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傭兵のお仕事は終わりました

ワードラゴン…特殊な種族である。


ワーと付いているが実際はドラゴニュートと呼ばれ、ドラゴンが人間体を取っていると考えた方が正しい。

唯一エルフの種族より長寿で攻撃力も知力も高い。神聖魔法と精霊魔法は使えないが通常魔法は使用する

欠点は個体数が圧倒的に少ない。

エルフよりも少ないが人間社会には溶け込んでいる。


ただ、その圧倒的力と知識で国の中枢にいることが多い…エイスがドラキュラと言われていたのはドラゴニュートだと思われていたからだということもある。

エルフが国の中枢にいるとは思っていなかったし、破壊活動が派手だったからだ。


すでに執事は部屋から下がり、フィン、ドキサ、ゼディスの三人が部屋にいるだけだ。

ドキサも初めてフィンに会ったらしく言葉が出ない。


「で…なんか、ようですか?」


ゼディスはめんどくさそうな声でフィンに尋ねる。

ドキサが横目で注意を促したが気にしないことにする。

だいたい用件はわかっていた。


ワードラゴンのフィンが振り返ると目が黄金色で手が鱗、頭につのがある以外は想像よりも人間と変わりはなかった。

しかも、かなりの美人でスタイルもいい。

横のドワーフと比べる……。


ドスッ!

「ぐっ……」


ドキサのローキックが飛ぶ。

比べられたことによる怒りか、面倒臭そうに尋ねたことへの注意かはわからない。


「そちらにお掛けなさい」


ソファーを進める。

自分はテーブルの方の大きな椅子に座る。

女性としては大柄だがゼディスよりわずかに背が低い。

ゼディスは175cm前後、フィンはおそらく170cmだろう。


ゼディスは遠慮なしに腰を下ろしながら、聞かれるであろうことを先に話し始める。


「まずは敵のスパイってことはありませんよ……証明はできませんが……まぁ監視でもつけてください。

物資の方は壊滅的だったから、これ以上の進軍は俺の見立てでは不可能じゃないですかね。

それから、敵の将軍で確認できたのはフィリップ将軍とエイス将軍。

敵の規模はまだ、かなりの数ですが逆に重荷になってるんじゃないですかね~」


フィンは話が早くて助かるというように頷く。

もちろん、一介の傭兵ごときの話を鵜呑みにするはずもない。


「そうか……やはりな……」


深く自分の椅子の背もたれによりかかると思案するように沈黙する。

その態度にドキサが質問をする。


「どういうことですか?」


戦争自体は収拾する方向に流れていくだろうが、それでは困るのだろうかということだ。


「たぶん、このまま引き下がらんな……フィリップのバカ将軍じゃ…アイツは兵を駒だと思っている。

騎士団はともかく歩兵、傭兵の類は背水の陣でこの砦に突っ込ませるかもしれん」

「エイス将軍ではなく?」

「ドラキュラか?なら、私がでれば価値が望めるさ……ただ、バカは手が付けられん」


ドラゴンの子とワードラゴンならではの洒落なのだが、それよりもバカ将軍の方が気にかかっているようだ。


「いっそ、不慮の事故にでも遭ってもらえれば、しばらくは小競り合いも無くなるのに……」

「こちらで打ち取ってしまえば?」

「根が深くなる。さらに激しい戦争になるだろうな……

お前が何とかしてくれていたら、かなり助かったんだがな……無理な話か」


ゼディスを眺める。

政治もかかわる問題だ、下手に頼む方がややこしくなる。

が、ゼディスは、


「あー、すみません……殺して、首をその辺で処分しちゃいました……」

「え!?」「え!?」


フィンとドキサがこの男は何を言っているんだという顔で見る……。

だが、しばらくするとフィンが笑い出す。


「くっくっく、そうか! あのバカを! あぁ、分かっていると思うが内密にな! これでずいぶん助かるぞ。報奨金は……」

「出せないでしょ?」

「物分りのいい男だな」


ドキサがキョトンとしている……何か言おうとしたがゼディスが手で遮る。


「内密だからいいんだ」


納得がいかないが本人がいいと言っているのに、ドキサが頑張るのは筋違いかと諦めた。


「エールーン王国ですね……」

「一介の傭兵にしては良く知っているな……この戦争を終わらせるきっかけだ……馬鹿さえいなければすぐにこの戦争は終わる。エールーンが魔族に落とされたんだからな」

「!?」


ドキサだけが目を見開く。

エールーン王国はラー王国からはかなり遠い。

だが、魔族が国を落すとなると脅威なのは間違いない。人類が手を組むべきなのは明らかだ。

しかし、その情報はこの国には浸透していない。

たぶん最新情報なのだろう……なのにゼディスが知っている方が不思議である。


「どう思う?」

「一介の傭兵に聞くことですか? まぁ、俺の見立てでは周りの国も危ないでしょうね~。

相当の力なのは見るまでもない。でも俺は今回の仕事で傭兵をやめて、冒険者に戻ろうと思っているので

せいぜい、国のお偉いさんたちが頑張ってくれればいいんじゃないですかね~」


今回の件で戦争も終わるが同盟もないのは明らかだ。

しかも魔族の国は遠いのだ。

だからといってのんびりしていたら、あっという間に蹂躙されてしまうのは目に見えている。

国の中央はその事態を理解しながらも、利権を模索するため後手に回るだろうとフィンは思っていた。

男爵でありながら実際はかなり強い権力を持っているのだが、出来るだけ高圧的には出たくないフィンは

やはり自分も後手に回っているなと苦笑してしまう。


「そう言えば名前を聞いてなかったな。お前たちの名前は?」

「ドキサです」「ゼディス」

「どうだろう、私の部下になる気はないか?」

「私は国家の正規兵です」「ない」


即答か……と思いながらため息を吐く……使えそうな人間なんだが……。

それに個人的にゼディスの方は好みだ……。

そう、見た目も頭の回転もフィンにとっては好意を抱くには十分な男に思えた。


「ぶ……部下が駄目なら……」

「駄目なら?」


ドキサが聞き返した

(お前じゃない!)っと思ったが愛人にすることは口には出さず諦めることにする。


「いや、何でもない……あぁ、何でもないぞ……このたびはご苦労だった。

仕事分の金はすでに軍の方に払っている。そっちで貰ってくれ。

それと冒険者になったら私から依頼することもあるだろう。その時はよろしく頼む」


それだけ言うと執事を呼び、彼らに帰るよう促す。


(惜しい……ゼディスは絶対に惜しい……なんとか手に入れられないだろうか……)


フィンがここまで男に執着したことは初めてだった。

何がそんなに魅力的なのかはわからないが、とにかく自分のモノにしたくて堪らなかった。







「まぁ、そんなわけで、お金を配りまーす」


宿屋に戻ってきてドキサが傭兵たちに仕事分のお金を分配する。

全員が生きていたわけではないのであまりは国に回収されてしまう。

それでも一人当たり一ヶ月くらいなら楽に暮らせる金額が配られる。


「冒険者より稼ぎは良いんだけどな……頻繁に戦争が遭ったら堪ったもんじゃない」


ドンドランドが他の傭兵と金貨や銅貨を数えている。

何に使うか考え、5~6人で集まっている。

お金を受け取った時点で任務終了である。


ワードックのショコもそこに混ざっている。

彼女は副隊長なのだから正規兵のはずだが…。


「で、ゼディス様はどうするんですか。これから?」


だが、答えたのは他の傭兵……現在は傭兵ではないが……。


「当然、この金を持って娼婦の館だろう!」

「いや、とりあえず宿賃をだな……」

「武器と防具だろう。良いモノをそろえたい……ってーか、これじゃぁ新しい武防具は難しいか?」

「そうだな……宿賃と冒険用道具を揃えると……少し足りないなぁ」

「じゃぁ、武防具は諦めて娼婦の館に……」


娼婦の館、ごり押しがいる……。

娼婦も国の認可さえ下りていればれっきとした職業と認められている。


「俺も娼婦の館に行こうかと思ってる」


ゼディスの言葉にショコが目を丸くする。


「そんなぁ!! だったら私が!!」

ガッ!!

「馬鹿なこと言ってるんじゃないよ!」

「でもドキサちゃーん。命の恩人に……いい男に尽くしたいってーのは乙女心だよぉ」

「大した男じゃないから安心しなさい! それよりアンタは仕事があるの。

これから中隊長のところに行かないと……」


中隊長という言葉を聞いて、この場の空気が1~2度下がったようになる。

中隊長は人間の男だった。かなりおっかない。

常に怒鳴っているか、ぶん殴っているかのどちらかの姿しか見たことがない。

この場にいるドキサ、ショコ含め殴られていないモノはいない。


「は、早くいこう。ドキサちゃん!!」


すでに顔色が悪い。


ゼディスも呼ばれた時に「俺が思っていたより2秒遅い」といわれ、ぶん殴られた。

が、倒れなかったらニヤリと笑っていた。

他の傭兵隊は目を付けられたと思っていたが、それ以上、ゼディスは殴られることもなく無難に過ごしていたので、あの笑いを気にする者もいなくなっていた。


二人の正規兵が去った後、再び働いて得たお金の使い道に戻るがみんな凹んでいる。


「中隊長の名前なんっていったっけ?」

「ゴルラ中隊長……たしか騎士だったっけ……」

「生存率は高いらしいけど……あんなに厳しかったら、俺なら正規兵なんてやらないわ」

「他に職業もあるしな……冒険者が気楽でいい……常に貧乏だがな……」

「傭兵も悪かーないが、あの人の下になるなら、金輪際御免だな」


だが、彼のおかげで間違いなく統制のとれた軍隊となっている。

傭兵などというならず者ですら彼の言うことを聞く。

他の傭兵もいっていたが生存率がまるで違う。生き残るなら彼の元だろう。

そう思ったが口にはしなかった。


とりあえず、お金の分配を考える。

まずは今日の宿賃を払う……今までは軍関係者として国から宿賃、食事代が出されていたからだ。

次に保存食と冒険用道具を買いなおす……自宅が無いので古いのは中古に流すか捨てるしかなかったからだ。

武防具は持参だったのでまだある……ナイフ一本は心もとないが我慢。


あとは、冒険者ギルドで仕事をもらう…そうすれば、残りは全部娼婦の館で使ってしまおうと思っていた。

冒険者ギルド……この町の冒険者ギルドってどんなところだったっけ?

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