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お喋りしながらエルフの王国まで・・・

 良く考えたら今の不自然な状況にエイスは呆れる。恋は盲目とはよく言ったものだ。自分がまるで見えていない。ユニクス王国では将軍の地位にあった自分がゼディスの指示で動いているのだ。しかも、パーティーメンバーのほとんどが、敵国であったラー王国。こんな無茶ぶりをよく許していると我ながら思う。


 とくにドキサとドンドランドと行動を共にしているなど、ユニクスの王が知ったら卒倒しそうだ。彼のドワーフ嫌いは有名だ。嫌いとかそういうレベルではない。それがもとでラー王国と戦争になっていると言っても過言ではない。


 だから今朝、ドキサは自分とシンシスをエルフ王国に送る提案に素早く乗っかったのだろう。出来るだけ離れていたいと思って……。だが、彼女も自分と同じだ。私とパーティーを組むことになったことに違和感を覚えているはずだ。

 たとえ目的が7魔将を倒すという世界規模の話だとしても、簡単にユニクス王国兵を受け入れるとは思えない。戸惑っているのは自分だけではないようだ。


「考え事ですか?」


 一緒に行動中のシンシスに声をかけられる。

 街中で人通りも多い。まずは転移魔法陣を目指す。私たちの横を出兵の団体が横切っていく。どこかの国に援軍を出すのだろう。この近くに魔族の進軍があったのだろうか。

 彼らと歩調を合わせると、動きづらくなるので一旦、やり過ごす。


「セニードランドローについて……あれは、未来予知能力なのか?」


 考えていたことと全く違うことを話している。自分の素性を知られたくないからではない。自分がゼディスに好意を持っているために、敵であるラー王国の人間と手を組み7魔将と闘うことになっているという、おかしな状況を説明するのがバカらしいからだ。

 もし、ゼディスに恋していなければ、おそらく彼女たちと手を組むということはないだろう。たとえ勇者の力を引き継いだ者同士と言えど……。


「セニードランドローは未来予知とは違います。未来予測と言った方が正しいでしょうか? ……それも正しくありませんね」


 シンシスは私の考えを読むことなく、話を合わせてくれる。ひょっとしたら、わかった上で話を合わせているのかもしれない。


「ゼディスが『曲調が変わっても知らないダンスを踊った』という話があるだろう?」

「そうですね。……もう少し正確な言い方をするなら『動体視力を強化し向かう先を高速で考える能力』とした方がよろしいでしょうか?

 知らないダンスを踊れたのは、セニードランドローの特徴の一つ『見るは背景』です。一人で踊っていたのなら、それほどまでに踊れなかったでしょう。追いかける軌道は女王様一人になりますから……ただ、周りのダンスを踊っている人たちから多くの情報をいっぺんに得ます。とくにキセイオンなどはダンスが上手かったとか? それらを最適化し見ながら踊るのです。たとえば、物凄くゆっくりとしたダンスを踊っているのを見ながら踊ればそれっぽく踊れますよね? 動体視力を上げ脳だけ(・ ・ ・)がゆっくりと感じその軌道を追い、その先を予測し教えるのです。所詮考えているのは自分なので、脳をフル回転させています」


 よく、わからないが『他の人のダンスを見て踊った』ということなのだろう。


「セニードランドローを使えばすごく強いんじゃないか?」

「強いですが、限界があります。筋力などは上がりません。ですので、五分五分の敵よりは強くなりますが圧倒的な差があれば、むしろ必ず負けます。」

「軌道を読めば、どんな攻撃も防げると思うんだが?」

「例えば犬がセニードランドローを使えたとしてもライオンには勝てません。攻撃される先を回避したとしても、ライオンの次の攻撃は避ける軌道はありません。が、一度目をかわすのが最善の策なのです。もっとわかりやすく言うならセニードランドローを使える蟻がどう足掻こうと象には勝てないと言ったところでしょうか? セニードランドローの欠点は新しい発想をしない所にあります。今までの経験の結果から導き出される道しか示せないのです。当然ですが手加減できる敵も限られてきます。自分と五分の相手にはほぼ不可能と言っていいでしょう。『今までの経験』を使って最善の手を先読みしますが、新しい手法、手段が出てきたとき、それを認識してから初めて新しい軌道を考えるからです。ゼディスさんがガンガル将軍の剣を防いでオーラを入れて剣を折るという手段をとったという話をしていましたが、もし、ガンガル将軍がオーラの存在を知っていたら、光の起動は違う道を探していたでしょう。知らない攻撃方法には後手に回るわけです。ですが『振れると壊す方法』があることをガンガル将軍は認知しましたから引き分けていなければ、ゼディスさんは追い詰められている可能性もありました。もっとも、違う発想で攻撃を考えられるのが、セニードランドローを使わないときの有利な点です。セニードランドローは『動体視力+判断力』の力が、自分の意志と別に発動する能力と考えればよろしいのではないでしょうか」


 と説明される。それでも『あくまでも推測ですが……』と付け加えられ、特に反論することもできない。そもそも、私はセニードランドローを習得していないのだ。どうなるのかも理解できていない。


 兵士が通り過ぎ彼らの姿が遠くなってから、再び私とシンシスは歩み始める。彼らも町から出るのだから方向は一緒だ。賑わっている街中を通り過ぎていく。露店を確認するが、とくに買うべきものはない。全て用意してある。

 出る際に、門番に『出るときは只だが、入る際には身分証とお金が必要になる』事を告げられる。その辺も抜かりはない。


 途中までは同じ道を進んでいくが、私たちは街道から逸れていく。注目する人間などいるわけがないが、念のため周りを確認しておく。シンシスがいるから大丈夫だと思うのだが、いつもニコニコしていて、申し訳ないがいまいち彼女に任せられない。本当に勇者だったのだろうか……。


「本当に、千年以上生きているのか?」


 良く考えたら、彼女のことをほとんど聞いていない。ゼディスが『ゼティーナだ』というから鵜呑みにしている。やはり、恋は盲目……と片付けるには問題がありそうだ。覚えていればゼディスを少し問い詰めた方がいいかもしれない。


「えぇ、千年以上生きていますよ」

「どうやって……だ?」

「そういえば、皆さんにほとんど私のことを説明していませんでしたね。『黄金のリンゴ』という果実をご存知ですか?」

「知らないが、想像はつく」

「たぶん、ご想像の通りのモノですね。それを食べると不老長寿になるんです。偶然、見つけまして……一口分頂きました」

「そんな、伝説的なアイテムが一体どこに!?」

「いずれ、アナタたちも登ることになると思います」

「登る?」

「黒の塔と呼ばれるところです」


 そこがなんなのか尋ねようとした時、転移魔法陣の場所に着いた。起動させ世界樹のあるエルフの王国へ向かう。一瞬、背景が歪むと森の中に出た。だが、ここは世界樹ではないだろう。いつもの感覚からいえば『近く』に出たはずだ。ただ、うっそうと茂った森の中なので世界樹を見上げることはできない。


「あらあら、困りましたね」


 シンシスは『困ったわ~』と頬に手を持っていっているが、まったく困っているようには見えない。たぶん、いや十中八九、私を当てにしているのだろう。エルフは森の中の方向感覚はずば抜けている。ちなみにドワーフは洞窟の中、獣人はその動物により感覚は変わる。一般の人間は特に方向感覚に優れていない種族と言えよう。


 仕方がないので『こっちだ』と私が先陣を切って進む。森の中とはいっても獣道みたいなものが多く、歩くことには問題はない。感覚からすれば一~二時間程度で世界樹のフモトに行ける予定だった。だが、昼を大きく回り三~四時間経ってもつかない。いや、同じところをまわっているようだ。


「これは……」

「あらあら、結界が張ってあるようですね?」


 人の感覚を狂わせ、目的のモノに近づけないようにする結界のようだ。これではエルフの感覚を持ってしても世界樹に着くことは不可能だ。

 だが、方法はいくつかある。


 まずは、エルフの王国の者が迎えに来てくれるのを待つ方法。

 その者が案内すれば入れるだろう。だが、いつ、どういった状態なら迎えに来てくれるかわからない。そもそも、連絡もしていないのに迎えが来るとは思えない。


 次に、結界を壊してしまう方法。

 シンシスなら可能かもしれないが、とても友好的ではないので当然却下だ。


 ちゃんとした入り口を探す方法。

 最も無難だが最も難しい。おそらくグレン王国の兵士の緊急連絡用の入り口があるはずだ。そこを探せば入ることは可能だろう。


 あとは、森全体でエルフを探す方法。

 この森に棲んでいるエルフなら入り方を知っている可能性もある……が、そう簡単には見つからないだろう。


 どの方法も、時間がかかり過ぎる。できれば、エルフの王国で休憩したい。


「とりあえず、川辺で休憩しましょうか? 休憩すればいい案が浮かぶかもしれませんよ」


 私の考えはシンシスにより却下された。もっとも口に出してないからシンシスは自然に却下したことを知る由もないのだが……。

 いい案もないので、シンシスの意見に従うことにする。しかし、川辺を探すのは私の役目だ。結局、森の中の川辺を簡単に探せるのは私しかいない。

 途中から獣道よりしっかりした道になって川辺へと続いていた。誰かがこの辺に住んでいることは間違いなさそうだ。


 白い丸い石がゴロゴロと転がる川辺に出る。どうやら川下の方らしい。開けた場所なので振り返ってみると巨大な大木がそびえ立っている。一番上には雲がかかってよく見えない。


「あらあら、大きいですねぇ」


 大きいなんて生易しいモノではない。数百メートルはあるだろう。

 私の出身の森はユニクス王国付近の『天秤の森』と言われているところだ。そこ以外の森を知らない。それでも世界樹の話は聞いたことがあるほど有名だった。だが、聞いた話を凌ぐ大きさだ。


 私が圧倒されている間にシンシスは休憩の準備をしていく。開けた場所に、手際よく石を並べちょっとした椅子みたいにする。バックパックから保存食を取り出す。昔、見た大きいバックパックは使っていない。ゼディスに取り上げられていた。味方の行動を制限してしまうためとのこと……。

 そういえば昼食は、まだ取っていなかった。


「お魚でも釣りますか?」

「いや、そのための道具を持ってきていないし、それほど長い休憩を取ろうとも思っていない」


 腰を下ろすと、塩味の濃い乾燥肉を派手引きちぎりながら水筒の水に口を付ける。ドワーフなどは水筒にお酒を入れる者がいるらしい。そういえばドキサもドンドランドもお酒は強そうだった。

 そんなことを考えていると、シンシスが急に立ち上がった。


「どうした?」

「どうやら、お迎えが来たようですよ」


 シンシスがいつものように笑っている。その方向に顔を向けるとエルフが歩いてくる。こちらの位置をどうやって知ったのだろうか?

 敵の可能性は低い。エルフは基本、どこの国にも属さない。侵攻されない限り、他の国が戦争をしようがどこにも与しないことの方が多い。今回、グレン王国と同盟関係にあるが、それもこの一帯で戦争を起こさないための手段なのだと思われる。

 それに何より、シンシスが『お迎えだ』と言っているのだ。彼女の感が外れるとは思えない。

 エルフは若い女性だった。もっともエルフは見た目で年齢は分かり辛い。二十歳くらいから見た目が数百年は変わらない。緑髪のショートヘアー、武器は持っていないことが友好的であろうことを示す。


「世界樹への道をお求めですか?」

「はい、出来ればエルフの王国へ行きたいのですけれども……」

「よろしいですよ」

「いいのか!? そんなアッサリ他の国の者をエルフの王国に入れて!?」

「問題ありません。だって、アナタはエルフではありませんか。エルフの王国がエルフを拒んだりしません。もちろん、そのお仲間も……」


 どうやって、位置を特定したのか聞きたかったが、無粋かもしれないと思った。エルフの王国に入れてもらえる……それで第一の目的は達成できたので良しとすることにしよう。

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