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虚偽判別魔法・センスライ

 宰相の言葉に耳を疑いたくなる。どうやら尋問対象はキセイオンではなくゼディスだ。しかも宮廷魔術師がゼディスに虚偽判別魔法(センスライ)をかけるというのだ。呪文をかけることを断ることも出来る……信用ガタ落ちでよければ……。

 嘘はゼディスの十八番ともいえるものだが、ここを抑えられたら下手なことは喋れない。誇張された話も判別できる。

 そこそこ高位な呪文だ。中級冒険者くらいで使える者は稀なので、伊達に宮廷魔術師ではないらしい。


「もちろん、構いません。私にやましいところはございませんから……」


 呪文をかける前だから吐ける台詞だ。やましいところだらけで喋れるかどうかも怪しい。もうすでに、息が苦しくなりそうだ……息を吐くように嘘を吐いているからだろう。

 容赦なく、虚偽判別魔法(センスライ)をゼディスに宮廷魔術師の一人がかけていく。

 女王陛下も王女も問題が無いか見守っている。心配しているようにも見えるが、それは都合よく解釈しすぎかもしれない。判断の難しいところだ。


 ガンガル将軍もこの場にいる。が、助けにはならない。まずは何らかのゼディスの疑いが晴れないことには、今までの話すら信用することもできないのだから、助ける気はないだろう。折角、色んな情報をやったのにこんな仕打ちとは聊か納得がいかない。

 呪文がかけ終わる。早々にゼディスが口を開く。


「私の名はゼディス。神官をやっています」


 この時点では体が青白く発光している。


「私は女嫌いで世界平和の為に活動をしているのですが……」


 今度は体が赤く発光する。本当のときは青く、嘘のときは赤く、誇張されている時も赤、または黄色く光る。


「おっかしいなー。世界平和の為に活動しているハズなんですが……」


 当たり前のように赤く発光したままだ。女王や衛兵などは笑っている。だが、宰相、将軍四人、宮廷魔術師四人、彼らは笑ってはいない。どうも、場違いのようだ。

 それに、いつもよりも物々しい。衛兵の数が平時の倍はいる。しかも完全武装。礼装ではないのだ。


「それで何が聞きたいんですか、宰相様?」


 ちょっとだけ女王陛下に振るべきかと思ったが、宰相が話しているのだ、宰相に聞きなおすのが筋だろう。


「心当たりがあるか確認したはずだが?」

「すみません。勘違いでした。私が尋問されるとは思っていませんでしたので……」


 こんなところでも体が青く発行する。怖いですね……ウソ発見器の比ではない。ただ、この魔法は任意なので断ったり、知らないうちにかけたりすることはできないという欠点はある。


「なるほど、心当たりは勘違いだったわけか……」


 宰相はゼディスの光具合で納得する。だが、そんなことはどうでも良さそうだ。ガンガル将軍ではない別の将軍……四十くらいのボッサボサの頭の将軍……がゼディスに尋ねる。


「簡単に言う。ある信頼のおける筋からの情報なんだが『お前が魔族だ』という話だ」

「俺が……魔族……具体的な魔族名まではわからないわけですよね」


 この辺りでは体は発光しない。嘘も本当もないのだから発光しようもない。


「いいや、具体的な名前が出ている。その名前を聞いて、宰相はじめ、将軍、宮廷魔術師は納得がいく。それなら、女王陛下と王女様と仲良くなれる……とな」


 どうやら情報源はキセイオンらしい。ゼディスに女王と王女を渡す気があったのかと思ったが、覆すため陥れようという魂胆か?

 ゼディスは下手なことは答えられない。とりあえず黙って聞いている。『このまま忘れてくれないかなー』という淡い期待を持ちながら……そんなことあるはずもない。


「率直に聞こう。ゼディス殿、アナタはインキュバスなのではないかね?」

「……。あぁ、インキュバスだが?」


 城内の緊張が一気に高まる。衛兵たちが……いや、将軍も咄嗟に剣に手をかける。


「お待ちなさい、アナタたち!」


 リン女王陛下の声で我に返る。ゼディスの体は赤く光っている……すなわち嘘。彼はインキュバスではない。

 ガンガル将軍がゼディスのところまで歩いてやってくると、頭をグーで思いっきり叩きつける。


「や……ややこしいことを言うな!」

「どっちにしろ、嘘か本当かバレるんならどう答えても一緒じゃないですかー。それで尋問は終わりじゃないでしょ?」

「もちろんだ……が、魔族でなければ、あとは形式的なモノだ。お前はこの国を乗っ取ろうと、または崩壊させようとして送り込まれたのか?」

「ただ、偶然、グレン王国に来ただけですよ。大陸の中心的な場所ですし、品物は揃うし、住み心地が良さそうだということで……。そしたら、この地に来たら女王様に面会するだけでAランクのお仕事をこなしたことになるって言うから、受けただけですよ」


 嘘は一切ない。当然、体は青く発光したままだ。ガンガル将軍は満足気に頷く……そして、待機させていたキセイオンを見る。


「今の情報はここに居るキセイオンから、入った情報だったがどうやらガセネタだったようですね。そして、ただ今潔白が証明されたゼディスから入った情報ですとキセイオンが魔族だという話です」


 場内がざわざわとざわめき出す。『まさか』とか『そんな馬鹿な』とか。しかしゼディスが白となるとキセイオンが黒の可能性は誰も否定できない。

 順番に解決していくつもりで、ゼディスとキセイオンをこの場に呼びつけたのだろう。爵位を持つキセイオンが後になるのは当然だ。どちらかが白でどちらかが黒となるだろう、とキセイオンは考えていたのだ。だから先にゼディスを生贄にし魔族だとなれば、キセイオン自身は疑われないという目論見だったはずだ。まさか、インキュバスではないとは思ってもみなかっただろう。

 こうなれば、俄然不利なのはキセイオンになる。

 宰相がキセイオンに問いかける。


「では、キセイオン殿。宮廷魔術師に虚偽判別魔法(センスライ)をかけさせてもらうが異論あるまいな?」

「もちろん、異論などございません」


 堂々としている。この時、この場にいる全員『疑う余地がないのではないか』と思えるほどだ。

 ただゼディスは嫌な予感がしていた。そして、こういう予感というモノは大抵当たる。


「キセイオン殿。そなたはバンパイアか?」

「いいえ、違います」


 体は青く光っている。誰もがホッとする。バンパイアの名を聞いただけで驚きの声を上げる者も少なくない。バンパイアはそれだけ強力な魔族だ。

 キセイオンは許可されてもいないのに立ち上がり、両手を広げ演説でも始めるように語りはじめる。


「僕がバンパイア? 冗談じゃない!」


 その言葉に宰相が一歩退く。威圧感のある声だ。


「あんな下等な魔族と一緒にしないで貰いたい! 僕はバンパイアロードだ! バンパイアを使役し生死を決めることの出来る者だ。そう、この場にいる全てのモノの生死は私の元にある。ひれ伏せ人間ども!そうすれば、下僕として飼ってやろう。リン女王とリンリル王女は私の召使にでもしてやろう! くっくっく あっはっはっはっは!!」


 気でも触れたのかと思うほど大声で叫びだした。宰相も戸惑っているが、将軍たちの動きは早い。衛兵たちに弓矢を撃つよう命令する。当然、矢じりは純銀製! バンパイアに効果があるとされている。だがゼディスは愚痴りながら、戦闘態勢に入って行く!


「そんなモン、クソの役にもたちゃーしねだろ! あれだけバンパイアロードだって言ったのにぃ!!」


 キセイオンは全く避けるそぶりも見せない。全弾命中! だが、一滴の血も流さないどころか女王陛下たちに向かい歩きはじめる。

 将軍たち四人は素早く『セニードランドロー』を行使する。そして驚く。一打たりとも有効打が見つからない。光り輝く軌道はどれも回避用の道ばかりだ。

 名も知らない将軍が宮廷魔術師に叫ぶ。


魔力付加(エンチャントウエポン)だ! このままではダメージは与えられん!」


 『まぁ、そうね。それでも、たかが知れてますが……』……ゼディスは戦えるのが自分一人だと確信に変わる。『セニードランドロー』は驚異的な強さがあるが、バンパイアロードに対し有効な攻撃打は無い。現在、想像できるのはゼディスが使えるオーラだが、本当に効くか試してみるよりほかにない。

 キセイオンの前に剣を抜き立ちふさがる。その間に将軍たちは魔力付加(エンチャントウエポン)をかけてもらう。


「この嘘吐きが……まぁいい、君、諸共この国を終わらせてやろう」

「嘘吐きじゃないでしょ。どう考えたって、青く体が光ってばかりだぜ」


 体が赤く光る。……こんな時は光らなくっていいのに……。いつ効果が切れるのか知りたい。そこそこ長い時間効果があったはずだ。

 キセイオンも苦笑している。魔法効果で嘘吐きなのがバレるのは辛い。


「君が何者かは知らん。だが、僕の強さを君は理解しているはずだ。この僕に勝てると思っているのか?」

「バンパイアロードに勝つのは難しいんじゃないですかね」


 だが、体は赤く光っている。もー駆け引きなんかできたもんじゃない! おかげでキセイオンはあからさまにゼディスのみを敵視し近づいてくる。

 他のモノが切りかかっても、片手で剣を受け止めへし折り、魔法で衛兵を一網打尽にしながら目の前まで歩いてくる。


「見せてもらおうか! その自慢の力を!」

「そんなに期待しないでね!」


 居合切りの要領でオーラを載せ、目の前のキセイオンに放つ! バンパイアロードは傷つかないという自負があるから避けないだろうと、全力で振りぬいたが予想に反してキセイオンは思いっきり飛び退いた。

 それでも、剣以上に距離にもオーラを割り振っていたので、体を掠めている。それだけで十分効果は理解できた。キセイオンが掠めた腹の部分から血を流している。バンパイアロードには未知の攻撃だろう。


「なんだ……その攻撃は……」

「まさか無敵のバンパイアロード様が避けると思ってませんでしたよ」


 体は青く光っている。面倒くさいなーこの魔法……そんな考えを持ちつつも、勝機があることは確信する。それでも当たらなければ意味はない。バンパイア同様、霧状にもジャイアントバットにも変身できるので、そう簡単に捕えることはできない。

 こうなってくると、周りの衛兵はむしろ邪魔だ。将軍二名が女王、王女を無事に避難させ宰相も同時に連れて行く。

宮廷魔術師は衛兵たちの武器に魔法をかけていくが、魔法のかかった武器でさえ、キセイオンは平気で素手で掴みへし折る。魔法の武器はバンパイアロードに対し、効果があるが絶大というわけではない。下手な攻撃は、魔法がかかっていようが容赦なく武器を破壊されてしまう。


 ガンガル将軍ともう一人の将軍がセニードランドローを使いながら、突っ込んでいく。キセイオンの人間離れしたスピードにもいち早く反応し、剣先を切り込んでいく。

 一見すれば互いに一歩も譲らない。だが、実のところ身体能力と、変身能力の差は大きい。回避が徐々に間に合わなくなる。セニードランドローの予測でも傷口を広げていく結果になる。

 しかし、キセイオンは苛立っていた。たかが人間ごときに自分が傷つけられていることが許せないのである。


「くだらない人間たちが、この僕を傷つけるなんて……」


 一歩退くと、呪文を唱え始める。将軍たちは呪文を完成させる前に切り刻もうと試みるが、未知の生物であるバンパイアロードに思い切り振りおろしても、鋼鉄でも切っているように傷がつく程度で、おおよそ致命傷には程遠い。

 慌てて、引き返したときにはすでに時遅し、キセイオンの呪文は完成していた。


雷の嵐(サンダーストーム)!」


 城の天井を突き破り、無数の雷が飛来してくる。バンバン雷鳴をとどろかせ城が破壊され、雷や落ちてくる天井で兵士は巻き込まれていく。

 将軍もセニードランドローで落ちてくる天井は回避できても、雷までは回避はできない。


 城はどんどん壊れ、兵士は逃げまどい、雷が舞う中、ゼディスだけがキセイオンに向かっていく。


「こんな中でも僕を狙ってくるなんて、さすがはセンマ級だ。褒めてやるよ」


 キセイオンは新たな呪文を唱えていた。宙に黒く丸い物体がいくつも現れた。それは次々と数を増していきコウモリの姿へと変えていく。数百匹のコウモリが一斉にゼディスを狙う。


生命吸収(エネルギードレイン)! そのまま干からびるがいい!」


 ゼディスはコウモリを切り捨てながら進む。計算上では持って数十秒でゼディスは絶命し、キセイオンまで到達することはないはずだった。が、キセイオンの腕をオーラの剣が切りつける。

 切り付けられた右腕を抑え、咄嗟に引くがゼディスは左から回り込み。立て続けにキセイオンの脇腹に神聖魔法を叩き込む。


「どうなっている……死ぬはずだ」


 生命力を全て吸収したコウモリたちはキセイオンの体に取り込まれていく。そして、その生命力で自らの傷を癒し、将軍たちおよびゼディスに食らったダメージを全て回復する。

 なんてことはない、上限以上の体力があれば防げる。……リキュアだ。将軍たちが闘っている間に唱えておいた。雷の嵐(サンダーストーム)を唱える時間があるのに、こちらがボーっとしているわけもない。おかげで、間合いを詰められた。

 そのまま、オーラの剣で連続攻撃していく。変身させる隙を与えない。さすがにオーラの剣の脅威を知っているキセイオンは避けざるを得ない。

 もちろん、キセイオンも黙って見ているわけではない。


「ゼディス……今一度チャンスをやろう。俺の部下になるなら、命は助けてやる」

「悪いが追い詰めているのは俺だぜ?」


 キセイオンは指輪を見せる。『呪壁の指輪』に似た形。


「『魔瘴気の指輪』!?」

「君は本当によく知っている」


 『魔瘴気の指輪』……大したことはない。魔界の空気が入っているだけだ。

 しかし、一般人や善人などには猛毒になる。何の対策も取らないと即死する。悪人には効きずらいが、それでも毒に代りはない。魔族にとっては、力を得られる新鮮な空気だ。


「全員すぐにこの場から逃げろ!! 猛毒だ!」


 キセイオンは指輪から黒い霧のようなものを垂れ流し始めた。

毎日更新予定でしたが、仕事が忙しいため怪しくなってきました。


出来るだけ、毎日更新する予定ですが……申し訳ありませんがご了承ください。

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