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失われたモノ

「何だコレは!?」


 ゴーレムの7魔将・ゼロフォーを光で出来た金網のようなものが取り囲んでいる。四方も天井も床も、その光の金網が張っている。およそ四畳半程度の正方形の部屋に閉じ込められた。


「それは、古代に失われた魔法の一つ。『光 の 牢 獄(ライトプリズン)』」

「俺をこんなもので閉じ込められると思っているのか?」


 ガシャリと腕を構え、ミサイルを撃ち込む。派手な爆炎は『光 の 牢 獄(ライトプリズン)』内だけに立ち込め外には一切漏れない……そう、ゼロフォーの攻撃を一切受け付けていない。


「この程度の火力では壊れないか……なら!」


 オリハルコンの腕で光の金網を引きちぎろうとしてもビクともしない。パンチもキックも、目から放つレーザーも何をやっても、壊れるどころか歪みもしない。


「あらゆる攻撃が無効ですよ」


 ゼロフォーは確かにこの檻の強力さを実感していた。まだ、試していない技もあるが、それですらこの檻をこじ開ける可能性は低いと計算していた。と、同時にこれほど強力な呪文が今まで使われなかった理由がわからない。


「なぜ、この呪文を真っ先に使わなかった? これを使えばどんな魔族も脱出不可能じゃないか?」

「そうでもないんですよ。むしろ、この呪文が古代で廃れてしまった理由があります。もし、そこまで強力なら、現在でも使用されていることでしょう」


 ようは、苦も無く開ける方法があるはずだった。だが、どこを見ても鍵穴もなければ綻びも見つからない。簡単に出る方法など思いつかない。


「教えて差し上げましょうか?」

「何のつもりだ? せっかく閉じ込めたのに、俺を出しても倒せる算段があるのか?」

「違います。むしろ逆ですね。そこから、出られたら私たちの負けかな~とも思っていますよ。ただ、アナタがその方法を持ち合わせていないことを確認したいんです」

「簡単に出れるわけではないのか?」

「そうですね……出れる者は簡単に出れますし、出れない者は半永久的に出れません」


 ゼロフォーは、ゼティーナⅡ世が自分を『持たざる者』だと判断したことに少なからず頭にきていた。自分は才能が有り7魔将まで上り詰めている。その辺の人間や魔族がでれるなら、必ず自分も出れると確信していた。


「出る方法は二つ。一つは私がその『光 の 牢 獄(ライトプリズン)』を開放すること……」

「そっちはどうでもいいな。もう一つは?」

「檻に触れて、魔法を唱えることです」

「え? 呪文を唱える? なんて?」


 ゼロフォー自身もマヌケな声を出したと思ったが実に単純なことだった。『開けゴマ』とでもいえばいいのか? そんなモノに才能も何もない。自分でも開けられるだろう。 それとも合言葉は自分で探せということなのだろうか? そうなると今度は誰も空けられないのではないだろうか。 いや、全部の『光 の 牢 獄(ライトプリズン)』が同じ合言葉で開くのかもしれない。


「呪文は何でも構いません」

「何を言っているんだ?」

「わかりませんか? 炎の矢(ファイアーアロー)でも回復魔法(キュア)でも魔法の矢(マジックミサイル)でも……何でも構わない、と言っているのです」

「な……んだ……と?」


 好きな呪文をとなえればいい。たしかに、それなら魔法を使うモノならすぐにでも出てくる可能性がある。魔法使いならすぐだ。まず檻を壊そうとするのに魔法の矢(マジックミサイル)でも使いそうだ。


「ね、簡単でしょ?」

「……いつからだ?」


「……なにがですか?」

「俺が、呪文を唱えていないと気づいたのは?」

「はじめからですよ。ずーっと確認していました。あとはタイミングを計って使おうと思っていました。勇者の力がなければ、とてもじゃありませんが『光 の 牢 獄(ライトプリズン)』を使用する前に倒されてしまいますけれども」


 ゴブリン、コボルトなら閉じ込めておけるが、バンパイアやサッキュバスなどになれば、すぐに脱出できる魔法だ。だから古代で滅びた魔法だったのだ。大量の魔力を消費し、ほとんどの魔族が簡単に抜け出てきてしまう。そんな魔法が引き継がれなかったのは頷ける。


 だが、今は7魔将を閉じ込めるのに最適と言える。もし、この魔法がメジャーだったら、ゼロフォーも詠唱する魔法の一つも覚えていただろう。


「これからどうするつもりだ?」

「どうもしません。半永久的にそこにいてもらいます。いわゆる封印の一種です。安心してください。私が死んでも『光 の 牢 獄(ライトプリズン)』は無くなりませんから……」


 ゼロフォーは『無限再生』があるなら、『光 の 牢 獄(ライトプリズン)』の中に閉じ込めておくのが正解だろう。


 ゼティーナⅡ世はシンシスの元へと戻っていった。






 ユニクス王国に、紋付き袴の女剣士が入ろうとしていた。

 当然、止められる。


「貴様、何者だ! ココから先は許可のあるモノしか通すことは出来ん!」


 二人の門番は見た目も怪しい女剣士を止める。


「ん? 拙者の事でござるか? いやいや拙者、決して怪しい者ではござらんよ?」

「いや、見るからに怪しいだろ! それに、今は戦時中だ。どこかのスパイということも考えられる!」

「いや、実は拙者、勇者ゼティーナ殿より頼まれて、エイス殿の援軍としてこちらに参ったでござる。どうか連絡してもらえないでござろうか? 知らせてもらえばすぐにわかると思うのでござるが……」


 とは言ったものの、女剣士は『すぐにわかる』かは疑問だった。なにせ、エイスに会ったことはない。シンシスとドンドランドが見つけてきた破壊王バーキュ力を継ぐ者……葉弓 楓(はきゅうかえで)


 門番二人は困った顔になる。エイスは投獄され連絡を取る手段がない。誰だか知らない者に話すべきかどうかわからない。だが、このまま国が魔族に黙って乗っ取られていくところを見ているしかないのか……考える。

 門番の一人が長い間を置き口を開いた。


「よそ者に話すべきではないことだ。これはあくまでも私の独り言として聞き流して欲しい」

「わかったでござる。では独り言が終わるまで、あっちの木陰で待っているでござる」

「いやいや、そういう意味じゃないから……『誰にも私が言ったと話すな』って意味の遠回しな言い方! カッコいい奴だから!」

「あぁ、そうでござったか……拙者、そういうことに疎くって申し訳ござらん。しっかり聞くのでどうぞ、独り言を始めてくだされ」

「そう言われると、それはそれで、喋り辛いんだが……」

「では、拙者にどうしろと……」

「ごほんッ。まぁいい。……今、エイス将軍は地下牢に閉じ込められている」

「なんと!? エイス殿は無事でござるか!?」

「慌てるな! 独り言だから質問しないように!」

「申し訳ござらん……つい拙者、吃驚してしまって……」

「では改めて、エイス将軍は辛うじて命は取り留めたが、かなり弱っているうえに魔法を使えなくする首輪まではめられており、自力で逃げ出すことは不可能だろう。しかし、魔族たちは勇者たちが彼女を見捨てず助けに来ると考えており、いろいろな罠を張り巡らせ待っている。人質にして誘き出そうとする作戦だ。そして予想通り、お前がやってきたというわけだ」

「おのれ、7魔将!」

「いいか、続けるぞ? まずは地下に行くまでに、落とし穴があり更につり天井があるので注意が必要だ。あとは階段には上から鉄球が転がってくる。初めの脇道に入るとギロチンが落ちてくるからそこには入らず、次の脇道を目指せ。地下に着いたら、まずは地下牢を開けるためのカギを探せ。入って左側だ」


 それからも、罠について細かい説明を受ける。魔族なども待ち構えているが、交代の時間などメモした紙を女剣士に渡す。それから、城の門番に通れるように招待状をかいてくれる。


「ふむ、独り言とは『至れり尽くせり』でござるなー」

「うるさい、たまたまだ! お前の為じゃねーんだ、エイス将軍を助けるためだからな!」

「わかったでござる。かならず、助けてくるでござる」


 そう言うとユニクス王国の門をくぐり国内へと入って行った。


「ふむ、酷いありさまでござるな……」


 国というよりは廃墟のようになっている街並みに、あまりいい気はしない。

 ガラの悪い連中もウロウロしているが、そいつらですら、ビクビクして行動している。彼らが怯えているのは魔物が闊歩していることだ。下手に暴れると、魔族に目を付けられるらしい。


 どうやら、隠れていった方が無難だと葉弓は瓦礫の影を走り抜けていくことにする。彼女のスピードはまるで風のようだった。僅かな時間で城の城門前まで来ていた。


「ふむ……」


 城門前で再び唸る。『門番に見せればいい』といって渡された紹介状だが、今いる門番はミノタウロスだ。彼が魔族と知り合いとは考えづらい。だが、せっかく書いてもらったものだし……。


 テクテクとあるいて門番の前まで行く。


「拙者、招待状を持ってきた。中に入れてもらいたい」


 といって、招待状を魔物に差し出す。

 ブモーブモーと凄い鼻息で、息が臭い。あとヨダレ……。あまり理性があるとは考えにくい。右手に大きな斧を持ち、左手で紹介状を取ると天に透かすようにして見る。

 と……その紙を投げ捨て、斧を両手で持ち、ゆっくりと持ち上げていく。


「ん? なにか不備でもあったでござるか?」


 だが、ミノタウロスは葉弓の言葉を聞いていない。そのまま人間には到底、出せないスピードで斧を振り下ろす。


「ふむ、やはりミノタウロスでは人間の言葉はわからなかったでござるか」


 葉弓は城の中に入って行く。ミノタウロスは斧を振り下ろした格好になっているが、手の肘から先と首が切り落とされていた。叫ぶ暇も与えず、抜刀で終わらせていたのである。


 彼女は適当に下に降りる階段を探す。城内は混乱しているのか葉弓一人は行ってきたところで誰も気にも留めない。葉弓より怪しい人間や魔族がうろついているのだ。他人のことなどどうでもいいのだろう。


 おそらく、地下牢に続く道だろう所を発見する。歩いていこうとすると……。


「おわっぁあぁああぁ……でござるっぅ」


 落とし穴に落っこちる。上から鉾の着いた攣り天井が落ちてくるが、慌てず騒がず、刀で細かく切り刻んでいく。

 たかさ五メートルほどの深さ、左右の壁を交互に蹴り上がり上まで登る。


「ふぅー、吃驚したでござる」


 次に下に行く階段を下っていく……半分以上、下ったくらいだろうか? 上の方からゴドッっという音と同時に地響きがする。


「嫌な予感がするでござるよ……」


 そーっと後ろを振り返る葉弓。葉弓の身長の二倍くらいの鉄球が上から転がってくる。


「はわわわ……でござるっぅ」


 超全力疾走で逃げようとしたが、徐々に鉄球が追い付いてくる。


「そうか! 切ればいいでござる!」


 ピキーンっとひらめいた葉弓が丸みを無くすように鉄球を正方形に切り落としていく……しかし、勢いのついている正方形は転がり続ける。


「はわわわ……ダメでござったっぁ」


 彼女なら粉々に切り刻む技量はあるのだが、なんとなく、罠に対して失礼な気がしてちゃんとした対処法を考えていた。人一人分やっと入れる脇道を発見して入り込む。


「危なかったでござっぁあっぁ!」


 大きなギロチンが落ちてくる。バシーンっと真剣白刃取りで大きなギロチンを抑える。


 まぁ、門番の人が色々教えていたのだが、葉弓は何一つ覚えていなかった……報われない門番の人。

 なんとかかんとか、下まで着いた時、鍵も探さずエイスのいる牢獄を目指していた。


「鍵が無いなら切ればいいでござる♪」


 巡回中の魔物はすでに、切り伏せながら進んでいた。

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