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セニードランドロー

 舞台に上がると、中隊長が怖い顔で睨んでいる。ゼディスが挑発したせいなのだが、ゼディス本人は挑発した覚えはない。と、いうかどうでもいい。全く負ける気がしない。

 そんな態度のゼディスに対し、中隊長が冷やかに笑う。


「安心しろ、殺しはしない。おれも大隊副隊長になりたいからな。だが、死んだ方がマシだと思えるほどの屈辱を与えてやる!」


 意気込んでいるが、ゼディスから見ればただの貴族のお坊ちゃんだった。

 まずは良い鎧に良い練習用武器。高価なモノなのだろう。練習用にこんな高価なモノを使うなんてもったいない。あとは統一された動き。入ってきたときもそうだが、部隊として洗礼された動きだが、洗礼され過ぎている。正面にしか意識が集中していない。騎士団学校での経験のみの浅さが見て取れる。

 経験が浅い、というと語弊がありそうだ。おそらく、戦場には出ているが、動きと気配から、おそらく部隊の真ん中の先頭しか立ったことがない。おかげで切り合い自体の回数は多いだろうが、横や背後への注意が散漫すぎる。それは彼らが貴族であるがゆえに、大事されゆっくりと経験を積まされている感が否めない。自分たちの知らないちょっとした変化で、ニッチもサッチもいかなくなるだろう。ここまで、型に嵌ってしまっていてはゼディスとしても、百手先でも目を瞑っていたって相手が出来る。

 だから、ゼディスは目の前の中隊長に興味を無くし、他のことを考えていた。


 当然、中隊長とその部下は、その姿にはらわたの煮えくり返る思いで、模擬戦が行われるのを今か今かと待ち望んでいた。目の前の男を徹底的に潰してやるために……。彼はロングソードを右手に、盾を左手に持ち、いつでも始められるように深く構える。

 それに比べて、ゼディスはムチを構えることもなく、後ろ手で組んでチラホラと周りを眺めている。その態度が余計に人をイライラさせる。


 黒豹の獣人ガンガル将軍が、ゼディスに構えるように指示するが、「あぁ、これでいいです」と言ってまったく相手にしない。仕方なしに試合開始の合図を出す。


「初め!!」 ガギゥッ!!

「え?」


 構えていたロングソードが舞台から転げ落ちる。まだ、誰も一歩も動いていない。ゼディスは相変わらず、手を後ろで組んでおり、やる気無さそうにしている。だが、中隊長の右手の甲には鞭で打たれたような痺れがある。


「それまで!」


 ガンガル将軍に止められるが納得いかない。


「待ってください! 今のは自分で剣を落しただけです!」


 そんなわけはない。中隊長自身わかってはいるが始まってすぐに負けたなど、認めることができない。肉体も精神もほぼダメージ無しなのだから納得いくはずがない。だが、自分で武器を手放したなど訳の分からない理屈が通るわけもないのだが、他に説明のしようもない。


 ガンガル将軍が考える。決着はついている。それなのに続行させるか否か。

 通常なら終わりだが、中隊長にとっては納得いく決着だとは言いづらいだろうが、ゼディスがもう一度、試合を受け入れる理由がない。それに、もう一度やったところで力の差は歴然としている。


「ガンガル将軍~。俺ならもう一戦やってもいいですよ。こんなところでダラダラ待たされている方が、時間の無駄ですから~」


 耳の穴かっぽじりながら、早く終わらせましょーと締めくくる。

 中隊長も、自分は油断したからやられたのだと思い、次こそはという気持ちに駆り立てられている。

 両者、やる気があるのなら問題ないと、ガンガル将軍は判断し、再び合図を出す。もっともこの戦いを、一番見たいと思っているのはガンガル将軍なのだが……。


「初め!!」


 再び試合が始まる。

 中隊長は今度は見逃さなかった。ムチが勝手に動いていることを。ゼディスは振るうことなく、後ろで手を組んだままムチを操っていたのだ。まるで蛇のように手を目がけて襲ってくる。そのムチを剣で蛇の頭を切るように、切り落とそうとするがグニャリと曲がり、むしろ絡まって引き抜かれてしまう。

 そして、その剣をムチはゼディスに投げ渡す。ゼディスは黒い手袋の右手を使い、空中で回りながら飛んでくる剣を掴む。

 信じられないような光景に、中隊長や観客の兵士たちは呆然としている。


「それまで」


 今度は中隊長は言葉を発しない。完全に負けを認めている。というか理解の範疇を超えている。

 しかし、それはガンガル将軍も同様のようだ。


「今のは何だ?」

「秘密です」


 ガンガル将軍は納得する。そんなことをおいそれとは教えられないだろう。


 ムチを動かしていたのは、オーラである。物質を伝達させることが出来る性質を使ったのだ。切れ味や距離を変化できるのだから中心にオーラを固めれば柔らかいモノなら動かせるだろうと思って、ムチを試したかったのだ。しかも、ムチの強度を上げれば曲がらなくなり、切れ味を上げれば剣のように使え、ムチのまま切れ味を上げたり……まぁー使い方は色々ありそうだ。石を打ち出すブリリアンバレットという技も石に纏わせるオーラの形を先をとがらせたり、切れ味を増幅させたりすれば、一段と威力が上がるだろう。もっとも一瞬で石にオーラを送り、その形を変えることが出来ればだが……。


「とりあえず、実技も終わりでいいんですかね~?」

「あぁ、実技は終わりだ。……だが、どうだろう。それとは関係なしに私と勝負してみないか?」


 中隊長や他の兵士たちから、どよめきが起きる。将軍自ら冒険者を試そうなどということな無かったのだろう。そんなことがあれば、中隊長の試験にAランク冒険者など使わず、初めから将軍自らが試すだろうから……。


「でも、それって俺にどんなメリットがあるんですか?」

「将軍自ら、冒険者ごときにに稽古をつけてもらえるんだぞ! それだけでも名誉なことだろ!」


 中隊長が怒鳴り付ける。が、ゼディスとしては別に稽古なんてつけてもらいたいわけではない。


「まぁ、やってもいいんですけど、本気を出してもらっていいですか?」

「本気で? 難しいな。お前にそれほどの実力があるというなら、出してやっても構わんが? 先ほどのムチの攻撃程度なら、悪いが本気を出すのは無理だと思ってもらって構わんぞ?」

「あぁ、あれはお遊びですから、おそらく大丈夫だと思いますよ。ただ、また武器は変えさせてもらいますが……」

「ふむ、ならお前の実力を試させてもらう。本気を出す前に勝敗が付いた時は勘弁してもらいたい。で、新しい武器は何だ? また、変わり種か?」

「鉄の籠手を」

「防具で闘うのか?」


 もはや中隊長は話に参加しない……できない、と言った方が正しい。それでも、将軍が負けるところは想像が付かなかった。さきほどのゼディスのムチの芸当は魔法か何かだろうと思っていたが、将軍に触れることは不可能だと確信していた。なぜなら、この国の将軍が使える特別な能力があるからだ。


 ゼディスは鉄甲を選んでいるが、訓練用鉄甲など無い。適当なモノを選び、手にはめガシガシと拳同士を合わせてみる。


「オイッす。この辺でいいッスわ」


 選び終わった後、中隊長のときとは違い、ゼディスは屈伸やジャンプなどして身体を解す。中隊長はこのとき、ゼディスに如何に自分との差があるかを知った。彼は将軍の強さがわかり、準備を怠らないのに対し、自分のときにはまったく相手にならないと悟り何もしなかったのだと……。唇を噛みしめる。


「で、誰が審判をするんっすか?」

「誰もできまい」

「じゃぁ、終わりと思ったところが、終わりでいいでいいですね」

「そう言うことだ」

「始まりは?」

「今からだ!」


 将軍は不意を突いて、ゼディスに向かいロングソードを抜く。紙一重でゼディスは後ろに飛び退く。

 そのプライドもなく不意を突く行為に、中隊長および兵士は驚く。将軍が練習試合ごときで、そんな手段に出るとは思わなかったからだ。

 しかし、そんなことは、ゼディスもガンガル将軍もどーでもいいことだった。その一撃で終わるようなら初めからこんな試合なんて組むわけもない。将軍のロングソードの一撃を鉄甲で受けつつ、ショートの拳を放つがかわされ、盾で流される。上手く攻め込めず少し間合いを取る。


「獣人の私と身体能力が変わらないとは驚かされる」

「全然、驚いてないじゃないですかー!」

「いやいや、本当に驚いているよ。それに獣人の力を使っても鉄甲を破壊できないことにもな。その能力が先程のムチとどう関係あるかはわからんが……それとも別の能力か?」

「秘密でーす」

「わかっている!」


 ガンガル将軍がゼディスの目の前まで行くと急速に横に飛び退き、視界から消える。さすがのゼディスも焦ったが、後ろや横に飛ばず、今、将軍が来た前へ飛び退き、間一髪でロングソードの一撃を回避した。


「びっくりしたー!」

「こちらの方が驚かされる。まさか前に避けるという回避方法があったとは……。普通突っ込んできた方に回避しようなどと思うやつはいないからな。後ろと横なら予定通りだったのだが……」


 その間も間合いは詰まり、鉄甲と剣のせめぎ合いの音が鳴り響く。

 隙を見て、ゼディスが足にオーラを乗せ、振りかぶる。将軍は動物的感で、ゼディスの蹴りを盾で防いだが、地面に叩きつけられるように回転し膝を付く。


「なんだ! 今の破壊力は……獣人を上回るだと……」


 ゼディスはその離れた距離で舞台を殴りつける。拳圧で地面が爆発したようになり、石が舞い散り、その一つ一つにオーラを乗せ飛ばす。


「ブリリアントバレット!」


 オーラを乗せた石つぶてがガンガル将軍を狙う。さすがに異様な空気を読み取った将軍が魔力を解き放つ。


「セニードランドロー!」


 剣と盾で飛んでくる石つぶてをあっさりと全て受け流した。普通ならブリリアンバレットを受ければ、盾も剣もかすめただけで砕けるが、綺麗に受け流したため無傷のようだ。黒豹の将軍の右目から魔力が溢れ出ている。何をしているのかゼディスにはわからない。が、それは相手も同じようだ。


「なんだ! 今の石つぶては……普通じゃない破壊力だ。獣人の力とかそういった話ではあるまい? 魔力で覆っている……とも違うな」

「こっちが知りたいわ! なんであんな簡単に受け流せるんだ。どう考えたっておかしいだろう」


 目の力を上げる能力なのだろうと判断する。問題はその力の出し方だ。普通は想像しない力の流れをゼディスは見ていた。だから他の国でこの技は気付かれていないのだろう。目に魔力を乗せているのではない。もし乗せていたとしても、魔力量が多すぎて目が押しつぶされてしまうかもしれない。


 ゼディスの攻撃が途端に当たらなくなった。だからといって、相手のスピードが上がったわけではないが、狙いや隙を突くのが遥かに厳しくなっている。オーラで筋力を上げ、無理矢理スピードを上げ剣の攻撃に追いつくようにしている。ガギギギッっと嫌な音を鉄甲が立てる。ゼディスは逃げるような格好で間合いを取りなおそうとするが、ガンガル将軍がわかっているかのように剣の距離を保つ。

 ガンガル将軍の目の力を『動体視力を限界まで上げる』ものだと判断する。


(想像以上に厄介だな。こちらの攻撃は当たりづらいし流されるのに、相手の攻撃は防ぐのがやっとだ)


 ジリ貧……防いでいるが勝つ手段がない。さすがに鉄甲もオーラを纏わせてるとはいえ、一方的に食らっているのでボロボロになってきている。あと、一~二撃で砕けてしまいそうだ。


 仕方ないと腹をくくる。

 オーラを与えればダメージは通る。こちらの攻撃は当たらないが、どうにかならないわけではない。そう思った瞬間鋭い一撃が鉄甲に加えら砕け散る。

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