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魔倉の指輪

 バベルの塔に入り口も出口もない。いや、全てが出口で全てが入り口だともいえるらしい。

 ブロッサムに渡されたバッチを身に着ける。これを身に着け呪文を唱えれば、どこでも出入り口になる。どこからでも入れ、どこへでも出られる。転移魔法陣いらないんじゃないかと思う。


 すぐさま、右手を掲げ呪文を唱えると魔法陣が扉を形成していく。


 考えていなかったが、消費魔力が物凄い。只の魔法使いでは出入口を作れないのではないだろうか? そうするとオーガのテンオーストが魔力を大量に持っているか、何らかの方法で消費魔力を抑えているかということになる。またはその両方だ。


 扉を使い、ドワーフのラクーレ王国と思われていた付近に出ることにする。気を付けることはゴブリンたちの幻影のゴーレム付近に出ないことだ。

 すぐに戦闘は好ましくない。魔力を多少なりとも回復しておきたい。バベルの塔で休んでいく手もあるが扉が出っぱなしだと、向こうから入ってくることが可能らしい。さっさと消さなくてはならない。


 ブロッサムに確認するが、魔力を回復するアイテムはバベルの塔にはないらしい。

 放っておいても、ある程度は自然回復するのだが、急速に回復させるとなると何かしらの薬が必要だ。が、無いものはしょうがない。さっさと扉を通り岩山へと向かう。


 多少、草木が映えている場所にでるが、身を隠すほどのモノではない。かといって敵も味方もいないので身を隠す必要もない。ゴーレムたちも、魔法陣の範囲から出ることは出来ない。ゆっくり魔力を回復すればいいのだが、なんとなく急がなければいけない気がしてしまう。


 ドキサの『覚醒』……ドワーフが全滅するまで一週間ある。慌てる必要はないはず。いや、ひょっとしたら、ラクーレ王国が無いと知れば、奴隷のドワーフの処刑が止まる可能性もあるのではないだろうか?

 止まったとしたら、ドキサの『覚醒』は無くなるわけだが、止めた方がいいに決まっている……ただ、止まる可能性は低いが……。


 物は試し、急いでみることにする。まずはゴブリン達を片付け本当に幻影のゴーレムか確認する。先にドワーフを倒しに行って、ゴーレムじゃなく本物のドワーフだったら目も当てられない。

 かといって、ここでの確認が確実でないこともわかっている。魔方陣と幻術師を確認しなければならない。

 そもそも、幻術も魔法陣で賄っているのかもしれない。


 とりあえず、ゴブリン達が出るあたりまで行ってみる。バベルの扉を作るのに魔力の消費量が多かったが、闘えないほどではない。


 近づくと予定通り、ゴブリン、コボルトが近づいてくる。しかし、よくできた幻影だ。闘ってみてもわからないほどだから、相当の実力者だろう。


「ロード!」


 ブロッサムから返してもらった『魔倉の指輪』に命令を下す。魔力使うんだけれどもね~。

 身体の周りに円を描くように、空中に数十種類の武器が出てくる。

 そのまま、ゴブリン達に走り込む。


「どれにしようかな~」


 武器を手でクルクルと回転させて一通り確かめる。全ての武器を試したわけではないが使い勝手というモノがある。久しぶりなので、まずは使い慣れているロングソード系の武器。


「ヅルブレッド」


 それそれの武器に名前がある。呼ばれた一本が手元に残り他の武器は『魔倉の指輪』へと帰る。

 ヅルブレッドはロングソード型の魔剣。刀身が黒く、柄の部分は黄金色。ツバにはグリフォンが彫られている。


 十数体のゴブリン軍。見た目は只のゴブリンだが、いくらでも復活する。遊んでいればこの先に進むことは出来ないが、魔剣ヅルブレッドを使えばどうということはない。

 ゴブリン達までの距離はまだだいぶあるが、その距離から横一線に剣を振る。


 黒い刀気がゴブリン達を真っ二つにする。十数体全てが上半身と下半身が別れる。そして、それで終わりだ。

 先ほどまでの話なら、新たに魔法陣内にゴーレムが創り上げられるはずだが、その様子もない。


 だが、ゼディスはそれがさも当然のように、魔剣ヅルブレッドを持ったまま周りを確認していく。

 先程までゴブリン達だった土の塊が転がっている。


 バリバリッと魔剣ヅルブレッドを地面に突き刺し、魔法陣であろう部分を走り抜けていく。そのまま魔法陣の中心であろう部分を目指す。

 中心と思われる所には十匹前後の魔族……どれくらいの強さかは不明だ。だが、キシマ級以下だろう。一人でゴーレム創造クリエイティブゴーレムの魔法陣と幻影の魔法を両方使っているのかと思ったが、どうやら数でカバーしているようだ。


 そのうちの一人、おそらくスプリガンの魔族だろう。外見的には醜いドワーフっぽい。


「貴様か! 魔法陣に送る魔力を止めたのは!?」


 かなり距離があるが、よく通る声で叫んでいる。

 正確には魔力を止めたのではないのだが……と思いつつも、スプリガンの声を無視し、構わず突っ込んでいく。相手もゼディスの行動を認識する前には戦闘態勢に入っている。


 まずは敵の炎 の 球(ファイアーボール)の魔法が飛んでくる。

 唱えたのはエキドナ。上半身は美女、下半身は蛇。

 直径二~三mもある炎 の 球(ファイアーボール)の大きさから魔界の階級が高いことがうかがえる。

 だが、ゼディスはその炎 の 球(ファイアーボール)をものともせず、魔剣ヅルブレッドで切り付け、あっさりと消滅させる。


「なに!?」


 その情景にエキドナが怯むが、バグベアの魔族はいたって冷静だ。


「魔法陣が停止したのは、あの剣のせいだろう。魔法を使うならあの剣の隙をつくことだ!」


 バグベアはゴブリンと似ているが一回り大きく、全身が毛でおおわれている。一見、クマと見間違いそうになる。ただ、このバグベアも普通ではない。スピードが異常に早く、瞬時にゼディスと剣を交える距離まできている。

 普通の人間なら、このバグベアの一撃で剣ごと真っ二つにされていただろうが、ゼディスはその怪力と同等に渡り合うように受け止める。


「ほほう、剣の力だけでなく、お前自身も多少は使えるようだな!」

「バグベアなんて、普通ハンマ級の部類だろ!」

「魔階級を知っているのか!? 人間ごときが!?」


 バグベアが驚いたと同時ぐらいだろうか、地面から火柱が上がる。一秒に満たない差でゼディスは、その火柱を回避する。……いや、回避してみて分かったが炎 の 壁(ファイアーウォール)だ。しかも幅も高さも十数mはある。

 バグベアが怒鳴る。


「俺ごと焼き殺す気か!」

「相手は只者ではないぞ。お前の命と引き換えなら安いモノだろう?」

「テメーが差し違えろ!」


 山羊の頭と下半身、上半身だけが人間。くろいカラスのような大きな羽を持っている。


「バホメット!?」

「ほう、色々よく知っているな人間。大人しく死ぬことを許可してやろう」


 バホメットはかなり強い。なめてかかると痛い目を見る。その時、巨大化したスプリガンがゼディスに襲い掛かる。スプリガンの能力の一つが巨大化だ。素早く身をかわし『魔倉の指輪』を再び起動させる。


「ロード」


 ゼディスの周りにいくつもの武器が、輪を描くように並べられる。とりあえず魔剣から魔槍に武器を持ち替える。

 相変わらず黒い。握り部分が黄金の装飾を施され刃先のみが青白く光っている。

 それを見て魔族の一人、ガーゴイルの顔色が変わる。


「バカな!『魔倉の指輪』だと!? レプリカか」


 ゼディスは態勢を立て直し、槍でスプリガンを切りつける。とっさにスプリガンは大きく飛びのいた。一度飛びのいただけで百mほど下がったようだが、その場で崩れ落ちる。


 その光景を目の当たりにした他の魔族たちは一斉に逃げ出した。


「ば、バカな。本物だというのか!?」

「勝てるわけがないっぃい!!」

「キシマ級……いやショウマ級じゃないか!!」


 逃げ出したが、次々にゼディスが撃墜していく。距離が離れているというのに魔槍は距離に関係なく、まるで見えない刀身で魔族を絶命に追いやっていく。

 中には魔法を撃ち込み、抵抗を試みる者もいるが、その魔法すら真っ二つに切り裂いてしまう。


 魔族が最後の一人になるまでには三十分とかからなかった。

 エキドナのみを残して、他は壊滅。

 ゼディスがゆっくりと近づいていく。下手に逃げれば後ろから刺されてしまう。エキドナは逃げるための口実を探す。


「ま、待て」

「『待て』?」

「い……いや、待ってくださいぃ」


 エキドナにとって人間ごときに恐怖したことなどなかった。それどころか、人間に敬語を使う羽目になっている。いや、彼が人間ではないと確信していた。人間ごときが『魔倉の指輪』を使えるはずがない。


 ゼディスはエキドナの前までくる。

 エキドナは意外と大きく、立った姿ならオーガのテンオーストと同じくらいだ。さらに蛇の尻尾がずーっと続く。


「お前の命を助けてやってもいい。が、見返りが欲しいな」

「何をご所望ですか……」


 人間の姿をした奴ごときに媚び諂わなければ命が危ないなど屈辱の極み……このまま、自害しようかとすら思える。


「そうだな……俺の『使い魔』になってもらおうか?」

「な……に?」


 『使い魔』……主人の呼び出しに答え、命令を遂行する。能力以上のことはできない。主人の許可がある場合にのみ主人の力を一部使うことが出来る。主人に対し絶対服従。主人のダメージの代行など……ようするに永久的に監視された奴隷と大差ない。


「冗談じゃない!」


 エキドナはゼディスに対し爪を伸ばし顔面を捕えた、ように見えたが軽くかわされている。


「仕方ない奴だ」


 ゼディスは人差し指をエキドナの胸に置く。胸は柔らかいが、弾力がありゼディスの指を押し返す。

 エキドナは危険を感じたが、すでに爪の攻撃の後でゼディスの攻撃に対する行動をとるには遅すぎた。


「ブラットラクト」


 心臓に直接魔法の矢を撃たれる。エキドナはこれで『死んでしまった』と思ったが特に外傷はない。理解が出来ない。

 そこに、さらにゼディスがエキドナの胸を揉んでいく。


「俺の使い魔になる悦びを教えてやろう」






 小一時間、エキドナをイジメまくった。鳴きまくったエキドナも今はグッタリしている。

 説得に多少時間はかかったが、手っ取り早い方法だろう。口を割らすのに拷問するより短時間で済む。

 ノロノロと起き上ってきたエキドナが最初に口にした言葉は、今までとは180度違う言葉だった。


「どうか、私をアナタ様の使い魔にしてくださいぃ」

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