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依頼終了と拠点を求めて

 ゼディスとシンシスは神聖ドードビオ王国の近くに転移魔法陣で戻ってくる。そこから宿屋『光の一撃亭』まで多少距離があるが、山から比べれば遥かに速かった……というか、ドキサたちはまだ戻っていない。

 当然と言えば当然だ。魔方陣自体は数時間で完成するが、ドラゴンがいる山から帰ったら数日かかる。

 仕方ないので、シンシスも『光の一撃亭』に宿を取り適当に街中を見る。ギルドや葉巻ハゲ伯爵に一足先に『そろそろ戻るよー』と報告。ちなみに葉巻ハゲ伯爵は『そんな嘘信じられるか! 戻ってくるまで一銭も払わんぞ! ……違った! 戻ってきても一銭も払わんぞ!』と混乱していた。

 それから手袋を買う。黒のロング手袋。


「白い方が正義の味方っぽくっていいんだが……」

「あらあら、悪人ですからこちらの方がお似合いですよ?」


 と、いうことで黒。少しでも善人ぽくしようとしているのに、このロリババアが! そんなロリでもないが……。

 ただ、この場では手袋に魔法をかけることは出来ないため、神殿に行く。外で魔法を使用することは禁止されている。基本的に喧嘩の元……大ごとになりやすい。室内でも宿屋では禁止されているところが多い。理由は爆発などを心配して……魔法は知らない人には危ないモノとの認識から、決められた場所でしか使用できない。


 神殿に行き衛兵に尋ねる。すると、神殿内の受付を案内される。広い神殿内を行ったり来たり……お役所仕事だ……お役所か。ご苦労様です。そんなわけで、たらいまわしにされた結果。受付のお姉さんに……。


「ダメです」

「あらあら、どうしましょう」


 ダメだった。勝手に魔法の物品を製造してはいけないらしい。そりゃーそうか……神殿でも魔法の物品作ってるんだからな。でも、神殿に売ってないから作るんだけれど、作る場合は町から離れた場所か自宅の特殊スペース、または特殊な商売の許可が必要になる。そうしなければ、魔法の物品は作ってはならない。ようするに『勝手に商売されたら困りますよ』ってことだ。

そこに見たことのある小さな人影がやってくる。二代目ゼティーナだ。


「これは、ゼディス様。どうかなさいましたか?」

「いろいろと、どうかなさいました。実は魔法の物品が作りたいのですが……あと指輪、返さないと……それと、葉巻ハゲ伯……じゃなくって……なんとか伯爵のご子息を救出しまして……」

「色々ございますね。少々お待ちください」


 二代目はそういうと、受付のおねーさんに魔法実験室の使用許可を取る。


「では、実験室でお話を聞きましょう」

「あらあら……いいんですか?」

「大丈夫ですよ。私が(・ ・)使うことになっていますから……」




 実験室では二代目ゼティーナは驚愕しっぱなしだった。

 まずは、手袋に魔法を施しているその威力。少なくとも二代目と言われた自分以上に思える。それからゼディスの話。デンたちを助けドラゴンを倒したということ。目の前の女性が初代ゼティーナだということ。何故、魔法の手袋が必要かと尋ねたとき、ゼディスが右手を見せ、復活の呪文を唱えたことにも驚かされた。大神官レベルでも、その魔法を唱えるのは至難の業なのだ。もう、どこから驚いていいのかわからない。


「そんなわけで『呪壁の指輪』を返そうかと」

「あ? え?」

「そもそも、レプリカですしね~」

「え? これは初代ゼティーナ様が付けていたとされる……」

「私はつけてませんよ? それは魔王の物品ですから」

「えっ? えぇっぇ!?」


 さっきから、どこまで本当かわからないが脅かされている。神経が磨り減る音が聞こえそうだ。まさか神殿が代々後生大事の持っていたのが、魔王の物品だったとは……守るための指輪なので、いつの間にか初代ゼティーナが使っていたという逸話になっていたのだろう。さらにそのレプリカなんて、今さら国民にそんなことを話せるわけもないし……彼らが本当のことを言っているとも限らない……が、信用できる人たちだ。

 だいたい、ついていけない話が多すぎる。二代目オーバーヒート! 頭から煙が出てくる……。


「うわっぁ!! どうした! 大変だ!」

「あらあら、どうしましょう」

「救護班! 二代目ゼティーナ様がっぁ!!」


 倒れた二代目ゼティーナは担架で運ばれていった。実験の失敗ということで……。




 それから数日、やっとみんなが帰ってきた。まずはシーフの受け渡し……ドキサは『途中で殺しとけば良かった』と言っていたらしい。当分の間は牢獄から出ることはないだろう。それから葉巻ハゲ伯爵の息子・デンの帰還。デンは意外と好印象に捉えられていた。ドラゴンと闘ったことがある人間として大々的に貴族でパーティーを開かれたとか……呼ばれなかったけど。行ければゼディスは貴族の娘を……と思っていたらしいが、行けないので関係ない。デンの名声は上がったらしい。何か困ったことがあったら、たかろう!

 そのあとに、ギルドに行って依頼終了を宣告。ギルドの受付の人が報酬が無いことを不審に思ったが、『俺たちは金の為にやったわけではない! 正義のためだ!』とゼディスが言いくるめようとしたが、ギルドに集まっていた他の人たちからも『あぁ裏取引があったんだ~』と思われる羽目に……。ドキサやショコなどガッカリ!

 そのあと、打ち上げ! ゼディス、ドキサ、ショコ、ドンドランド、エイス、シルバ、シンシス、以上七名! 酒場に繰り出し酒盛り開始! ドワーフが異常に酒に強い。これは種族的に強いらしい。ほぼ底なし。アルコール度数の高い酒でも酔わない。一番弱いのはシルバ。数杯のんで危うくなっている。その他は多少大丈夫のようだ。


「さて、ここで、そろそろ重大発表!」

「なんじゃ、ゼディス? ドラゴンを倒すより重大なことがあるのか?」

「宿屋『光の一撃亭』を明日、出ます」

「新しい地に行くのか?」

「そーゆーこと」

「でもどこに行くんれすかぁ?」


 目つきの怪しいシルバが尋ねる。


「どこがいいか相談だ。なぜなら、そこを拠点とします! デデーン♪」

「きょ・て・ん?」

「人数が増えてきたから、分割して行動する。やること多いからな」

「でも、移動するのに時間もかかるし、資金も……あれ? 両方ある!」


 ドキサの頭にピコンッと電球が付く。そして自分たちの拠点ができることにワクワクしてくる。まずは大きい屋敷だ。ドラゴンで得た資金は莫大だ!ちょっとやそっとじゃ無くならない。


「どこがいいじゃろう? やっぱり勝手知ったるラー王国か?」

「港の王国ベルベッサなんかも風景がきれいですし、お魚がおいしいですよ」

「中央王国グレン、剣の王国サーフィルス、魔導機王国ブラッケン……はエールーン王国に近すぎるか」

「中央王国は真ん中だから、あっちこっちの行きやすいれふね」

「でも、転移魔法陣だから行きやすさはどこも一緒よ、シルバちゃん」


 戦争の少ないところが良いだの、見晴らしがいいところが良いだのいろいろあった。もっとも転移魔法陣の位置を確認の為に地図を広げる。大陸の真ん中。中央王国グレン、別名、大陸のへそ。ここは世界樹と呼ばれるデカい樹があり、エルフの王国が隣にある。大陸全土で要的存在とも言われている。ラーはグレン王国より南東に位置する。中央寄りであるが結構な距離だ。その間にいくつか国もある。


「やはり中央王国グレンじゃないか? あそこなら貿易の中心、大抵の物が揃う。わざわざ移動しなくていいのが長所だ。欠点は値段の高さだが、ドラゴンの資産から考えれば問題は無いだろう」


 エイスの意見は合理的だ。


「でも、海もみたいですよね~」

「見たいれふ~ぅ……」


 ショコと半分寝ているシルバが海を主張。テーブルの食事を突きながらドキサが結論。


「じゃぁ本宅を中央王国グレンにして、もう一匹倒したら、港の王国ベルベッサに別荘を作りましょう!」

「それはいいアイディアですね~」


 ポンとシンシスが手を叩く。そんな簡単にドラゴンはいないし、倒せないぞ……と思う。だが、だいたいそれで決まりのようだ。明日は中央王国グレンに移動だ! ……のはずが、シルバをはじめ、ショコとゼディスが二日酔いでダウン。意外とお酒に弱かった。明日から頑張る!




 そんなわけで、宴を催した次の次の日、転移魔法陣で中央王国グレンに移動。

 世界でも有数の商業都市。商人の多さは大陸一である。商人が幅を利かせているため、貴族でなくてもお金さえ持っていれば、誰でも屋敷が買えるのがいいところである。

 転移魔法陣はグレン王国から、ちょっと離れたところにある。そこからトコトコと歩いていくと、城下町に入るところで門番に止められてしまう。


「ここはグレン王国、身分証を確認させてもらう。通行料も必要だぞ」


 ゼディス達は冒険者ギルドの身分証を見せながら、高い通行料も払う。通行料は職業によって違うらしい。王族は無料は当然として、貴族も安い。高いのは商人と冒険者。無職の方も冒険者の三割程度取られる。ただ、働き口は多いので出稼ぎで来る人も多い。ただし、グレン王国から外に出るのは無料。まぁ、出る分も入る時に含まれていると言えばそれまでなんだが……。

 何故か知らないが門番が吃驚している。


「お前たちAランク冒険者なのか!」

「そうだけど? そんなに珍しくないだろ?」

「いや、Aランクは珍しいが……それより、噂を聞きつけて来たんじゃないのか?」

「噂?」

「噂ではないな。事実なんだから。Aランク冒険者が王女の前に行くだけで依頼が一つ終了したことになるんだ」

「なんじゃ、そのラッキーイベントは?」

「それならSランクになるのが楽になりますね」


 何か腑に落ちないモノを感じながら、グレン王国の中に入って行く。分厚い壁で囲まれている街で、壁を通り抜けるだけでもトンネル状の道を歩かなければならない。壁の上には弓兵が巡回している。

 トンネルを抜ければ、街は活気にあふれていた。色々な店が並び、いろんな人種がいる。人間、ドワーフ、獣人、今まで街ではほとんど見かけることのないエルフもいる。

 この国で屋敷探しをするのだから、とりあえずの宿屋と冒険者ギルドの確認をする。宿屋は一般街の『真珠の踊り子亭』という一流宿屋。身なりのいい客が多い。ゼディス達はその中では、みすぼらしい方に入るだろう。冒険者の格好なので当たり前である。だが、この宿屋に泊る客のほとんどが豪商や他国の貴族なのだろう。冒険者が止まるような宿屋ではない。それでも一流宿屋、プロである。にこやかな顔で挨拶をする。


「いらっしゃいませ。七名様ですか?」


 ショコに任せる。ぶっちゃけ、この場で役立つのはショコだ。ドワーフ二人は大雑把すぎるし。エイス、シルバは宿屋に入ることがほぼない。シンシスはどういう生活をしているかわからないので頼めないのでゼディスかショコだが、ゼディスは面倒くさがりという消去法。


「はい、しばらくお部屋をお借りしたいのですが?」

「ランクはいかがなさいますか? 滞在日数や予算が決まっていればこちらでご案内できますが?」

「日数は決まってないので」

「でしたら、スタンダードがよろしいかと……」


 と言って一泊当たりの予算を見せる。スタンダードは、ようするに一番安い部屋……それでも普通の五倍くらいの値段がする。


「ちなみにスイートですと、いくらぐらいしますか?」

「スイート……ですか?」


 一瞬、怪訝そうな顔をする。本当に一瞬だけ。プロだからさすがと言えよう。冒険者ごときが止まるような部屋ではない。一泊でも普通の冒険者が泊まることはまずない。なにせ値段が五十倍くらいする。

 この宿屋の部屋のランクは、スタンダード、スーペリア、デラックス、エグゼクティブ、ジュニアスイート、スイートという六段階に分かれている。

 値段確認だけの冷やかしだとすぐに思ったが、顔に出してはマズイと思い直したのだろう。大体、滞在日数が決まってなくて泊まるような宿屋ではないのだ。

 ショコが値段を確認する。


「なるほど、わかりました」

「では、お部屋はいかがなさいましょう?」


 当然『スタンダード』だと思っていても、部屋の確認はする。客のプライドを傷つけるようなまねはしない。


「スイートルームでお願いします」

「では、ス……スイートルームですか? えーっと、すみません、再度確認させていただきますがスイートルームでよろしいでしょうか?」


 『スタンダード』と言いそうになった。それに日数が決まっていないのにスイートに泊まるなど考えてもみなかったのだろう。だが、ゼディス達の現在の財産からすればそれでも余りある。ドラゴンの財宝とはそれほどまでに莫大だ。たぶん、スイートルームに十年くらい泊まっても大丈夫だろう。

 ショコが念のため、みんなに確認を取る。


「スイートでよろしいですよね?」

「ん? いいんじゃない?」

「まぁ、余裕があるしのぉ」


 みんな、部屋に興味なし……の振りをしているが内心ワクワクである。ただ、周りの客に『只者ではない』と思わせたいのだ。おもにドキサとドンドランド。

 その思惑も当たり、ボーイのみならず、周りの客も貴族か王族の冒険者では? とか著名な冒険者ではないかとか? ひそひそ声で話しだしている。……ある意味、どっちも当たりなのだが……。

 気持ちよさそうにニマニマしている、約二名。エイス、シルバ、シンシスは慣れているらしい。

 ショコは金貨の入った袋をボーイに渡す。


「とりあえず、信用が第一でしょう。前金で一ヶ月分渡しておきます」

「は……はい。確認してまいりますので少々お待ちください」


 ひょっとして『踏み倒すつもりでは』というボーイの思いを打ち砕いておく。確認後ボーイは上客を待たせないよう大急ぎで戻ってくる。


「お待たせいたしました。スイートルーム七名様分の料金を確認いたしました。こちらはお釣りとなります」

「あら? 多かったですか? では、チップとして取っておいてください」


 わざと、ちょっとだけ多く支払っていた。ショコの狙いは、二つある。一つはココの客とつながりを持つこと。金を持っているとわかれば、放っておいても向こうから寄ってくる。もう一つは屋敷を買うとき下手なモノが売られないように金をちらつかせておく。下手なモノを金持ちに売ったら痛手をこうむるのは、売りつけた方だ。商業都市では信用はかなり重要だ。

 さすがショコだなーとゼディスは感心する。

 早速、ハゲでデブの豪商が話しかけてくる……どっかで見たことあるような?

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