出来ていただろうに折って見せた。


「そうか……そういうことか!」

「どういうことでござるか!?」


 急に声を上げたエイスにビクッとなる葉弓が尋ねる。


「ミスリル銀やオリハルコンとかは魔法金属と呼ばれるモノだ。それはマナの含有量の差異より魔法金属の性質を変えていく。元をたどればただの銀と言う話もある」

「よくわからんでござるよ?」

「ようするにただの銀に、マナが入っていればミスリル銀、さらに多量のマナを有しているのがオリハルコンじゃないか……と言う話だ」


 フムフムと葉弓は聞いているが理解しているのか怪しい。

 しかし、ベグイアスは唇を釣り上げ、薄らと笑っている。


「さっすが、理解力が早いわね~。そういうこと! もっとも金属の考え方が少々違うけど、まぁ大体そんな感じなのよ。それで私の能力。『魔力吸収』! この能力があれば、どんな武器もどんな防具も壊せちゃうわけなのよ~ん」

「なんと! 本当でござるか、エイス殿!?」

「おそらく本当だろう。伝説クラスの武防具は大抵、ミスリル銀あるいはオリハルコンで出来ている。その魔力を吸収されてしまっては只の強度のない金属に成り下がる」

「なら、自分で魔力を注入すればよろしいでござろう!?」

「それも、吸収されてしまう。どうあがいても7魔将が砕けるモノになると思われるわけだ。魔法どころか武器も防具も意味をなさない」

「そうよ~。理解力が早くって助かるわ~。どうすることも出来ないわけよね~」


 確かに手の打ちようがない。『魔力吸収』を甘く見ていた。魔法さえ使わなければ闘えると……。グファートは全ての攻撃が効かないのに対し、ベグイアスの方が弱いと思っていたが、実際はほぼ互角。ベグイアスは全ての攻撃を許さない。


「なるほど、要するに素手で闘えばいいでござるな」

「簡単に言ってくれるな。普通の魔族でも難しいのに7魔将相手に素手の攻撃など効かないだろう」

「では、諦めるでござるか?」

「そうは言わんが、他の方法を考えるべきだ。普通に考えれば撤退……そう簡単に逃がしてもらえるとは考えづらいがな……」

「もちろん、逃がさないわよ~。それに、今度は私の魔法は切り落とせないだろうしぃ~」


 スピードも魔法も攻撃力もずば抜けている。そう簡単に逃げられるわけもないし、攻撃できるわけでもない。どちらにするか、迷っている時間は無い。迷えば迷うだけ危険は迫ってくる。


「エイス殿」

「いい考えでもあるのか?」


 はっきりいってあまり期待していなかった。


「拙者に任せてもらえないでござろうか? 拙者こう見えても勇者としての力を覚醒させているでござるよ。それにどうやら、女郎蜘蛛の妖怪と相性が良さそうでござる」


 にわかには信じがたい……彼女の強さは見た。確かに強いし、魔法も切れる。だが、勇者としての力を覚醒させているほどかと言うとはなはだ疑問だ。というか、勇者の力を引き継いでいるという話も初めて知った。

 だが、どちらにしろ、逃げるか闘うか決めざるを得ない。ならば自信があるという葉弓にかけてみるほうが可能性的には高いかもしれない。


「はぁ~」

「どうしたでござるか?」

「あまり分の良い賭けじゃないと思っただけだ」

「何がでござる?」

「全面的にお前に任せる。そういえば名前を聞いていなかったな?」

「葉弓 楓でござる。シンシス殿に頼まれてきたでござるよ!」

「葉弓、申し訳ないが私はお前の援護にまわる」

「わかったでござる」


 コクリと頷く。


 葉弓にどんな切り札があるかわからない。駄目ならお終いだ。おそらくこの戦闘が始まれば、逃げる力は残らないだろう。


 『ブラッケン』をやめ、普通の腕に戻すと葉弓は、ベグイアスに正面から走り込んでいく。

 ベグイアスとしては、まだまだ余裕だ。武器も防具もベグイアスにとっては紙同然だ。注意するべき点は何もないのだ。

 ゆっくりと呪文を詠唱する。


「どんな秘策があるのかしら~ん。まずは小手試しに魔法の矢(マジックミサイル)を放っちゃうわよ~」


 宙に二~三十本近い魔法の矢(マジックミサイル)が現れる。まるで葉弓を射抜くよう命令を下すみたいに人差し指で指し示すと、一斉に飛んでいく。

 エイスは魔 法 防 御マジックプロテクションを葉弓にかけるが、あまり効果は期待できない。


 だが、そんな魔 法 防 御マジックプロテクションなどいらなかった。


「なに!?」

「なんで、なんで、なんで、なんでっぇ!?」


 エイスとベグイアスは同時に声を上げていた。

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