倒す手段が見つからない
変形ボウガン……小型サイズで片手で持てる。放つのはおのれの魔力。
先程の『魔弓ユングムルト』とは違い必ず当たるわけではないが、込めた魔力により威力の大小が変わる。もちろん『呪壁の指輪』を持っているブラックにあてることは不可能に近いが、それ以外のブラックなら当たらないことも無いだろう。
「いいのか先程の弓矢じゃなくて? 言っておくが『呪壁の指輪』が無くとも当たりはしないぞ」
「このままじゃ、当たらないだろうな」
さらに『銀脚レードル』も装着する。
「なに!? 二つ同時に使う……だと!?」
「気付かなかったのか? 別に一つだけしか使えないわけじゃないんだぞ?」
ブラックの一人に、ガッと間合いを詰める。すぐに飛び退こうとするブラックの胸に変形ボウガン『魔弩ファフィット』を突きつける。さらに翼を広げ上に逃げようとするが間に合わず二~三発打ち込まれた後に上昇するが、すぐに墜落する。
「どうやら、これで勝敗は喫したな」
「一人、倒しただけでいい気になるな! それにいくらでも再生する!」
すぐに数体のブラックが襲ってくる。
全員が襲い掛かるにはスペースがないため近距離五~六人、長距離で八人ほど。外に逃げた場合の竜 の 息要員。
それ以外は次の準備となるのだが、そのうち一人が異変に気づく。
「どういうことだ?」
それは大したことではないような気もする。人数は変わっていない……いや、変わるわけがない。倒されたとしても、元に戻るのだから……。
ただ、先ほど『魔弩ファフィット』を食らったはずのブラックが無傷で立ち上がっている。『魔弩ファフィット』と言われるモノだ。いくらブラックの装甲が丈夫だとしても無傷ということがあり得るのだろうか? わざわざ、必ず当たる『魔弓ユングムルト』と持ち替えてまで使用しているのだ。『魔弓ユングムルト』でもかなりのダメージがあったはずだ。
それに、全てのブラックは意志の疎通が可能であるが、今、攻撃を受けたブラックだけ意思の疎通を遮断している。
その異変はすぐに他のブラックにも伝わるが、何事もなかったかのように、ゼディスの攻撃に加わっていく。
が、意思の疎通が出来ていないために連携が上手くいかなくなっている。攻撃のスペースがないところに、さらに加わった一体のせいで、たまに『魔弩ファフィット』の攻撃を受けてしまう者も出てくる。
「精神攻撃か!?」
それだとしてもおかしい。混乱しているようなイメージはない。むしろ、積極的に攻撃はしているし、意思の疎通以外なら、見分けはつかない。
すでに五人程度が矢を受けている……受けたモノは必ず意思の疎通が遮断される。
意志の疎通が遮断された一人が待機メンバーと入れ替わる。
「どうなっている? なぜ、意思の疎通を切っているんだ?」
「あの矢を食らうと切れてしまう……精神攻撃らしい」
「に、しても……他の外傷は?」
「まったくない。何を企んでいるのかわからない」
「攻撃に普通に加わることも出来る」
完全にブラックの方が押している……多少は矢を食らうことがあってもまったくの無傷だ。何を企んでいるのかわからない。
今、八方向からの竜 の 息。まず回避も防御も間に合わないであろうタイミングだった。これで決着がつくかと思ったが、下方向から同程度の攻撃で相殺される。
「なに!?」
驚くことが多すぎる。まずは八体の竜 の 息が相殺されたこと。次に相殺したのはゼディスではなく下にいた仲間のハズのブラック達。
そして、隣にいるブラックが自分を攻撃してくる。
何が起こっているのか理解できない。すでに十数人は意志の疎通が取れない……。その全てが敵だと思われる。
また、一人『魔弩ファフィット』を食らったようだ!
「精神攻撃じゃない! 敵に寝返らせる攻撃か!?」
そう当たらずとも遠からず、自分の魔力を矢に変えるのだ。当然、撃ち放たれてる矢は『好意の矢』だ。しかも、魔力の威力を変えられる。余裕がなかったため魔力は多めに調整されていた。
倒しはしないので、新しくブラックが構築されもしない。
こうなると、一見すれば数の上で上回っている方が有利に感じられるが、一撃でも当たれば致命傷にも見える矢を持っている方が有利になる。
ブラック同士で『魔弩ファフィット』を放つ間だけ止められればいいのだから……。
『魔弓ユングムルト』から『魔弩ファフィット』に持ち替えた一番の理由は『好意の矢』が撃てることだ。
『魔弓ユングムルト』は矢は決まったモノしか作れないが、『魔弩ファフィット』は好きな矢を放つことが出来る。
それに『魔弓ユングムルト』では、この人数相手に撃ち放つこと自体が難しいが、『魔弩ファフィット』は小回りが利き、矢さえ作ればトリガーを引くだけですぐに発射できる利点がある。
絶対当たる利点よりも、この場合は『魔弩ファフィット』の方が有利と働いている。数人がかりで一人倒す間に、二人もしくは三人がゼディスの味方になっていく。
全員仲間にするのは時間の問題だ。
『呪壁の指輪』を持つブラックが最後の一人となる。
「おまえが、本体か?」
「違うな……全て本体だ。一人でも残れば五十人にいつでも戻れる」
取り囲まれているがまだ余裕だ。『魔弩ファフィット』では『呪壁の指輪』は打ち破れない。それにいくらブラックがいても、攻撃する手段はない。
だが、指輪を持っていないブラック全員がにやりと笑う。
「でも、関係ないけどな」
『魔弓ユングムルト』に持ち替える。全て本体なら打ち倒してしまえばいい。そうすれば指輪だけは回収でき、新しく作られたブラックに『好意の矢』を撃ち直せばいい。
大量にゼディスの魔力を取り込んだ7魔将・ブラックはゼディスの手に落ちることとなる。
普段は一人になっているらしい。いざというときだけ分身(分裂)して五十体になる。普段は全部が意思の疎通を取るのだが、遮断することも可能だとか……トイレに行ったりとか……。
これでゼディスは『魔倉の指輪』と『呪壁の指輪』、それと7魔将・ブラックを手に入れた。
すぐに、他を助けに行くことにする。
時間的にはゼディスの戦闘が始まるより前の話。
ラー王国の草原は赤黒く染まっていた。
敵の血か味方の血かわからない……何人切り刻み、何人仲間がやられたかわからない。
戦場は混乱の一途をたどっていいたが、その中心で、闘っているのがこの戦争を左右することとなる人物たち。
ラー王国が押してはいるが、そんなものは関係ない。ここの決着が、戦争の決着。
中途半端な力じゃ、この戦闘に加わる前に切り殺されるほど、激しいモノになっている。
多少の入れ違えはあるが。主に二手に分かれる。
一つ目はシルバとショコと第三王子、白の将軍 対 上 級 悪 魔の7魔将・テト
もう一つは、第一王子、第二王子、第一王女レクサ 赤の将軍 対 デュラハンの7魔将・グファート
刃物を持つものはテトと、それ以外がグファートと、という形になっている。
グファートには散々切りつけたが、一度たりとも有効打が無い。それでそれ以外の打撃を中心としてみることにした。
功を奏したように思えた。グファートは斬撃と違い打撃は回避している。
レクサは他に試していないことがあることを思いだす。
「打撃だけじゃなく、魔法も有効なんじゃないかしら!?」
「確かにあり得るな!」
フレイルで攻撃をしていた第一王子カヌマスハリンが同意する。倒せる手立てを模索していかなければならない。少しでも有効じゃないかという疑いがあるなら試してみるべきだと判断する。
レクサも前より一段と強くなっている。ゼディス達と別れた後、意外にもちゃんと魔法の修行をしていた。魔 法 の 矢の数が倍以上になっている。
グファートは慌てた様子で、レクサを切り付けようとする。
その様子に『当たりだ!』とカヌマスハリンは思った。意地でもレクサの元へ行かせないように第二王子、赤の将軍と連携を取り行く手を阻む。
強引な阻み方で、痛手を被るが魔法が当たれば『トントンだ』と思っていた。いや、それ以上に攻撃する手段が確立できれば成果は大きい。
魔 法 の 矢の呪文が完成する。回避は不可能だ。これだけで形勢が逆転すると確信に変わっていた。
だが、その考えは脆くも崩れさる。
全部の魔 法 の 矢がグファートに刺さったとき、叫び声は魔法を放ったはずの第一王女の声だった。
「きやっぁあっぁ!!」
「なに!?」
「ほぉ~ら! よそ見してると危ないよ~!!」
一瞬、振り向いただけで太ももと腕を切りつけられる。第二王子も赤の将軍も切り付けられている。三対一でも手数がほとんど変わらない。いや、まだ、余裕すらみられる。その上、よそ見すれば切り付けられるのは当然だ。
剣の振りがとんでもなく速く、少しでも目を離せばもう刃先は視界から消えている。
「何があった!」
第一王子カヌマスハリンは声だけでレクサに確認する。激しい呼吸音と血を吐くような音が聞こえるが、レクサの元に駆けつけられるような状況ではない。
「ゲホッ……はぁはぁ……推測だけれど……7魔将に当たったはずの魔 法 の 矢のダメージを私が……食らったんだと思う……」
回復薬などを使い、応急手当てをしている音だけが確認できる。
「そうなると、こいつを倒せる方法は打撃しかなくなる」
第二王子がグファートの体を狙うが、軽く後ろにステップで躱す。が、バックステップを狙いすましたかのように赤の将軍エデットが上から飛んできて拳を振り下ろす。
しかし、それすらもグファートは地面を蹴り直し直角に曲がり避けきる。エデットの拳は地面を破壊し瓦礫を巻き上げる。
「ブリリアントバレット!」
はじめから、躱されるのは織り込み済みだった。オーラを乗せた石弾をグファートに叩きつける。
「くっ!」
グファートは剣で石弾を叩き切りながらも体を削る攻撃に手を焼いていると、その中からカヌマスハリンが現れる。
「目くらまし!?」
この流れがあくまでも、前置きで狙いはカヌマスハリンのフレイルだと気づいた。
グファートは全ての石弾の回避を諦め、カヌマスハリン王子一人を叩き切ることに切り替える。
だが!
「そ……んな!? アナタはテトと闘っていたんじゃ……ないの~?」
グファートの上半身と下半身が切り分けられている。シルバがグファートの後ろに回り込んでアルスの剣で切り裂いていたのだ。もちろんそれにダメージは無い。だが、安定しなくなった上半身ではカヌマスハリンをねっらうことが出来ない。
切り付けた剣はわずかに肩を裂いただけで、フレイルがグファートの頭を捕える。
一瞬でグファートの頭が砕け散った……。
上半身と下半身が地面にドサリッと落ちる。ピクリとも動かない。
「やった……のか?」
半信半疑だったので第二王子が念のため、体も下半身も砕いておく。
「まだ、一人、7魔将が残っています!」
喜ぶよりまだ残っている7魔将テトの方に気持ちを切り替える。
……そう、7魔将・グファートのことを忘れて……。
シルバ、第二王子、赤の将軍、レクサが駆けだそうとした時!
「ぐはっぁっっ!!」
第一王子カヌマスハリンの胴体が真っ二つに切られる。
そこに立っていたのは……7魔将・グファート。
「お兄様!?」
「そんな! お前は倒したハズじゃぁ!?」
カヌマスハリンを助けに行きたいが、おそらくもう助からない。それに助けに行ってもグファートを倒すことが出来ない。頼みの綱の打撃すら効いていないのだ。
今、グファートは砕かれた体が再生していっている。チャンスのような気もするが、攻撃手段がわからない。
それでも、一番初めにかけ出したのはシルバだった。倒す手段はわからないが兄を取り戻す方が先だと考えた。
そしてみんなも、その後に続く……。




