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番人

 オーガは魔法の矢で撃たれたが、身体に外傷がないことを確認する。初めは変わったことは起こっていなかったが、矢を放った男を見ると胸が苦しくなる。


「クッ、ナニヲシタ!」


 ゴブリン達を薙ぎ払いながらドキサに詰め寄っていく。ドキサに対し先程までの敵意は無くなっている。ドキサはゼディスが何をやったのか理解したが、とりあえずこの場から引く方が重要なので致し方ない。

 オーガを倒すのもそう易々といかないのは、今までの経験から得ている。


「ゴブリンやコボルトの様子がおかしい。引くぞ!」


 もう一度、ゼディスがドキサに叫びかける。

 ドキサはオーガから攻撃されないのを確信し、踵を返し退いていく。もちろんオーガが『好意』を持っているのはゼディスだ。普通に考えればドキサがそのまま襲われる可能性は十分ある。だが、ゼディスの仲間だとわかっていれば、嫌われるのを恐れて襲い掛かってくることはまずありえないのである。

 それは自分自身で実証済みだ。あんなに嫌っているエイスですら、傷一つ付けていないのだから……。


 だからといって、オーガに声をかけてやる義理もない。サッサと引き上げていく。目の前のゴブリン、コボルトを斧で切り開きながら……だが、思った通りオーガがその横に並ぶ。


「ナニヲシタ、ト聞イテイル!」

「さぁ~、知らないわ。魔法の矢を撃った本人に聞けばぁ?」


 この時点でドキサはイライラしている。敵である時はさほど気にならなかったが、もしこの女が仲間になると思うと、居ても立ってもいられない。

 オーガとは思えないほど美人だ。背も大きいがスタイルがいい。少々、筋肉が付き過ぎな気もするが、多すぎるという感じはしない。黒のストレートの髪もつやつやだし、胸もデカい。


(あいつの好みなんじゃないだろーな?)


 この場から逃げるために魔法の矢を放ったと初めは思っていたが、隣に並んでみるとエライ美人で手に入れるためにではないかと勘ぐってしまう。……まぁ、その通りなのだが、ドキサは知るすべはない。


 ドワーフとオーガのコンビは、簡単に敵を薙ぎ倒し道を開き逃げ切る。多少離れると、もうゴブリンもコボルトも追ってはこない。

 ゼディスとしては納得いかない。逃げる相手に対してはやたら好戦的なのが、ゴブリン、コボルトの特性ともいえる。弱い者はとことん追いつめる。


「アイツラハ、行動デキル範囲ガ決マッテイルラシイ」


 バスターソードを背中の鞘に入れながら、ゼディスの様子を見て説明する。


「アンタ仲間になるつもり?」


 ドキサは仲間になるだろうとわかっていたが、仲間にしたくなかった。強力だけれども……。恋敵が増えるのは間違いない。例の魔法の矢の威力なら間違いない。

 だが、オーガは即答を避ける。


「仲間二ナルカハ別ダ!」

「じゃぁ、なんでゼディスの腕を掴んでるのよ!」

「ソ……ソレハ道案内ダ。私ノ仲間ノ所ニ案内シテヤロウト思ッテイル。気ニナルダロウ? 私ニ仲間ガイルコトガ……。シカモ、人間ダト言エバ更ニ興味ガ湧クダロウ?」

「オーガに人間の仲間?」

「ドウスル? 案内シテ欲シケレバ、ぜでぃすヲ貰イ受ケル!」

「いや、条件、増えてんじゃん!! なんでゼディスを渡さなきゃならないのよ!」

「私ガ欲シイカラダ」

「素直すぎるわ! ちゃっかり名前まで覚えちゃって……」


 はぁ~っとため息を吐きながらオーガの顔を見る。ニッカリと笑っている。元々、悪い奴ではないのかもしれないと思わせるには十分な笑顔。

 ゼディスはようやく本題に入る。放っておけば、この二人はずーっとどうでもいい話で時間を費やしそうだ。……ゼディスのせいだが……。


「いくつか質問があるんだが、いいか?」

「モチロン! ぜでぃすノ言ウコトナラ何デモ聞クゾ」


 ドキサが何か言おうとするが、ゼディスが制する。本当に話が進まなくなるからだが、代りにゼディスが脇腹を殴られる……それで、何とか質問を続行。


「まずは互いの名前を確認しておきたい。仲間になるにしても、敵だとしても……」


 敵の可能性は高い……オーガなのだから……7魔将によって派遣され、この辺の魔族の統治を考えているというのが、もっとも有力だろう。


「俺はゼディス……神官で、こっちがドキサ、ドワーフの戦士だ」

「私ハ『てんおーすと』。『てん』ト呼ンデモラッテ構ワナイ。どわーふハ『てんおーすと様』ト呼ベ」

「なんでだよ! ゼディスに心操られているだけだぞ、お前!」


 ドキサが早速ネタ晴らし! いや、ネタをバラしても問題ないと理解している。7魔将ですら激しい抵抗もできず……どころか、ゼディスに懐いているのだ。

 思った通りだろう、テンも『ソレガドウシタ?』とだけ言って相手にしない。


「好キニナルコトハ心地イイダロ? イイコトダ」

「ヤな術だよな~。その魔法の矢……」

「ブラットラクトという名前にしてみた」

「知らねーよ!」

「まぁ、話を続けよう。テンは何していたんだ? 俺たちはドワーフの王国ラクーレがあると思ったんだが……」

「私タチモ、らくーれ王国ヲ探シテイル」


 意外な答えにも思えたが、滅ぼそうとしているのかもしれない。ここでは、まず敵か味方かをハッキリさせた方がいいことがわかった。話が分かりにくくなる。


「率直に聞く。テンは人類の敵か味方か?」

「フム……確カニ、ソコカラ説明ガ必要カ……。味方ト言ッテ差支エハ無イ」

「ずいぶん、含みを持たせる言い方ね」


 だいぶ、歩いたところで急にオーガ・テンオーストが足を止め、右手を前に出すと呪文を唱える。急に起こした行動に、ゼディスもドキサも戸惑うが、意に反さずそのまま進めるテンオースト。

 右手の先に赤い魔法陣が幾重にも出来上がり、空間にゆっくりと広がると大きな扉が現れる。


「私ハ黒ノ塔ノ番人。勇者ノ力ヲ引キ継グ者ヲ覚醒サセル試練ヲ与エルガ役目ダ」


 ゼディスとドキサは顔を合わせる。黒の塔に聞き覚えがないが、何かとんでもないことが起きているのではないかと思われる。


「ひょっとして、テンって偉い人なの?」

「偉イワケデハナイ。マァ、入レ。黒ノ塔ノ最上階ダ。ココニ仲間ガイル。賢者ろーろっとノ力ヲ受ケ継イダ者ガ私ノ仲間ダ」

「!? ちょっと待って! えっ? いるの? 勇者の一人が? この扉の向こうに……!?」

「それに、ここ塔じゃないだろ? 扉だけだが転移魔法の部類か?」

「ゴチャゴチャ、ウルサイ! トットト入レ!」


 後ろから蹴りいれられる。


 扉に入ると壁一面本棚で埋まっていた。壁一面どころではない。柱の代わりのように、いくつもの本棚がズラリと並んでいる。その本棚の高さも半端ない……上が見えない。

 純粋に『どーやって取るのだろう』と考えてしまう。さらに、広い部屋。端から端までも先が見えない。百m以上あるのではないだろうか。この部屋が四角いのか丸いのかすらわからない。


 オーガも部屋に入ると扉は消える。塔には窓もないのに自然光の明るさがある。


「フム……ぶろっさむノ居場所ハ……」


 テンが空間に手を置くようなしぐさをすると、光の長方形の魔法陣のようなものが展開される。そこを指先で叩いていくと、正面に四角い画面が浮かび上がる。

 状況についていけないゼディスとドキサ。


 画面の一か所が点滅している。おそらくそこにいるのだろう。また『転移魔法の扉』か……と思ったら、これは歩いていくらしい。

 しばらく歩く。いくつもの本棚が天高くそびえる間を通っていく。道幅は広いのだが圧迫感が物凄い。地震があったらどうなるんだろうと、嫌でも心配させられる。


「ねぇ、この本……なんなの? おとぎ話……って、わけでもないわよね?」

「コノ塔ノ本当ノ名前ハ『ばべるノ塔』。ソノ最上階ガ、ココ『ばべる図書館』。アラユル世界ノ現在、過去、未来ノ全テノ書籍物ガ所蔵サレテイル場所ダ」

「へー」


 ドキサはピンと来ていない。

 ゼディスはドキサと違い、その脅威に驚く。


「それって、どうすることもできなくなるぞ!」

「『どーにもならなく』? なにが?」


 ドキサは指を咥え、小首を傾げる。頭が悪そうだ。


「百歩譲って『過去』『現在』の書籍はいいとしよう。『未来』の書籍物なんてあってみろ! 預言書といっても過言じゃない! いや預言書以上だ。確実にこの先どうなるかわかってしまうんだぞ。この戦いの結末とかまで! どこかの国で今回の闘いのことを絶対に記載するわけだ。そうなれば、どうやって負けたか、どうやって勝ったか一目瞭然になる。しかも運命は変えようがない。いや、運命を変えた先の書籍もここにあることになる」

「えーと? どーいうこと」

「負けた未来だったら『この場で書籍読んで、もう手の打ちようがない』ことを知ってしまうってことだ」

「え? え? え? ど……どうするの? どーしたらいい?」


 あたふたとするが、別に手立てがあるわけでもない。


「安心シロ。オ前タチニハ読メナイダロウ。決マッタ人間シカ読ムコトガ出来ナイしすてむダ。私モ限ラレタ所シカ読ムコトハ許可サレテイナイ」

「誰が許可を出すんだ?」

「本自身ダ。信ジラレナイカモシレナイガ、本ニハ意志ガアル。彼ラノ許可ナクシテ読ムコトハ不可能ダ。ソシテ今、一番コノ図書館デ本ヲ読ムコトガデキルノガ……」

「ブロッサム……賢者ローロットとの力を受け継ぐ者か……」


 巨大な机に大きな黒い椅子。机には読み終えたのか、これから読むのか大量の書籍が高く積み上げられている。そこの椅子にチョコンと座っている人影が見える。桜色の髪に二本の三つ編み、それに丸眼鏡。身長は座っているから分かりにくいが、ドキサより若干高い程度だろう。セーラ服に似た服にローブを着ている。


 おそらく、彼女が『ブロッサム』なのだろう。

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