廃墟の国
エイスが町の中に入ると酷いありさまだった。犯罪都市もいいところだ。商売している店など一件もない。それどころか略奪や強盗などが、少し歩くたびに見受けられる。まだ日も高いというのに……。
これでは情報を確認するどころではない。この街でやることはない。城へと向かう。
途中、近道に裏路地を通ったことは失敗だった。
「くっくっく、そこの旦那さん! 荷物を全部おいていきな! じゃないと命も置いていくことになるぜ」
五人の男達は、エイスがフードを被っていたせいで男と間違えたのだろう。女子供が出歩けるような状態ではないのだから仕方ない。
「お前たちにやる荷物は無い」
そう言っただけで男たちは歓喜の声を上げる。
「ヒャッハー!!」
「女!? 女だぜ!!」
「犯して欲しいのか!? こんなところを歩いているなんて!!」
前に三人、後ろに二人で囲み逃げ道を塞ぐ。まったく相手を確認することもしない。
エイスも忙しい。一言だけ警告する。
「死にたくなければ道を開けろ。見逃してやる」
「『見逃してやる』だってよぉっぉ!! ギャハハハハ……ぎっぃ!?」
次の瞬間、笑った男は激痛を肩に浴びる。血が噴き出しただけでなく、燃え上がり、のた打ち回る。炎 の 矢だが、男達には理解できなかった。
「て、テメーなんかしやがったか!?」
男たちが一斉に襲い掛かってくる。だが、連携も何もあったモノではない。訓練も受けてなければ最近までは剣も握っていなかったのではないかと思われる。そんな男達四人で国の将軍に敵うわけもない。
正確に全員の右腕だけをレイピアで切り付けていく。
「ぎやっぁ!!」
「うぎぎっぃひっぃ!!」
訓練を受けていない男など、わずかな切り傷だけで戦闘不能に陥ってしまう。そして、その中の一人の傷ついている右腕を踏みにじる。
「ぎやっぁあぁ!!」
他の男達は恐怖にその場から動けない。
「これに懲りたら、下手なことは考えないことだ。もう、この国を捨てて新天地でも探せ」
エイスは男達を見下し、最後に腹に蹴りを入れ先へ進むことにする。実力差があり過ぎるため、バカな男達でも後ろから襲いかかろうという気は起きなかった。
何度か似たようなことを繰り返したが、この程度なら肩慣らしにもならない程度の運動だ。腕立て伏せの方がよっぽどつかれる。ただ、相手の口上を聞くのに時間がかかるのが問題だ。問答無用でこちらから攻められれば時間短縮になるのだが、味方かも知れな者を攻撃するわけにはいかない。そもそも国民なのだから本来は守らなければならない。
強盗、オイハギを薙ぎ払いながら、城門までくる。門番は人間のようだが……門の前には切り捨てられた人が磔にされている。ドワーフも当然だが、宰相や将軍の死体までも見せしめの為に……。
エイスは一呼吸置く。『冷静になれ』と……。
そして、ローブを取り門番のところに行く。門番は相手を通さないようハルバードで道を塞ぐ。
「この先は許可があるモノしか通れません!」
どうやらすぐにエイスを将軍として認識したようだ。が、それでも通さないという徹底ぶり。
「なら、すぐに王に謁見の許可を取れ」
「用件を伺います。それを王に報告の上、謁見できるか確認いたします」
「なら急いだ方がいい。『ラクーレ王国についての報告』だとお伝えしろ」
もちろん、ラクーレ王国の情報など何もない。だが、これが一番手っ取り早く場内に入れる方法だろう。
門番は連絡係に指示を出すと大急ぎで走っていく。数分で戻って来るのは別の連絡係。許可が下りたらしい。
「どうぞ、エイス将軍。それと……お気を付け下さい」
最後の一言は小声だった。中に魔族がいることを知らせているのだろう。百も承知だが、兵士たちはそれなりの忠誠度があることがエイスにはありがたかった。
謁見の間までの道のりは知っている。が、そこまで道のりは荒れ果てていた。城の全てが似たような状況なのだろうとすぐにわかる。メイドや執事はいないし、怪しげな兵士たちが闊歩している。
「よう、お嬢ちゃん。その辺のベットルームで俺と一緒に楽しまないか!」
見たことも無い兵士が肩に手を回そうとする。その手をナイフで容赦なく刺す。慌てて手をひっこめ怒鳴り散らす兵士。おそらく傭兵だろう。だが、城の中を歩き回らせているのはどういったことだと思う。
手を痛めた傭兵はすぐさま腰のロングソードに手をかけようとしたので、蹴り飛ばす。打ち所が悪かったのだろう、歯が折れたようで口から血を吐いている。
「俺の歯がぁ! こん畜生! ぶっ殺してやる!」
再び腰の剣に手を伸ばすが、今度は炎 の 矢を太ももに射ち込み膝を付かせる。
ゆっくりと歩いていき、傭兵の頭上から見下し声をかける。
「いい加減に実力差を認めろ。このまま殺してもいいんだぞ」
感情のこもっていない声に傭兵が怯えだす。
「まさか……あんた、エルフの将軍……」
何かを思い出したようだ。ガタガタと震えだしている。こんな奴でも名前を知っているのかとエイスは思った。
「そうだ。ドラキュラの二つ名を持つエイスだ」
「ま、待ってくれ! 知らなかったんだ! 殺さないでくれ、イヤ、拷問も許してくれ!! 何でもするぅ、何でもするから!!」
床に頭を擦り付け命乞いを始める。便利な二つ名だと思ったが、同時にやな予感もした。今回の騒動に自分の名『ドラキュラのエイス』が使われている気がした。
「運がいいな! お前を拷問したいところだが、王に早く会わなければならない! 次に見つけたときに、拷問なり殺すなりしてやる」
脅し文句を言うと慌てて犬のように四つん這いに走り出し逃げていく。しばらくはこの城に寄付かないだろう。
余計なところで手間取った。謁見の間に急ぐことにする。
扉があったはずだが、現在は無い。開放的だが品性にかける扉の取り外し方だ。おそらく誰かが壊したのだろう。一礼し中に入る。ひょっとしたら、現状では一礼すらいらない状況かもしれない。
入っただけでわかるほどあれた状態だった絨毯もタペストリーも破られ、一部では柱まで割れている。ここでちょっとした戦闘が遭ったのではないかと思われる。
衛兵も立っているが顔には生気が感じられない。目が虚ろでまっすぐと立っていない。将軍や近衛兵も見られない。
だが、それとは逆に明るく聞きなれた甲高い声が聞こえる。
「おぉ、エイスよ! ようやく来たか待ちわびたぞ!!」
この国の王、ヘキトス三世だ。
一目でわかった……ヘキトス三世は狂っている。
王の手には血塗られたロングソードを持ち、足元には先程の連絡係の死体が転がっている。
「どうした、エイス。死体が珍しいか? こんなのどこにでも転がっているだろう。だが、これは人の死体だ。これでは駄目だ。ドワーフだ……ドワーフの死体の山を築かなくては……。そのためにはお前の力がいる。わかるなエイス……。」
返答に困る。
まずは穏便に済ませるべきで正しい答えは『はい』だろう……だが、何か違う。ヘキトス王が求めているモノはエイスでありながら、狂気をはらんでいる。
その時、突然背後から物凄い寒気に襲われる。恐怖で振り向くより先にその場から飛び退いた。
ガシャリンッと赤く光るロングソードを突き立てる女性がいた。今までに見たことのない女性だが、全身に黒い魔力を纏っている……魔族だろう。それも上級……いや、これだけ大きい魔力なら7魔将の一人とも考えられる。
「面白いじゃん~。私の一撃をかわすなんて~。」
「誰だ……貴様! いや、聞き方を間違えたか? 7魔将だな?」
青緑のプレートメイルを着こんだ女性。綺麗な顔立ちに短く切りそろえられた黒い髪……ただ眼は恐ろしく冷たく青い瞳が一層、寒気を際立たせる。
「よく御存じで~。王様に頼まれちゃってね~。今回の戦争の最高指揮官なのよ~。楽しいでしょう~」
カタカタと笑う。
王の方を見ると椅子に座りながら、独り言を言っている。
「もう、あの王はダメね~。でも、まだ使い道はあるのよ~。彼は知っているんだから~」
「なにを……」
聞き出そうとした時、王が突然、吠えるように命令を下す。
「グファート! 早くエイスを捕えるんじゃ! そしてその首を他国に差し出してしまえ! ドワーフ皆殺しの張本人はそいつじゃ!!」
「な! なにを言っているんですか!?」
王が何を言いだしているのかわからない。なぜそんな妄想に……目の前の7魔将・グファートが目に入る。彼女が吹き込んだのだろう。そして、エイスを真犯人とすることを提案しているのだろう。なぜ、そのようなことをしたのかわからないが……。
「はいはーい。捕まえちゃいますよ~」
ガンガン剣を振るってくる。柱があろうと無かろうと関係なく叩き切る。壁すらもガリガリと切れていく。物凄い切れ味の剣だ。だが、攻撃がやたら大味で、隙が大きい。精霊魔法を詠唱する時間はないがレイピアを叩き込むことは出来そうだ。
柱の陰に隠れる。
「柱ごと叩き切っちゃいましょう」
言った通り、柱ごとエイスを狙い叩き切る。が、グファートはエイスの出方を待っていた。当然そのまま切られるわけがない。柱を回り左右どちらかからレイピアを狙い澄ましている。おそらくは利き手側、右を付いてくるはずだと……。
しかし、出てきたのは真っ二つにした柱の先だった。わずかに後ろに下がっただけで、ほとんど回避していない。そのため深くはないが額と鎧が切れている。
「油断しすぎだ!」
狙いを定めグファートの心臓にレイピア突き刺す。最大の技をもって……。今まで出来なかった武器に魔力を乗せる。さらに一か八かでオーラも使用してみる。
魔力とオーラが噛み合い上手く武器に乗る。これならプレートメイルも突き抜ける!
ズブリッと鎧を貫通し深くまで突き刺さり血が噴き出す……。
「やるわね~。それが……えーっと……オーラ? だったかしら~。面白いわね~」
「ちっっぃい」
この程度では効かない。急速に魔力とオーラの合わさったレイピアを持ち上げ、心臓から頭の天辺まで切り裂いていく。
音も立てず、綺麗に切り裂かれ血が噴き出しているが、声にならない声で笑っている。
7魔将に対し有効だと思っていたオーラが効かない。
いや、何か手立てがあるはずだ、と一旦退き周りを見る。衛兵たちはこの状況でも誰一人動く気配がない。その時、ふと壁にかかった武器が目に留まる。
それを手に取る。
「ほう、考えたわね~。アナタの非力な力で振りまわせるかしら? 当たらなければ、どうということはないのよ~。」
「侮ってくれるとは、ありがたい!!」
ウォーハンマーだ。
エルフにとっては苦手武器となる。まず、重い。ドワーフや獣人ならいざ知らず、エルフの筋力は人間より劣るため、まず使われることがない。そのため、グファートはエイスがウォーハンマーを持ち上げられるかも疑問視していたほどだった。
が、それは完全に見誤っていた。
「あら……・・・・・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・!?」
凄い速さでハンマーがグファートの鎧をへし曲げ、横の壁に叩きつける。物凄い土煙と瓦礫にグファートはのみ込まれ、生き埋めとなる。
オーラで筋力を上げていたのだ。
「斬撃が効かないなら、打撃で勝負させてもらおうか……」
もちろん、その程度で7魔将・グファートを倒したとは思っていない。




