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ブロッサムとスアックは魔力を使い果たしていた。
バベルの塔の一角には魔力回復の薬がある場所もある。もっとも、この状況で取りに行くことなどできないが……。
「もう、攻撃は終わりかしら?」
埃を払い落したドキサが歩きはじめる。二人は構えるが魔力もなく、手の打ちようがない。
しかし、予想していなかった事態が起きる。空間に魔法陣が出来て、その穴からゼディスが現れる、首にドラゴニュートが巻き付いている。
ドラゴニュートは周りをキョロキョロ見渡す。
「あら? ご主人様ぁ、ココはどこですか? 二人の愛の巣ですか?」
「違うだろ!」
ブロッサムとスアックは仲間が現れたことに驚愕とする。
この塔は部外者立ち入り禁止のハズだ。……いや、ゼディスには許可が下りているが、ドラゴニュートはどうやって……。
そんなことは、どうでも良さそうにゼディスは周りの景色を確認する。
「ずいぶん、すっきりしたな。それに、そいつ誰? おっドキサはもう覚醒終わったん?」
「ご主人様ぁ、こいつはスアックっていう7魔将ですよぉ。頭でっかちで目もでっかい、イヤミなやつです」
「ブラック!? どうしたんですか!?」
ブラックの変貌ぶりに同じ7魔将として何が起こっているのか理解できなかった。ゼディスにベッタリで離れようとしない。
「7魔将じゃ、危ないんじゃないか!?」
「大丈夫ですよ。今は魔力切れのようですから!」
ブラックはスアックの頭をポンポンと叩き『攻撃力ゼロですよぉ』とゼディスに報告する。
「ブラック……アナタには色々聞きたいことがあります」
「私はない!」
「くっ! それよりも、目の前のドワーフをどうにかしないと……」
「彼女なら大丈夫だろう。仲間だ」
「ゼディスさん! 残念ながらドキサさんは……もう……」
その言葉を無視してゼディスはドキサに近づいていく。ドキサはゼディスを睨み付けている。
「元はと言えば……あんたが来たせいでみんな死んだのよ!」
「どんな理屈だ」
「私はこの世界を全部、ぶっ壊す! あんたも……」
「はいはい、カッコイイこって。じゃぁ、魔王降臨でもさせればいいんじゃないか? よくわかってないようだな? そもそも戦争してんだ、誰か死ぬ。無傷でなんとかしようなんて、虫が良過ぎるんだよ!」
「私にはもう守るべきものは何もない!」
ドキサの右手に光の魔力、左手には闇の魔力。
「まさか!?」
「さっきの技を使うつもりですか!?」
光と闇の最強魔法を一人でゼディスに向かって放つ。二人はこの技をどうすることも出来ないと思ったが、ゼディスとブラックは余裕である。
「本気で殺す気かよ」
そう言って指輪の付いている左手を差し出す。オリジナルの『呪壁の指輪』。転移魔法陣の入り口の空間を作り出口の空間をドキサの横に作る。
轟音響かせ光闇龍魔法は魔法陣に飲み込まれたと思ったら、ドキサを真横から直撃していく。
再び激しい爆発が起きる。風圧も『呪壁の指輪』が飲み込む。
先ほどと違い、受け止めていなかったドキサが煙の中から出てきたときは血だらけだった。さすがに不意をつかれ防御していなければダメージは大きい。それでも消滅していないことにブロッサムとスアックは呆れている……『あの程度』で済むのかと……。
「ドキサ、もうやめとけ。守るものが無くてもいいじゃないか?」
「良くない! 生きている意味なんてもう無い。私はゴルラ中隊長がいなければ、存在していなかったんだ。その彼を守れないなら、こんな世界なんていらない!」
「わがままだな~。そんなもん、はじめから無理なんだから諦めろ。絶対、人は死ぬんだ」
「望んだ死じゃない!」
「しょうがないだろ。戦争なんだから」
「だから、私が戦争も世界も」
ドキサが気づいた時にはゼディスは目の前まで来ていた。ゼディスは拳を握りしめると思いっきりドキサの顔を殴り飛ばした。ドキサは足を踏ん張り倒れることはない。が、ゼディスに目を合わせない。
「ドキサ、お前のやるべきことは何だ?」
「……魔族との……争いを……お……終わらせ……ること……グスッ」
涙がこぼれている。一度流れ出したら止まらなかった。その場に跪き大声を上げて泣き出した。
ゴルラ中隊長は人間に信頼が無かったため、魔族との争いを無くす必要があった。そのためにドキサやショコは微力を尽くした。魔族との争いが無くなれば、ゴルラ中隊長は、大隊長や将軍になることもありえた。その彼がいなくなったとしても、それと同じ思いをしている者がいるかもしれない。ゴルラ中隊長の遺志を継ぐなら、やるべきことはそれだった。
突然、攻撃をやめたのはそれだけが原因なわけではない。ゼディスの作った転移魔法陣のせいでもある。この魔力がドキサの攻撃にもまとわりつき、ゼディスへの好感度を上げたために、恨みや復讐の心を上回ったためだ。
「私が今していることは、ゴルラ中隊長の遺志を裏切る行為だ……」
「別に誰もそんなこと思ってないだろう。ただ、今のお前じゃ強すぎてやり過ぎるのが問題だ」
グシャグシャっと頭をゆするように髪を撫でる。
「人も魔物も美人と可愛い娘は俺のモノにする世界を作る予定だ。お前も手伝え、ドキサ。人も魔物もわけ隔てのない世界だ」
「わかった……って、言うと思ったかぁっぁ!!」
パワーアップしたドキサにブッ飛ばされる。
「ご主人様!!」
慌ててブラックがゼディスを受け止める。それでも、十数m退く。
「うわぁーん。ブラックぅ! ドキサがイジめるようぅ」
「まったく、酷い暴力女ですね~」
「くっ! 何言ってんのよ。美人も可愛い娘も自分のモノにするとか最低の考えだろ!」
「そうですよ、ご主人様。私だけいればいいじゃないですかぁ?」
「てーか、誰だよ、お前は! 勝手に私のモノに触れるな!」
「ご主人様は私のご主人様です!」
「ブラック、そういうのはいいから、例の作戦を……」
「あぁ、そうでした」
何を相談していたのだろうとブロッサムは思ったが、突然後ろからガッチリ抑えつけられる。振り返るとブラックがいる。
横を見るとスアックもブラックに抑えつけられている。
「なっ!? 何のつもりです! ブラック!?」
「え!? あの、三つ子?」
「分身みたいなものです。ブラックの対勇者能力……全部が分身で全部が本体。一体でも残ればまた、分身する厄介な能力です!」
ジタバタ暴れる二人だが、魔力を使い果たしていてはドラゴニュートに抗う術などあるはずもない。
ゼディスが『魔倉の指輪』から『魔弩ファフィット』を取り出す。
「なるほど、ここで倒そうというつもりですか」
スアックは状況からそう判断したが、今度はブロッサムがスアックに教える。
「違います。あの、ボウガンの矢は『ブラットラクト』。どうやら無理矢理、ゼディスのことが好きになってしまう『最低の矢』です」
「なっ!? 待ちなさい、そんなの! やめなさい、一思いに殺しなさいっぃい!! 絶対にアナタなんて好きになりたくない!!」
「ご主人様、えらい嫌われようですね」
「マジで凹むな。ここまで嫌われると……」
「仕方ないんじゃない? あんたのこと好きになるって実際すごーく嫌なことだし……」
さっきまで暴れていたドキサは今は落ち着いている。あんなに暴れていたのが嘘のようだ。なにか、吹っ切れた感がある。魔力を使い切って疲れて、何もする気が無くなっているだけかもしれないが……。
とりあえず、魔力の抜けたブロッサムとスアックに数発撃ち込んでみる。……撃ち込み過ぎた感が否めない。魔力がスカラカンだったためゼディスの魔力が想像よりも奥に入って行った気がする……それに加え、一発でよかっただろうに数発撃ち込んでいる。
「ちょっとスアック! 私のご主人様から離れなさい!」
「いいえ、ゼディス様。ブラックは頭が悪いですから近づかない方がよろしいですよ」
「そうですね、ゼディス様のまわりに知性が無い者が近づくのは似つかわしくありません」
右と左にスアックとブロッサムが腕に胸を押し付けながら、ブラックを近づけない。
「あんたたち、さっきまであんなにゼディス様、嫌ってたじゃん!!」
「それはそれ」
「これはこれ、です」
「アンタ達、いい加減にしなさいぃ!!」
ドキサの声が響くと、スアックもブロッサムもすぐにゼディスから離れる。
「は、はい、ドキサお姉様」
「了解しました、ドキサお姉様」
ガクガクブルブルである。二人がかりでドキサに敵わなかったどころか、二人がかりで使った技をそのまま使われたことに、二人は恐れおののいていた。
まったく見た目の違うブロッサムとスアックなのにまるで双子のような行動をとる。
「いやぁ、ドキサがいると助かる」
「ま、まぁ、まとめないと……話が進まないからね! 仕方なくよ」
「ブ~ぅ。ブラックも頑張ったのに~!!」
ぶーたれるブラックをよそに、次の行動に移る。早くしないと第二第三のドキサの誕生だ。とくにショコの状況は普通じゃないだろう。ドキサと同じ状態になっていることが想像に難くない!
「ゼディス! わかっているとおもうけど」
「次はショコだな……ゴルラ中隊長が死んだとなれば……」
コクリと頷く。それにブラックとスアックがいれば、魔族軍を抑えこむのは容易だろう。次の戦場へと急ぐことにする。
もちろんユニクス王国のエイスやドワーフたちのこともある。手分けする手もあるが、一つ一つ片付けていくことにする。
神聖ドートピオ王国
外れの森では何度目かの大爆発が起きていた。だが、ドートピオの聖騎士団がそれを確認しに行く余裕はない。それでなくとも、ゴーレム系の魔物が数万体と町を襲ってきているのだ。
戦いに行ったゼティーナⅡ世とシンシスの様子が気になるが、今は目の前のことに全力を尽くす。
森の奥で闘っているのは、シンシスとアイアンゴーレムの7魔将・ゼロフォー。
すでにゼロフォーの左肩から先はシンシスによって切り落とされている。
片腕だけで闘っているがどうにも分が悪い。いままで戦ってきた一般兵や、ゼティーナⅡ世とはわけが違う。
気付いたときには……。
「遅いですね」
裏に回り込まれている。錫杖の先がオーラで切れ味を増してゼロフォーの体を掠めるだけで音もなく切れる。掠めていなければ真っ二つだ。さらに、避けたことによるわずかなバランスの差でシンシスに蹴り飛ばされる。
地面に叩きつけられる前に回転して着地するが、そこに神聖魔法を叩き込んでくる。まさに息を付く間もない連続攻撃。すぐに、横に飛んで回避する。
「その錫杖……なんだ? ただのオーラを纏っただけ……じゃないな!」
「ご存じかしら? 北のドワーフのガイナ王国の『ガイナ式ブリット』」
「あれ……か! まったく人間ってやつはワクワクさせてくれるぜ! 『ガイナ式ブリット』+勇者か! こいつは面白くなってきやがった!」
そういうと片膝を地面につける。地面から土が盛り上がっていきゼロフォーの左手に張り付いていく。シンシスは何をしているのかわからなかったが、すぐに思い知ることになる。
ゼロフォーの左腕が新たな金属で再生したのだ。
「そっちにも色々あるなら、本気でいかせてもらうぜ!」
文字通りゼロフォーは飛んでいく。一瞬にしてシンシスとの間合いを詰めると新しい左手でシンシスの顔面を振り切るように殴りつけるが、寸前で錫杖で受け止める。
それでもすごい勢いで吹き飛ばされ、森の木々を薙ぎ倒し、地面に叩きつけられ土煙が舞う。
その程度では死なないだろうと、すぐにゼロフォーは腕を伸ばし横からミサイルを出すと、土煙の中に射ち込みまくる。
そのミサイルが飛んでくるのもお構いなしに、錫杖の使いきりのアタッチメントをガシャガシャと三回取り替える。魔力を注ぎ込み、錫杖の先をゼロフォーに向ける。
ミサイルが飛んでくる中『錫杖キングオブダイヤモンド』の力と魔力とオーラ、それに『ガイナ式ブリット』を全部一気に解放する。
「黄金色の金剛石の王っっ!!」
金色に輝く光りがミサイルごとゼロフォーを消滅させていく。
「な……にっぃ!?」
その光は天高く真でまっすぐと伸びていく。遮るものは全て熱と力でこの世から消滅していくように見えた。
巨大な丸い穴以外森の中にはゼロフォーの痕跡は残っていない。
「ふぅ……全部、使い果たしてしまいました」
アタッチメントの中にあった魔力も全部カラになっている。
とりあえず、ゼティーナⅡ世の様子を見に行こうとしたが、地面から鉄の手が出てくる。
「そんな!?」
「すごい技だな。俺の身体が消滅したのは初めてだ」
「あの一瞬で地面に逃げたのですか!?」
「聞いてなかったのか? 消滅した」
「なら、どうして……」
「俺の対勇者用能力を教えてやろう。 だから、もっと楽しませてくれよ?
俺の対勇者用能力は無限再生だ」




