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洞窟へ向かって・・・

翌朝、娼婦の館、1階……オーナーのオレンスの部屋。


オレンスはゼディスの返り討ちに遭った……。


(私…もう、だめ…)


自分のテクニックで何人もの男を貢がせ、骨抜きにし、場合によっては破滅させもした。

娼婦の中では最高級のテクニックと美貌を持っていると、自他ともに認められていたハズだった。

そんなオレンスがゼディスに惚れてしまっていた。


「ねぇ、ゼディスさまぁ~♡ 私を愛人にしてくれませんかぁ。

面倒なことなんて望みませんから~。お金も情報も全てゼディス様に差し上げますぅ」


ゼディスの顔を見ているだけで甘え声になってしまう。

もう、オレンスはゼディスのためなら何でもしてしまうだろう。

なにせ、昨晩は一発目でオレンスは撃沈してしまったのだから……。


「いや、これからゴブリン退治だ……やることはいろいろあるんでね。

情報は仕入れといてもらうと助かるよ。仕事ついでにでも頼んでいいかな?

良い情報にはそれなりの金額を出す」

「そんな! ゼディス様からお金なんて駄目ですわ! 良い情報が遭ったら私を可愛がっていただければそれで充分です」


ゼディスの着替えを手伝いながら、オレンスは次に「いつ会えるのか」とか「冒険者などしなくとも自分がお金を払う」とか、色々、引きとめようとしていた。

「またそのうち来る」とだけ言ってゼディスは娼婦の館「ナイトバタフライ」を出た……。


(こんな店の名前だったのか…)


店の名前など気にしていなかったが、覚えておかないと次に情報を得られないかもしれない。

冒険に失敗して命を落とさなかったらだが……いや、命を落としそうなところなど山ほどある。





冒険者ギルドには午前中に着く。

ドンドランドもいる。


「早いな」

「おう、ゼディス……お前さんは昨日は楽しんだか?」

「うーん……客がいっぱいで……」

「ワシん所もそうだった……

傭兵(アイツ)ら次の仕事を探す前に娼婦の館に飛んでいきやがったみたいだな」


ガッカリといった感じで肩を落としている。

「客がいっぱいで」しか言ってないが、ドンドランドが納得したならそれでいいだろう。

とりあえずは今の仕事が大切だ。受付まで行く。


「あぁ、昨日の……ちょっと待ってろ。同行人がさっき来たところだ。呼んでくっから」


昨日と同じ受付のおっさんが出ていく。

受け付けは、何人かいるので一人くらい外れたところで問題はない。

だが、どうせなら、かわいい娘の受付がよかったなーと考えるのは仕方のないことだろう。

おっさんが戻ってくると同行人が2人やってきた。


「お前たちか……」


ドワーフっ娘がため息を吐く……ドキサだ。

当然もう一人は、ワードック、ショコ……。


「……どういうことだ?」


ドンドランドはなんで、また彼女たちに会ったのか理解ができないが、ゼディスの方は情報を仕入れていたのでなんとなく予想がついた。

それよりも先にドキサの方が口を開く。


「とりあえず、移動しながら話そう」


昨日より多い冒険者ギルドから4人は出ることにする。

遊びまわっていた連中が今日になって仕事を探しに来ているのかもしれない。

また、明日の方が込み合う可能性もある……。

戦争が終結したわけではないし、事実を知らない傭兵はすぐにでも、仕事にありつけると思っている者も少なからずいる。


ギルドから出ると小さな幌馬車が止まっている。


「はーい、みなさん、後ろに乗ってくださーい」


ショコが3人を後ろに誘導する。

どうやら、馬車はショコが運転するらしい。

中には冒険に必要なロープやランタンなどの簡単な道具と少ないが保存食もある。

「はっ」とショコが馬を歩かせる……。

馬を歩かせると言っても当然、人が歩くよりも遥かに速い。

正規兵として、これくらいのことは当然できるのだろうと、ゼディスとドンドランドは思っていたが、たまに外から、


「あわわわ……そっちじゃないですぅ。もっと、こう身体を捻って……」


などという不安を掻き立てるような言葉が幌にまで聞こえてくる。

この調子でちゃんと目的地の洞窟まで行けるのか……という疑問は置いておく。

なんとか町から馬車は出たようだったので大丈夫のはずだ。


町の門をくぐるとすぐに、ドンドランドが口を開いた。

先程から気になっていたのだろうが、街中で人の耳があるところで質問をすることは憚られていたのだろう。


「で……なんで正規兵が同行人なんじゃ? 普通に考えれば正規兵が出てくるなら冒険者など雇わねばいいし、そもそもゴブリン如きの同行人としては正規兵が2人もついてくるとはどうなっておる?」


ゴブリンは最下層の魔族に位置する。

なり立ての冒険者でも1対1ならまず負けることはない。

というか村人でも倒さずとも追い返せることのある魔族だ。

知能も低く冒険者にとっては小手調べ的存在で正規軍が出てくるような連中ではない。


ドンドランドの問いにゼディスが答える。


「魔族の動きがオカシイらしい。なんでもラーとユニクスの戦争中……ってーか、ついこの間だな、ラーの正規軍がゴブリン達に襲撃されたらしい」

「襲撃じゃと? 正規軍なんて何万もいるのに、あの臆病なゴブリンどもが襲うのか?」

「当然、難なく追い払ったらしいが……」

「きな臭いってーので冒険者ギルドに頼んで正規兵が同行人ってことね。

ユニクス王国が絡んでいるのか……ゴブリンの単独か……魔族が何か企んでいるのか。それを確認するのが私たちの役目ってわけよ」


「このことは内密だ」と付け加える。

当然、正規軍がゴブリンに襲われたなど知られたらいい笑いものだ。

撃退したとはいえ、ゴブリン達に舐められているんじゃないかと国民や他国に思われてしまう。


ドンドランドは顎髭を撫で思案してから口を開く。


「千年前の魔族との大戦……魔将大戦と関わりがあると睨んでいるのか?」


千年前、魔物の軍団と人類と大きな大戦があった。

その時にほとんどの文明は崩壊している。

建物や書物が破壊や燃やされたりして失われている。

そのため、正確にその時の出来事を知っているのは一部の魔族とエルフ、ワードラゴンのみである。


「わからないわ。ただウチの中隊長は第2次魔将大戦になるかもって思ってるみたいだけど……」

「あの、おっさん、相変わらずぶん殴るのか?」

「ゴルラ中隊長? それが趣味みたいなものだからね」

「いや、その趣味はいかんだろ!?」

「それは本人に忠告してあげて……この前、軍規を乱したって……王女様をぶん殴ってたわ」


頭を抱えながらドキサがため息を吐く。


「だ……大丈夫だったのか?」

「そんなもんダメに決まってるでしょ。大問題よ。あの王女様じゃなかったら……」

「なんじゃ? その王女様は豪傑なのか?」

「ある意味ね……家臣たちがゴルラ中隊長を処分しようとしたら王女様が止めて『軍旗を乱した自分が悪い。彼は不問とする』って家臣を連れて、その場をあとにしたぐらいだから……」


髪を書き上げ、王女の物まねをしながら語る。

しかも王女は、そのあと中隊長にそれなりの褒美を渡したとかで軍内の規則が強化されてしまったらしい。

この前呼ばれた時、わずかに遅れただけでぶん殴られたらしいが、誰もかれもがそれが当然という感じになりつつあると、ガックリと肩を落としていた。

彼女自身、どちらかと言えば規則にお堅い方なのだがそれに輪をかけて……と言うことなのだろう。


「しかし、今回の戦争に王女様がでていたのか?」

「まぁ、先頭の方にいるから傭兵や末端の兵士じゃあまり顔を会わすことはないんじゃないかしら?

噂だけど……魔将大戦の勇者アルスの生まれ変わりだとか……」

「7人の勇者のうちの一人……だっけ?」

「お前さん。それくらい覚えておいてもいいんじゃないか?

アルスといえばラー王家の祖先で魔将軍を打ち破った立役者。魔法も剣も使え、7人の勇者のリーダーだったという話だ」

「男……だったよな? 生まれ変わりは女でもいいんだ……」

「そんなことは知らないわよ。別に女でも男でもどっちでもいいんじゃない?

実力さえ備わっていればいいんだし……私は見てないけど魔法も剣も使えるらしいわよ?」


魔法と剣を使うとは至難の業なのだ……

精霊魔法、通常魔法は金属との相性が悪く金属の剣や鎧を身に着けていると発動しづらい。

普通の人間では同時に使用することはできず、鎧は皮、剣を鞘に納めるなどすれば可能ではある。

杖などの媒体があると魔法は使いやすくなる……魔力の流れがいいらしい。

ただし、これらに当てはまらないのが神聖魔法である。

金属を装備していようがいまいが、バンバン使える……神に認められれば……。

神の力の代行者だからだ……と言う話だが真実はわからない。


半日くらい馬車が進んだだろうか……。

うっそうとした茂みを進み、しばらくするとゆっくりと止まる。


「到着ですよ。みなさ~ん」


後を振り返り、ショコがみんなにゴブリン退治の始まりを知らせる。

みんな、降りると剣や斧を装備し、洞窟に入る必要な道具を準備する。


(アルスの生まれ変わりか……)


ゼディスはゴブリンとは別のことを考えていた。王女の姿を見てはいなかったが気がかりだった。

ゼディスは見た目は只の人間だったが……実は千年以上生きている。

そう、前の魔将大戦を知っているのだ……。


(剣神アルス……とか言われていたなーあの男は……。

7人……ほとんど、男だったと記憶しているが……)







千年前にさかのぼる。


魔王と呼ばれる存在は7人の魔族の将軍を引き連れていた。

7魔将……魔将大戦の名前の由来だ。


中級魔族1体でも正規兵10人分くらいある強さだった。

魔族にも階級があり、その階級は大体が強さを表すものだった。

一段階、階級が上がれば強さは一桁変わっていくような感覚だ……。


上級魔族になると勇者の血を引く者しか倒せないとされていた。

どんな魔法も剣も傷つけることが出来ず、片手を振るうだけで命が刈り取られていく……。


7人の魔将軍に対して7人の勇者……必然に思えた。


1対1で勇者たちは辛くも魔将軍を倒した。

その時には町も人も9割を失うこととなっていたが……。


最後の魔王はさらに強かった。

そんなに強い魔族を傷ついた勇者たちが闘う。

勝ち目はなかった……そして、実際、彼らは魔王には勝てなかったのだから……。

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