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ドワーフの王国

「何を言っているんですか!?」


 エトリックの反応は当然だとショコは思った。どれ一つとっても信じられる要素がない。

 まず第一にシルバーニ王女がここに居ること、二つ目『アルスの剣』がここにあること、三つ目、その剣がおられていること。四つ目、7魔将がいること。……簡単に言えば全部だ。


「信じる信じないはそちらの勝手ですが、他言無用な意味を多分にお考えください。そういう事情のある剣です。修復できるかできないかは『世界的』に重要なのはわかると思います」


 エトリックは唸る。

 たとえ嘘でも多額の金が巻き上げられるのは間違いない……いや、むしろ嘘の可能性が低い。シルバーニ王女の所在など、隠していたとしても蛇の道は蛇、商人同士のネットワークを使えば数週間でわかるだろう。

 とくに目の前のワードックの獣人は頭が切れる。そこまで計算ずくの説明のハズだ。

 そうなれば、国相手の商売を任される……これはもう、可能性ではない。なんとしてでも自分の店で修復したいとエトリックは考えた……が、ドワーフの工房長は一言でその夢を砕いた。


「無理じゃ!」

「ま、待って! 勝手に決めるな!」

「勝手も何も、まず触れることが出来ん」

「なっ!」


 エトリックは恐る恐る手を伸ばす……バチンッ! と指先に電気が走り、慌てて手を引っ込める。修復の前に触れることが出来ない。ますます『本物』のアルスの剣の可能性が高くなる。が、どうしようもない。

 その様子を見て、ドンドランドがため息を吐く。


「この街でおそらくここ以上の工房は無いじゃろう。鉄の匂いと熱気でなんとなくじゃが、この場所が一番いい所だと思っておるのじゃが……ここで無理となると、この街では修復は不可能じゃな」

「ですが、ここで不可能ということは他の街でも不可能といっても過言ではありませんぞ!」


 エトリックが慌てて食い下がる。だが、ドンドランドはアルスの剣を修復できるところに心当たりがある。


「ドワーフの王国」

「なるほど……ガイナなら確かに修復できるドワーフがいるかもしれんなぁ」


 工房長がドンドランドの言葉にドワーフの王国・ガイナを思い出したようだった。ただガイナ王国はココから遠いのと魔族の都市と化したエールーン王国の近くにある。


「ですが、おそらくガイナは魔族の手に落ちている可能性が高いのです」

「何故そのようなことを?」


 シルバがすかさず聞き返す。普通に考えれば商人であるエトリックが知るすべはないように思われる。だが、意外と理由は簡単だった。


「私どもの輸入先だからです」

「商品が入らなくなった……」

「そういうことです。それも、もう一ヶ月以上前から連絡なしにです」

「そうなると、もう一つのドワーフの王国しかなくなるわけじゃが……」


 工房長がこの大陸にあるもう一つのドワーフの王国を思い出す……が、ドンドランドがそれを否定した。


「その王国はユニクス王国に五十年以上前に滅ぼされておる。もう鍛冶師は……いや、まともに動けるドワーフは住んでおらんじゃろう」





 テレサの屋敷……現在はそう呼ぶことにしている。はじめは拠点と呼ぼうかと思ったが、テレサの屋敷だったのだから、そう呼ぶ方が自然である。

 が、それどころの状況ではなかった。

 初めはゼディスを散々攻め続けていたドキサとエイスだが、途中から話がこじれてきた。


「なんでゼディスがエイスと結婚しなきゃならないのよ! おかしいでしょ!」

「ドキサはゼディスが好きではないのだろう? なら、私がもらって何の不都合がある? ダークエルフに奪われるよりよっぽどましではないか?」


 ドキサの感情的な言動と正反対の冷静だがどこか常識の欠けるエイスの言動。

 ゼディスは口を挟まない……先程から、何度か挟んでみたものの、殴られるは精霊魔法を食らうわ、ロクなことがない。

 神官であるシンシスに傷を治してもらおうかと思ったが『ゼディスさんも神官ですよね』とやんわりと断られた……いや、やんわりではない。その笑顔の裏には『自分で蒔いた種だ』的なものが含まれていた。さすが勇者、想像以上に怖い。ゼディスのやり方に賛同してくれたが諸手を上げてではないことが伺える。


「そもそも、なんでエイスが独占するつもりなんだ!」

「では、ドキサが独占したいんですか?」

「そ、それは……」


 口籠るドキサ。本心で言えば独占したい。だが、この心は魔力によって植え付けられたものであって本当の幸せではないし、だいたい素直に『好き』だの言える性格ではない。


「私は独占したいですが、それは公平さや、和平的問題から上手くいかないと思っています。ですから、みんなで平等にゼディスを所有するべきではないかと思います」


 所有ときたか……もはや、ゼディスの意志は関係ないらしい。


「ま……まぁ、私はどうでもいいけど、みんなで平等にゼディスを所有した方がいいのは確かね」

「ドキサは所有しなくてもいいと?」

「なんでよ!?」

「いましがた『自分はどうでもいい』と言ったばかりではないですか。人数が少なければ独占できる時間は増えますから、辞退していただけるならそれに越したことはないです」

「そ……『それはそれ、これはこれ』よ! パーティー内で不平等があると問題になるでしょ」

「あらあら、そうしますと、ゼディスさんの所有権は私にもでてくるわけですね~」


 シンシスはわかっていて、話をややこしくしようとしているだろう……。いや、平等性の観点から実際にそう思っているのかもしれない。ゼディスとのみ相談したいことがあるかもしれない。そういった時にはシンシスに所有権があると便利ではある……もう、所有されること前提だが……。


「では、勇者は7人の予定ですので、一人一日と考えればよろしいのではないでしょうか?」

「まて、ダークエルフはどうする?」

「敵ですからね~」

「あと、他の女性の7魔将にも会わせるみたいなことを言っていたぞ?」

「少なくとも、もう一人は増えそうですね……」

「九人となるとややこしいですね~」


 もしかしたら、グレン王国女王、王女も入るのでは……とゼディスは思ったが黙っておく。その調子で行くと、娼婦の館とか大変なことになってきそうなので……。


 テレサが呼び鈴を鳴らす。テレサは話すことが出来ないから注目してもらうためのモノだ。

 絵画の中のテレサに目をやると『三人が慌てて帰ってきました』とのこと。

 ショコ達が帰って来るのはわかる……帰ってこなかったら心配だ……ただ『慌てて』ということが気になる。もう7魔将がきたのかとも思ったがそれなら『テレサの屋敷』に襲撃してきそうだ。一応、急襲には備えてある。

 ドキサとエイスが言い争っていたこの部屋の扉が開く。テレサが案内しているので一直線でいる場所がわかるのだ。テレサ便利だな~。

 扉が開け放たれ、ドンドランドは開口一番叫んでいた。


「大変じゃ! ラクーレがユニクス王国と戦争しておるそうじゃ!」

「?」


 瞬時には理解できなかった。ラクーレ……ゼディスの記憶にない地名だ。が、しばらくドキサとエイスが考えていると、同時に口を開く。


「ドワーフのラクーレ王国!」


 ユニクス王国に滅亡させられたドワーフの王国。

 そこにいたドワーフは全員、奴隷としてユニクス王国が引きつれていった。それに反発したのがラー王国でドワーフの解放を望んで始めたのが今の戦争の基礎となっているらしい。とはいっても戦争が始まったのは百年前の出来事、ドワーフの王国が滅んだのは五十年くらい前のことだ。正確な出来事はわからなくなっている。

 ユニクスによる記述では、ドワーフたちがユニクスの王を殺したことが原因らしい。その王の息子がすぐに即位しドワーフと闘ったとか。そして現在の王はその孫にあたる。


「そうなんです! じつは、エトリックさんの武防具店にシルバさんの剣を直せるか頼んでみたところ、直せるのは、ドワーフ王国しかないとなりまして……」

「ガイナ王国かラクーレ王国しかない」


 ショコの言葉にドキサがすぐに反応する。その答えを裏付けるようにショコが頷き話を続ける。


「しかし、ガイナ王国は現在、魔族と交戦中じゃないかということ、そしてラクーレは滅んでいるはず……だったのですが」

「なにがあった」


 国内状況が気になるのかエイスがすぐに続きを促す。


「『賢者ローロットの力を受け継ぐ者』が現れ、ラクーレ王国を再興したらしいんです」

「待て、いや待て!」


 エイスが混乱する。頭を抑え、自分の中で今の状況を整理し質問をまとめる。


「『賢者ローロットの力を受け継ぐ者』はドワーフなのか? それに、もうあの王国にはドワーフはいないのではないか?」


 その問いに答えるのはシルバ。緊急を要していることはわかっている。


「詳しいことは全て不明です。エトリックさんの話も最近入った情報なのでいつから交戦中になっているのかもわかりませんし、本物の『賢者ローロットの力を受け継ぐ者』なのかもわかりません。ドワーフたちについてもどこにいたのかわかりません。私はとりあえず、ラー王国にいったん戻り状況の確認をします」


 ここで久しぶりにゼディスの発言権。


「ならシルバはショコとラー王国を、俺とドキサとエイスでユニクス王国に……ドンドランドとシンシスはテレサとともに留守番を頼む」


 テレサは『任せてください!』とスケッチブックに書いている。よほどのことがない限りテレサに任せておいて大丈夫だろう。ドンドランドとシンシスは7魔将の動向に注視してもらうことにする。

 ただ、ドキサは猛烈に反対した。


「絶っぇっぇ対いっぃ、ユニクスなんて行きたくないっぃ!! あそこの住民を見たら皆殺しにしちゃうわよ!」

「ゼディス、ドキサは半分は本気だろう。私もドキサを連れていくことには賛同できん」

「なら、ラクーレ王国に行く。あちらの状況も気になる」

「そうなると、今度は私の方が邪魔になるだろう」

「パーティー編成のやり直しか……」

「いや、ドキサとゼディスはラクーレへ。私はユニクスへ」

「一人だと大変じゃないか? シンシスあたりが一緒の方が……」

「問題ない。ユニクスなら私一人の方が行動しやすい。勝手知ったる~という奴だ」


 少々心配ではあるがエイスは元々ユニクス王国の将軍だ。確かに一人の方が国の中心まで入り込めるかもしれない。シンシスなどがいたら、そういかなくなる可能性は重々考えられる。

 ラクーレ王国の状況はわからないので、もう少しこっちに人数を割いておいた方がいいかとも思ったがドキサが先に断りをいれる。


「ラクーレ王国が本当に復興しているかわからないんだから、大人数で行く必要はないわ。確認が最重要なわけだし、争うわけでもない」


 主な目的はラクーレ王国が本当に復興しているかがポイントだ。それと『賢者ローロットの力を受け継ぐ者』。それさえ確認できればいいのだから、これで問題ないかもしれない。


「あまり考えていてもしかたありませんわ~。準備をしたら早速、出発しましょう」


 シンシスがパンパンと手を叩き、全員に用意を急がせた。

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