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朝食はコロッケ二つとパン、あとコンソメスープ

 ゼディスは朝食を食べながら、キセイオンについて説明していた。


「……ってなわけで、キセイオン……何とか伯爵の息子が、脅してきたわけよ。そこを『こう』ババーンと、やり込めてやって、ズババーンっとダンスで負かしたわけよ」


改めて今までの経緯を話した。キセイオンが女王たちに長期間の魅了呪文をかけてるっぽいとか、疑われているとか……適当な説明。


「説明不足な上、擬音が多すぎて全然わからないわ」


 ドキサは朝食にスパゲッティ・カルボナーラを食べている。炭焼き職人の炭が落ちた感じに黒胡椒をばら撒いているところから、カルボナーラという名前の由来が来ているという話を聞いたことがある。真実は知らないが……。フォークに器用にクルクル巻く……巻く……まだ巻く。ほぼ、一塊のボール状のチーズまみれのパスタが出来た。

 パクッ!っと一口で食べて、頬を膨らませてモグモグと食べている。なんだ、この生き物は? リスの亜種か? それともドワーフはみんなそうやって食べるのか? 他の人間もそう思ったらしく、ドンドランドをみんなが注目する。


「安心しろ。ワシでもあんな食べ方はせん……ドキサが特殊なだけじゃ」


 パスタとエール酒を普通に食べている。ドキサは周りを見ながら『何かおかしなことでも?』と言いたげに、首を傾げモブモグしている。ただ、喋ることはできない。

 ドキサの代わりではないが、シルバが口を開く。彼女は朝はパンに目玉焼き、ベーコン、サラダ、コーンスープ。上品な食べ方だ。ゼディスとドンドランドは、どちらかというとガツガツと行儀はよろしくない。もっとも気にもしていない。


「その説明を要約すると、キセイオンという男は人間ではないと?」

「俺が思うには……ね」


 ソースたっぷりのコロッケをフォークで刺し、半分噛り付くゼディス。衣が皿の上にボロボロ落ちる。お城ではこーいった食べ方は許されないだろうから、存分に楽しんでいる。

 サラダとブドウジュースのみの朝食のエイスが疑問を口にする。


「仮にそうだとして、その男の父親の伯爵は人間なのか? だとすると、話がややこしくなるぞ。ハーフなのか、それとも……」

「あらあら、本物のキセイオンさんと魔物が取って代わっている……ということかしら? そうしますと、本物の伯爵の息子さんはお亡くなりになっている可能性が高いですねぇ」


 シンシスがエイスの言葉を引き継ぐ。彼女の朝食はシルバと同じものを頼んでいる。目玉焼きの黄身をナイフで割り、それをパンに付けて食べる。

 ゼディスがそこで、すかさず声を上げる。


「待て、黄身は丸々食べるのが美味しんだろ! 何故割ってしまう!」

「ワシもそう思うぞ。周りの白身を食べてから、黄身だけをペロリと食べるのが美味いんじゃ!」


 ゼディスとドンドランドがガシッと握手をする。それに反論するのはシルバ。


「それは、あまりきれいな食べ方とは言えませんね」

「いや、皿が汚れないから綺麗だ! むしろ黄身がデロデロになるから食べ方としては割る方が汚い!」

「パンですくいますから、さほどお皿は汚れないんですよ?」

「じゃが、黄身本体を味わおうと思ったら丸ごと食べるのが筋ってもんじゃろ」


 どんな筋なんだろうとショコは思いながら、朝からステーキをかぶりついている。三百グラム。ごはん、スープ、サラダ有。


「とりあえず、目玉焼きのことは置いておいてですね、ゼディス様。キセイオンとかいう人が何者かを突き止めないといけないわけですね」

「簡単に言えば、そうなんだが、グレン王国の一部の者が動いているらしい。将軍がキセイオンを調べてるみたいなことを言っていたからな。もっとも彼が言うのは正体じゃなく動向を調べてるみたいだ」

「動向からして、すでに怪しい男か……もし、これで魔族だったら国を乗っ取ろうとしていると考えて、まず間違いがないな」


 エイスは簡単な食事を済ませ、ブドウジュースを目の前に引き寄せる。ゼディスはキセイオンが何者かをみんなに尋ねる。


「女王陛下と王女様を虜にする魔族だとして、そいつらは何もんだと思う?」

「想像つきませんね」


 シルバもやはり目玉焼きの黄身を割りパンを付けて食べる。なんとなく、ゼディスとドンドランドが納得いかない。というか、目玉焼きの黄身だけを食べたくなる。注文するか!?


「あらあら、簡単じゃありませんか?」


 意外な言葉を放ったのは勇者であるシンシス。こいつもパンに黄身を……コーンスープも美味そうに見えてきた。だが、朝からそんなに食欲があるわけでもない。

 朝食が一日で一番、量を多くとった方がいい、という話を聞いたことがあったが、ゼディスはそもそも、朝は弱く起きるのも苦手だ。食欲なんて湧くわけもない。ただ、他人が口にしているとなんとなく食べたくなるだけの話だ。

 そんなことを考えているのはゼディスだけらしい。正体が知りたくてエイスがシンシスに尋ねる。


「何者だ? キセイオンという男は……」

「あらあら、そんなに焦らなくとも……。あくまでも、私の考えですけれどもインキュバスだと思いますよ」

「インキュバス?」


 シルバが素っ頓狂な声を出す。

 エイスがインキュバスについて大雑把に説明する。


 インキュバス……淫魔の一種だ。一般的に知られている魔族。女性の夢の中に憑りついて自分の虜にする男性の魔族。女性を妊娠させたり、永遠に夢の中に取り込んだり、その姿を相手の理想の男性に見せ性的に堕落させていく魔族。

 生まれてくる子供はハーフではなく人間となる。インキュバスの能力は引き継がないが、魔力に秀でた子になりやすいらしい。

 ちなみに女性版はサッキュバスと呼ばれている。


「なるほど、それなら合点がいきますね。良く気づかれました!」

「それなりに、メジャーな魔族ですからね~。それに昔の7魔将の一人がインキュバスでしたから~」


 感心するシルバにシンシスが答える。


「7魔将の一人じゃと!? そいつは倒したのか? それとも今回のキセイオンがその7魔将という可能性は?」

「あら~、どうかしらぁ? 今回の事件と彼は無関係だと思いますけど、絶対とは言い切れませんね~。なにせ、私たちが倒していない唯一の7魔将ですから~」

「仲間になったという人ですね? たしかお名前はレレガントさん」


 ショコの言葉にシンシスが頷く。


「まぁ、レレガントではないだろうな。キセイオンは7魔将ほどの強さは無さそうだった。ただのインキュバスの可能性が高い。もっともただのインキュバスもジンマ級以上だろうからそこそこ強いだろうが……」


 ゼディスもシンシスの可能性を肯定するが、みんなキョトンとし首を傾げる。


「ジンマ級?」

「? ジンマ級だろ? まぁ、可能性としては……。センマの可能性もあるだろうが……」

「すみません。ジンマキュウ、とかセンマとかが、すでにわからないのですが……」

「え? ……あぁ、そうか。そうだった」


 ゼディスはキセイオンがインキュバスの可能性のことを考えて、ジンマ級のことを当たり前のように話していたことを後悔した。説明が面倒くさい。適当に誤魔化そうと考える。


「魔界の階級だ。正確にはもっと細かいのがあるんだが、下から……チュウマ級、ジュウマ級、ハンマ級、ジンマ級、センマ級、キシマ級、ショウマ級、オウマ級、シンマ級という段階に分かれているんだ。

 チュウマ、ジュウマ、ハンマは魔物と呼ばれ、それ以上が魔人と呼ばれる。明確に知能の差がその境になる。

 チュウマは昆虫の魔物、最近見た中ではジャイアントビートルなど。ジュウマは獣の魔物、ジャイアントスネーク、グリフォンなどが入る。ハンマは多少知力を持った魔物、ミノタウルス、ゴブリン、コボルトなど。この三種は力関係は無く、ただ性質的に分けられる。

 それ以上のジンマからは支配する側になるインキュバス、バンパイヤ、デーモン人間型が大半を占め魔物を使役する。そして、ジンマから強くなったモノがセンマ、キシマと上がっていく。なのでジンマ以上は種別に力があるわけではない。個々の能力になってくる。

 およそ、十万匹に一匹がセンマ、百万匹に一匹がキシマ、千万匹に一匹がショウマ、一億匹に一匹がオウマ級となる。オウマ級が通常、魔王と呼ばれる存在だ。魔界に数人いるとされている。

 シンマ級は人間でいう所の神様だ。別格なので存在しているかも定かではない。地上に降臨する術も特にないから関係ない。」

「そういう知識はどこから入手するんですか?」


 ショコが口をポカーンと空けながら呆気にとられる。いまいちピンと来ていないようだ。


「うーん、なんとなく、覚えてたからな~。蛇の道は蛇……ってほどでもないけれど……。あーあと、キシマ級あたりから、魔法の物品じゃないとダメージが通らない、それにショウマ級に至っては人間に傷つける手段はないとまで言われていたんだ……ショウマ級が俗にいう……」

「7魔将……というわけですね」


 エイスがゼディスの言葉を引き継ぐ形になった。

 ドキサは口をモキュモキュさせ、喋っている人に目線だけ送っていたが、ようやく食べ終わる。やっと自分のターンだ!


「まーでも、その話は置いておいたとして、キセイオンがインキュバスだとしたら私たち女性陣が危ない訳よね? そんな厭味ったらしい男に夢中になるなんて御免だわ。インキュバスに対する対策って何かないの?」

「あらあら、たしかに対策しておかないと困りますね~。まずは精神力を高めることです。彼、彼女らは誘惑の魔力を持っていますから、精神抵抗しなければ、すぐに虜にされてしまいます。魔法のアイテムや通常魔法での精神抵抗力を上げるのが有効ですね。」

「魔法の物品を持ってなけりゃー、魔法使いもいない……我がパーティーには打つ手なし?」


 ドキサが周りのメンバーを見るが、魔法使いなどいるわけもない。

 が、ゼディスはそのこと自体、問題に思っていない。理由としてはすでに、その状態に彼女たちはゼディスによりかかっている。この能力は重複はしない。深いところに魔力を入れたもの勝ち。ただし、深くしようとすると難易度はあがる。ゼディスはすでに彼女たちの深いところに魔力を入れている。これ以上深いところは容易ではないはずだ。


「まぁ、それは問題ないだろう」

「いいえ問題大ありです!」


 シルバが言う……そーいえば、シルバには魔力は入れてない。魔力が見えるから……確かにシルバが問題だ。


「方法はあるが……」


 ゼディスの言葉にシンシスが反応する。


「あまりよろしい方法とはいいがたいですね。私はその方法はお断りしますが……。」


 シンシスはゼディスの魔力のことをしっかりと認識しているようだ。が、今、有効手段は見つからない。魔法のアイテムを買うまで動かないのが、おそらくベターな手段だろう。それでもキセイオン自ら、宿屋にやってきてシルバを虜にする魔力を使わないとは限らない。

 常にシンシスがみんなの周りにいればいいが、それも不可能に近い提案だ。ようするに、彼女たちはキセイオンの毒牙にかかるか、ゼディスの毒牙にかかるかの差だとシンシスは考えている。


「私はゼディス様の方法でお願いします!」


 ショコが意を決して、ゼディスに頼む。

 だが、意外にも渋るのはゼディスの方。普段なら喜んで行いそうだが、シンシスにバレているのが厄介だ。

 シンシスを見るとニッコリしている。何を考えているかわからない。

 ゼディスが考え込んでいるので、ドキサが何が問題か尋ねてくる。


「シンシスも断るし、ゼディスも悩んでるけど危険な方法なの?」

「いや、危険はないんだが……まぁ、いいか。」


 結局、ゼディスは深く考えるのをやめた。おそらく、この問題が解決したら、シンシスに彼女たちに入れた魔力を取り出されてしまうだろう。魔力を取り出す方法は現在無いのだが、彼女なら発見、発明しかねない。ダメもとでやっておいて損はないはずだ。


「よし! キセイオンの魅了の魔力に対抗できるようにしておこう。シンシスとドンドランはやらないとして、やりたい奴だけ並べ。強制はしない。」

「なにかリスクが?」


 当然の疑問をエイスが口にする。


「あるけど教えない~。俺に有利だから……」

「なるほど、それで出し渋っていたわけか……この小悪党が……」


 ドキサが毒づく。が、涼しい顔で『嫌なら止めとけば~♪』と口笛を吹きながら、ニヤニヤする。完全にイヤな奴だ……人の足元をみて……。

 他の方法がないため、ドキサも渋々並ぶ。


 ゼディスはみんなの背中から魔力を入れていく。前からいれるとシルバにバレそうだから……この期に及んで小心者。

 ショコ、ドキサ、エイス、シルバに魔力を入れ終える。一見して特に変わったことは起きていない。ドンドランドが不思議そうな顔をする。


「何にも変わっておらんが大丈夫なのか?」

「まぁ、控えめにしてあるけど、問題ないだろ」


 彼女たちも自分の変化に気づいていない。シルバが体をクルリと回して確認する。


「とくに、変わったところはありませんね?」

「ちょっと、本当に大丈夫なの、ゼディス!」

「ドキサちゃん、大丈夫だよ。ゼディス様だもん!」

「ふむ、なんとなくだが、魔力量が増えたようだし、体調も良くなった気がするな」


 みんな、なんとなくそんな気がしているらしい。特に変わったところは見られない……外見的には。ただし、ゼディスへの好感度が大幅に動いているのだが、四人とも他のメンバーに『ゼディスがさらに好きになっていること』などバレないように何事もないように振る舞っている。それが、リスクなのかどうかも分からないのに、他人に話したい人間などいない。


 その時、部屋の扉がノックされ一人の衛兵がゼディスを城に来るように連絡に来た。

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