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予定変更して来ちゃいました

 朝のこない夜は無い……朝なんて来なければいいのに……。そんなゼディスの思いをよそにベルはなる。当然この世界に目覚まし時計など洒落たモノはない。鳴っているのはメイドなどを呼ぶための呼び鈴。

 ベッドサイドテーブルに置いてあった呼び鈴がリンリン勝手になりまくっている。もちろん鳴らしているのは霊体・テレサのポルターガイスト能力。

 ゼディスは布団をかぶって音を退避。スケッチブックに大きな文字で『大至急、起きてください!』と書かれているが当然、見る気もない。

 とうとう、テレサが怒って呼び鈴で布団をリンリン叩く。それでもゼディスが頑張っていると布団を剥ぎ取られ、直接、脳天に呼び鈴で殴られそうになる。


「わかった! 降参だ……。まったく、逃げも隠れもしませんよ」


 『昨日は逃げもしましたし、隠れもしました』とスケッチブック……脱走を図ったがすぐに見つかり、屋敷のタンスとかに隠れても無駄だった。タンスの中は見えないらしいが、タンスに入るところは見られている。

 『そんなことより大変なんです! 至急、玄関の大広間に来てください』とスケッチブックを置いていくと部屋から出ていった。ゼディスの着替えのためだ。もっとも、絵から出ていっただけで監視されているようなものなので、逃げ出す手段はないんだけれど……。


「なんで、玄関?」


 どう考えてもおかしい。会議室や食堂ならわかる。説明をするのに玄関の大広間とは椅子もないところで立ち話か?そんな疑問を持っても始まらない。サッサと着替えて、玄関へと向かっていくと殺気立っている。

 まさか、シンシスがすでにピンクの魔力について話てしまったのか……と思うが、どうもそうではない。誰か来ている。だから『至急、来てください』……か、と納得する。


 階段を下り、玄関までくるとお客が来ていた。

 いや、お客というには少々、凶悪かつ険悪な雰囲気のダークエルフ。


「な……んでお前が!?」

「やはりここに居たか」


 美人で巨乳のダークエルフ・ルリアスが玄関で腕を組み、ドキサ達を威嚇しながら立っていた。仲良くしにきたという雰囲気は微塵も感じられない。

 ゼディスが来たことで屋敷にいるメンバーは全員そろう。どうやらテレサが呼び鈴で殴ってまで起こそうとしていたのはルリアスが原因だったようだ。

 エイスとシルバはルリアスの魔力を『視て』怯んでいる。自分たちと比べると圧倒的な黒い魔力が全身を覆っている。臨戦態勢でこの場に留まり、全く隙を見せていない。

 ドキサ、ショコ、ドンドランドと会った洞窟のときよりも、さらに大きい魔力量だ。あのときは油断していた。そこまで魔力を出さずとも問題ないと思っていたからだ。ただ今回は違う。前回、このメンバーに苦汁を舐めさせられている……ことではなく、シンシス一人に向けて、魔力を放っているのだ。

 シンシスの方は涼しい顔をして、いつも通りニッコリしている。神経が図太いのか、そういう仮面なのか本当に余裕なのか……判断に迷う所ではある。

 テレサが一番怯えている。戦闘要員ではないので当たり前だ。しかもキセイオンより上位の魔族……一つ間違えば消滅されかねない。だからと言ってこの屋敷から離れることはできないのだ。推移を見守るほかない。

 口火を切ったのは我がパーティーの切り込み役ともいえるドキサだ。


「なんのようかしら? 朝食に招いた覚えはないけど?」

「私も呼ばれた覚えはないがな。安心しろ、争いに来たわけじゃぁない。そちらが()る気じゃぁなければな……」


 ルリアスが気にしているのはシンシスだけ……。油断さえしなければ、他は物の数ではないのだろう。それに比べ相変わらず、眉一つ動かさないシンシス。気を緩めずルリアスはここに来た目的を続けて話す。


「そこの男を迎えに来ただけだ」

「……」

「……」

「……」

「……なにを言っているんだ?」


 理解できずエイスが聞きなおす。いや、理解はしている。『迎えに来た』に他の意味などない。が、ルリアスとゼディスの接点がわからない。一度、会った以外に何かあるのかと勘ぐってしまう。


「まっ、まぁ、お前らにはわかるまいが、その男はその……なんだ」


 ルリアスの歯切れが急に悪くなる。それもそのはず、ルリアス自身あまり考えずにゼディスに会いに来てしまっていた。本来はバンパイアロード・キセイオンの様子を見に来たのだが、すでに倒されていることを監視させていた部下から聞いた。そして、その話を聞いたルリアスはゼディス達が倒したのだと思ったら、いてもたってもいられなくなってしまったのだ。まさか自分の感情がここまで抑えられなくなっていたとは気付きもしなかった。


「我々、魔族が貰い受ける!」

「なんでだよ!」


 思わずドキサが7魔将相手にツッコむ。


「『なんで』って、言われても……」


 そこまでは考えていないルリアス……完全その場その場の思い付き。だんだん、言い訳を考えるのも面倒になってくる。


「その男は魔族とし私の夫とするためだ。わかったら、さっさと渡してもらおうか」


 顔を真っ赤にしながら開き直った。


「冗ぅぅーぉ談じゃない!!」

「そんなこと絶対に許しません!」

「渡せるわけがなかろう!」

「おとなしく、帰ってもらおうか!」


 ドキサ、ショコ、シルバ、エイスが同時に武器を構える。ドンドランドは『ゼディスを渡した方が丸く収まりそうだ』と思ったが、口出ししないで見ている。だが、見ているだけの呑気な雰囲気では一気に無くなる。

 ルリアスは話し合いは無用、と言わんばかりに両手を前に出し手の平が呪文を唱える。その呪文を唱える速度が尋常じゃない。四人が呆気にとられた時には、すでに唱え終わっていた。


火炎の嵐(フレイムストーム)!」

炎の防御ファイアープロテクション!」


 それを先読みしていたのはシンシス。僅差だが炎の防御ファイアープロテクションの方が早かった。物凄い炎が屋敷を包むが、失われたのは玄関の大広間だけで済んだ。炎の防御ファイアープロテクションを壁のようにしてルリアスを囲んでいたのだ。今現在、玄関広間は焼け野原だ。

 テレサはガクガク、ブルブルである。シンシスが遅かったら屋敷は全焼を免れない威力、いや、このあたり一帯が塵一つ残らず焼き払われていただろう。当然だがルリアスも無傷……。


「なかなか、面白いじゃないか」

「あらあら、これ以上はやめた方がいいんじゃないかしら?」

「私は一向に構わんぞ、この国の人間が何人死のうがどうでもいいことだ」

「真っ先にゼディスさんが死んじゃうかもしれませんよ」


 ルリアスは慌てて、ゼディスの方を見る。炎の防御ファイアープロテクションのおかげで大丈夫だった。


「ゼディスという名前か……いい名前だ」


 ウットリとゼディスを見る。いましがた呪文に巻き込んで殺しそうになったばかりなのだが、名前を初めて知って感動しているようだ。

 ここにきてようやくゼディスが喋れる。


「悪いが俺はお前と一緒に行かんぞ?」

「な!? 何故だ、何が不満だ! こんなチンチクリンや獣なんかより私の方が絶対にいいだろう!」


 ドワーフっ娘とワードックっ娘を思いっきり指さし、納得いかないとばかりに不満を漏らす。


「あぁ~ん! 誰が『チンチクリン』だぁ~ぁ?」

「獣の何がイケナイというんですか! 超ツヤツヤな毛並みの良さもわからないダークエルフのくせに!」


 焼け野原でドキサもショコも相手が7魔将だということも忘れ睨み付ける。

 ルリアスにドンドランドがもっともなことを言う。


「お前さん、いましがたゼディス諸共、我々を()ろうとしたじゃろ? 流石のゼディスでも、自ら意味もなく死の危険に身を置かんじゃろぅ」

「そ……それは、その……愛し合っていれば乗り越えられる試練だと考えれば……」


 多少、さっきのことは反省しているようだが、自分のせいではないと言いたいらしい。が、そんなことはどうでもいいと思ったのかシルバは別のところを怒鳴り付ける。


「誰と誰が『愛し合って』いるんですか! どう考えてもアナタの一方的な()片思いです。そもそもゼディスさんにはダークエルフなどという真っ黒な魔族なんて相応しくありません!」

「な・ん・だ・と。貴様、気高いダークエルフを愚弄するつもりか……灰も残さんほど焼死したいらしいな」

「あらあら、また、ゼディスさんを巻き込むつもりですか?」

「ぐっ、ぬっ!!」


 極大精霊魔法を唱えようとして押し留まる。ゼディスにこれ以上、悪印象を与えるのが得策でないことくらいルリアスでもわかっている。

 押し留まったルリアスに対しエイスが疑問を持つ。


「何故、そこまでゼディスに肩入れする? 仮にも7魔将だろ、種馬が欲しいなら男などいくらでも捕まえられるだろう。彼に固執する理由は何だ?」

「そ……そんなの……好きだからに……決まってるじゃないか」

「いや、おかしいだろ! コイツのどこが良いんだ! ハッキリ言っていいところなんてないぞ!」


 酷い言い様はドキサの専売特許。だが、そう言われてルリアスはゼディスの良いところを探す……何がそんなに良くて、この男に執着しているんだろう……と。


「……。ないな~」

「ほら見ろ!」

「待て待て! 無いこと無いだろ! 俺のいいとこ、絶対あるって!」

「まぁ、いいじゃないか。無くても私は気にしないぞ」

「いや、おかしいと思えよ!」


 ゼディスは凹み、ドキサがツッコミ、ルリアスはカラカラと笑っている。


「好きな理由なんてどうでもいいだろう。いいところが無くても好きなモノは仕方ない。私の夫としてエールーン王国に連れて行く!」

「なんで、そんなに飛躍するんですか! だいたい、ゼディス様は私の方が先に目を付けていたんです! アナタみたいなポッと出のダークエルフになんて渡しません!」

「待ちなさい、ショコ! 会ったのは私たちが同時でしょ!」

「ゼディスさんには姉を救ってもらった恩義もあります。ここは王家に納まるのが良いかと思うのです」

「ふむ、お困りなら、私の国に来たらどうだ? 私自らもてなしてやろう」


 ドンドランドは闘う雰囲気でないことを察し、武器を片付け座り込む。別の意味で戦いか……と、思い直す。俗に言う修羅場だ。しかも戦闘力的に実力者ぞろい、答えを間違えれば血の雨必至! 昨日より状態悪化しているのではないだろうかと、のほほんと今の状況を眺める。ゼディスは勝手に流れていく状況に四苦八苦しているが、かける言葉はないようだ……『いや、ワシもない』とドンドランドは心で叫ぶ。


「あらあら、皆さん、お困りですか? なぜ、みなさんがゼディスさんを好きになっているかご本人から説明してもらえばいいんじゃないでしょうか?」

「うぉい! シンシス!?」


 この状況で『ピンクの魔力』の説明ですか!? 鬼か!? シンシス!?……昨日の状況でも、今朝、起きたくなかったのに!


「ふむ、私は興味あるな」

「私もあるわ」

「私もです」

「昨日、そーいう約束でしたね」

「食堂を会議室代わりに使おう。まずは、ゼディスから入れ。逃げないようにな」


 全員の注目を浴びながらゼディスは食堂に押し込められていく。

 順にルリアス、ドキサ、ショコ、シルバ、エイス、シンシスの順で入って行く。


 ドンドランドは絵に対しノックをする。


「もう大丈夫じゃろ……屋敷を元に戻しておいてくれ。まぁ、駄目だったときはワシらも巻揉まれて死んどるから安心しろ」


 『ルリアスと闘う』ということが言いたかったのだろうが、テレサを怯えさせるだけの結果だったことはドンドランドは気付いていなかった。

 諦めたテレサは壊れた屋敷部分を修復していった。食堂のを修羅場を気にしながら……怖いが修羅場の雰囲気はテレサをドキドキさせていた。

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