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開戦

 数時間かかって魔法陣が出来上がり、『テレサの屋敷』付近に出る。今までの転移魔法陣と違い、出口の場所も指定してある。双子の転移魔法陣……魔力が四倍かかるが、テンに任せていたので問題ない。

 『おかえりなさい』とテレサが絵の中から出迎えてくれる。


「ドンドランドとシンシスはどこにいる?」


 テレサが言うには、どうやら食事中らしい。

 食堂に向かうと、肉の焼ける良い香りが広がる。上質な肉に香草を使ってミディアムレアくらいの焼き加減と見た。


「って! 食事なんてしている場合かぁ!」

「知らんがな」


 突然、食堂に入ってきて叫ぶゼディスに、冷静にドンドランドがツッコむ。何が起きているかわからないので余裕の彼ら。

 手短に話し、ラー王国またはユニクス王国の周りの国の戦争を止めるように願い出るが、どうやら、そう簡単に事は運ばない。


「困りましたね~。でも、エルフの王国も攻め込まれているんですよ。私たちは手薄になったグレン王国の守りの方を頼まれているんですよ」

「マジか……魔族、色々やってくれるな~。援軍を出せないように足止めか……普通にこのあたり一帯を潰すつもりか……。まぁ、とりあえず、考えておいてくれ。これから、リン女王陛下に会って来て、避難民の受け入れをお願いしてくる。そのあとドートピオ王国にも行ってみる。全部をこの国で受け入れることは出来ないだろう?」

「でしたら、私が行きましょう。ゼティーナⅡ世ちゃんに私から話しておきます」

「頼んだ!」

「じゃぁ、ワシはシンシスの分も飯を食っておく!」

「うん……うん?」

「ワシは顔が広くないからな。ここで待機して飯を食っているくらいしかあるまい?」

「いや、何かありそうだが……たしかに、この国もがら空きにするわけにもいかないからな」


 そういうと『魔倉の指輪』を『ロード』して、魔斧を取り出す。他は回収。


「とりあえず、強敵が来たらこの斧を使ってくれ。『吸斧ノベール』。使い手の血を吸った分だけ破壊力増すから。吸わなくても、そこそこ強い」

「ずいぶん禍々しいな。使い方は?」

「念じれば血を吸収しパワーアップ……使い過ぎると出血多量でオダブツだから気を付けて……」


 アッサリと死ぬかもしれないような武器を渡すゼディスに対し、ドンドランドは指で突いて、吸い付いてこないか確認してから手に取る。どんな仕掛けなのか、誰でも使えるモノなのか興味深げに眺めるドンドランド。


 じゃ! といってグレン王宮に向かうと、シンシスも神聖ドートピオ王国に向かう準備をする。


 リン女王陛下にあっさり会える。ラー王国とは違いこちらではそれなりの身分証を貰っている。なにせこの国を助けているのだ。いや、ラー王国でも結構活躍したと思うんですけどね~。

 それはともかく、ラー王国からの避難民の受け入れをお願いするとあっさりO.K.がでる。

 エルフの王国が戦っている最中ですけど大丈夫ですかね……いや、他に行く当てもないんだけど……。


 『将来的にゼディスさんはこの国の王になる予定ですから』とのこと……あれ~? そんなにだっけ~? と思うが、活躍した分も『好意』が上乗せされているのかもしれない。

 ただ、この調子だとリン女王と結婚するのか、リンリル王女と結婚するのかわからないぞ? いや、どちらとも結婚するつもりはないんだが……。

 ちなみにガンガル将軍他、数名の将軍も出兵中。


 ここで、お茶でも飲みたいところだが、次にラー王国にトンボ返りだ。早めにテンオーストに知らせなければならない。

 急いで『テレサの屋敷』に戻り『ゴールデンタワー』に行こうとする。が、その前に、『吸斧ノベール』を試しているドンドランドに呼び止められる。


「大事な話があるんじゃが、少しいいか?」

「今じゃなきゃ駄目か?」

「すぐ済む。次にお前さんに会えるのはだいぶ先になりそうじゃからな」

「わかった」

「『破壊王バーキュ』の力を受け継ぐ者が仲間になっておる」

「マジか!?」

「よし、行っていいぞ」

「ちょっと待て! 会わせろよ!」

「お前さんも忙しいんじゃろ! サッサと行かんか! それに今ここにおらん」

「どこに?」

「援軍に行っておる」

「なるほど……会えないんじゃ仕方ない。うんじゃ、あとよろしく~」


 暇な時なら、待ってでも『ブラットラクト』を打ち込んでおこうと思ったのに……。しかし、ゼディス達がバベルの塔とか行っている間に、シンシスやドンドランドも遊んでいたわけではないようだ。

 そんことを考えて、転移魔法陣を使いラー王国の娼婦の館『ゴールデンタワー』に戻ってくる。


「ドウダッタ?」

「O.K.が出た。スマンが王宮に行って、カロン王に……カロンって名前だっけ?……まぁいいや、連絡してくれ」

「ぜでぃすハドウスル?」

「俺は使い魔から連絡が入っているのでそっちに行く。あとは任せた」


 すぐに、転移魔法陣で別の場所に移動する。行先は港の王国ベルベッサ。

 エキドナから脳に直接連絡が入った。それでエキドナの視点を介し指輪を確認していた。


「オリジナルの『呪壁の指輪』じゃないか」


 ただ問題は7魔将の手に渡っていることだ。ドラゴニュートの7魔将。半袖にジーンズのラフな格好だ。

 エキドナが言うにはブラックという名前らしい。レッドドラゴンなのにな……。


 エキドナの目を通して見る港の王国ベルベッサの街の状態は半壊状態だ。どうやら、ここには『呪壁の指輪』があるという噂を聞いて襲ってきたらしい。が、是非とも『呪壁の指輪』は取り返したい。


「エキドナ、7魔将・ブラックに『俺が行くから撤退した方がいいのでは?』と進言しといてくれ」

「どういうことですか? ブラックをこの街から離した方がよろしいのですか?」

「逆だ。引き止めておいてほしい」

「なるほど、わかりました。ブラックにそう進言しておきます」


 おそらく、プライドが高いだろう。『引け』と言われて引くような玉じゃないだろう。むしろ、闘って見たくなるに違いない。


 転移魔法陣から港の王国ベルベッサまではこのままいけば半日かかってしまう。


「ロード」


 『魔倉の指輪』からミスリル銀制のブーツを取り出す。


 『銀脚レードル』

 ゼディスが走っていてもガシャガシャと勝手に装着されていく。全て取りつくまで十秒程度。スピードが一気に上がる……全体的な脚力が上がる。当然、蹴りの破壊力とかも物凄い。

 これなら、かなり早く着くはずだ。ただ、街中だと道とかバキバキ壊すので使いづらいのが欠点である。


 一方その頃、7人の勇者はそれそれピンチを迎えていた。





 シルバとショコは7魔将のグファートに苦戦していた。切っても切ってもモノともしない。血がドバドバ出ているので、出血多量で死んでくれないかと思がそれもないらしい。

 首を切り落としても、胴を横一文字に真っ二つにしても効きはしない。


「オーラも効かないなんて!」

「シルバさん! 斬撃が駄目なら打撃です!」


 ショコの言葉に頷きはするが打撃用武器は持っていない。その為、赤い鎧の将軍エデットと場所を入れ替える。オーラを乗せた拳で殴りかかろうとする。

 だが、地面から巨大な岩の槍がエデットを襲う。ガリガリと自慢の鎧を掠める音がしたが何とか回避する。


「7魔将はグファートだけではないのだぞ? 私の相手もしてもらわないとな」


 帽子を目深にかぶったスーツ姿の上 級 悪 魔(グレーターデーモン)。彼女が片手を上げただけで地面が流動するように敵を襲う。


「大丈夫よ~。私だけで。 テトはそっちの王子様のお相手をしてあげてよ~。私はこっちで楽しむからさ~」


 7魔将のテトとグファート……ラー王国に向け二人の7魔将が差し向けられていた。正確には7人の勇者の刺客だった。






 さらにバベルの塔では血だらけで、ブロッサムが逃げ回っていた。

 完全に油断していた。


 バベルの塔内でサイクロプスの7魔将・スアックが襲ってくるとは思わなかったのだ。


「くっぅ!! こんなことして、確実にバベルの塔から追放になるわよ!」

「そうでしょうね……けれども、ルールが適応されるまで時間があるんですよ。それまでに、ブロッサム、アナタを殺してみせましょう」


 一発目から放たれた魔法は『隕石召喚(メ テ オ)』。

 数十センチの隕石を百個前後、空から落すだけの魔法だ。そう聞けば大したこと無さそうだが。その隕石の一つの破壊力は、小さな塔なら一個の隕石で破壊される。この魔法だけでも小さな国なら亡びかねない。


 なんとか物理プロテクトの魔法で防ぐが、それでも落下の爆風だけで何度も吹き飛ばされる。今やバベルの塔の天井は無く青い空が見え、本は宙を舞いバラバラになっている。


 まだ、隕石は降り続いているが、今度は巨大な火の球が空中に出来上がっていく。


「まるで太陽みたいですね……」


 ブロッサムは直径十メートルを超す火の球を空に見る……数は見える範囲で五個……それ以上は視界に入っていない。

 反撃するべきか迷う。反撃してもバベルの塔のルールに引っかかるのだろうか? 細かいルールを理解していなかった。まぁ、このまま死んでしまったらルールも何もないのだが……。






 神聖ドートピオ王国もシンシスが着いた時には火の海だった。

 どうやら、ゼティーナⅡ世を狙ったらしい。神聖騎士団(パラディン)が魔族たちと闘っている。かなり強い……とシンシスは感心する。それでも五分五分と言ったところだ。すでに騎士の死体と魔族の死体が転がっている。急いでその場に向かい、回復魔法を唱える。


「アナタは!?」


 大勢の神聖騎士団(パラディン)を一気に回復させたことに騎士の一人が驚きの声を上げる。


「そんなことより、ゼティーナ様はどちらですか?」


 尋ねながらオーラを全身にめぐらせるシンシス。


「7魔将と名乗る魔族と交戦中です。このまままっすぐ行った森の……」


 と騎士が指さした方向で大きな爆発が起きる。騎士たちの顔が青ざめる。


「アナタたちはココの魔族たちを頼みます。私はゼティーナ様を援護しに行きます」


 自分がゼティーナなのだ。Ⅱ世を巻き込んでしまったのだろうと思うと心苦しい。全力疾走で森まで走っていく。

 その間にも、ウッドゴーレムが十数体、ギギギギッっとシンシスを捕えようとするが、


「邪魔です」


 一言、言うだけで持っている錫杖にオーラを乗せ刃物と変え、走り抜けながら切り刻んでいく。

 本来なら炎の魔法が有効なのだろうが神聖魔法に炎はない。しかし、一切関係ないと言わんばかりに一刀するだけで一体倒す。


 7魔将とゼティーナⅡ世の場所に着くまで数分。何度爆発が起きただろう。そのたびに嫌な予感しかしない。


 森の一角の爆発で開けた場所に少女が倒れている。


「ゼティーナさん!」


 意識が無いのか死んでいるのか反応が無い。

 7魔将は宙に浮いており、駆け寄るシンシスを見下ろす。


「あーん? 雑魚か? 勇者ゼティーナとか抜かすからどんだけ強いかと思ったら、話に何ねーな。魔王様復活前に全部終わりそーだ。どうする? ゼティーナでも勝てない俺とやり合うか?」


 7魔将の話を聞きながら、ゼティーナⅡ世の傷を治す。

 どうやら死んではいない、気を失っているだけらしい。回復魔法をかける。外傷は完全回復したが精神的にはかなりのダメージを被っているらしい。その場に寝かせておく。

 シンシスは空にいる7魔将を睨み付ける。


「ここではゼティーナ様にさらに怪我を負わせてしまいます。場所を変えてよろしいでしょうか?」

「いいだろう。ただし、俺を傷つけることが出来たら場所を変えてやろう」


 7魔将の体はどうやら金属で傷つけるのは容易なことではないようだ。ゼティーナⅡ世が戦っていただろうが傷も見当たらない。

 アイアンゴーレムの7魔将だろう。いや鉄かどうかはわからない。


「では、変えましょう」

「あん? まだ、傷つけて……!?」


 7魔将はそこで自分の左腕が地面に落ちていくのを見た。


 目の前の女が何をしたかわからなかった。が、面白い。自分を傷つけたのだ。あのゼティーナすら手も足も出なかったのに……。


「あはっはっは!! 面白いな、お前! 気に入ったぞ! 望み通り場所を変えてやろう。その前に名前を教えろ。俺の名前は7魔将のゼロフォーだ!」

「私はゼティーナ・シンシス・ドートピオです」

「ゼティーナ……ゼティーナか!? なるほど! 楽しめそうだ! では、もっと森の奥にしてやる。ついてこい」


 ゼロフォーと名乗る7魔将は森の深くまで飛んでいく。シンシスはすぐにその後を追った。

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