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予想外

 宰相が俺に、色々な注意事項を話すが、右の耳から左の耳へと言葉は抜けていた。


 いやぁー驚いた……。まさか、すでに似たような魔力で女王と王女を覆っている人間がいようとは。


 話の流れから考えればキセイオン・デトマスト。

 会ったことはないが、どうやら只者ではないらしい……。俺の場合は神聖魔法……魔法じゃないな……神から授かった魔力だ……が、コイツはまた少し違うっぽい。いや、その辺詳しくないんで何とも言えない。

 残念ながら、エイスとか呪文が詳しそうな仲間に聞くわけにはいかない。自分がやっていることがバレそうだから……。怖くて聞けねぇー……小心者と言われても聞けねぇよぉ。


 でも問題ない。覆っているが、隙間はある。おそらく、同じ手段に出る奴がいるとは思っていなかったのだろう。いや、俺も同じ手段を使える奴がいるとは思わなかったからミスとはいえないだろう。

 俺の魔力を、キセイオンの魔力の間を縫うようにして、直接、リン女王とリンリル王女の体内に入れていく。ただ、直接入れるのは大変難しいため、神経が磨り減る。この方が効果が大きく、覆っているのと違って、見た目でバレない……魔力が見えるか、同じような魔力が使えること限定だが……。


「聞いておるのか?」

「え!? はい……いや、すみません、聞いてませんでした。」


 全然、聞いていなかった。魔力を注入することに神経をとがらせていて……そんな一遍に色々できないってーの!

 ガンガル将軍が助け舟を出す。


「彼も女王陛下や王女様の前で緊張しているのでしょう。多少のことは大目に見てやってはいかがですかな、宰相殿?」

「しかし……まぁ、よい。今度はちゃんと聞いておれ」


 リン女王とリンリル王女に冷ややかな目で見られる。まだ、魔力がちゃんと入れられていないから仕方ない。他の将軍や、宮廷魔術師も『こりゃー駄目だ!』って顔で見下したような顔をしている。おのれー、魔力注入さえ終われば……終われば……。


 どうやら、自己紹介をしろという話らしい。自分の出身とAランクで受けた仕事内容。

 自慢じゃないが出身地など、とうの昔に滅んだわー! もうどこにあったかもわからん。……などと、言うわけにはいかないので『ラー王国』ということにしておく。

 Aランクの仕事は、マンティコア狩りとドートビオ王国での葉巻ハゲ伯爵の息子を救出の依頼の二つ。……?違うぞ。マンティコアはBランクの依頼だった。それでAランクにはしてもらったがラー王国でAランクの仕事は受けていない……実績はAランクの仕事一つだ。


「ふむ、そうするとAランクとしては、まだまだというわけですな。伯爵の息子を助けただけ、それと今回の女王陛下との面会で二つ……あまりいい成績とは言えませんな~。」


 嫌味を言っているのは宮廷魔術師、人間の男。


「ここはお帰り願うのがよろしいかと……実技はそれなり、とは聞いていますが、筆記と実践が伴っていないのであれば王女様とお付き合いさせるのはいかがなものかと思います」

「お待ちなさい。」


 リン女王陛下がそれを止める。


「すぐに判断を下すのは愚行です。」


 やっと魔力が体内に取り込まれたようだ。大量に入れたいのだが、それにもいろいろ問題がある。怪しまれない程度ずつ入れるのは難しい。

 リン女王は鈴のような声で言葉を続ける。


「どうでしょう、宰相? ひとつ依頼をこなしてもらうというのは?」

「彼にですか? ですが、リン女王陛下。彼以上と思われるAランクの冒険者に依頼を頼まず、追い返したことも幾度かありましたが……」

「毎回、只、追い返すだけでは冒険者たちも納得しないでしょう? たまには依頼を出した方がよろしいんじゃありませんか?」

「ふむ……たしかに……。まだ、数人しか依頼を出していませんからね。」


 そう言うと宰相は、俺の顔を眺める。どっちにしろ、この男は噛ませ犬程度だろう……と言う風だ。おそらく使い道を考えているのだろう。せいぜい、他のAランク冒険者の捌け口にしようとしているのが見て取れる。


「いいだろう、ゼディス。ひとつ依頼を出すとしよう。この依頼は早いもの順となっている。依頼をこなせれば、女王陛下および、王女様に会うため、この城に訪れることを許可される。先着三名だ」

「え? それって早くこの城に着いた冒険者が有利じゃないんですか? または王族や貴族は、すでに受けてるわけですよね?」

「当然だ! いつまでも時間をかけているわけにはいかないし、お前が遅れてきたことに我々が関与することはない。同時に始められないのは当然のことだろう。それに、もし同時に始めたとしよう。その時、お前がこの場にいなかったことを考えれば、むしろラッキーだったと思うべきではないか?」


 何か上手く言いくるめられている気がする。どっちにしたって、選択肢があるわけではない。折角、リン女王とリンリル王女に魔力を入れたのに、これで終わりになってしまっては目も当てられない。


「すみません。すでにその依頼が終わっている者は何名いるんでしょうか? すでに三名いるんじゃやる意味もないですし……」

「そんな依頼、我らもせんわ! 安心しろ、一名だけだ。デトマスト伯爵の息子キセイオンのみだ」


 ここで、その名前が出てくるか。実力もあるとは言っていたな……待て? 依頼内容を聞いていなかったな。


「では、依頼内容をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


 その言葉に宮廷魔術師が、愚か者を笑うように言葉を放つ。……具体的には俺。


「くっくっく。受けるのか……いや、依頼内容を聞いてから決めるが良かろう。お前みたいなAランクもいれば優秀なAランクの冒険者もいる。まぁ、ピンからキリまでというやつだ。だが、依頼内容は全員同じだ。」


 あー、俺もさっき中隊長に同じこと言ってたし、ガンガル将軍にも同じこと言われたなー。まぁ、宮廷魔術師のおっさんが言っている方は『キリ』だろうなー。こう見えても俺、結構、優秀だよ?


「では、依頼内容を教えてやろう。ドラゴンの牙を二本、私の元に持ってくることだ。方法手段は問わない。売ってるものを買ってくるもよし、もちろん、ドラゴンを倒すもよし、ただし、犯罪は許されない。以上、何か質問はあるか?」

「え? えーっと……いっぱいあるんですが、いいですか?」


 近衛兵たちから、どっと笑いが起きる。

 宮廷魔術師は、やれやれと言った感じでワザとらしく肩をすくめている。


「まずはドラゴンの種類は?パピー以上なら何でもいいんですか? あと色も?」

「ノーマルドラゴン以上だ。色は何色でも構わん」

「そうすると、キセイオンはノーマルドラゴンを倒したのですか?」

「そのようだな。もっとも、中隊を動かしたがな。少々、兵士が減ってしまったが最小限の被害と言えよう。」


 意外とキセイオンは手強いみたいだ。中隊を動かしたので、倒せてもおかしくない。被害も出ているし……。だが、問題はどこでドラゴンがいる情報を手に入れたかだ。パピーとレッサードラゴンの数はそれなりにいるが、ノーマルになると途端に数を減らす。そう簡単に見つかるとは思えない。


「キセイオン殿はどうやって、ノーマルドラゴンを見つけたのですか?」

「馬鹿者が! それも含めて、今回の依頼だ!」


 まぁ、当然か……。とりあえずキセイオンという男に会ってみる必要がありそうだ。


「あと一つ質問をさせていただきたいのですが、よろしいですか?」

「あと一つでいいのか? 分からんことなど山ほどあるだろう?」

「いえ、まぁードラゴンについていろいろ聞きたいですが、それは置いておいたとして、今この場でドラゴンの牙を渡してもよろしいでしょうか?」

「ん? あぁ? 持っているなら構わん……が……?」


 キョトンとした顔で宮廷魔術師が俺を見る。言葉の真意を掴みかねているようだが、別に他意は無い。そのままの意味だ。バックパックの中を探す。じつは、面接帰りにドラゴンの牙を加工できないかと思って、武器屋に持っていこうと思っていた。ついでに娼婦の館にも寄ろうと思っていたが、それはこの場で言う必要もないので黙っておこう。


 グリーンドラゴンの牙を取り出すと近衛兵に渡す。それをまた宮廷魔術師に渡す。初めから宮廷魔術師が取りに来ればいいのに……。

 全員、ビックリしている。まぁ、俺だって、事情を知らなければ、突然、ドラゴンの牙を持っている奴がいたらビックリするけどな。

 丹念に調べている。偽物ではないかと……こんな下級冒険者がドラゴンの牙を持っているはずがないと……。うがった見方過ぎか? Aランク冒険者だから、下級じゃないしな。どうも、この頃、僻み根性が身についてきている。


「こ……これをどうした?」

「倒したんで、取ってきました」

「あ……ありえん……。お前のような冒険者が……」

「私も気になります。そのドラゴンの牙をどのようにして手に入れたか、詳しく話していただけませんか?」


 Aランク冒険者……要するに俺、に興味を持ったようでリン女王が尋ねてくる。もっとも、興味自体はもうちょっと前から持っていただろうが、事の成り行きを見守っていたのだろう。たとえ好意を持ったにしても、切っ掛けもなく話しかけるほどではないのだろうから……。


 これは、チャンスだ。時間をかけて、自分をアピールしながら魔力を送り込めば、不自然じゃなくリン女王、リンリル王女が自分に好意を抱いたように見せられる。


「これは、先ほどお話ししたAランクの依頼。伯爵の息子を助けに行ったときの話です……。」


 まぁ、嘘と本当を織り交ぜて劇的に話す。そうしながら、魔力も送る。大忙しだよ、ホント! だって全部ほんとのこと話すと、ややこしい話が多いじゃん? 勇者の力を持った奴の話とか、オーラの話とか、偽物の『呪壁の指輪』の話とか、二代目が勇者の力を受け継いでないとか……。


「そうして、ドラゴンを倒したのです」

「では、みなさんが素晴らしい働きをなさったのですね?」

「はい、私の仲間たちの活躍がほとんどです。私は大したことはしていません。しかし!」

「ど、どうなさったのですか?!」

「ドラゴンを倒した後、Bランク冒険者のシーフが欲に目がくらみ、私を背後から刺したのです!」

「ま! まぁ!? それで、それでどうなさったのですか!」

「いえ、これはドラゴン退治とは関係ない話なので、話す機会がありましたら、その時にでも……」


 リン女王陛下のみならず、リンリル王女も無表情ながら興味を持ったことを隠せないほど身を乗り出していた。もっとも、将軍や宰相、この場にいたものが、みんな聞き入っていた。どうやら、冒険者を廃業しても紙芝居屋さんくらいならやっていけそうだぞ!

 途中で話を切られたことで、リンリル王女はムーっとしながら椅子に座りなおす。あれ? ひょっとして印象悪かったか?


「ところで、これで依頼は終了でよろしいんですよね。宰相殿?」

「え……? あ……あぁ、そうだな。どうやら本物らしいし……。

 他の者も異論はありませんな?」


 異論があるわけがないのだが、確認の為だろう。おかげでAランクの依頼が簡単に二つ終わったことになる。本来ならドラゴンを退治しに行かなきゃならないかと思ったが、牙を持ってくることでよかった。倒すこともさることながら、探すことだって大変だ。

 城内通行証を貰える。

 これで重要な機関以外の場所は行き来できるらしい。アポイントメントを取れば女王や王女にも会えるようになるらしいが、逆に呼び出しも頻繁に来るらしい。面倒じゃん! ガンガル将軍がにやりと笑っている。どうやら一番初めの呼び出しは、あの将軍でほぼ決まりだよ~。

 現住所の連絡場所を教えておく。一般街の『真珠の踊り子亭』……誰も驚かない。ドラゴンを倒しているので一財産持っていることはわかっているらしい。


「では早速、今夜、舞踏会を開きますのでゼディス殿は出席をお願いします」


 と、宰相に訳の分からないことを言われる。踊れるわけがない。冒険者だぞ?


「えぇ~っと、欠席とかは」

「出来るわけがありませんよ。今回の舞踏会の主役はゼディス殿になりますからな。なにせ王家とつながりを持つ者の顔見せなわけですから」


 あぁ、貴族とかに挨拶したりしなきゃいけないヤツだ。

 たしかに貴族も知らない奴が城の中をウロウロしていたら怪しいし、そんな奴が王女の婿候補とかありえんわなー。全く考えてなかったよ。踊らなきゃならないのか? 練習する時間も無しに?

 城から出たあと色々やることがあるのに? 武器屋でドラゴンの鱗とか残った牙とか見てもらったり、娼婦の館に行こうかと……あれ? 近衛兵に両腕を掴まれてるぞ? あれ、引きずられてるぞ?


「とりあえず、踊れないからと逃げ出さないように……ではなく、準備ができるまでゼディス様には貴族用の客室にて休憩してもらいましょう」


 宰相はまるで、罪人でも連れて行くように指示を出す。

 「絶対に逃がすな」とも、付け加えていたな~。

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