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デュラハンの7魔将・グファート

 瓦礫からグファートの手が伸びる。


 初めは赤い魔剣とともに右腕が……次にゆっくりと左腕が瓦礫を踏みしめるようにして、体を引きずり出してくる。


 エイスは今の一撃で倒せるとは思っていなかった。思っていなかったが、無傷だとも思っていなかった。凹んだはずの青緑の鎧も元通りでダメージらしいダメージは無い。

 もちろん、ウォーハンマーにもオーラを乗せていた。そうしなければ、キシマ級にすらダメージは通らないと思ったからだが……この状況は少々、意外だった。

 それに比べグファートは面白がっている。


「あら~ん。意外とやるじゃない。面白いわ~、ア・ナ・タ!」


 飛んでくるようにグファートが一気に間合いを詰めてくる。一瞬、ウォーハンマーでグファートの剣を受け止めようとして、慌てて回避に切り替える。オーラを足に乗せ飛び退く。


「いいわ~。いい反応と判断よ~」


 エイスは回避しきれなかった。左肩から一直線に肉が切られている。骨までは到達していないのがせめてもの救いだ……が、あえてグファートが左手を狙ったことは、間違いない。

 戦いを楽しんでいる。絶対にエイスに倒されないという自信が、グファートにはあり、嬲るだけで殺そうという気が感じられない。


 再びウォーハンマーを振り上げるが、今度はあっさりと剣で受け流される。隙をつかない限りはさすがに当たらない。しかし、ウォーハンマーが効果があるのではないかと感じる。

 もし、効かないのなら、なんで剣でウォーハンマーを受け流す必要がある?

 慎重に間合いをとる。


「何かいい策が思いついたかしら~」

「さて、どうだろうな」


 再び周りを見渡すが、これと言った打開策はない。

 だが、長引かせるわけにもいかない……倒せるならそれに越したことはないが、逃げる手立ても考えた方がいいかもしれない。

 時間をかければ、それだけ魔族が集まってくる可能性もある。


 痺れを切らせたのかグファートの方から襲ってくる。

 エイスは受け止めることを完全に捨て、回避に専念する。一撃当たれば致命傷になりかねないが他に方法もない。

 敵も承知で連続攻撃を仕掛けてくる。ただ、グファートの攻めは単調で明らかにこちらの反撃を待っている。エイスの手を探るつもりだろう。

 回避しているだけでは勝つことも逃げることも出来ない。


 意を決し、エイスは右手一本でウォーハンマーを後ろに引く。


「もう、ウォーハンマーのスピードは見切ってるからね~。当たりはしないよ~!」


 つまらない攻撃に興味はないと言わんばかりに忠告してくる。が、不意にグファートの遠近感が無くなる。

 エイスは右手に注意を集め、傷ついた左手で投げナイフでグファートの右目を撃ち抜いていた。

 普通の達人なら、その攻撃も注意していただろう。ただグファートは達人以上の化け物だ。斬撃が完全に無効なことに胡坐をかいていたため、目玉を撃ち抜かれることを恐れていなかった。それが、遠近感を失う結果になったのだ。

 そして、遠近感を失ったグファートにウォーハンマーが襲い掛かる。狙うは頭!


「くっ!」


 グファートは咄嗟に後に大きく退いたが、そこまでエイスの計算の枠だ。その分、一歩詰めている。

 もし、打撃で弱点があるなら頭だ!体はすでに、回復して見せられている。


 エイスのオーラを乗せている一撃がグファートのこめかみを捕える。スイカを割ったように頭が砕け散る。これ以上ないクリティカルヒットだ。


 だが、何かあるかもしれないと思いすぐに飛び退き、戦闘態勢のまま様子を探る。

 頭を失った体が立ったまま、痙攣しているだけで動かない。

 しばらく、ウォーハンマーを構えているが動く気配を見せない。


「やった……のか?」


 わからないが、体も叩き壊した方がいいだろう。両手で大きくウォーハンマーを振り上げる。


 ……と、エイスの体に剣が突き刺さっている。あまりにもスムーズにグファートの体が動いていたので、それをスローモーションのように見えた。が、止める術が無かった。

 刺さった後に、大きく飛びのいて胸のあたりを抑える。喉の奥から血液が溢れ出してくる。

 油断しているつもりはなかったが、頭が無かったので正確な動きはできないと高を括っていたのかもしれない。


 グファートの左手が何かを抱えるような格好になると、その辺の肉片が集まり頭を作り上げる。見ているだけで吐き気をもよおす。いや、実際に吐血しているわけだが……。


「悪くない攻めだったわ~。うん! 私が斬撃、効かないのを逆手に取った……。でも、私、打撃も効かないのよね~。」

「なら……なんで……躱していた?」


 すでに、意識が朦朧としてきているエイス。その中でもグファートの攻略法を考える。


「ん? その方が面白いから……かしら?」

「打撃も効かないか……なら、これならどうだ!」


 グファートの真下から火炎柱が立ち上る。かなりの幅と高温の炎 の 壁(ファイアーウォール)

 斬撃、打撃も効かないなら、あとは魔法しかない。鎧なども熱で溶かしてしまえばいい。

 が

 次の瞬間、燃えだしたのはエイスだった。


「きぁあっぁっっ!!」

「ごめんなさいね~」


 身体を抱きかかえるように熱を抑えこもうとしている。頭が回転しないが反射的に精霊魔法の水 の 膜(アクアコーティング )で体の炎に抵抗した。

 肉の焼ける匂いと赤白い水蒸気がエイスの体から立ち上る。血も蒸発してきている。

 もう、動くことも出来ない。呼吸音しかしていないが、それが理解できるのはグファートしかいない。王も兵も正常ではない。


 グファートの対勇者用能力・魔法反射。

 読んで字のごとく、魔法を反射させる。物理攻撃無効な上、魔法は反射だ。ただアラクネの7魔将・ベグイアスとは違い、魔力は吸収できず攻撃特化ともいえる。


「アナタ面白いわね~。これだけのダメージでまだ生きてるんだ~。感心関心♪」


 グファートはエイスの髪を掴み顔を持ち上げさせる。口からは血が流れ、皮膚も焼け爛れている。放っておけば一時間もしないうちに死んでしまうだろう。


「安心して~。まだ、殺さないから~。アナタにはドワーフを皆殺しにした罪を着てもらうから。そうすればエルフも少なからず反感を買うでしょ? 今、ドワーフを処刑中だからね~。その前に死なないでよ?」


 魔封じの首輪をはめると、衛兵に治療と牢獄に入れておくように命令する。グファートは止血の仕方すら知らないし、覚える気もない。

 衛兵は人形のようにグファートの命令に従い、止血をすると神官の元まで連れて行く。おそらく、その後、牢獄に監禁されるだろう。

 衛兵は思考をすることが出来なくなっている。グファートの命令を聞くだけの機械のように……。


「さて、次はラー王国でも滅ぼそうかな~。どうやらフィン領も潰したようだし……う~ん、問題は一週間で帰って来られるかどうかよね~。エイスちゃんの処刑も出来れば私の手でしてあげたいけど……」


 サイクロプスの7魔将・スアックが言うには、誰かエイスを救出に来るらしい。それまでには戻ってきたかったが……グファート自らラー王国に攻め込むと途中で帰ってこなければいけなくなる。

 もっとも、その時の為の仕掛けも城のいたるところに仕掛けてある。それに、彼女の性格では一週間も暇してられない。

 結局、ラー王国を目指すことにする。すでに戦闘はラー王国の各地で行われている。あとはどこに参戦するか……。






 時を戻して……ゼディスとテンオースト。

 ラー王国の裏路地に出た。やることが多すぎる。


「まずは、何からだ?」

「戦争ニ参戦スルベキジャナイノカ?」

「王族の避難とか国民の避難とかもある。それに、ラー王国に出たが一度グレン王国に行ってシンシス達と合流を……いや、とりあえずシルバ達の安全を確保した方が……それにエイスは無事なのか?」

「落チ着ケ!」

「体が一つじゃ足りない!」


 欠点としては、テンオーストが人間でないところから大きな問題がある。彼女の言葉は信用されづらい。全身鎧に外すわけにいかないヘルメット……本当に身を隠すためだけのモノだ。戦場に出れば多少ましだが、国民などを安全誘導とか王宮に話に行くなどに、どう見ても向いてはいない。


「仕方ない! まずは娼婦の館『ゴールデンなんとか』に行くぞ!」


 テンオーストにブッ飛ばされる。


「緊急時ニ行ッテル場合カ!?」

「ち、違う、違う……そうじゃない……」


 とにかく歩きながら説明する『ゴールデンタワー』がゼディスの息のかかった店であるということを……テンオーストは不承不承で納得する。

 『ゴールデンタワー』に着くと上を下への大騒ぎだった。当然ではあるが……。そこにゼディス登場でややこしくなりそうだが、運がいいことに門番が前回、文句を垂れていたバカだった。すぐにオーナーのトリアンナを呼んできてくれる。


「これは、ゼディス様!」

「こんな時にすまないが、一室貸してくれ」

「もちろんでございます……ですが、大丈夫ですか?」


 言いたいことはわかっている。『戦時下に時間があるのか』ということだろう。娼婦をどうこうしようとしていないことはわかるが、部屋でノンビリくつろぐ暇もない。


「避難場所を作る。と……説明してもわからないか……」

「申し訳ありません。ですが、避難できるのであれば助かります」


 理解はしないが、ゼディスのやろうとしていることは避難誘導なのだろうとトリアンナは考える。一番広い部屋をゼディスに明け渡すと、手伝えることがないと判断しトリアンナは一礼してすぐに出ていく。何をするかわからない以上、のんびり見ているわけにもいかない。


「念のため聞きたいが、市民を黒の塔に避難させるのは無しだよな?」

「無シデハナイゾ。タダシ、魔力ガ少ナイト死ヌ可能性ガ高イガナ」

「そんな場所だったのかよ……俺やドキサが魔力が少なかったらどうするつもりだったんだ?」

「私ガ惚レタ男ガ、ソンナ軟弱ナワケナイダロ?」


 そんな理由かよ! と思いつつ魔法で白い楕円形の球体を作り上げる。ゼディスの身長より小さいくらい。自然と割れ地面に光を放つ魔法陣がゆっくりと描かれていく。


「転移魔法陣カ!?」

「こんなところに作るのもどうかとは思うんだけどね……時間が無い。すまんが出来上がるまでここに居てくれ、魔力が足りなくなりそうなら継ぎ足してくれ。俺は城に行ってくる」

「了解シタ!」


 魔法陣完成まで数時間かかる。その間に王様に会いに行く。アッサリとは会わせてもらえない。当然だが戦時中で、Aランクとはいえ一般の冒険者がおいそれとは会えるわけがない。何とか粘っていると、フィンに会う。


「丁度いい!!」

「ゼディス!? お前の第一声はそれか!?」


 フィンは体中に包帯を巻いていたが気にしている時間が無い。王様に会えるよう取り計らってもらう。

 転移魔法陣を『ゴールデンタワー』に設置中なことを伝える。そのために市民誘導の兵士を用意するよう頼む。

 問題はどこに避難させるか……ということなのだが、グレン王国にするよう勧める。だが、その前にグレン王国に戻り女王陛下の許可を取らなければならない旨、伝える。


 折り返しの情報で、受けたのはユニクス王国の名を借りて、7魔将・グファートが攻め込んできているという。ワードラゴンのフィン男爵を退け迫ってきている。総力を挙げ喰いとめている状況らしい。

 グファート以外はラー王国が押しているが、グファート一人で戦況がひっくり返るらしい。ほとんど、第一王子の精鋭部隊が付きっ切りで闘っている。王子ほか二人の将軍、それにシルバにショコそれでも手におえる状況じゃない。幸い連絡がある時点では彼らに死者は出ていない。第二、第三王子、第一王女レクサも戦場に駆り出されている。

 王はこの城から最後に撤退するつもりらしいので王族の避難は最後となる。


 情報だけ受け取り、魔法陣が出来たら全身鎧のオーガを連絡させることを知らせ……驚いていたがそれどころではない……『ゴールデンタワー』に戻る。

 戻っても、まだ出来上がっていない。イライラしていてもしょうがないので、その辺でゴロゴロしていると、テンに『緊張感ヲ持テ!』とテンに怒られる。


 次はグレン王国に連絡に行かないと……。

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