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ブラットラクト

 再びゴブリンだ!


「うっとおしい!!」


 ゼディスはロングソードで四体目のゴブリンを切り伏せる。ドキサも同じくらいの数を倒しているはずだ。

 霧の深い岩山に、やたらとゴブリンが出る。ひょっとしたら、このあたりにゴブリンの巣穴があるのかもしれない……本当にドワーフのラクーレ王国はあるのか不安になってくる。

 だいたい、ドワーフの王国がこの辺にあったとして、ゴブリンをこんなにのさばらせておくのだろうか?


 テレサの屋敷から出発して、転移魔法陣を使い、ユニクス王国の近くまで出た。

 この時は、まだエイスと行動を共にしていたのだが、しばらく進むとユニクス兵が進軍しているのが見えた。その場でエイスとは分かれる。

 エイスは一度その軍隊から情報を得てから、王都に向かうと言っていた。


 ゼディスとドキサはその兵士団が向かうであろう道を先回りして進んだ。

 遠目でもわかるほど激しい戦闘が行われていた。ドワーフと人間が闘っている。……少なくともそうとしか思えなかった。


「こんなに多くのドワーフがまだあの山に残っている?……考えられない……」


 ドキサは独り言なのかゼディスに話しかけているのかわからないほどの小声でその様子を見ていた。


「ドワーフたちは反撃の機会をうかがっていて、あの岩山に隠れていたんじゃないか? 普通に考えれば地の利はドワーフにあるだろ? 人間から隠れるだけなら余裕じゃないか?」

「可能性が無いとは言わないわ……ドワーフなら十分にユニクスの貴族から逃げ隠れられるでしょう。ただ、隠れるほど気長に事を構えていたということが考えにくいけど……」

「そこまで恨んでいれば? 確実に息の根を止めるために我慢していた……という考えだ」

「さぁ、わからないわ。私は生まれたときはユニクス王国で奴隷だったからね。とりあえず、あの岩山に登ってみましょう」


 そう言って登り始めたのが三日前。準備を怠っていれば遭難間違いなしの、大きい山だ。ドキサがいるおかげで迷うことも、足場の比較的良い場所も全て任せられる。


 ラクーレ王国を再興しそうな場所を探しているのだが中々見つからない。

 ドキサの考えでは横穴を掘り、巨大空洞を作っているのではないかと言っていた。あくまでも両親から受け継いだ知識とラー王国で得た知識の総合でしかないと言ってはいたが、妥当な線だろう。

 堂々とユニクス王国に見えるところに建国するとは思えない。どこから攻めてくるかわからない所に国をつくるだろう。相手は防戦一方になる。それに対し攻撃側は好きな時に攻撃でき、好きな時に休めるのだ。見えづらい霧の深い山に……さらに洞窟内に王国を作っているのだろう。

 ドワーフの石工の技術は他の人種の追随を許さないほど高度なモノだ。ユニクス王国の建築物は奴隷にしたドワーフたちに作らさせているほどだ。もし、ドワーフに石工や建築、細工などの技術がなければ奴隷にもせず、むやみに滅ぼされていただろう。


「しかし……」

「その割にはゴブリンが多い気はするわね。どう考えたって共存はできないんだから、この辺にはラクーレ王国は無いのかも……。もう少し、山の別の場所を探すべきかもしれないわ」


 そう言ってわずかに生えている草木の根元を確認している。何かあるのだろうか? レンジャーや獣人でもなければ動物の足跡など、そう簡単には見つからないだろうから、人がどちらに行ったとかはわかるまい。


「もう少し西回りに登ってみましょう」

「なんでだ?」

「石質が堀づらいのかもしれないわ。こう言ったことに詳しくはないから分からないけど、石が割れやすすぎるみたい。西の方なら岩の強度が掘るにはちょうどいいかも……自然の洞窟ならこの辺のような気もするんだけどねぇ」


 ちゃんとした理由があった。当てもなく彷徨っているのかと思ったが役立つな~とゼディスは感心する。ドンドランドでも同じようにわかるのだろうか?


「この辺の土地勘があるのか?」

「全然知らないわよ。なにせゴルラ隊長に助けられるまで、ユニクス王国の貴族の奴隷だったから……生まれたときからね。外に出たことも無かった。

 外に出たときは両親と一緒に貴族の『ドワーフ狩り』の遊びに付き合った時。『ドワーフ狩り』は所有しているドワーフ奴隷を飼い犬で追い詰めて矢で撃ち殺す遊びよ。武器も防具も与えられず追い立てられるだけ。場合によっては犬に噛み殺されることもあるわ。

 私はその時、偶然助けられたんだけどね~。両親はユニクスの貴族に矢を数十本打ち込まれて狩られたわ。

 彼らの『権利』はドワーフをどう使おうと構わない。むしろ両親はそこで死ねて良かったのかもしれないと思えるほど、過酷な生活……生活と呼べるかもわからなかったな~、今考えると……」

「饒舌だな」

「たまには……ね。不幸自慢をしたくなるのかね~。私らしくもない」


 ドキサは自分の過去を話したのはゴルラ中隊長とショコだけだった。ただ、この場所にいて、感傷的になっていたのかもしれない。いや本当はゼディスに聞いてもらいたかったのかもしれない。どっちでも良かった。過去を聞かれて答える気は無かったが、自分から言えたことでかえってすんなりと話せた気がする。


 ゼディスもドキサの話を深刻に受け止めていない感じが良かった。変に同情されても困る。今まで通りでいいのに変に意識されて行動されたら、何もかもうまくいかない気がした。

 それなら、何で話したのかもドキサ自身もわからない。ただ、ゼディスに知っておいてもらいたかったのかもしれないが、そうじゃないかもしれない……。


 突然、ゼディスの手がドキサの頭を撫で繰り回した。


「ちょ、ちょっとなにすんのよ」

「ん~。手を置くのにちょうどいい高さだったから……」

「私の頭はお前の手を置くための置物か!?」


 だが、ドキサもその手を払う気にはならなかった。なんとなく、心地よい。それ以上、言うことも無い。髪の毛がぐちゃぐちゃになってしまうが、ゼディスのさせたいようにさせておく。


 そんな髪を容赦なく撫で回すゼディスが岩山で何か発見した。


「おい」

「なによ?」


 黙って指さすゼディス。その指先には争っているような土煙と鉄が混じり合う甲高い音。誰かが闘っているがこの場所からだとかなり遠い。

 様子を探りながら、見つからないように近づく。

 どうやら、女性一人が複数に襲われている。が、ゼディスとドキサはどうするか思案しなければならなかった。


「どうする?」

「どうするって……まぁ、女性を助けるべきじゃない?」


 ドキサの言っていることは正しいと思うのだが釈然としない。いや、言っている本人のドキサも釈然としてはいない。

 襲っている方はゴブリンとコボルト……この山にはコボルトもいてゴブリンと共闘しているか……と思った。人数は十数匹。


 ここまでは問題ない。

 

ただ、問題は一人で闘っている女性。全身が赤っぽい肌で身長二m近く、角が生えていて、黒髪のロングのサラサラヘアーの美人……だが、オーガじゃね?バスターソードと盾を持っているが、服装は鉄の胸当てと皮のスカートくらいだ。


 ドキサが適当な判断を下す。


「考えてもしょうがない! とりあえず、女性を助けて情報を得て、そのあと女性と闘うか判断しましょう」


 ドキサは『考えてもしょうがない』が身上だ。今やるべきと判断したら、動いて結果が出てから考える。だが、この場合オーガの方が強敵なのだ。攻撃するべきはオーガかもしれないのだが……ゼディスも相手はオーガとはいえ美人なので、ドキサに賛成した。


 十数匹ならドキサ、ゼディス、オーガのパーティーなら退けることなど、苦ではないだろう。


「そこのオーガ! 助太刀するわ!」


 ドキサはオーガとゴブリン達の横から入っていく。確認の取りずらい場所から飛び出すのは得策ではない。横からなら認識しやすい。

 だが、オーガは仲間とは認識しなかった。


「チッ! 新手カ!」


 バスターソードを片手で扱いながら、ドキサに振り下ろす。

 ドキサは慌てて急ブレーキをかけつつ、横に回避した。


「話聞けよ!『助太刀に来た』って言ってんでしょ!」

「オ前タチハ、信用デキン」


 オーガはゴブリン達もドキサ達も近づけさせない。


「どーするよ」

「どーもこーもないわよ! 助けに来るんじゃなかった!」


 引き返そうにも、さらにゴブリン、コボルトがドキサ達を囲んでいる。オーガにも威嚇されている。


「気のせいか、ゴブリン達の数が増えてない?」


 そう、先ほどまで十数匹だった……いや、今現在も十数匹……オーガがすでに、十匹以上切り捨てているハズ……計算が合わない。


「どこからか、湧いて出てきてるんじゃない?」


 ドキサの斧でゴブリンを切り付けつつ、ゼディスに確認する。


「わからんなー。霧が深過ぎて、相手の正確な数がわからん」

「アンタじゃなく、ショコを連れてくるべきだったわ! 彼女なら鼻でわかったかもしれないじゃない!」

「そんなことないって! 意外と俺、役に立つぜ~」


 二匹目のコボルトを切りつけつつ、オーガの攻撃も回避する。オーガはこの期に及んで共闘する気はないらしい。


「オ前達、邪魔ダ! 先ニ片付ケテヤル!」


 かなり鋭い攻撃がドキサを襲う。だが、攻撃が来るとわかっていれば防ぐことはそれほど難しくない。斧でしっかりとバスターソードを受け止める。

 受けた衝撃でズルズルと押されたが、それだけだ。


「ヌウッ!」

「折角、友好的に出てきてやったのに、この恩知らずが!」


 今度はドキサがオーガに斧を振り下ろす。持ち上げても、オーガの頭までは届かない。

 それをオーガが盾で受け止めるが、それでも二歩、後退する。自らが引かされたことに舌打ちするオーガ。

 その隙をつくように、左右からゴブリンとコボルトが襲い掛かってくる。


「今ハ、オ前達ノ相手デハナイ!」

「邪魔よ! 下級魔風情が!」


 右をオーガが、左をドキサがゴブリン、コボルトの頭をかち割る。意外と良いコンビネーションじゃね? と思いながら、三匹目のゴブリンと闘うゼディス。

 それにしても、先ほどから数が一向に減らない。増えもしない……幻影関係か?


「キリが無いぞ。一旦引くべきだ!」


 ゼディスにしては珍しく、当たり前のことを言うが、ドキサもオーガも一歩も引けない状態になり、睨みあっている。


「ドウシタ。早ク逃ゲタラドウダ?」

「あんたをブッ倒してから考えるわよ!」


 オーガの安い挑発に簡単に乗るドキサ。撤退できない。

 このままここに居座るわけにもいかない。サッサとこの場を引き上げる方法をゼディスは使う。


 赤い『好意を持つ』魔力の矢をオーガに放つ。只の魔力受け渡し(トランスファー)

 オーガはその矢を盾で受け止めようとしたが、すり抜け胸に突き刺さり体内へと滑り込んでいく。何が起きたのかオーガは理解できない。

 急速に自分の感情が狂っていくのがわかる。危険を感じるがどうすることもできない。


「名前を考えてみた『ブラットラクト』……もうちょっと短い名前がいいかな?」

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