表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/100

取引材料の入手

 ショコとドンドランドとシンシスは、外での食事を終え『真珠の踊り子亭』に戻ってきていた。バラバラに街を見て回っていたが、帰る時間は決めていたので、宿屋付近で出会った。


 『真珠の踊り子亭』は一流の宿屋だ。警備のための冒険者も雇って見回りをしている。鍵も各部屋に二つずつ付いている。窓にも当然鍵がある。そう易々と侵入を許さない作りにはなっている。

 警備は厳重だ……。


 シンシスが部屋の鍵を開けると、突然、訳も分からず目の前にローブを着た男たちが襲ってきた!






 それから数分後、部屋の中にはローブの者たちの姿はない。

 シンシスはソファーに座り宿屋で用意してあるカゴに入ったオレンジを手に取り皮をむいていく。


「あらあら、彼らはどちら様でしょう?」


 ショコとドンドランドも似たようなソファーに座っている。


「『どちら様』かは知らんが……それにしても侵入者をこうもあっさり……とは、恐れ入るのぉ」

「同感です」


 ショコとドンドランドも、シンシスと同じ果物を食べている。

 先ほど襲ってきたローブの男たちは猿轡を噛ませ、ロープでぐるぐる巻きにして気絶させ別の部屋に放置してある。


 扉から襲ってきた瞬間、シンシスが相手の首に手刀を叩き込んだのが一人目。扉からは一人ずつしか出てこれない。まずは、それで一人を気絶させると、さっさと引きずり出し道を開ける。部屋の中には、まだ五人いた。ショコ、ドンドランドから見て彼らは手練れに思えた。こちらが扉を開ける前から、すでにエストックを抜いて準備している。

 しかし、シンシスは全く迷うことなく。五人の真ん中に突っ込んでいく。五人はそれぞれ一歩下がる。同士討ちになりかねないから、五人一遍に襲い掛かることはない。だが、その下がるという行為が間違いだった。

 シンシスは腰に付けていた杖を手の先から伸ばすように喉目掛け突き刺す。的確に急所を狙った攻撃で、かつ、エストックよりも杖の方が長いため反撃も受けない。その間に呪文を唱えており、飛び退いたもう一人に『光の力』という魔法を叩き込んでいた。簡単に二人無力化した。

 その二人が、初めに攻撃する予定の人物だったのだろう。それだけでローブの男たちは一手遅れている。次に攻撃の手はずの二人組がシンシスをエストックで左右から狙うが、その間を抜けてもう一人に蹴りを入れ壁に叩きつける。そいつは呪文を使おうとしていたため無防備だった。彼らの予定では二人がシンシスを引きつけている間に、魔法を使う手はずだったが全て裏目に出る。

 その行動の早さに逃げるか、攻めるか躊躇した二人のうち一人のエストックを杖で叩き落し、杖先で顎を殴り気絶させる。

 最後の一人は三人がかりで安全に捕えた。


「安全に……ワシらいなくても安全に捕えただろうがな」

「ですね~」

「そんなことないわよ」

「本気じゃないんじゃろ?」

「本気を出す場所じゃありませんから。宿屋が無くなっても困りますしね~」


 ドンドランドはシンシスが本気でやっていたら、この五人は死んでいることを確信していた。いや、自分たちも巻き込まれかねない。それどころか宿屋が危うい。


「ところで、ゼディス様ですよね、こんな方々とお知り合いになるのは……?」

「そうね~」


 シンシスは考えるように顎に人差し指で触れる。

 ドンドランドが答えの一つを出す。


「女王陛下の面会か?……城の中での厄介事じゃろう」

「たしかに、それもあるかもしれませんね~。ただ、ダークエルフだったところを見ると……」

「普通じゃありませんね」


 ウンウンとショコが頷く。


「やっぱり7魔将が私たちを狙っているんでしょうか?」

「あり得ない話じゃないけど、私たちの存在を彼女?達がどこまで認識できていかにもよるわよね~」

「脅威じゃない勇者の卵を狙わないということか?」

「というより、監視してないから、私たちがココにいること自体わかってないのじゃないかしら?」

「ところで、あの人たちはどうするんですか?」

「センスライでもあればいいんですけどね~」

「センスライ……ですか?」

「魔法使いの上位の呪文です。嘘が見破れるんですよ。私は神官ですから使えませんけど……」

「エイスならどうじゃ?」

「彼女は精霊魔法使いですよ」


 ショコがドンドランドに言う。ドンドランドは精霊魔法も普通の魔法もどちらでも違いが無いと思っている節がある。


「魔法は大きく分けて三種類あります。


 精霊魔法は、精霊の力

 神聖魔法は、神様の力

 通常魔法は、マナの結合による力 」


 ただ、このマナというモノが厄介で自然発生しているようで実際なんなのか、わかっている者は少ない。木や草など自然物から溢れているというのが一般的な説である。これの組み替えにより、魔力を抽出し法則を見つけ出し、攻撃なり防御に変換する。

 そんな説明をシンシスがする。もっとも、そんな話は只の暇つぶしである。


「そうですね……衛兵に引き渡すのが無難でしょう」

「他に方法はないしのぉ」

「口も割らないでしょうし……」


 ショコが身分の分かりそうなものが無いか調べたが、当然のように何も出てこない。

 オレンジを食べながらみんなの帰りをのんびりと待ってた。

 みんなに相談してから、彼らの処遇を決めることで三人は一致していた。





「と、言うわけです」


 ショコがエイス、ドキサ、シルバに話す。


 寝室に転がっているダークエルフたち。エイスも一人捕えて衛兵に引き渡したが口を割らないだろう。死体からも何も出てこなかった。そして、今いる奴らからも何も発見できない。

 シンシスがみんなに提案する。


「ここに居られても、居心地が悪いので衛兵に引き渡したらいかがでしょう?」

「じゃが、相手から連絡があったとき、人質として使えんか?」

「無理だな」

「ダークエルフですからね~」


 仲間を見殺しにするくらいなんともないだろう。むしろ、取引を逆手に取られて罠を貼られる可能性があるくらいだ。

 シルバが衛兵に引き渡す案を押す。


「そうですね。いい解決法が思いつきません。衛兵に任せましょう」

「衛兵で大丈夫ですかね?」

「あら? また襲ってきたら、また倒せばいいからいいんじゃないかしら? それにみんなのいい練習台になるんじゃない? この程度で手こずるようじゃ話にならないモノ」

「たしかに、そっちはそれでいいが、街に危害がある場合はどうする?」

「あらあら、それこそ衛兵のお仕事なんじゃないかしら?」

「たしかに……そうじゃな、そんときワシらが手を貸せばいいだけの事か」


 結局衛兵に引き渡すことにした。

 その際に、まず『真珠の踊り子亭』に連絡して、大ごとにならないよう配慮する。もし、襲撃者が宿屋にいたとなったら信頼がた落ちだろう。宿屋の主人……というよりオーナが慌てて口止めや、裏取引などを持ちかける。

 対応はショコとエイス。


「どうか、このことはご内密にお願いします」

「もちろんです」

「すぐに衛兵の方にはご連絡させていただきました。

とりあえず、お詫びと言っては何ですが、宿泊費は三割ほどお安くさせていただくということで……」


 向こうから言ってくる。侵入者を許した落ち度は、もちろん宿屋側にあるが基本どこの宿屋も自己責任が当たり前である。いうなれば、特別な処置を提案しているともいえる。


「どうしますか、エイスさん?」

「他の宿屋のスイートに移動するという手もある」

「お待ちください!!」


 オーナーは移動されるのは困る。

 特に問題もなければスイートから他の宿屋のスイートへ移動するというのは不自然である。何かしらの問題があったから移動するのだ。当然、他の宿屋は探りを入れてくる。サービスか警備か施設か何らかの不備を探してくるだろう。火のないところに煙は立たず、普段なら問題はないが今回は衛兵が来てしまうのだ。問題だらけだ。衛兵に多少金を握らせただけで喋る可能性は大。


「な……なら、滞在費を半額に……」


 何日宿泊するかもわからないのに、三割でも破格だ。それでも五割出してでも口止めしなければならない。彼女たちもそのことは重々承知だ。


「半額か……破格だな」


 エイスの言葉にオーナーは汗だくになっている。これ以上はさすがに無理だと思っている。


「ですが、私たちはお金はありますから、三割で結構ですよ」

「え!? あっ、あの? では、いったい何を……」


 確かに、宿泊日数が決まっていない時点で、彼女たちは金額など気にしていない。盲点とも言えた。だがそうなると、彼女たちを引きとめる手段が思いつかない。

 エイスが手の甲でオーナーを軽くポンポンと叩く。


「そんなに硬くなる必要はない。そもそも、侵入者が入ったとしたって自己責任じゃないか? たとえ五人ダークエルフが入ったとしても……」

「……」


 そんな、大人数でしかも、魔族に属するダークエルフ最悪である。オーナーには脅しにしか聞こえない。高級店で全く気付かなかったなど、不祥事もいいところだ。


「そんなに、怯えなくとも大丈夫ですよ。ただ、顔つなぎをしておきたいんです。町の有力者と……本来なら、時間をかけて……と思っていましたが、オーナーさんとも知り合えましたし、よろしければ、何人か紹介して欲しい……というだけです」


 おそらく、その中にダークエルフを操っている奴がいるハズである。ゼディス関係だとしても国の中枢にいるのだから有力者だろうし、もし、ハズレてもダークエルフを今まで見つからないように囲っていただけでも、かなりの力のあるモノなことが伺える。


「しかし……」


 オーナーも顧客情報を漏らすことにはもろ手を挙げて喜ばしいことではない。なにせ、信頼第一の商売だ。ましてや、有力者の情報などそちらでも、潰される可能性はある。


「心配するな。お前の名前も『真珠の踊り子亭』の名前も出ることはない」

「そうですよ。ただの顔繋ぎですから」


 にこやかにショコが笑う。

 自分や宿屋の名前がでないのであれば、圧倒的に情報を流すことの方がリスクが低い。


「……本当に私の名前は……」

「漏らすメリットもない」

「それに、白を切リ通すことも可能でしょう。別に罪に問われるわけでもありませんし」


 オーナーは唸る。情報はこの世界では重要度は低い。それに背に腹は代えられぬ。


「わかりました。本当に私の名前だけは勘弁してください」

「話が分かる男でよかった」

「それでは、しばらく滞在させていただきます」


 オーナーは二人の後姿を見送った。ダークエルフはローブを着せられ衛兵に連れられていく。ローブのおかげで他の客からは何者だか認識はできないだろう。見回りの冒険者が捕まえたことにショコ達がしていたおかげで評判はそれ程落ちることはない。

 ただ、その判断が正しかったか、オーナーにはわからなかった。


 ショコとエイスはゼディスが舞踏会で脅しをかけている本人と会っているとは知らなかったので、オーナーから有力者の情報を聞き出していたのは仕方なかった。

 もっとも、顔繋ぎはしておいて損することはないのでしておくことに、越したことはないが……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ