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集約

 勇者たちは全滅する。

 そう宣言される。


「まぁ、そうだろうな」


 別にゼディスにとっては驚くべきところは何一つなかった。

 賢者ブロッサムの方が驚く。全滅を宣言しているのに、さも当然という態度。


「全滅するんですよ? わかっているんですか?」

「その後の記載は?」

「そこで、本は終わっているモノがほとんどです」

「ふむ。『本』ということは誰かが書いているわけだよな? 誰がそれを書いているんだ? 生き残った人間じゃないのか?」


 そこで、ブロッサムは『なるほど』と思う。全滅したはずの誰かが生き残って記載したのではないか……と、ゼディスは考えているのだろうと……。それなら実際は全滅を免れ、魔王を倒し生き残った人物がその本を書いていることになるからだ。


「残念ですが、ほとんどの本は魔族のモノと思われます。または人間であっても勇者の関係の者ではないようです。」


 ゼディスの希望を打ち砕いているだろうとブロッサムは思っている。だが、しっかりと認識しておいた方がいい。


「まぁ、そのまんまで魔王に勝つ手段なんてないだろうからな」

「どういうことですか? なにか秘策が? ですが、色々な本を読んだ感じでは魔王に効果がある攻撃自体あるとは思えないのですが……」

「たぶん、見極めるために勇者様ご一行は死んでもらう」

「それで、アナタに勝ち目があると?」


 勇者を捨て駒にして、魔王の技を見極める。目の前の男はそう言っている。


「勇者たちが……だ。もう一度、闘ってもらう」

「何を言っているんですか? 私を含め、生き残るものはいません」

「俺は神官だぞ?」

「なるほど、復活魔法。しかし7人、全員、復活させられますか?」

「どうだろうな~。出来るだけ蘇らせるさ。俺の命と引き換えに……」

「しかし、魔王が黙って復活の儀式を眺めていると思いますか? 復活の呪文は、一人蘇らせるだけでも一日がかりのハズでは?」

「その場から逃げられるかどうか……かな? だが、その辺は算段がある。ダメだったときは諦めてくれ。そんなわけで、一度は勇者達全滅するだろうと、俺はこの前提で考えている」

「できれば、全滅しないで倒したいんですけど、このままではそうもいきませんか……」

「俺もだ。一応、模索はしているさ。オーラやセニードランドローなんかも、その一環だ。魔王が知ってるとは思えないからな」


 とはいえ、どうやら本の書いてある内容で、ほぼ確定のようだ。7魔将に効きはするが魔王に有効打……とは今のままでは言い難いだろう。改良しても怪しい。


「焼け石に水……だろうが、俺の魔法の矢『ブラットラクト』を受けておくか?」

「どさくさに紛れて何言ってるんですか? アナタを好きになる魔法の矢……それを受けることに何のメリットが……。むしろデメリットしか思いつきませんが?」


 なんで、こんな男を好きになっておかなければならないのだろうか? と純粋にゼディスの頭を疑ってしまう。


「え? えぇーっと、セインヒローナという魔法があってですね~?」


 ブロッサムは『セインヒローナ』の名前を聞いて、ようやく納得できる。


「アナタを好きならば、好きなほど強くなれる呪文……でしたか。対魔族用のオリジナル呪文でしたね。本で調べた結果から言えば、アナタは魔王を倒すことが目的で邪神を信仰したとか? それで手に入れた能力をフル活用しているんでしたね。その結果が『ブラットラクト』『セインヒローナ』……このあたりのいきさつが、ほとんどの本に記載されていなかったので忘れていました」

「ということは、書かれている本もあるのかぁ」


 椅子にもたれかかりながら、困ったものだと思っていた。バレていたら使いづらいだろうに……。


「一考する価値がある……とは思いますが、まだ必要とはしていません。それに、いざというとき、魔力の解き方を調べておかなくてはなりませんからね。おいそれとは『ブラットラクト』を受けるわけにはいきません。それに、あまりアナタの名前が書籍に出てこないことが気になります。普通に考えれば勇者たちの中心にいる人物だから、もっと名前も技も過去もわかるはずなのですが……何者か気になるところです」

「それは後回しだろ? 今やるべきことを済ませた方がいいんじゃないか?」


 ラクーレ王国のことや、ユニクス王国のことだ。


「そうですね。色々片付けましょう。ゼディスさんにも動いてもらった方がいいでしょう」

「まずはラクーレ王国の発見か?」

「ラクーレ王国は現在は存在しません。『やはり』というべきでしょう」

「説明を続けてくれ」


 ゼディスも特に驚きはしない。何せ昔に滅んだ王国だ。むしろ復興していると聞いた方が驚いたのだから……。ただ、そうなるとユニクス王国兵と闘っているドワーフたちは何なのか、という疑問が湧いてくる。


「ドワーフたちは幻影です」

「それは俺も考えた。だが、手応えがある。傍から見ていてもわかるほどだ。それに切られたユニクス兵も何人も倒れていった。幻影……と言うには実体があり過ぎる。それとも実体まで作れる幻影?」

「それは幻影ではなく、もはや、ドワーフを生み出す禁呪……神の領域になるでしょう。所詮、幻影は幻影です。ただ、手応えも本物……ようするに、他の者をドワーフに見せる幻影なのです」

「魔族をドワーフに? いや、違うな。ラクーレ王国を探していた時にいたゴブリンやコボルトと同じ手法……数が一定量。それに死体も無くなっていたような気がする」

ゴーレム創造クリエイティブゴーレムの魔法陣です。魔力を注ぎ込むだけで決まった数のゴーレムを常に生み出す魔法陣。ゴーレムをドワーフに見せる幻影。これで半永久的に居なくならないドワーフの軍隊の出来上がりです。ラクーレ王国に行かせないように、山を守っていたゴブリン達も同じ手法を取られています」

「なんでゴブリン達なんだ? もっと強い方が近づかないんじゃないか?」

「たとえばドラゴンなんていたら、あっという間に有名な山になってしまいます。大量の冒険者に調べられたらバレる確率は上がりますから、厄介だけれどたいしたことのない魔族という結果じゃないでしょうか? そのことにつきましては、特に書かれていた書籍はありません」

「でも、誰が何のためにドワーフの王国を復興したように見せかけているんだ? それにユニクス王国を襲う意味がわからない」

「幻影のドワーフたちはユニクス王国を襲ってはいませんよ」

「襲っていない?」

「『襲ってない』と言うと語弊がありますね。襲えないんですよ。ゴーレムたちは魔法陣から出ることが出来ないんですよ。ユニクス王国にでも魔法陣を描かない限り、ユニクス王国を襲うことは不可能と言っていいでしょう。むしろユニクス王国がドワーフの兵を見つけて襲い掛かっていっているのです。彼らは……いいえ、ユニクスの王はドワーフたちの復讐を極度に恐れているのです。ですから武装したドワーフを確認しただけで戦争を仕掛けたのです。おかげで他国との外交も悪化。ドワーフとの戦争に軍を出してくれる国はありません。しかし、冷静さを失っているユニクス王国の兵は消費する一方です」

「負け戦……ってわけか」

「自分の影におびえて、自分自身を傷つける結果です。そしてドワーフの幻影を作り出したのは……」

「魔族……キシマ級以上と考えて間違いないな。7魔将が動いているかもしれない」

「ご名答! ですが、なぜ幻影のドワーフを作ったかまではわからないんじゃないですか?」

「うん? 今言った通り、ユニクス王国を自滅させるためじゃないのか?」

「もう少しだけ複雑です」

「裏がある?」

「ユニクス王国はドワーフとの戦争で兵は減る一方。近隣諸国は手を貸してくれない。なら、どうしますか?」

「どうしますか?……って、手詰まりじゃないか?」

「では、魔族が『兵を貸してやる』といったら?」

「いや……いや、いや。ないだろ。魔族と手を組むなど……」

「いいえ、ユニクス王国は魔族と手を組むことを選びます。それに反対した将軍、宰相、大臣などを全て処刑して」

「正気か!?」

「ですから、エイスさんが魔族に……しかもキシマ級に囚われている可能性があるのです。それだけではありません。国内のドワーフの奴隷は一人残らず皆殺しにするでしょう。ラクーレ王国と繋がっている可能性があると思ったら、当然の結果でしょう」

「何に、そんなに怯えているんだ……確かにドワーフを奴隷にしているという時点で問題は山積みだが……」

「ドワーフを皆殺しにする……これは魔族にとって喜ばしい事なのはご存知ですか?」

「そりゃーまぁー、敵が減ってくれるに越したことはないからな」

「その他にも、勇者の力を引き出すのに『勇者への信頼』というモノがあります」

「なんだ、それ?」

「信仰心と言ってもいいでしょう。勇者への信頼が多ければ多いほど勇者は力を発揮することが出来ます。そして、同種族は意識することで誰が勇者か確認することが出来るのです。たとえばシルバーニ王女などがいい例です。初めから魔力を『視る』力など持っているのは……」

「なるほど『生まれ変わり』の噂か……ドワーフが全滅すれば……ドキサへの信頼は難しくなる。そうなると『勇者への覚醒』が難しくなる……と言うことか。だから急いだわけだな。一週間で間に合うのか?」

「魔族もゼディスさんと同じ考えだったのでしょう。残念ですが、そこは逆なのです」

「ん? 逆?」

「一週間でユニクス周辺のドワーフが全滅するんです」

「それじゃぁ、ドキサは『覚醒』できないんじゃないのか?」

「覚えていますか? 『暗黒斧ドギニの力を受け継ぐ一人』がドキサさんだと言ったことを……」

「『暗黒斧ドギニの力を受け継ぐ一人』他にもいる……として、今、関係あるのか?」

「『暗黒斧ドギニの力を受け継ぐ一人』は今、ユニクス王国の奴隷となっているドワーフ全員なんです」

「全員!? ドキサじゃないのか! いや、え!? どういうことだ? 前例がなくってわからん」

「正確に言うなら、ユニクス王国の奴隷だったドワーフ全てが対象です。『暗黒斧ドギニ』はこの一帯のドワーフ全てに力を分け与えたのです。そして『7人の勇者』ではなく、大勢が魔族と闘えることを望んだのです。しかし、皮肉にも結果的には一人に集約することになるわけですが……」

「死んだドワーフの『暗黒斧ドギニの力』がドキサに集まっていく……と言うことか。このことは、ドキサは知っているのか? 説明していないようだが?」

「説明しなくても、感じているでしょう。ドワーフが全滅したとき『覚醒』の終了です。後は彼女がその状況に発狂しないかが心配なだけですね」

「塔から飛び出して、助けに行くんじゃないか?」

「その為の『覚醒の間』です。今の彼女の力では出ることは出来ないでしょう」

「残酷じゃないか?」

「私もそう思いますが、他の方法では助ける術は見つかっていません」


 まだ、疑問が残っていないわけではないが、ゼディスは椅子から立ち上がる。


「どうかしましたか?」

「まずは、幻影のゴブリン達を片付けて来よう。そうすれば、ある程度、確認できるだろ?」

「では、私も行きましょう」

「いや、ブロッサムはここで本でも読んで休んでいてくれ」

「休んで……じゃないですよね。出来るだけ『道』を探せ……ってことですね。でも、そうさせてもらいます」


 ゼディスはブロッサムに背を向けて歩き出す。


 が、すぐに戻ってくる


「この塔、どうやって出ればいいんだ?」

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