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ドラゴンクッキング

 ゼディスが目を覚ますと、仲間もデンたちも寝ていた。ただ一人、今までいなかった女性が起きていた。口の中をモゴモゴさせながら……。


「ふぁら、ふぁら。やっひょおめはめれふか?」

「とりあえず、食べるか、喋るかどっちかにしてくれ。」


 彼女は黙々と食べだした。選択肢を出したのはゼディスなので文句を言うのは筋違いだろう。周りを見ると、まだ明るい。

 後ろから刺された傷は治っている。ドラゴンとの戦闘後にリキュアをかけておいたのは正解だった。Bランク冒険者たちが、財宝に目がくらむだろうと思い念のためかけておいた。

 ゼディスは周りの怪我人の様子を確認する。想像通りというかデンたちを含め、全員けがは回復している。


「予想外だな。まさか……生きているとは……。」

「……。」

「二代目ゼティーナという人物に会った。おかしいとは思った。女性だからな。」

「……。」

「聞きたいことは色々ある。」

「……。」

「早く喰えよ!!」


 ゼディスの話を聞きながら、肉を一度飲み込んだが、また、ドラゴンステーキを食べだす。


「食事はゆっくりとった方がいいんですよ~。えーっと、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「あぁ、そうだな。俺の名はゼディス。」


 だが、ゼティスの問いかけに答えない。立ち上がるとゼディスに背を向け、ドラゴンのの方に歩き出す。


「ゼディスさん、お腹が空いたでしょう? 食べますか?」

「とりあえず、いただくか。」


 彼女は杖でドラゴンの尻尾を切り落とす。刃物もついていないのに……。そして戻ってくると、カバンから、フライパンを取り出す。レクサの初めの荷物を思い出すほどデカいカバンだ。色々なモノが顔を出している。ドラゴンの尻尾を焼く前に、変な道具で鱗を剥がし包丁でかつらむきの要領で周りを切り落とす。


「どうです? このドラゴンの鱗取り器具。ユニクス王国の王都で見つけたんですよ。なかなかこういったものが売っていなくて……」


 それはそうだろう。そんなもの誰が必要なんだ? そもそも、ドラゴンを倒せることが前提のグッズではないか? ドラゴン自体そんなにいないんだぞ。何のために作ったんだ?

 しかし、誰が考えたか知らないが、綺麗に鱗が取れるらしい。ただし、生きている時にはドラゴンの筋肉が鱗から剥がれないようになっているらしい。

 そうして皮をはいでいった後に、まな板を取り出す。その上に肉を置き、先に針のようなものが付いた小さいハンマーでたたく。


「こうすると、肉の筋が切れて柔らかくなるんですよ。そして、叩いた後には黒胡椒です。ドラゴンの肉は臭みが強いため、粗挽きにした方がいいんです」


 なんでドラゴンの尻尾の料理の仕方を聞かなければならないのか? という疑問は置いておく。どっちにしろ、彼女しか起きていない。彼女以外に話し相手もいない。相手が一人で話しているので、相槌を適当に打っていればいいから、楽と言えば楽だし、急ぐ必要もない。

 そのほかにも、色々な調理道具が出てくる。なんで、冒険に出るのに、そんなに持ち合わせているんだ? まぁ他人事だから構わないが……。


 ちなみに、魔力で彼女を覆うことは控えている。おそらくバレる……最悪、封じられてしまう可能性もある。予想が正しければ彼女は初代ゼティーナで力はいまだ衰えていない。


 彼女は色々な料理の方法を説明しながら、現在、フランベ中。アルコール度数が比較的高い赤ワインを使用。ほとんどが香りづけのためにやるとか言っているが、ゼディスはそんなに味の分かる方ではないので、塩コショウで炒めれば何でも食べられると思っている。で、お皿に盛りつけて出来上がりなわけだ。どうやってお皿を持って歩きながら冒険してるんだ、割れないのか!?

 ドラゴンステーキを頂く。まぁ、美味い。上手くいえないが、柔らかくって胡椒の味が効いている。彼女から感想を求められないので答えない。答えたところで大したボキャブラリーは無い。しいて言うなら『美味い』くらいだ。


「ところで話を戻すが、初代ゼティーナだよな? 魔王を倒した」

「その説明だと『違う』と答えることになりますね……とりあえず、皆さんが起きてから説明しましょう」


 そういうとゼティーナ(仮)はゼディスが起きたことで見張りをしなくて良くなったから、ドラゴンを本格的に捌き出した。おそらく保存食も作るつもりなのだろう。しかし、いくら死んでいるからといって、ああも易々、ドラゴンが切れる物なのだろうか、と感心してしまう。どうやら杖の先を魔法かなんかで、刃物のようにしているようだ。返り血を浴びないように注意しながら、無駄なく肉を取り出していく。一家に一台、彼女がいればドラゴンの肉を無駄なく取り出せるだろう……そんなに、ドラゴンと闘うことはないだろうけど……。





 ドラゴンステーキを食べ終わったころ、みんなが起き始める。


「いたたたた……まだ、身体が痛いっぃ」

「こんなに……痛み……続きましたっけ?」

「前回より、力を使いっぱなしだったから、筋肉が張っているんだろ?」

「とりあえず、朝食を用意しました。みなさんどーぞ」


 ドラゴンステーキ(尻尾)をみんなに配る。起きそうな時間に合わせて焼いていた。


「ところで、アナタは一体誰なんだ? こんなところに一人で来るなんて……失礼だが不自然だ?」


 エイスが目を細め、疑うように彼女を確かめる。デンたちも彼女が傷を治していたのだが、何者かわからないと気持ちが悪い。


「ゼディスさんは、私が誰だかご存じみたいでしたが、他の方々には改めて挨拶が必要みたいですね? 私はゼティーナと申します。以後お見知りおきを……」

「ゼティーナ!?」


 ほぼ全員ハモった。


「待て!あのゼティーナだというのか? 千年以上生きていたと、そう言うのか?」

「魔王が生きているという話もあるが本当なのか?」

「何でこんなところにゼティーナ様がいらっしゃるんですか?」

「神聖ドードビオ王国の二代目って一体どーゆこと?」


 いろんな質問に、にこやかに笑っている。


「とりあえず、いっぺんにお答えすることはできませんので……何からお答えいたしましょう?」

「まずは本物かどうか、お答え願えませんか?」


 デンが確認する。もちろん、偽物だと答える偽物はいないだろうとは思うが、こう質問する以外、方法が思いつかなかった。


「私はゼティーナです。それ以上でもそれ以下でもありません。本物とは何に対してでしょう?」

「7人の勇者の一人かてーことよ」


 もう少し噛み砕いてくれ、というようにドキサが付け加える。


「そうですね。それで言えば本物ですが、証明する手段はありませんし、証明しようとも思いません」

「しかし、その名前を使う以上、証明しなければ、街に行けば牢獄いきだぞ?」


 ゼディスが忠告する。


「そうなのですか? でしたらシンシスと名乗りましょう。」

「シンシス?」

「私のミドルネームです。それともまだ、私のシンシの名前は歴史に残っていますか?」

「いいえ、残っているのは『大神官ゼティーナ』という名前だけです」


 シルバがゼティーナに教える。


「もし本物のゼティーナ様なら教えて欲しい! 魔王をどうやって倒したのか!」


 デンが尋ねる。が、今まで表情を崩さなかったシンシスは顔を伏せた。


「その話は……あなた方には出来ません。真実は新しく勇者の力を受け継いだ者たちしか話せないのです……ココにいる、4人にしか……」

「何故です! 多くの者が魔王の倒し方を知っておくべきです! そうすれば、今の自分が倒せずとも倒し方を未来の多くの者に引き継げます!」


 だが、シンシスは答えない。


「答えられるわけないわな。……そんなこと言ったら、それこそ大混乱もいいところだ」


 ゼディスが代りに答える。喰ってかかろうとするデンをエイスが抑える。エイスの師匠、エルフの王・エリスの話では『魔王は生きている』のだから、倒していないのだ。


「まぁ、邪魔だから伯爵のご子息様にはお帰り願おう。そのあと、シンシスと話し合おうじゃないか?」

「待て! 僕たちにだって聞く権利はある!」

「ない!!」


 ドキサがデンの襟を掴み強く否定した。


「アンタ達の権利ってなんだ! 伯爵の息子だからか!? 危険も顧みず他人を巻き込んで、こんなところまでやってきて、冗談じゃない! 少なくとも今、お前たちに聞く権利なんて存在しない! 義務を果たせない奴が権利を主張するな!」


 ドンっと突き飛ばす。


「落ち着け……だいぶイライラしてるのぉ」

「権利を主張する貴族が大っ嫌いなんだ。少し言い過ぎた、悪かった」


 あっさりと謝る。デンもそれ以上、何も言えなくなってしまった。倒されたままの恰好でしゃがみこみ、唇を噛みしめている。


 ゼディスは『まぁ、どうでもいい』と言うと立ち上がり、帰り支度をするようにみんなに指示を出す。


「どうするんじゃ? この宝の山は?」

「全部は持ってけないですもんね~?」

「魔法のバックみたいにいくらでも入れられるモノがあればいいんですけどね~?」


 ショコとシンシスが、二人で首を傾げる。シンシスのデッカいバックパックを空にしても、同じものが500個くらい必要そうだ。

 デンはドキサに言われたことがよほどショックだったのか、その宝を受け取らなかった。Bランク冒険者の戦士と神官ドワーフは『活躍してないのに申し訳ない』といいつつ、荷物のほとんどを金塊に詰め替えていた。その代り、何かあった時には手伝う約束を取り付けておく。必要になるかはわからないが……。


「さて、俺らは財宝は持って帰らなくていい。シンシスと二人でココに残って洞窟を閉鎖するからな」

「どういうことだ?」


 エイスが意味がわからず聞き返す。


「魔法陣を生む」

「魔法陣……まさか! 作れるのか!?」


 すぐにゼディスが何を言っているのか理解する。ココに転移魔法陣を作るのだ。出入口さえ封鎖してしまえば、誰も取りに来ることはできない巨大な貯金箱の出来上がりだ。あとは転移魔法陣を使えばいつでも引き出せる。魔方陣の使用方法はおそらく、今いるこのメンバーしかわからないだろうから安全度は高い。


「そーいうこと、先に帰っていてくれ。シンシスとあとからドードピオに向かう」

「こりゃー、一生金に困らなそうだのぉ」


 鼻歌でも歌いだしそうなドンドランド。デンたちは何のことか理解できないが、もともと彼らの財宝となったモノだ。残念がっても仕方ない。ゼディスとシンシスを置いて山を下り出す。


「私はあちら側を封鎖します」

「なら、俺は……」


 それぞれが、全ての出入り口を封鎖していく。天井に空いている穴から入ってこれるのは飛行生物だが、財宝に興味がある生物がいるかは疑わしいので放っておく。

 それから、ゼディスが魔法を唱えると、白い楕円形の球体が現れる。大きさは1m50cm前後。自然と割れ地面に光を放つ魔法陣がゆっくりと描かれていく。完成するまで数時間かかりそうだ。

 それを見ながらゼディスがシンシスに話しかける。


「知りたいよな?」

「そうですね。なぜ、アナタが勇者たちを集めているか……それに、7魔将が復活したという噂もあります」

「それはちょっと違うぜ。昔の奴らじゃない。全く新しい7魔将だった。2人会った」

「全く新しい? ということは復活できないということですか?」


 ゼディスは右手を見せる。


「誰を?」

「ラー王国の第一王女」

「意外ですね……しかし、昔の7魔将を復活できるわけですね。手袋が無くってお困りのようですね。よろしければ、お作りしましょうか?」

「魔法のかかった手袋が無かったから助かる」

「でしょうね。普通の手袋ですと骨の部分に当たると溶けてしまいますからね」

「神聖ドードピオ王国ならあると思ったんだけどなぁ」

「そういえば、アナタたちは丸一日、寝ていましたよ」

「あぁ、それで明るかったのか……てっきり、ドラゴンを倒してから大した時間が経っていないのかと思ったよ。その間見張っていてもらって悪いね~」

「私が見張っていたのはアナタですが」


 二人の会話は魔法陣が組み上がるまで続いた。

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