冒険者ギルドと娼婦の館
冒険者ギルド……冒険する人に仕事を頼むところ……。
レベルは5段階。
下からDランク、Cランク、Bランク、Aランク、Sランク、にわかれる。
なり立てはDランク、中級はCランクである。
ハッキリ言ってDランク、Cランクは境が無い。
自分でCだと思えばCである。
Dランクは簡単な仕事しかない。
簡単と言っても、ゴブリン退治が含まれる。
Cランクは、ゴブリン退治でも数が多い。
要するに自己責任で、勝手にやれってことだ。
Bランクはギルドが認めた者しかなれない。
Cランク、または理由があってそれ以上のランクの仕事をこなした上、ギルドにある程度顔を出していていなければならない
理由は簡単、信頼である。信頼ないモノがBランク以上は受けさせるわけにはいかない。
お金や要人などが絡んでくる場合があるからだ。
だったらC以上の依頼を受ける方法がないようだが、これは冒険者パーティーが受ける場合は一番上のランクの人が受けられるため、C・C・Bの冒険者が依頼を受けた場合は、Bランクの依頼が受けられCの者もBランクの仕事ができるわけだ。
ようは、Bランクの人が保証人となるから、顔が広いに越したことがないっということになる。
Aランクは国家が発行することになるのでもはや冒険者ギルドと関係が無くなる。
依頼も国家が主なモノになってくる。
ほとんどは個人に直接となるが、時間がかかってもよいものなどがたまに冒険者ギルドに流れる。
国家の埋蔵金探しとか、戦争とか、ドラゴン退治とか…そう言ったものだ。
Sランクも当然国家レベルになるが、実在している人数は10人に満たない。
これは4か国以上が認め、Aランクの依頼を10以上こなしていることが条件になる。
Aランクを10こなすのも難しいが、4か国以上に認められることがかなり難しい。
なにせ小競り合いとはいえ戦争中だ。
どっかの国に加担したとすれば、対戦国は絶対にその冒険者を認めようとはしないからだ。
だから、戦火が無い所に回らない限りはSランクは入手できない。
それに入手するもさほど意味がない。
ただ、信頼度が高いのと国から重宝されるのは間違いない。
下っ端冒険者は目指すはBランクだが、一か所のギルドにいるヤツも少ないため大抵はCランクなのである。
「全額使ってもいいように、いい仕事を受けたいんだけどな……」
掲示板を眺めながらDランク、Cランクを探す。
ゼディスはCランクである。
ドンドランドもCランクである。
とりあえず、利害の一致があったため二人で金稼ぎをすることにした。
今晩、使えるお金の為に……。
「どうじゃ? Cランクゴブリンは?」
「洞窟のゴブリン退治か……人数は不明っと……」
「どうやら、同行人がつくらしいな。じゃなきゃ退治したかわからんしな」
「おそらく国の人間か……下っ端の兵士かね~」
「普通に考えればな……」
「二人で分けるのなら金額も悪くないし、これにするか」
報酬金額は「一人頭」と「合計額」の二種類がある
一人頭の場合は難易度が高いことが多い。ゆえにBランク以上のときが多いが、たまにD、Cにもある。
その場合はめっちゃ安い……ゴミ拾いに駆り出され、お駄賃をもらうような感覚だ。
合計金額は全額が決まっている。その為、多人数になれば一人頭のもらえる金額は少なくなる。
人数で割るのだから当たり前であるが……。
そして、掲示板に張ってある紙を取ると受付へと持っていく。
仕事は早いもの順である。
かちあってしまわないように、一つの仕事に一枚の依頼となっている。
受け付けは、髭のおっさんだった。
全体的に黒い服を着ている。
「あいよ……ココに名前と、こっちに……」
必要書類の説明をされ、適当に記入していく。
「同行人が付いていくが、そいつが殺されても駄目だからな。足手まといでも護衛しろよ」
当然である。同行人が死んでもいいなら殺して誤魔化そうという輩も出てくるかもしれない。
「それじゃぁ、出発は明日になる。
洞窟の場所は同行人が案内する」
移動までの必要経費は冒険者ギルドが持ってくれるらしい。
これは時と場合によるので何とも言えない。
ギルドの中は比較的混んでいた。
傭兵を終え、冒険者に戻ろうという人が多いようだった。
もっとも、傭兵の依頼もあるから、まだ傭兵を続けようという人間もいるようだ。
「これでOKだとして、行くか!」
「行かないでか!!」
二人は娼婦の館に向かった。
向かったのだが……思ったよりも、色々あった。
ピンからキリまで……高いのはとても手持ちでは入れない。安い所は清潔感が無い。
どーしたモノか……。
「俺はココにしようかと思う」
「うぉい! それじゃぁ、あっという間に身ぐるみはがされるぞ」
高級……よりちょっと低い場所だった
手持ちでギリギリだろう。
「お前さんが好きなら仕方ないが……もっと、有効に使った方がよいぞ?」
「中途半端は良くないぞ」
「考え方の違いじゃな……ワシは向こうの方に行く」
ドンドランドはガタイのいい身体をゆすりながら遠ざかっていく。
ゼディスはちょっと高級な娼婦の館に入る。
「いらっしゃいませ」
年齢は30前後の美しい女性が出迎えてくれる……おそらく偶然だろう。
娼婦という感ではない、オーナーだろう。
「この金額で一番いい娘をお願いしたいと思っていたんですが……」
くすくすと笑う。
「傭兵の方ですね……今は満室ですよ。考えることは大抵同じようなモノなので……」
「でしょうね……では、アナタだったら?」
「ごめんなさい。この金額では私は無理ね……倍……でも、足りないわ」
「では、少しお話するだけなら?」
「このお金で?」
「そうです」
オーナーだと思われる女性が思案する。
決して少ない金額ではない。それを話すだけで目の前の男は手放すと言っているのだ……。
それも自分の欲望を吐き出さずに……。
(部屋に入ったら襲う目論見かしら? それとも、もっと他の目的?)
たまに、似たようなことを言って襲ってくる人間がいる。
もっとも、そんな人間が生きて帰れる保証はないが……。大抵の娼婦の館には信頼のおける傭兵を雇っている。丸裸の男を突き刺すのなど訳はない。
「いいわ。私の部屋に行きましょう……先に行っておくけど……」「襲いはしませんよ」
二階建てだが一階の薄暗い隅の部屋に入っていく。
とても、何かしようと思う気に慣れないような気味の悪い感じの場所だ。
ただ、部屋の中は広く小ざっぱりとしていた。
中にはベットの他に事務用の机、本棚、タンスなどが置かれていて生活感がある部屋で、仕事用の部屋という感じは一切しない。
彼女は事務机の椅子に座るとその前にあるソファーを進める。
ソファーの前には机があり、ここで娼婦の面接とかを受け付けているのだろうと推測された。
「さて……どんなお話をするのかしら?」
それなりの金額をもらっている。多少は楽しませてやろうと彼女は考えていた。
黒髪のショートヘアーでサッパリした印象を与える。
傭兵や冒険者ではないので隙はあるが、油断はない……。
ココに金庫を置いていないことからもわかるが強盗や強姦などに対して防備に怠りはないのだろう。
ストレートの薄紫のドレスを着こなし、にこやかに笑い頬杖をついている。
「エールーン王国のお話なんてどうでしょう」
その言葉に、彼女の顔色が変わる。
まだ、この世界では情報は一部のモノ以外、重要度が理解されていない。
おそらく、国のトップくらいだろう。
だが、彼女はその重要度を理解していた。
徐々にではあるが商人や貴族になど、コネを作れるほどになっている。
どこでどんな需要と供給がわかれば商人とのパイプは簡単につながり、そこからお金が引き出せれば貴族と繋がるのも簡単だった。
そして、バカな貴族や傭兵、冒険者はその価値もわからず、娼婦の館で垂れ流してくれる。
しかし、目の前の男は逆にココで情報を引き出そうとしていることがうかがわれた。
「そういえば……名前を聞いていなかったわね……」
一度呼吸して、冷静さを保つために他の話題を振る。
下手に情報を隠せばこの男にその重要度を知られてしまう。
もし、知っているなら、何をしても意味がない……この一呼吸は重要度は高い。
「ゼディスです」
「そう、私はオレンスよ。よろしくね……えーっとエールーン王国の話だったかしら?
なんで、そんな遠い所の話を私としようと思ったのかしら……」
「わかっているんじゃないですか? あの王国が魔族に襲われたことを……。
だから出来るだけ情報を出したくないんでしょ? お金になりますからね……。
もちろん、さっきのお金だけでオレンスさんから情報をもらおうなんて思ってませんよ」
「……ふーぅ」
どうやら、自分の考えがゼディスにバレているのだと納得した。
納得したからと言って情報を吐き出すわけではないが……金額による。
「なら、ゼディスはいくら出す? 私の情報はお金次第……ってことだね」
こうは言ってみたものの、情報をお金で買おうとするのはゼディスが初めてだった。
「俺も情報を出す……ようするに物々交換ってわけさ」
彼が出す情報がどれほど価値があるかわからないが、すでにエールーンのことを知っているとなると興味深い。
先に口火を切ったのはゼディスだった
「最新情報のユニクス王国のフィリップ将軍が事故死したって話なんかは、お気に召すんじゃないか?」
オレンスは目を丸くする……その話をそのまま信じる気はないが、ここで嘘を吐いても、あとですぐバレる。そんな狼少年を演じてゼディスに得が薄いことは理解している。
たとえ、この場だけ情報を得ても次以降から一切の情報が遮断される可能性も、ゼディスが理解していないとは思えないからだ。
オレンスは息を飲む。
(もし本当なら……かなりの金額が私に転がり込むことになる。
死因が気になるが、それよりも死んだとわかるだけで王族の死なら、葬式やらなにやらで、いくらでも稼ぐ方法がある……他国であっても娼婦が入ることはわけないこと……)
「面白いわ……ゼディス。アナタとの情報交換をしましょうか……」
ゼディスは色々な街の娼婦の館で情報の取引をしていた。
エールーン王国が魔物に襲われたという情報もこうして得ている。
取引した娼婦の館はことごとく一流となり、大抵はゼディスに頭が上がらなくなる。
そうして、また、仕入れた情報で他の土地の館と取引していく。
当然、結果的にはオレンスの情報の方が先に尽きてしまう……。
オレンスは下唇を噛む……。
(もっと…もっと、この男から情報が欲しい。お金を払うという手段もあるけど……情報量の底が見えないことには支払えないし……)
先程から話していて、ゼディスの情報が大半が本当であることを確信したオレンスだった。
自分が知っている情報もゼディスが話しているから真実味が増している。
すでにこの都市で1~2番の館になれることは間違いないだろう。だが……もっと情報が欲しい。
(なら、手段は一つしかないわね……)
オレンスは両手を上げ降参というポーズをとる。
「参ったわ……これ以上、私の方には情報はないの……でも、アナタの情報は欲しいわ。
そこで、相談なんだけど……私の身体で払うって言うのはどうかしら?」
椅子から立ち上がり手の平でゼディスの顔を撫でる。
「それは願ったり叶ったりだ!
こんな店に来て美人に手を出せないなんて、生殺しもいいところだったからな」
「フフフ……たっぷり楽しませてあげるわ。その代り、情報を出来るだけちょうだい♡」
ゼディスを立たせ、ベットへと誘う。
もちろん、オレンスは言った通りたっぷり楽しませてやるつもりだ。
今までいろんな男を虜にした自分の持てる全てのテクニックで……。
そうしてゼディスを骨抜きにして自分の愛の奴隷にして、情報を全て引き出しお金を巻き上げ、用心棒として雇う……骨の髄までしゃぶりぬこうとしていたのだった。