後始末
「作戦は考えてあります。内容は次のように行きます。ある程度、私がバシバシッ片付けます。あとはエイスさんがバシバシッとお願いしますね」
「それ、作戦!?」
シンシスが呪文を唱えながら、先に走っていく。正面から棺桶を切り離した騎兵隊が突っ込んでくる。
「聖なる光!」
「ぐわっぁ!!」
直径五mくらいの巨大な光の球がグレン兵団の真ん中に現れ、兵士たちに明かりによる衝撃を与えた。それだけで効果は絶大だった。何が起こったかわからない兵士たちだったが、およそ半数は催眠術が解けたような感じだ。邪悪を退ける光……催眠術を解く効果もあるのかもしれない。
間髪入れずエイスが風の精霊魔法『風の反響』で声を全体に届くようにする。
「アナタたちは催眠術で操られていました。今も仲間が操られているかもしれません! 衝撃を与えれば目覚めるはずです!」
目の覚めた兵士たちは、その声に戸惑ったが仲間の兵士の異常な行動も『催眠術かもしれない』と思うにはそう時間はかからなかった。仲間を殴り催眠術を解いていく。エイスも一人、二人は相手にするが、ほとんど見ているだけで十分だった。気にすることはやり過ぎないようにすることくらいだ。
シンシスの放った聖なる光は、ただ明かりを点けるだけではない。アンデット系の体を焼く効果もある。
棺桶から一斉に出てきたレッサーバンパイア…怯ませるどころか聖なる光に近いレッサーデイモンはそれだけで消滅する。
「悪霊撃退!」
まるで、シンシスを中心に衝撃はが出ているようにレッサーバンパイアは全部崩れていく。
これだけで、ほとんど終わった。
「……すごい」
一緒に来た緑髪のエルフは呆気にとられていた。時間にしたら十数分ほど……。
「申し訳ありませんが、ゴートン国王様にご連絡をお願いします。それと出来ればで構いませんが、グレン兵たちの治療をお願いします。大して傷ついてはいないと思うので、事情を説明すれば明日にでも帰還させられると思いますので……」
エイスの方は、まだ催眠術にかかっている兵を探している。兵士同士でも確認しているので見逃していることはないだろう。
緑髪のエルフも驚いているが、エイスの方がさらに驚いている。
(まさに一瞬だな……勇者の力とはここまで絶対的なのか……)
自分も勇者の力を得たらこうなるのだろうか、と疑問に思う。使いこなせる自信はないし、こうなるとも思えない。
「大丈夫ですよ」
「大丈夫なモノか……」
シンシスの言葉に呆れる。心の中まで読めるのかと思ったが、顔に出ていたのだろうとため息を吐く。よほど動揺しているのだと頭を掻く。
ふと、今まで使えなかった『視る』勇者の力が使えたか気になった。
「なぜ、勇者の力? 悪意を視ることができたんだ」
「『自分でも試したことがあるのに……』という意味ですね。信仰心に似ているモノが必要なんですよ。勇者と認識してくれ信じてくれるものがいて、初めて勇者なのです。一人で勇者になれるものは……いるにはいますが、大抵はいません。シルバさんだけ悪意を視れたのは……」
「国民が『勇者アルスの生まれ変わりと信じた』から……ということか。面倒な力だな。自分から宣伝して回らなきゃならないのか……」
「宣伝しても信じてもらえませんよ。力を示すことです。ですから、同族が意識すると力が宿っていることを確認することもできるのです。より信用しやすいようにという配慮なんでしょう。この辺の説明はグレン王国に戻った時、拠点となる場所が出来ていたらお話しします」
小一時間ほど経つと緑髪のエルフの他に百人ほどのエルフが来る。それぞれがグレン兵を世界樹の休憩所へと案内していく。そのあいだグレン兵はデレデレだった。エルフは美人が多いし、今の闘いで傷ついた戦士などほとんどいないため、口の軽い者もいる。要はナンパしている者もいる。
エルフの数人はレッサーバンパイアの他に魔物が潜んでいないか、巡回に出る。グレン兵が同行を申し出るが丁寧に断る。まだ催眠術にかかっている可能性もあるから、調べてからにしろ……と遠回しに言っているのだ。
「ようやく、帰れそうですね」
「しかし、コイツラが来なかったらいつ帰ったらよかったんだ、私たちは……」
「向こうが片付いたら連絡をよこす予定でしょう……ゼディスさんが考えていれば……」
「考えていないだろうな」
「ですね~」
この日、一泊してグレン兵の様子を確認して、ゴートン王に感謝され『困ったことがあったら……』のくだりがあり帰還する。
ゼディスがいなくてよかったと思う。エルフに手を付けそうだ。いや、付ける、間違いない。ここには近づけさせない方がいいだろうとエイスは思った。
キセイオンは跡形もなくなっていた。
ゼディスは魔力が付加してある手袋をはめる。
『魔瘴気の指輪』は残ったがレプリカだ。使い過ぎると壊れる。さきほども大量に魔瘴気を放っていたから使えて一~二回程度だろう。ひょっとしたら次に使おうとしたら壊れるかもしれない。今解き放たれている魔瘴気を指輪に戻しておく。この時壊れるかとも思ったが大丈夫でした~。
壊しておこうか取っておくか迷うところだが、回収しておくことにする。シンシスあたりなら上手く使用できるかもしれない。ドキサ辺りは怪しいので彼女には渡せん!
キセイオンも倒したし、お腹も減ったので帰ろうとすると、みんな寄ってくる。『どうなった』だの『倒したのか』など……。説明が必要か……適当に誤魔化さないとな……。
「俺の剣が光り輝き、ババーンとカッコよく倒しました」
体が赤く光る……まだ、効果あるのかよ!?
「カッコよくないけど、キセイオンは倒しました! 復活もしません! これならいいだろ」
『よし!』と言うように体が青白く発光する。そこでようやく歓喜の声が上がる。
ゼディスは宮廷魔術師のところに行く。
「すみません。もう勘弁してください。虚偽判別魔法を解除してください……」
「そろそろ、効果時間が切れるから我慢してください」
ガンガル将軍に一言断ってさっさと帰ることにする。今日は宴どころではないだろう。城の修理にもしばらくかかるだろうし。適当な説明をして……赤くならないよう注意しつつ……『真珠の踊り子亭』に帰ることにした。
キセイオンを倒すより、虚偽判別魔法の方が疲れる。
それから数日後、久しぶりに全員そろう。『真珠の踊り子亭』から新居に向かう最中。
互いに起こったことを大まかに説明し合う。
着いた場所は例の『人喰い屋敷』。だが、完全な新築だった。しかも最新のデザインが取り入れられている。
エイスが屋敷のデザインも立地も大きさも感心する。
「これは、素晴らしいな」
「あらあら」
「よく建て替えられたな……というか、日数的にどうやって立て替えたんだ? こんな大規模な改修工事なら一ヶ月以上かかりそうだが……」
中庭を通り屋敷の扉を開けようとして、ゼディスは鍵穴が無いことに気づく。気付くと同時だろうか、大きな扉が開く……まさか……と思う。
「ドキサ……」
「ん? なに?」
「なにか、言ってないことはないか?」
「あぁ、同居人の事ね~♪」
涼しい顔で口笛を吹く。
屋敷の中に入ると数多くの絵が飾られている。どれも室内画だ……。
エイスが驚く。が、ゼディスとシンシスは予感していた。絵の中で慌ただしく走ってくる人影がある。
さも当然のようにショコが紹介する。
「ここの屋敷の管理をしてくれることになりました。テレサさんです」
絵の中でペコリとお辞儀をする。どうやら、こちらに声を出すことはできないらしい。
「彼女が屋敷の改装工事を請け負ってくれました~」
「『くれました~』じゃない! 成仏してないのか!?」
エイスが久しぶりにツッコんでいる。まーそーねー。幽霊が同居人にいるってどうかと思うモノね~。
「どうやら、成仏はできないらしいんじゃ。生贄の魂は天国にも地獄にも行けないらしい。生贄の主のモノとなるとかでな。それで、ここに閉じ込められたからどうにもならんらしい」
「喋れないのに、そんな細かいことまでわかるのか?!」
ドンドランドの言葉にエイスは反応する。エイス大忙し!
「いや、喋れないけど紙に書いて説明できるからの」
「文字が使えるのか!?」
さっきから、どこからツッコんでいいのかわからないほど、ツッコミどころが多い。テレサもスケッチブックに『そうなんです!』と書きこんでいる。
「それで私とドキサちゃんで最新デザインの家について熱く語り、テレサさんが改装していってくれたんですよ。しかも防犯もばっちりです! 食材を買えばテレサさんも料理が可能です! ポルターガイスト能力で!」
「なんか万能だな……」
ゼディスが呆れる。
「とりあえず、掃除洗濯、料理に警備、彼女が全部やってくれるって」
ドキサがテレサの絵を指しながら言うと『ばっちりです!』とスケッチブック。エイスも幽霊と同居するのはどうかと思っているようだが、ここまでフレンドリーだと拒否しづらい。しかも、問題があるどころか至れり尽くせりなのだ。
「あらあら、良いお屋敷が見つかりましたね~」
シンシスは成仏させる気がないらしい。お前、神官だろ……。というかゼディスもだ……。
「彼女が望むなら天国に連れて行くことも可能だが?」
さすがに、もう赤くも青くも発光しないゼディスが言うと『できれば、恩返しがしたいです!』と書かれ両手の拳を引き締めグッというポーズをとる。
さすがにエイスだけが断るということもできないだろうが、考えあぐねているようだ。
「食器はどうする? 新しいのを作れるのか?」
「屋敷は改築できるらしいのですが、中にあるモノは無理らしいです。動かしたり、壊したり、直したり、そういったことはできますが屋敷のように作り変えることはできません。それが出来れば魔法の武器とか作ってもらえるんですけどね~」
ショコも同じことを考えていたらしい。
タンスやシャンデリアなどは後からいれたものに含まれるらしい。修理はできてもデザインは変えられない。気に喰わなければ買い替えるしかない。……ということ。
あと、彼女が出来ることは、絵の中の移動と鏡の中の移動らしい。そもそも存在的には魂なので、屋敷の中のいたるところに行けるのだが、生きている人間が視覚に捕えることが出来るのはそういう所らしい。だから窓ガラスなどに薄ぼんやり移ったりもする。具体的な理論は知らない……というか、幽霊に具体的な理論も何もあったものではないが……。
エイスは半ばあきらめ気味だ。別に悪霊でもないし、問題はない。あとはゼディスだけだろう。
「まぁ、俺としては試してみたいことがあるんだがいいか? 魔法の矢を射ち込んだらどうなるか試したい」
「いや、ダメに決まってんでしょ!!」
ドキサに思いっきりド突かれる!。『グハっ!』と言ってゼディスは半回転しながら吹き飛ばされる。片膝を付きながら『ぐぬぬぬ』っと立ち上がる。
「落ちつけドキサ! そうだけど、そうじゃない!」
「『そうだけど、そうじゃない』? 意味がわからんな。どういうことだ?」
エイスが説明を求める。
が、そこでゼディスは回答に困る……みんながいないときに頼めばよかったと……。もちろん試してみたいのは『好意を持つ矢』……名前ないんだよな~……ただの魔力受け渡しだから……そのうちなんか名前つけよう。
と、今はそんなことを言っている場合じゃない。
「大丈夫! 当たってもダメージは無い。魔力受け渡しを矢の形にしただけだから魔力が増えるだけのハズだ……」
「なら、なんでそんなことを試す必要があるんですか、ゼディス様ぁ?」
ショコがジト目で責めてくる……やばい、ショコまで疑ってきている。本当に失敗したぞ。
テレサは『それなら私は受けてみてもいいですけど?』とスケッチブックを掲げているが、今はそれどころでなくなってきている。
「今まで、疑問に思っていたことがあるんですが、この場で解決した方がいいですかね」
最近、魔力を入れたばかりのシルバがさらに詰め寄ってくる。ドンドランドは階段に腰掛け、何かわからない修羅場に興味無さそうに『がんばれ~』とだけ声をかける。実際、何をどう頑張ったらいいかわからないが……。
さらに追い打ちをかけるのはシンシス。
「あらあら、そろそろ皆さんに本当のことを教えた方がいいんじゃないですかね?」
「本当のこと?」
「皆さんが疑問に思っていることです、何かありませんか?」
「ない……こともない」
「心当たりがありますぅ」
「そういえば、なぜ、バンパイアの催眠術で虜になるのを防げるか……とか?」
「それ以前に、ゼディスに興味を持っている自分に違和感があるな。今現在の立場とか含めて……」
あれ~? どうしたらいい? ちょっと『試したい……』と言っただけで大変なことになってるぞ?
「とりあえず、拠点はこの屋敷で決まりということで……説明は明日行こうということで!」
「何かあるのか!」
ドキサに締め上げられる。
「明日以降、明日以降、説明するから~」
「いいだろう、明日だ! それ以降になるようなことは許さないからな!」
そんな無茶な……と思った。というか、これは生命の危機では? 今夜中に逃げ出すしかないと思ったが、ドキサはテレサに話しかける。
「いい、テレサ? もし、このバカが一歩でも逃げ出そうとしたらすぐに連絡ちょうだいね」
『ラジャ!』と書いて、軍隊のように敬礼するテレサ……この屋敷の監視システムは完璧だ……。




