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ここは順当なお化け屋敷

 ドキサが扉を開けると物凄いスピードで一本の矢が飛んできた。不意をつかれたので、回避する余裕もない!


「ドキサちゃん!!」

「え?」


 ショコの叫びも間に合わない……。


 が、ドキサの頭上ギリギリを矢が通過していく。ドワーフでなければ頭を直撃していただろう。人間、獣人を狙ったため鎧などに当たらないように頭を狙った高さの罠だったが、逆にドワーフのドキサには届くことがなかった。後ろの方の柱にビーンッと矢の当たった音がする。


「危なーい……」


 冷や汗をかきながら、ドキサが矢が飛んで行った方を見る。屋敷の中に罠を仕掛ける奴などいないと思っていたため油断していた。


「そういえば、只の屋敷じゃなかったのぉ……」


 罠が作動した後に顎鬚を摩りながら、ドンドランドが改めて言う。

 部屋の中を確認する。薄暗いがアルスの剣の魔力の光で中が厨房であろうことがうかがえたが、それよりも中で何かがゆっくりと蠢いているのが見えた。


人喰い死体(グ ー ル)です!!」


 ショコがいち早く投げナイフを人喰い死体(グ ー ル)に投げつける。決して厨房は動きやすい作りになっていない上、人喰い死体(グ ー ル)は動きが遅いので攻撃が当たった。もちろんその程度では倒れないし、さらに一匹ではないようだ。


「シルバ! 四匹だかんね!」

「わかりました!」


 良く見えていないであろうシルバに対しドキサが確認しておく。人喰い死体(グ ー ル)は動きは遅いが、耐久力と爪の毒が脅威となる。神聖魔法なら毒を取り除けるのだが、つくづく裏目に出ているような気がする。いや、霊体だと思ったのなら、どう考えても神官であるゼディスを連れてくるべきだった。そんなことを考えていても仕方がない。

 斧や剣を振るい応戦する。狭いなかで闘いづらい。ほとんどが、一対一で回避する場所もない。上手い人喰い死体(グ ー ル)の配置だ。これなら否応なしに殴り合いの形にならざるを得ない。人喰い死体(グ ー ル)を倒す間に、こちらも何発か食らってしまう。

 人喰い死体(グ ー ル)、四匹全員倒すころには、それなりの攻撃を食らっていた。一番ダメージが大きそうなのがドンドランド、次いでドキサ。シルバはかすり傷程度で、ショコに至っては無傷。


「イカンのぉ……麻痺の毒を食らったようだ。手が痺れて上手く動かせん……」


 アル中のように斧を持っている手がブルブル震えている。ショコがバックパックから麻痺消し薬を取り出す。ちゃんとした名前があったが、みんな『麻痺消し薬』と呼んでいる。名前を付けた人は、さぞガッカリしているだろう。塗り薬タイプで、麻痺毒が入ったところに塗ると泡がシュワシュワとする。そのまま、しばらく時間が経てば治る代物だ。


 その間にドキサとシルバが厨房を探索する。色々な棚を開けたり閉めたり……腐った野菜やら、何の肉かわからないモノやら……とても食欲がわかない食材は確認しない。


「こ……ここには、何もないようです」

「そ……そうね。宝石が厨房にあるはずがないものね」


 ドキサとシルバは食材に群がる小さな物体から目を反らし、その場をそそくさと後にする。この手の生き物は、ほとんどの女の子は苦手な奴だ。ショコとドンドランドも『なにもなさそう』という意見に賛同し、その部屋をとりあえず後にする。


 次は一階ではなく、ドキサの意見で二階に行くことにする。


「お宝は高いところか、地下深くにあると相場が決まってるのよ!」


 というのがドキサの考えらしい。

 二階に行く階段を上っていく。一番上にフルプレートの鉄の鎧の飾りが二体、置かれている。それぞれの手にはハルバート。

 ドキサとドンドランドが顔を見合わせる。


「どりゃー!!」

「先手必勝ぉ!!」


 二体の飾り鎧に襲い掛かる。シルバとショコは呆気にとられる。が、ガキーンと二人の斧をハルバートで抑えた。


「やっぱり生きた鎧(リビングアーマー)じゃな」

「こんな、場所じゃぁバレバレだっちゅーの!」


 約二名気づいていない人がいましたが……先手を取れたぶん無理矢理、力押しで広い場所まで押し込む。ドワーフの力を舐めてはいけない。生きた鎧(リビングアーマー)といえど、急襲では太刀打ちできないほどの力の持ち主だ。だが、生きた鎧(リビングアーマー)も、守りは固い。なにせ全身、鉄鎧なのだから……。


「これだけ広ければいけます!」


 シルバが二人が弾き飛ばした生きた鎧(リビングアーマー)に駆け込んでいく。

 ハルバートが物凄い勢いで振り下ろされるが、その間を走り抜け、魔力で切れ味を増したアルスの剣を通していく。ギャリギャリギャリ……と甲高い音を立てるが、鉄の鎧の人形一体が真っ二つに切り裂かれていく。横一文字に切られ上半身と下半身が別れ、一体は動きを止める。


 シルバの後姿にもう一体の生きた鎧(リビングアーマー)はハルバートを振り下ろそうとするが、ドキサとドンドランドが黙って見ていない。シルバのアルスの剣程でなくともドワーフの怪力で振りかぶる斧の威力は絶大で鉄の鎧を切り裂く。しかし、それでも致命傷にはならない。ショコが試しに目通し部分にナイフを投げるが、カランカランと音がしただけで中に落ちていく……。


「やっぱり中身、からなんですね……」


 ショコ役立たず……。


 ドワーフたちに体を引き裂かれていく生きた鎧(リビングアーマー)が再び、ハルバートを振り回す。直撃は避けるものの、ドキサの胸鎧部分がガリガリと引っかかり、壁へと転がされる。すぐに手を突き立ち上がり、生きた鎧(リビングアーマー)の二段目が来るより先にその場を飛び退く。


「二人ばかりに気を取られ過ぎですっ!」


 アルスの剣を今度はオーラを乗せて兜割に縦に切り下す。先程よりも音が鈍い。鎧の中央あたりで剣が停まるが、それで生きた鎧(リビングアーマー)にトドメを刺すには十分な威力だった。

 二体の生きた鎧(リビングアーマー)は完全に動きを停止していたが、ショコが『念のため』といって鎧を分解しておく。


「まったく、余計なところでダメージ喰ったわ」


 両手に腰当て、プンプンっと怒るドキサ。この階には長い通路、右にT字路として曲り道がある。

 相談も無しに、ドキサは右に曲がる。


「そっちでいいのか? 扉もいくつかあるようだが……」


 何にも考えていないだろうと思いドンドランドがドキサに尋ねる。


「考えたってわからないわよ。こんなもん、奥から順番に調べていくしかないじゃん?」


 まぁ、言っていることはもっともだが、何かしらの法則性とかも考えてもいいのではないかと思うのだが、所詮は屋敷だ。全部調べてしまえば『それでおしまい』という、ドキサの案も間違えではない。

 いくつかの扉を通り過ぎ一番奥までくると、ショコに扉に罠が無いか確認してもらう。先程の経験がドキサを慎重にさせている。


「屋敷の中でも罠があるかもしれないわ!」

「いや、ありましたから……」


 ドキサのボケにシルバがツッコむ……そんなことをしている間にショコが扉のカギ穴を調べているが、ダラダラと額から汗が流れていく。


「みんな、ちょーっと離れてください」


 なんとなく、イヤな感じがしたのでドキサ、シルバ、ドンドランドは慌てて走って遠ざかろうとした時、扉が爆発しその辺一帯を吹き飛ばす。


「ショコぉっぉ!!」


 扉を抑え、離れていなかったショコをドキサが叫び呼んでいる。


「大丈夫でーす……」


 壁に叩きつけられたようで、横に倒れているが心配はなさそうだ。が、そこに扉からショコを狙う人影が剣を突き刺そうと飛んでくる。

 それを予感していたのか、シルバがその陰にオーラと魔力を乗せたアルスの剣を投げつけていた。その人影はガシャーンという音とともにバラバラに砕け散る。どうやらスケルトンのようだ。


「まだ、中にいるかもしれん!」


 ドンドランドとドキサがすぐに壊れた扉の中に入って行く。シルバはアルスの剣を回収とショコの安全を確保しに走る。


中には、まだ二体のスケルトンがいる。中で応戦する。厨房で闘った時よりも動きやすいがスケルトンも、鈍足ではない。広い方が戦いやすいのだろう。剣と盾を持ったスケルトンがそれぞれのドワーフに襲い掛かる。

 その間に、シルバはショコの火傷と打撲の状態を確認して、傷薬を取り出す。もちろんこの傷薬にも名前はあるが傷薬としか呼ばれていない。


「思ったよりも、軽度のようですね」

「失敗しちゃいました……でも受け身は取りましたからね~」


 テヘへへ……と苦笑いするショコ。罠確認や罠外しのスキルを持っていても確実ではない。失敗することもある。傷を治しているとショコが突然シルバに向かい斜め上にナイフを投げる。シルバの顔の真横を掠めるようにナイフが飛んでいく。同時にショコがシルバに命令する!


「シルバ!しゃがんで!!」

『ギシャッァア!!』


 シルバの頭、数十センチのところから光る爪が振り下ろされてくる。ショコの言葉を認識し、すぐさましゃがんだがそれでも間に合わない。額に爪が刺さり軽く抉られ吹き飛んでしまう。すぐにクルリッと膝を付き構え、自分を襲った相手を確認する。

 ジャイアントスパイダー……音も立てず天井から降りて来たらしい。ショコが八つある目のうち一つをナイフで潰していたため、シルバは致命傷にならずに済んだことを理解した。

 すぐさま、ジャイアントスパイダーに攻撃を加えに行く。そうしなければショコが危ない。ジャイアントスパイダーは近くの獲物としてショコを狙っているように見えた。

 魔力とオーラを重ねて切れ味に変える。長さに変換しなかった分、接近戦になりジャイアントスパイダーの蜘蛛の糸の攻撃を食らうが、気にせず本体を一刀両断に切り捨てた。

 ジャイアントスパイダーは倒したが、蜘蛛の糸は消化効果があるらしく触れている部分がジュウジュウと嫌な音を立てて溶けていく。なんとか取り払ったが下手に長時間さらされていれば少々厄介かもしれなかった。

 ショコも『よっこいしょ』と壁にもたれながら立つが、思ったよりも足取りはしっかりしているので安心できた。


 中の戦闘も終了しているらしく、バラバラの骨が散らばっている。

 すでにドキサとドンドランドは強盗よろしく部屋の中を物色しまくっている。部屋の中は広く、個室のようで大きな肖像画やベット、小型のタンスなどがある。窓はあるが雨戸が閉まっているらしく光はほとんど差しこんでこない。

 試しにシルバが窓をアルスの剣で叩き割る。大きな音とともに窓ガラスと雨戸が割れるが、すぐさま元通りになり、日が差し込んだのは一瞬だった。


「ビックリするわね……あっ、ショコ大丈夫そうね」

「まぁ、かすり傷程度ですね……ただ、壁に叩きつけられて背中が痛いです……」


 動けないほどではないが、物色に参加するほどでもないらしい。みんなの様子を入り口付近で見まわしている。

 ドンドランドが宝石箱を見つけ、何の戸惑いもなく開ける。シルバは『大丈夫か?』と思ったが、そんな毎回罠があるわけでもない。鍵もかかっていなく、簡単に開く。


「どうやらこいつが当たりじゃろ?」


 宝石箱の中身の一つを取り出し、ショコに投げてよこす。暗闇の中でもしっかりとショコは受け取り、その宝石を確認する。シルバは『こんな暗闇で……』と感心する。もし、自分に投げてよこされたら、見失ってしまう自信があった。


「確かにこれのようです……」

「じゃぁ、他の部屋はココの主を倒してから調べましょうか!?」


 ドキサは嬉しそうに一階のボスがいると思われる部屋に足を運び始める。みんなもそれに続く。歩きながら薬や武器に呪 文 付 加(エンチャントウエポン)を唱えたりして準備をして扉の前に来る。


「みなさん、準備はO.K.ですか~」


 ショコの言葉に一同頷く。

 窪みに宝石をはめ込むと大きく扉が開きはじめ、隙間から光が差し込んでくる。

 この部屋だけは明るいようだ……大きな食堂、テーブルには数々の料理。高い天井にはシャンデリア、一番奥に暖炉があり、上には巨大な肖像画、ドレスを着た金髪の貴族の令嬢のようだ……誰だろうか、見たことはない。もっともこの町の女王陛下の顔も知らないのだが……。


 そして奥には一人。その料理を前にして一口も手を付けず、座っている男がいる。年のころは二十代半ばだろうか、髪は白髪でオールバックにしている。


「私の名前はガンハーダ()伯爵。この屋敷は私のモノ(・ ・)だった場所だ」

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