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上位悪魔の明暗

 グファートと闘っている近くで、上 級 悪 魔(グレーターデーモン)の7魔将・テトと剣を交えているのはショコをはじめとした第三王子、白の将軍。

 ショコは両手に鉄の爪をはめ込んでいて、第三王子は魔法のバスターソード、白の将軍は右手に魔剣、左手にミスリル剣。

 対するテトはおのれの爪と魔法を駆使して、三人に対抗している。


 グファートとは別の意味でまったく有効手段がない。オーラを纏った剣を頭に振り下ろしても、受け止める様子もなく、テトに直撃するが……。


「その程度の攻撃か?」


 第三王子はテトの爪が来る前にすぐさま飛び退く。傷くらいは付く……だが、骨を砕くことも肉を裂くことも全く届かない。まだ血の一滴も流すことが出来ない。

 圧倒的に堅い防御力……容赦なく目玉を狙ったショコの爪ですら通らないのだ。

 すでにハンマー系の攻撃も試してみたが、ものともしない。あとは魔法なのだが、レクサが魔法反射を食らったことで宮廷魔術師長は怯え逃げ出していている。


 近距離に有効打が見つからないからといって距離を取れば、テトの思う壺だ!


雷 撃(ライトニングボルト )


 テトは軽く振った腕から黒い雷撃がほとばしる! 『来る!』と思った瞬間にはすでに到達している。ショコと白の将軍が吹き飛ばされるが、第三王子はその二人を死角にするようにしてテトの首を狙い、魔力とオーラを乗せ振り下ろす。


 ギギギギィッン! と、激しい音が鳴るが相変わらず剣は通らない。油断や隙がある時なら筋肉が緊張しておらず緩んでいるかと思ったが、そんなことも無い。


 実はラー王国の男爵フィンも彼女にやられていた。竜 の 息(ドラゴンブレス)すら効かないのだ。


「くっ! せっかく対7魔将用に編み出したオーラですら通らないとは……」


 片膝を付き立ち上がる白の将軍。その間にも第三王子は頭を掴まれ地面に投げつけられる。更に第二波の雷 撃(ライトニングボルト )が白の将軍に向かって放たれる。

 やっと立ち上がったばかりの白の将軍は回避できないが、ショコが何とか蹴り飛ばし雷 撃(ライトニングボルト )の直撃を避けた。


 だが、テトはすでに駆けだしており、ショコの顔面を捕えるように爪が伸びてくる。


 しかし、テトの攻撃より早く、ショコの後ろから雷 撃(ライトニングボルト )が放たれ、怯んだ一瞬でショコはその攻撃を回避した。


 怯えていた宮廷魔術師が戻ってきたのかと思ったがそうではない。


「ゴルラ中隊長!」

「ショコ! いつから、そんなドン臭い動きをするようになった! あとでブッ飛ばしてやる。まずは目の前の敵を片付けるぞ」


 珍しくテトが疑問を口にする。


「……どういうことだ……?」


 当然だろう。ゴルラ中隊長は上 級 悪 魔(グレーターデーモン)だ!


 昔、王に助けられたことが切っ掛けらしいが詳しい経緯は知らない。彼が中隊長どまりなのは当然ともいえる。むしろ良く中隊長までなれたモノだ。


 同じ上 級 悪 魔(グレーターデーモン)が味方に付いたことで、ショコ達の士気は一気に回復する。

 ゴルラ中隊長が味方に強化魔法をかけ、攻撃力、防御力を上げる。だからと言ってテトの体の貫くことは出来ないのだが、明らかに動きがよくテトを手こずらせる。


「そんな伏兵がいたとはな! いいだろう、私の対勇者用能力を教えてやろう。肉体強化だ」

「肉体……強化……?」


 第三王子がキョトンとする。

 いまさら肉体強化か、という感がある。今現在でどうにもならないのだ。これ以上強化したところで変わるとは思えなかった。それよりも魔法吸収や魔法反射の方が脅威に感じられる。


「ギヤを一つ上げるぞ」


 わざわざ忠告までしてくれる。オーラを張り、こちらも限界まで防御力を上げる。


 カチッという音がしたかと思うと、一瞬でテトを見失った。


「速い!」


 その声が誰だったかわからなかったが、声を上げたときには白の将軍の左腕が宙を舞っていた。第三王子は何か見えない脅威に、慌てて飛び退いたが脇腹を抉られている。

 ゴルラ中隊長は見えているのか魔 法 の 矢(マジックミサイル)を放つ。放たれた矢は一瞬で消える。おそらく直撃したのだろうが、消えてしまっては相手の居場所も特定できない。

 今度はゴルラ中隊長の右目から血が噴き出す。

 もう、何が起こっているのか理解できない。ただ血が引き出し、肉が切られ抉られていく。視界にとらえることすらできず、感だけで回避するしかない。

 ところどころに、残像みたいなものが見えるが、そこを攻撃したところで意味はない。


 それでも、ゴルラ中隊長だけは防御が間に合ったりしている。とはいえ、籠手などは一発で粉砕されているが……。


「見えないなら、相手の行動を先読みしろ! 空いている隙を攻撃してくるぞ」


 簡単に言ってくれる、と思う。見えていれば次の攻撃も先読みがあるが、誰かが攻撃された後、自分が攻撃されるということを想定して防ぐなど、どの程度まで達人になったら出来るのか……とショコが思っていたが、白の将軍はテトの攻撃の直撃を裂けている。

 出来る人は出来るんだな……と感心する。こんな時にセニードランドローが使えれば躱せるかもしれないが、無い物ねだりだ。


 ショコは適当に爪を振ってテトの攻撃を試みるも、逆に大きく背中を切られることとなる。

 慌てて飛び退き防御に徹しようとするが、おそらく蹴りだろう、地面に叩きつけられ何度もバウンドする。

 その間に雷 撃(ライトニングボルト )が白の将軍を貫いている。血反吐を吐きながらその場に崩れ落ちる。

 肉体強化したら魔法が使えないのかと思ったがそんなことはないらしい。


 次に第三王子が嬲りモノになる。

 何かの衝撃で吹き飛ばされ、途中で直角に地面に叩きつけられる。そのあと足の骨が砕かれたのだろう。太ももあたりから、おかしな方向に足が曲がっている。

 ゴルラ中隊長は第三王子の上あたりを、ロングソードを引き抜き、横一線で切り付けている。それは相当な速さだったが、テトに追いついているとは到底考えられなかった。

 ロングソードは砕かれゴルラ中隊長の腹にテトの拳が突き抜けていた。


「グハッ!!」

「ゴルラ中隊長!!」


 ショコは慌てて立ち上がった。

 テトは拳を引き抜くと、その辺に転がす。


「早く助けに来た方がいいぞ? 出なければ、コイツら全員死んでしまうだろう」


 全身の筋肉をオーラで最大まで引き上げテトに突撃しようとしたが、すでに目標の方がショコの顔面に膝蹴りをしていた。


「そんなのでは駄目だな。まずは一人」


 白の将軍の上に巨大な炎 の 球(ファイアーボール)が降り注いだ。


「あっ……あっぁあっぁ!!」


 白の将軍の姿が無く黒い消し炭へと変わっていく。肉の焦げるにおいがショコの鼻を付く。


「次はコイツだ」


 第三王子に向けて手をかざす。ショコが慌てて飛び出し第三王子を引き上げようとするが、ショコの身体ごと雷 撃(ライトニングボルト )が貫くき、弾かれたように手放してしまう。

 第三王子の体から黒い煙が噴き出している。ショコ自身も気を失いそうなほどのダメージを受けている。まともに立ち上がることも出来ない。

 今の攻撃で内臓をやられたらしい。口から血が溢れ出す。それでも、手だけで這ってゴルラ中隊長の元へといく。


「ゴルラ中隊長だけでも……ドキサちゃんが……悲しむ……」


 少しでも気を抜けば、意識が飛びそうだった。何とかズルズルと這ってはいるが歩みが遅い。早くしないと……早くしないと、と気ばかりが焦る。

 その背中をテトが踏みつける。


「ぐぁあっぁあ」

「どこにいく? お前たちは、もう負けたのだ。敗者に選択権は無い。お前には裏切り者のアイツの死にざまも見せてやろう」


 テトはショコが動けないように腕の骨も踏みつけ砕いておく。


「いや……やめてぇ!! お願いぃい」


 必死に懇願するショコ。もう、動くことすらできない。ただ、泣いて懇願するしかない。


「お前たちも私の同胞を殺してきたのに、そんな願い虫が良過ぎると思わないか。だが、安心しろ。お前も殺してやるさ」


 ゴルラ中隊長は炎の柱に飲まれていく。その炎は骨まで砕いているようでパキパキと小さな音が聞こえている。


 ショコはドキサが姉のような存在なら、上 級 悪 魔(グレーターデーモン)で厳しいゴルラは父のような存在だった。

 ラー王国ではこの二人は家族と言える存在だった。その家族が目の前で燃えている。感情が薄れていく。


「あ……あぁ……ああっぁあっぁ!!」


 目の前で燃えていくゴルラ中隊長、第三王子、白の将軍……全員が全員、消えていく……。

 その光景を顔色一つ変えず、テトが眺めている。


「さぁ、勇者の力を引き継ぐ者。お前の力を見せてみろ」


 その言葉を聞いた時、ショコの中で何かが壊れた。


「そのために……そんなモノの為に……」


 そしてその思いを共有するモノがもう一人、バベルの塔に閉じ込められていた。






 バベルの塔の一室。

 一室というには広すぎる。草原があり、森があり、動物たちが闊歩している。地平線が見え反対側には山々が連なり、天井が見当たらず、これが室内だとは到底思えない空間。

 一人、叫び声を上げながら出口を探すドキサがいた。


 気だけが焦る。

 自分の中に、大量の力が流れ込んできている。


 わかる。


 同胞のドワーフが次々と殺されているのだ。いや、おそらく無残に処刑されている。鮮明に脳にその光景が浮かび上がってくる。

 助けに行けないのに、力を得ることに何の意味もない。一刻も早く助けに行かなければならないのに、いつまで走っても壁は見つからない。


 入る時はオーガのテンオーストが、扉から押し込められたはずなのに、扉を閉めた途端、その扉は跡形もなく消えている。

 魔法の仕掛けがあるのだろうと思ったが、どうなってるかわからない。

 室内なら壁があるはずだと、走り続けているが一向に壁なんて見えてこない。


 死に対し敏感になっていく。

 初めは力が流れ込んできただけだったのに、徐々に雰囲気が身体に流れ込み、次第に死に際の風景まで脳に投射されているような感覚に囚われていく。これが訓練か、と思ったが力が増すにつれ現実であることを思い知る。

 さらに、力が増すと死に対して過敏になっていく。ユニクス王国で死んでいるドワーフに限らず、魔族に殺されていく人々の感情が流れ込んでくる。……そうすることで、魔族への対抗する力を生み出しているのかもしれない。

 たしかに、魔族に対する憎しみは強くなっていった……途中までは……。



 ショコの叫びと、ゴルラ中隊長が死ぬのを感知した。


 ショコだけでなく、ドキサの中でも何かが砕けた。

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