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ガンガル将軍の部屋に呼び出される

 『真珠の踊り子亭』のスイートルームの一室で、それぞれ出かける支度をする。

 ドンドランドが今日の予定を確認する。


「今日はどうする? ゼディスは将軍の呼び出しらしいな。ワシらは屋敷探しでいいか……」


 昨日の続きというわけだ。ドキサが昨日見ていた本を広げる。どうやら不動産ギルドから物件についての本を借りて来たらしい。色々なところに目星を付けている。みんなに見せて、今日の順路を確認している。

 その様子を見ながらゼディスが、違う指示を出す。


「基本的には拠点探しを頼むが、エイスとシンシスは別のことを頼みたいんだ」

「あらあら……」

「なんだ?」


 二人とも何をするのか思い当たる節は無い。


「二人はエルフの王国に行って来てくれ」

「エルフの王国に?」

「あらあら……」


 先ほどからシンシスは『あらあら……』しか言っていない。別にかまわないが……。

 ドキサも勧める。


「たしかに、顔繋ぎとかしておいて損はないかもしれないわね。この辺の王族、貴族の名前や住まいはわかっているから大丈夫だけど、エルフの王国はまだまだ先だからエイス達が先行した方が私もいいと思うわ」

「王族や貴族? 顔繋ぎ? それなら昨日の舞踏会で会ったよ。覚えてないけど……」

「……」

「痛たたたっ!!」


 ドキサは無言でチキンウイングフェイスロックをかける。色々、苦心してオーナーから情報を引き出したのに、すでに顔繋ぎしていたのにイラッとした。

 ショコが止めに入る。


「待って、待って、ドキサちゃん。それにこの情報は他にも使い道はあるから、ありますから~!」


 なんとかゼディスからドキサを引き離す。

 改めて、今日の予定をみんなで話し合う。ドキサ達は屋敷探し、エイス達は街の外に出て転移魔法陣を使ってグレン王国の隣国エルフ王国へ、ゼディスは将軍から呼び出し……なんか『呼び出し』という響きは怒られるような錯覚を覚える。





 ゼディスは人通りの多い道を通り、途中、出店でお土産を買っていこうか迷う。良く考えたら、この町をじっくり歩いたことはない。色んな店を歩き回るのも悪くないかもしれない……呼び出されているんだった……一回で道順を覚えていないので、その辺のおねーさんに聞きながら王宮を目指す。

 我ながら物覚え悪いなーと思いながら、何とか門番の前までくる。


「ちわーっす」

「何の用だ?」

「ガンガル将軍に呼び出されました!」

「何、やらかしたんだ?」


 どうやら、門番も『呼び出し』に良いイメージは無いらしい。今日の訪問予定に目の前の怪しいAランク冒険者があるか、詰所に確認を取り行く。門番は二人いるので一人が外れても問題はないし、詰所はすぐ隣にある。


「確認は取れた。ついてこい! 部屋まで案内する」

「あの~、一応、客ですよね、俺?」

「……。まぁ、そうなるが、納得いかん。本当に女王様の面接に受かったのか? 不正がバレて呼び出されたんじゃないのか?」

「なぜ、そんなに敵視!」

「キセイオン様なら、まだわかる! あんな美しいリン女王様と愛らしいリンリル王女様がお前のような男を気に入るとは、どーーーーぅしても納得いかん!」


 広い城を案内しながら、今にも地団駄を踏みそうな門番、現在は案内兵。どうやら相当、女王、王女に入れ込んでいるようだ。たまに妄想世界に行ってはニヤーっと笑い、ゼディスを見て『チッ』と舌打ちをする。いいのか、こんな奴が案内兵で。

 なんか、いらんところで散々、罵倒されながらガンガル将軍の部屋の前までくる。さすがに、この部屋の前には衛兵とかはいないらしい。

 案内兵がノックをし『ゼディス様をお連れしました』と口上。どう考えても『様』を付けるような感じではなかったが、さすがに将軍の前ではちゃんと誤魔化す。もー、言いつけてやろうか?!

 『入れ』という声がする。案内兵は扉だけ開け、ゼディスだけが部屋の中へと入って行く。


 貴族の客室より豪勢な部屋だ。主に金色の作りと赤いソファー、奥には机もあるが手前のソファーに黒豹ガンガル将軍は座り、何か飲んでいる。身長の二~三倍くらいありそうな窓から光が入ってくる。高い天井にはシャンデリアが吊るされている。油を使うタイプだ。


「よく来たな、まぁ、座れ。」


 目の前、ほぼ対面に座る形になる。


(ソファーでけーな! 八人くらい座れそうだぞ)


 そのデカいソファーに一人だけ座る。目の前のガンガル将軍も同じだ。当然テーブルもデカいし大理石で出来ていて丈夫そうだ。飲んでいるのは紅茶らしい。紅茶の種類はよくわからないが独特の鼻を突く香がする。


「お前も飲むか?」

「とりあえず、いただきます」


 貰えるモノはとりあえず貰っておこう。よくわからないけど……。

 将軍は机の上にある銀ノベルを軽く振ると、チリンと甲高い音が二人しかいない部屋に響く。どこで聞いていたのかメイドが一人部屋に入ってくると、将軍は自分と同じシナモンティーを頼む。なんだベルなんてお洒落な物があるのか……前、貴族の客室にいたときもベルがあったのか?


「良い部屋ですね……ただ、広すぎて落ち着かないですが……」

「そんなもん、そのうち慣れる」

「で、暇つぶしの話し相手をすればいいんですかね~」

「悪いが俺が暇じゃない」

「暇そうに見えるんですがね~」


 本題に入る前に窓の外を見る。綺麗に整えられた庭。多分、雇用の一環として庭師を雇っているのだろう。シナモンティーが来るまでは本格的な話は出来ないだろうからノンビリしている。

 その間の話題として、将軍が昨日の舞踏会のことを話題に持ち出す。


「昨日は驚いたぞ。まさか、あんなに踊れるとはな。申し訳ないが侮っていた」

「正直、俺もあんなに踊れるとは思いませんでした」

「まさか、初めてであれだけ出来たのか?」

「理由は色々ありますが、初めてなのは間違いありません。ただ、ダンスする筋肉など使ったことがないので、おかげで身体中筋肉痛ですよ」


 さすがに、セニードランドローを使ってダンスしていたとは思っていないようだ。というか、ダンスに使うべきものでもないし……。だから、将軍はゼディスにダンスの才能があったのかと、感心していた。すみません、詐欺です……。


 メイドが扉をノックし、シナモンティーが運ばれてくる。シナモンティー……名前は聞いたことはあるが、実際見るのは初めてだ。なんか棒が刺さっている。これがシナモンなのだろう。なんかハッカの甘っぽい匂いがする。どっかで、嗅いだことのある独特の匂いだ。


「シナモンティーは紅茶に砕いたシナモンスティックを入れている。粉末状のシナモンもあるが普通はスティックの方を使用する。樹皮を丸めシナモンスティックを作るらしい。とはいっても、私も作っているところを見たわけではないが……」


 飲んでみる……なんか、臭い。なんとたとえたらいいのだろうか。


「あまりお気に召さないようだな」


 どうやら、顔に出ていたらしい。というか、匂いが強く口の中がスーっと変な感じがする。これは美味いのか? いや、不味くはないが癖が強い。

 シナモンティーはとりあえずおいておいて……ガンガル将軍は、メイドが去ったことを確認してから本題に入る。頭を抱えている。


「やり過ぎだ……」

「は?」


 何のことか理解できず、思わず聞き返してしまった。


「面談を成功させろと言ったが、あそこまで気に入られろとは言ってないだろ」

「あぁ……そういうことですか。でも、俺は俺の考えがあってやらせてもらってるわけで、別に将軍と組んでるわけじゃないからいいでしょ? それに、これで予定通りキセイオンを調べる時間が出来たわけだし……」

「残念だが、キセイオンを調べる時間はあまり増えない」

「どういうことです? 競争相手が増えれば当然、競い合うため時間はかかるだでしょ?」

「だから、お前がやり過ぎたために、お前を調べようという連中が出てきたんだよ!」

「……。俺の調査にも時間が割かれるわけか~。それは考えてもみなかった」

「頼む、考えてくれ……」


 ぐったりとうな垂れている。シナモンティーには血糖値を下げ、体を温める効果があるらしい。心を癒す香りといわれているとか……。お疲れのようです。

 軽くシナモンティーを口に付けると将軍は言葉を続ける。


「もっとも、お前のこと調べるように強く主張しているのはデトマスト伯爵……キセイオンの父親だ。最近表に出てこなかった。病気じゃないかという噂もあった。昨日、突然、城に来られたと思ったらお前のことを調べるよう進言してきた」

「本物のデトマスト伯爵……?」

「本物……とは言い難い。俺も見たが、どこかおかしい。顔色は悪かったが死人ということはなかった。何かに怯えているようにも見えた」

「キセイオンに対して?」

「まさか、息子に対してとは考えにくいだろう。ただ、脅されている可能性は高いが……。昨日、ダークエルフが多数捕まったことは知っているか?」

「その聞き方だと、襲われたのがウチのメンバーだったってーのは知らなそうですね」

「本当か!?」


 今度はゼディスがシナモンティーのカップに手を伸ばす。う~ん、匂いが慣れないな~。


「ダークエルフは八人、それとワーボアとオーガ……だったかな? 俺が襲われたわけじゃないから、詳しく覚えてませんけどね。調べた結果、身元の分かるものは無かったとか……おそらく口も割らないですよね~」

「尋問官に任せてあるが無理だろうな。このダークエルフを操っている奴が、デトマスト伯爵を脅しているんじゃないかと思っている。」

「昨日、舞踏会でキセイオンに『お前の仲間を屋敷に招待する』みたいなこと言ってましたから、操っているのはキセイオンだと思いますよ」

「!? お前は、なんでそんな大事なことをサラリという」


 カップを煽るようにしてティーを飲み干すと将軍は『そうとは言い切れない』という。


「人間ごとき命令に、プライドの高いダークエルフが命令を聞くとは思えん。ダークエルフはキセイオンじゃないの者が操り、その裏の支配者がキセイオンと結託し、王座を狙っていると考えるのが濃厚な線じゃないか?」

「その操っている奴は人間ですかね~?」


 とぼけるようにゼディスが聞く。


「人間の可能性は低いな……おそらく魔族。だが、プライドはさほど高くないが地位が高ければ、ダークエルフたちも言うことを聞かざるを得まい。それにプライドの高くない魔族なら人間と組むとも考えられる」

「キセイオン自体が『魔族』という考えはないんですね?」

「……キセイオン自体が……魔族……だと?」


 ハトが豆鉄砲を食ったように目を丸くし固まっている。黒豹なのに……。


「待て、そんな馬鹿な! キセイオンはまだ騎士学校にいたころから……いや、あの事故から戻ってきたときから……そんな、バカな……ありえん……」


 どうやら、心当たりがありそうだ。しかも独り言の内容からすると、その事故のときインキュバスと入れ替わったとみて間違いなさそうだ。デトマスト伯爵を脅しているのも、ダークエルフを操っているのもキセイオン本人と見ていいだろう。

 しかし、ガンガル将軍は認めたくないようだ。

 助け舟を出しておく……プラス、追い詰めておく。どういう結果になるか知らないが、ゼディスの知ったことではない。


「確かめればいいんじゃないですか?」

「確かめる……だと」

「魔族かどうかですよ。俺たちはキセイオンはインキュバスじゃないかと睨んでいます」

「何か見分ける方法はないのか?」

「極めて難しいですね……人間に化けているのなら魔法解除(ディスペルマジック)が有効な手段かもしれません。とは言ったものの、この方法は無礼極まりないですけどね。疑っていると言っているようなものなので、確証がないならやめておく方が賢明です」

「確かに……そうか……もし宮廷魔術師に頼むにしても、確証が取れて最後の詰めとして……というわけか」


 そのとき、扉がノックされる。


「伝令です。他国の情報が入ったとのことで『至急、会議室に来られたし』とのことです」

「わかった」


 それだけ言うとガンガル将軍は立ち上がる。


「悪いが、急用だ」

「良い知らせじゃなさそうですね」

「7魔将のことも聞かねばならない。また後程この部屋に来てもらう。それとキセイオンのことだが内密にしておけ。お前自身、目を付けられているんだからな」

「変に言いふらせば、俺が捕まりかねないわけね~」

「そう言うことだ」


 ガンガル将軍と部屋を出ると、衛兵が一人いた。


「ゼディス様。これからの予定を説明します」

「予定?」


 何のことかわからず首をひねっていると、ガンガル将軍は素知らぬ顔で背中越しに手を振り去っていく。

 衛兵はガンガル将軍に一礼した後、ゼディスに向かって立て続けに捲し立てていく。


「まずはこの後、二名の男爵様が昼食の申し出をしております。それから午後、お茶の席を、二名の子爵様と一名の男爵様が、夕食には三名の伯爵様が申し出をしております。その間の時間は一名の辺境伯様と五名の準男爵様からのお誘いがあります。これから順に名前を読み上げます」

「……。無理だろ?」

「キャンセルなされるお方をお決めください」

「角が立つじゃん!」

「そうですね」


 あっさりと認めるが、衛兵は他人事なのでどうでも良さそうだ。これはどうするのが正解? 正解ある? でも、無意味に断るのも印象が悪いだろう。ゼディス本人の評価が下がるのはいいが、選んだ女王、王女の評価が下がる可能性もある。


「八方塞じゃん」

「では、初めの昼食の二名の男爵様から……」


 ゼディスは仕方ないので出来るだけ出席することにした、重複しているのは当然無理だが……夕食の誘いの中にデトマスト伯爵の名前を聞いた。キセイオンからの招待状のようだ……。

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