ちょっと依頼受けてくる
豪商らしき男が話しかけてくる。どうも武防具を扱っている商人っぽいぞ?
「これは、これは、ゼディス様じゃありませんか!? やはり、こういったところにお泊りでしたか。しかも、滞在期間も決まっていないのに『真珠の踊り子亭』のスイートとは流石ですな」
誰だか思い出せないが、適当に合わせておく。
「それほどでもありませんよ。なにせ、グレン王国に来るのも初めての田舎者ですからね」
「またまた、ご謙遜を……。『ゴールデンタワー』でお会いした時から、只者ではないとは思っていましたが、超一流の冒険者のようですね」
あぁ『ゴールデンタワー』で話しかけてきた豪商だ……が、名前は思い出せない。なんだっけなー? そーゆー場合はこちらから紹介するのがいい。
「紹介していませんでしたが、こちらがウチのパーティーです」
と言って、一人ずつ名前だけを名乗る。エイスとかシルバが役職を名乗るとややこしいので……でも、薄々感づいているようだ。
「これはどうもご丁寧に。私は武具商のエトリックです。それにしても、かなりのお方が揃っているようですね? そういえば『ゴールデンタワー』ではお口添えをしていただいたようで、武具の売れ行きが大変好調でした。が、まさか魔物の軍団が攻めとこようとは……いささかタイミングが良過ぎるのでは? あぁ、勘違いなさらないでください。ゼディス様が魔物を操っていると言っているわけではありませんよ。」
「わかってますよ。あれだけの魔物が操れるなら、もっと他の方法で儲けますからね。」
もちろん、エトリックもそんなことは思っていない。『どこから』魔物が来る情報を知ったのかを聞き出したかったが、無理だと判断し、この話はそこそこに次の商売のことを考えるようだ。ゼディス達が金に関わることをしに来ているのは、ボーイとのやり取りで嗅ぎ取っていた。彼もただのハゲでデブなだけではない。
「ごもっともです。ところで、グレン王国にはどのようなご用件で?」
「屋敷を購入しようと思いましてね」
「ほうほう、それは丁度いい。私は武防具商人ですが、土地や屋敷に関しましては打って付けの人物を知っております。本来でしたら、紹介料を取るところですが、ゼディス様とはなにかと、ご縁がありそうなので、よろしければ無料でご紹介させていただきますよ」
無料……のわけがない。『情報が入ったらよこせ』の意味だ。もちろんゼディスも承知の上で答える。もっとも、渡す情報は自分が有利になる情報しか渡さないが、おそらく彼もそれはわかっている。腹の探り合いに近い。
「それはありがたい。ショコ達に行かせましょう」
「ゼディス様、ご本人がいかなくてよろしいのですか?」
「ショコ、ドキサ、シルバ、エイスに任せますよ。それに私は冒険者ギルドに行ってみようと思いましてね」
ショコ達に任せれば大丈夫だろう。とくにドキサはドワーフだ。建物の構造などには詳しいだろう。センス的にはシルバやエイスがいれば問題はない。それよりもAランクの『女王に会う』という依頼が気になる。
「ひょっとして、ゼディス様はAランク冒険者なのですかな?」
「やはり『女王に会う』依頼をご存知ですね?」
冒険者ギルドで聞こうと思っていたが、ある程度は商人から聞いておこう。
「依頼……と言うほどの物ではないのですよ。ですが、受けられるのはAランク以上の冒険者の他に条件があります」
「それは初耳ですね」
「と、いうことは、まるでご存じないのですね?」
なにか、弱みを握られているような気分になるが、知らないことはバレているのに、今さら隠す意味はない。正直に答える。
「えぇ、なにせグレン王国に来たばかりでしてね。町に入る前に門番に少し聞いただけなのですよ」
「でしょうね。でなければ、ドンドランド様とシンシス様を連れて行こうとは思わないでしょうから」
「どういうことですか?」
「王女の婿探しですよ。貴族、王族はもちろん、Aランク以上の国に信頼されている冒険者が面談するということです。そのなかで『これ』という人物がいたとき、さらに依頼がもう一つ追加されます。その結果、婿として迎えられるか決まるというわけです。ですから、受けられるのはAランク冒険者の人間の男だけ。獣人、ドワーフ、エルフは好まれていないらしいですよ。ですから、ゼディス様のパーティーで資格があるのはゼディス様本人のみとなります」
なるほど、王女の婿探しか……しかし、面接を受けるだけでAランクの依頼を一つこなしたことになるということは、王族、貴族はよっぽど不作らしい。商業王国だけあって実利重視なのかもしれない。
とりあえず、みんなと相談する。
「じゃぁ、女王様と王女様に会ってくる」
「えー!? お婿さんになるつもりですか!?」
「違う。面接を受けるだけでAランクがクリアだ。あとは断ればいいだろ?」
「しかし、面接を受けに行った時点で『婿になる意思あり』ではないのか?」
「こっちで『思ったのと違いました』って言えば大丈夫だろ?」
「そもそも、受かるか分かりませんですしね~?」
「そーね。とりあえず、俺一人で行ってみるわ。屋敷はみんなで確認してみて!」
「何件か回るつもりですし、申し訳ありませんが、彼以外も当たってみようと思います」
と、最後にシルバが締めくくる。たしかに、彼が紹介する人物だけで決めるわけにはいかない。ドラゴンの財産でも屋敷を買うとなると、かなりの額た飛ぶことになるからだ。
初めはドンドランドとシンシスも連れていくはずだったが、どちらにしろ面接できるのはゼディスしかいないなら、みんなは屋敷を確認した方がいいだろうと、全員、屋敷見学ツアーに行かせることにした。
「では、よろしくお願いします」とゼディスは、ハゲの豪商とショコ達と別れて一人、王宮を目指すことにする。
でも、その前にやっぱり、冒険者ギルドに寄って行こう。あのハゲ豪商の話が嘘っぱちだったら赤っ恥だから、確認は怠らない方がいい。
その辺の町の人に冒険者ギルドの場所を聞く……貧乏性なのか、高級そうなレディース&ジェントルマンはなんとなく恐いので、一般人ぽい人か冒険者、または露天商の人に話しかけてしまう。
かなりの数の冒険者ギルドが存在することが判明した。どうやら商人が多いため、護衛の依頼や警備の依頼などが多いことから、冒険者ギルドも増えたらしい。
高級そうなギルドとガラの悪そうなギルドは避ける。精神衛生上あまり、よろしくない。どっちでも、そつなくこなす自信はあるが、何もそんなところで気を張る必要はない。適当に表通りの健全そうで安そうなギルドに入る。
冒険者ギルド『鰻の寝床』……凄いネーミングセンスだ。しかし、入ってみて分かった。細長い……人二人分のスペースが延々と続いている。入る方と出る方。行列に並んでいる気分になる。入る側には掲示板。そこにAランク依頼『女王に会う』もある。剥がさないで、受付に言えばいいらしい。何人も受けられる依頼は剥がさないらしい。それの方が効率的だ。
「『女王に会う』依頼を受けたいんですけど?」
「はい、冒険者ギルド身分証をおだしください」
ワードックのお姉さんが受付だ。犬種は何だろう? そんなことを考えながら証明書を出す。犬のお姉さんが証明書を掲げ「Aランク、Aランク冒険者です!」とアピールする。ギルド内に拍手が起こる。一体、何の儀式なんだ。すぐに平静を保つお姉さん。
「では、説明をさせていただきます」
切り替えの早さも怖い。
「まずはお城に向かってください。そこでこちらの依頼書を門番に渡していただければ、結構です。その後、会う資格があるか、確認の為、実技と筆記があります。合格すれば女王様と王女様との面会ができその時点で依頼終了となます。ですが、その後にさらに、王になるにふさわしいか追加依頼を頼まれます。それに関しましては、受けるも受けないも、その場でご判断されて構いません。」
(ギルドで聞いておいてよかった。実技と筆記とかあるじゃん!)
そんなことを思いながら、ギルドをぐるっと一周するように出て、お城に向かう。来たことのない町だと道に迷う。城は遠くからでも見れるのだが、道が入り組んでいて、人に聞かないとわからない。できるだけ女の人に……あと美人に聞きながら向かっていく。女王や王女がいるのだから魔力は温存。その二人が好みじゃなくとも、貴族や兵士に良い女性がいるかもしれないし~。と、最低の思考を……健全の男性らしい思考と言えば思考だが……を巡らし門に到着。
「怪しい奴め! ここはお前のような奴が来るところではない。 さっさと帰れ!」
顔を見ただけで、いきなり怒られる。
「ふっふっふ、しかし、これを見てもまだ、そんなことが言ってられるかな~」
懐から、冒険者ギルドから受けた依頼書を門番に渡す。門番が確認する。
「お前みたいなアホ面がAランク冒険者だと!」
「失礼極まりないな、お前」
「うーむ。私としてはAランクとはいえ、お前が落ちるのは明白だから止めておきたいのだが、筆記と実技を受けるか?」
「おい、勝手に落とすなよ」
「まぁ、あれだ。記念に受けるのも悪くないだろう。筆記は詰め所でおこなう。」
「記念って……受からないこと前提かよ」
詰所に連れて行かれる。ゼディスは根が悪人のせいか、詰所に連れて行かれるだけで、なんとなく連行されている気分になる。詰所には随時、二~三人の衛兵がいるらしい。机に座らされ変なテストを受けさせられる。数学、語学、魔法学、歴史と地理、政治学や経済学。まぁ、いろんなものがゴチャ混ぜになった問題用紙だ。時間内に解かせる気が無いとしか言いようがない。残念なことに、歴史や政治学は、その国によって偏りがあるため、どう考えても満点を取るのは不可能だ。とりあえず、わかるところだけ埋めていく。おそらく、王女に見合う人間はこれくらい知っていて当然、ということなのだろう。
しかも、テストを受けているのはゼディス一人……そんなにしょっちゅうAランクは来ないのだろうから、来るたびに、テストを受けるもの一人に対し、不正をしないように衛兵に囲まれてテストを受けるようだ。テストよりもその圧迫感で胃が痛くなりそうだ。そんな感じで二時間弱。
そんな思いをしてテストが終わると、すぐさま衛兵の訓練所に連れて行かれる。
「まさか、もう実技?」
「当然だ。軍隊長が監視役で中隊長と練習試合を行う」
ちなみに、簡単に説明すると
軍隊長(兵士1万5千人)>大隊長(千四百人)>中隊長(百三十人)>小隊長(十二人)
みたいな感じだ。軍隊長は将軍クラスになる。
訓練所の反対側から、数人の兵士がやってくる。おそらく軍隊長と中隊長、それと対戦を見学する兵士だろう。Aランク冒険者と中隊長から学ぶことがあるかもしれないから、見学させると考えられる。
ゼディスのテストが終わる時間はわかっているので、ちょうどいい時間に出てこれるわけだ。
獣人の軍隊長が挨拶をする。黒豹の男だ。かなりいい軍服を着ている。将軍クラス?
「ガンガルだ。この国の将軍を任されている一人だ。今回はお前の力量を計るのと、ウチの中隊長の昇進試験を兼ねている。お前が勝てば。リン女王陛下およびリンリル王女様に会うのに大変有利に働く。逆に中隊長が勝てば彼は大隊副隊長に昇格する」
要するに競い合えってことですね?どっちも本気でやり合うようにしているわけだ。
そんなことより休憩したいので、その旨伝えてみる。
「テスト終わったばかりで……」
「悪いが休憩は無しだ。そのまま闘ってもらう。理由はいくつかあるが確認するか?」
「いいえ、いいです。休ませてもらえないなら、理由聞いても仕方ないし……」
「懸命な判断だ。勝敗は相手が気絶するか、降参する、または私が勝敗を決したと思った時点で決着とする。もちろん、私が判断する場合は我が兵に有利な判定はしない。今後の士気にも関わってくるからな。ただ、命のやり取りまで行きそうな場合のみ止めさせてもらう。使用する武器は我が軍隊で使用されている練習用武器から選んでもらう。Aランクになると魔法の物品を所有している冒険者も多いからな。それでは公平な力量は計り辛いし、先ほども言った通り生死にかかわりかねない。練習用では刃が付いていなかったり、軽かったりと、殺傷力を軽減してある。」
そのほかにも色々注意を受けてから、得意な武器を選択するように言われる。
一通り探してみたが使って見ようと思っていた武器が無い。
「ムチは無いんですか?」
「ムチ……だと。お前はムチが得意なのか?」
ガンガル将軍をはじめ、中隊長、その部下がザワめく。
ムチは最も扱い難い武器の一つだ。何より致命傷になり辛く、一撃を受けても接近戦に持ち込まれれば、ほぼ闘えないと言っても過言ではない中距離武器。さらに戦争では周りを巻き込みやすく使われることはまずない。一般的には殺傷力が少ないため拷問道具として使用されることが多い。だが、舐めてかかると痛い目を見る武器であることも確かではある。
「え? いえ、得意武器じゃぁありません」
「ん? 何を言ってるんだ? なら、他の物を選べばよかろう」
「ただ、そこの中隊長程度なら、どんな武器を使ったとしても勝てる自信があるので、どうせなら使ったことのない武器がいいかなーっと思いまして……」
さらにザワつきは大きくなる。プライドが高いのだろう。中隊長はバカにされたことに怒り心頭で顔を真っ赤にしている。小刻みに震えゼディスを睨み付けている。将軍の方も腕を組みゼディスを見据えながら、部下にムチを数種類用意するよう指示を出しながら、窘めるように言う。
「お前がどのような冒険をしてきたか知らんが、私の部下を愚弄するような発言はやめた方がいい。我が部隊の中隊長になるには並々ならぬ努力が必要だ。彼を甘く見ているようだから、忠告しておいてやるが、彼の実力は相当なモノだぞ」
「そうですか。まぁ、どーでもいいです」
どうやら、中隊長のイライラは頂点に達しているようだ。
部下がムチを持ってくる。ゼディスはその中から一番長いムチを選び手に取ると。中隊長はすぐに練習場の舞台に上がり、ゼディスを怒鳴り付ける。
「サッサと上がれ! クズ冒険者! 我がグレン王国の中隊長の実力を教えてやる。泣こうが喚こうが、徹底的に潰してやる!」
ゼディスは、欠伸をしながら、ゆっくりと舞台に登っていった。




