ゴーレムの7魔将vs大神官の勇者
ハッキリ言ってシンシスは困った。
ミサイルを物理プロテクションでダメージ軽減しながら逃げまくる。
もちろん、魔力切れだったが、ゼディス達と違い彼女は準備を怠ってはいない。魔力回復の薬を使用している。名前が付いていたハズだが、これも『魔力回復薬』としか呼ばれていない。
適当に数本使ったが魔力が満タンになるには程遠い。
それにしても、まさか『無限再生』などというふざけた能力だったとは思わなかった。それがわかっていればいっぺんに 全部の力を開放しなかったのに……あれで決着が付くと思ったのは間違いだった。
いや『無限再生』だとしても『核』となる部分まで吹き飛ばそうと考えていたかもしれない。弱点は見つからない。とりあえずの魔力で応戦するしかない。
「まさか『とりあえずの魔力で応戦』なんて寒いこと考えていないだろうな」
「あらあら、心まで読めるんですか?」
「そんなのなら、すぐに死ぬぞ、お前!」
否定しづらい言葉だ。ゼロフォーの強さは重々承知している。だから『ガイナ式ブリット』に魔力を最大まで注入して戦ったのだ。今使えるのはオーラが三割、魔力が三割、『ガイナ式ブリット』が二割程度……。これに経験を活かしなんとか堪えるしかない。
「防御に徹するのか! だが、そんな時間稼ぎに何の意味がある!」
味方が来れば……とは思うが、誰が来るというのか……。何か方法を考えなければ時間を稼いで無駄死にすることになる。
そんな様子に業を煮やしたのか、ゼロフォーは地面を思い切り叩きつけ拳をめり込ませる。
途端にシンシスの勇者としての感が危険を知らせる。何か来る前に出来るだけ大きく飛びのいた。
それは正解だった。
そこに大きな刃物が通過している。一秒遅ければ切り刻まれていただろう。
ゼロフォーは地面から武器や身体を生成することが出来るのだ。それは対勇者用能力ではなく、通常能力として……大きさも形も自由自在のようだ。細かい仕掛けなども組み込める。魔力がこもってないだけで色々な武器が出せるので『魔倉の指輪』を彷彿とさせる。もっとも、この二人は見たことも無いが……。
巨大な剣でシンシスを襲う。錫杖で受け流しながらも攻撃のチャンスを見計らう。
剣が大きすぎるとシンシスは思った。こんなモノでは絶対に隙が出来る……いや、そんなことはゼロフォーもわかっているハズ。『無限再生』だから気にしないのか、他に策があるのか……。
「考えていても仕方ありませんね」
ゼロフォーが大きく剣を振ったとき真横に隙が出来た。そこに錫杖にオーラと『ガイナ式ブリット』の力を加え貫こうとする。だが、地面から巨大な盾がせり上がり、それを貫通するにとどまってしまう。しかもその大きさのせいで、ゼロフォーを見失う。
すぐさまバックステップで視界を確保しようとしたのが運のつきだった。彼女は錫杖で空けた穴からミサイルを撃ち込んできた。全ての行動が間に合わない。
バックステップの為、着地するまで回避もできない。錫杖も引き抜いたためガードが間に合わない。呪文を詠唱する時間もない。
ミサイルが直撃し爆発を起こし、巨大な爆炎が立ち上る。
オーラで防御力を上げたものの、ほぼ直撃したダメージは大きい。ミサイルの爆炎から出てきたシンシスの体は血だらけだった。
「まだ終わりじゃないだろ! もっと楽しませろよ!」
鉄の盾を迂回し、横から蹴り込んでくるが錫杖で辛うじて防ぎ飛ばされる程度ですむ。地面を数回、水切り石のように跳ねながら、大木に叩きつけられ何とか止まる。
錫杖を杖に立ち上がるが、すでにゼロフォーは目の前まで来ている。連続のパンチが顔面や腹を捕える。ゼロフォー自体が金属なのだ。その重たいパンチはオーラを纏っていてもあばら骨が折れる。
「がはっ!」
「もう、終わりか?」
血反吐を吐きながら倒れているシンシスを踏みつけ見下ろす。これだけの激痛を与えても気を失っていないのはさすがだと思ったが、ゼロフォーは終わりだと確信していた。
彼女は立ち上がることは出来ない。あばら骨も折れ出血も酷い、ただ神官だから放っておいて死ぬとは限らない。しっかりトドメを刺しておくべきだろう。
「あ……あらあら」
そう言ってシンシスは口から血を流しながら笑っている。ゼロフォーは意識が混濁しているのかと思った。
「最後に言っておきたいことはあるか?」
「『最後に』ですか? そうですね……う・し・ろ……に……」
「『後に』?」
ガギィィンと音がしたと思った瞬間、ゼロフォーは吹き飛ばされ木々を薙ぎ倒していた。が、すぐに回転し地面に踏みとどまり、敵を確認する。
すでにシンシスの元に一人の人間を見つけ出す。回復魔法をかけているようだ。
「誰だか知らないが、水を差すようなことをするのはやめてもらおうか!!」
両手両足からミサイルを放つ。ただの人間ならミサイル一発でいいだろうが、そこにいる人物が普通ではないことを悟っている。少なくとも金属の体で、体重 数百キロの自分を易々と吹き飛ばしているのだ。
その人物は後ろを振り向き物理防御の魔法を唱える。シンシスとその人物は物理防御壁に守られ、ミサイルの攻撃を軽減している。
「貴様は……また、やられに来たのか。ゼティーナⅡ世」
片手を前に突き出し、魔法で防御壁を張っていたのは十代半ばの緑髪の癖ッ毛の少女ゼティーナⅡ世。
「今さらお前が出てきたところで、戦力にも回復役にもなりはしないぞ?」
シンシスと闘う前にすでに一度闘っていた。それなりに強かったが、ゼロフォーの体に傷一つ付けることは出来なかったのだ。いまさら何の用だ……というのがゼロフォーの感想だった。
だが、シンシスもゼティーナⅡ世もゼロフォーの話を聞いていない。
シンシスはゼティーナⅡ世に自分の錫杖を渡し、何やら説明している。
ゼロフォーにとっては攻撃するチャンスだが、待ってやることにする。シンシスが何か助言しているなら多少は勝算があるのかもしれない。それなら楽しむことが出来る可能性がある。もし、つまらない勝負をするようなら秒殺するまでだ。
錫杖をガシャガシャ試しながら、ゼロフォーに向き直るゼティーナⅡ世。
「お待たせしました」
「愉しませてくれるんだろうな?」
「ご期待に添えられればいいんですけど……どうでしょう?」
ゼティーナⅡ世はニヤリと笑った……途端、姿が消えたと思ったら、ゼロフォーの真横から錫杖を振るい降ろしていた。
慌てて左手を上げ防御すると、その錫杖にオーラと魔力が乗り、ゼロフォーの左手に亀裂が入る。
瞬時にゼロフォーはトントントンと十m前後離れる。
「先程とはまるで別人だな、どうやって強くなった?」
「さて、どうやってでしょう」
答える気はない。
真っ直ぐゼロフォーに突っ込みながら、ガシャガシャと錫杖を動かし魔力を込めていく。
さすがに、今度はゼロフォーはゼティーナⅡ世を見失わない。錫杖の顔面に来る突きを避け、逆にこちらのパンチをゼティーナⅡ世に射ち込もうとする。少なくともゼティーナⅡ世にはそう見えたが、手前で止まると、手の平がガバッと開き電撃が放たれる。
「くっぅううっぅ!!」
ゼティーナⅡ世の全身が焼け焦げるような感覚と匂いが立ち込めるが、ゼロフォーは危険を感じ急いでその場から退く。
一歩遅れていれば、上半身が吹き飛びそうな神聖魔法の球体が天を貫いていた。
多少息が荒いがゼティーナⅡ世の傷は浅い。ゼロフォーが先程倒したゼティーナⅡ世なら今の一撃で起き上がれなかっただろう。それどころか、神聖魔法の威力も桁違いに上がっている。
見た目は一緒だが同一人物とは考えづらい。
だが、疑問に思っているのはゼロフォーだけではなかった。ゼティーナⅡ世がゼロフォーに問う。
「なぜ、避ける必要があるのですか?」
「……何を言っている? ダメージを被るからに決まっているだろ!」
「『無限再生』……その能力があるなら回避に意味はないハズ……リスクがある……と考えるのが無難ですよね。そもそも、再生させる、ということは魔力を大量消費します。復活するのでも……たとえ、アナタが無限に再生できても魔力が無くなれば、再生できない……。魔力の自然回復量はたかが知れてますからね。全部魔力を使い切ってしまったら、復活に何年……いえ、ひょっとしたら何百年とかかるかもしれないのではないですか?」
「……なかなか、面白い発想だな。こちらも、お前の正体が分かったぞ、勇者ゼティーナⅡ世。シンシスと名乗る元・勇者から力を受け継いだのだな!」
「えぇ、アナタがシンシス様を殺そうとした時、危険を感じ私に力をお譲り下さったのです。それと今まで戦ってきた経験も一緒に授けてくださいました」
「だが、どうやっていっぺんに『覚醒』までしたんだ?」
「信仰心が覚醒に繋がることをご存知ですか? 私は神聖ドートピオ王国ではすでにシンシス様の力を受け継いでると信じられていたんですよ」
ゼロフォーは話を聞きながら、ゼティーナⅡ世と闘う。
シンシスに『してやられた』とゼロフォーは思った。彼女一人だから『無限再生』能力を明かした……すでにあの時点では決着がつき、自分の能力を知られることはない。もし、助けに来るものがいたとしても、シンシスと同等かそれ以上の者が現れるはずはなかった。
だが、初めからシンシスは自分を捨て駒として、ゼティーナⅡ世に移行することを織り込み済みだったのだ。
「まっ! だからと言って、俺がやられることも無いがな!」
ゼロフォーは地面に両手を付くと、地の底から金属を呼び寄せる。ゼティーナⅡ世が見たことも無いような黄金白色に輝く金属がゼロフォーの新しい体と変わっていく。
それを身にまとう前に、ゼティーナⅡ世が、強力な攻撃を試みるが、その金属が全てを弾き返す。
「くっ! 魔法の金属……ですか!?」
逆に反撃され、回避しながらゼティーナⅡ世は注意深く、相手の新しい体を確認する。
「コイツを試すことになるとは嬉しい限りだぞ、ゼティーナⅡ世! オリハルコンボディーだ! 魔法も物理もこの身体の前では無力だ!」
跳躍力やスピードも段違いに上がっている。
ゼティーナⅡ世の正面に瞬時に現れ、ゼロフォーは拳を振り上げる。錫杖とオーラと魔力でその攻撃を受け止めたが、シンシスから借りた錫杖が真っ二つに折れる。
「勇者の錫杖が!?」
「脆い!!」
その拳をさらにゼティーナⅡ世に向けるが、今度は魔法陣の盾でゼロフォーの攻撃を食い止めた。
「これは!? 『呪壁の指輪』!?」
「レプリカらしいですけどね」
国宝級の指輪とされる『呪壁の指輪』を使用する。先程までの闘いでは使っていなかった。魔力消費量が多すぎて実戦向きではなかったからだが、勇者の力に目覚めていれば、それほどでもない。
「最大級魔法をお見舞いしますよ!!」
ゼティーナは魔法陣の盾が砕かれる前に、呪文を詠唱し始める。
どんな魔法だろうと、オリハルコンボディーには効かないと自負しているゼロフォー。最悪、効いたとしても『無限再生』もある。
だが、その魔法はゼロフォーの考えとはまるで違っていた。




