ショコのザックリとした過去
伯爵の息子を探して山に入ってから、何匹もの魔物に襲われていたが、そのたびにゼディスとシルバがオーラを見せて叩き切っていった。何度も説明するが、オーラを使用できるのは現在、彼ら2人。
クンクンと鼻を鳴らしショコが、伯爵の息子さんを探索していく。
ワードックは人間より嗅覚が一万倍良いと言われている。
ヴランディシュ・ショコ・ラトラ
獣人……ワードック(ゴールデンレトリバー)
私はラー王国に近い土地で生まれた。「十歳で神童、十五歳で才子、二十歳過ぎればただの人」と言われている通り、私も子供のころは神童と呼ばれることがままあった。
そもそも村の人口が200人前後だったので、多少、秀でていれば神童扱いだ。何歳までだったか忘れたが、炊事、洗濯、家事、掃除は完璧に、こなせるようになり、そこから帳簿の計算や、大工仕事、農作業、道具屋の販売や買い付けなどの手伝いをさせてもらった。やらされていたわけではない。ただ、漠然と必要になると思い身に着けていった。それが十歳くらいまでの話。
さらに、そのころから護身術を習い始めた。およそ一年程度で、村で教えている護身術の先生を打ち負かし『もう教えることはない』といわれる。みんな褒め称えてくれたけれども、元々、小さな村だからそれ程大したことはないと思っていた。
そんなある日、転機が訪れる。村で一番強くなっていた私は、近くの洞窟に数匹のゴブリンが住みついたから、退治して欲しいと村長に言われる。もちろん、女性の仕事ではないので断ることもできたが、私以上強い男性もいないので仕方がないと思った。数人で行くこともできたが、まずは私が一人で確認してくると言って、洞窟へと向かうことにした。ゴブリン数匹なら、一人で十分だし、逆に男性が足手まといになる可能性を考えてだ。もちろん自分の手に負えないようならすぐに帰る予定だった。
だが、実際に洞窟の前に来て違和感を覚えた。ゴブリンの気配は無かった。いや、匂いはある……しかし、それは死臭だ。何かが洞窟にいる……それなのに恐怖は無い。ワードックは夜目が利くのでランタンを持たずに、そのまま奥へと忍び足で進んでいった。予想通り、ときおりゴブリンの死体を発見する。そしていくつかの別れ道を過ぎた後で、行き止まりの大きい空洞に出る。天井には小さな穴が開いており、光が差し込んでいる。そこに鳥の獣人……ワーバード、大鷲だろう……が、一段高い場所に座っていた。周りには数体のゴブリンの死体がある。おそらく彼が全て退治したのだろう。
「アナタがゴブリンを退治してくれたのですね。私は近くの村に住むヴランディシュという者です。村人の代表としてお礼を申し上げます」
「利発そうなお子さんだ……さすが、新しい器というわけか……」
ワーバードが手を組んでいる。いや、翼を組んでいる。手の部分は翼となる。ワーバードに限って言えば、人間の姿になっている者も多いらしい。手が翼になってしまい指がないからなんだろうなーと漠然と思っていると、ワーバードが提案を出してくる。
「どうだろう、君に勇者の力を受け継いでもらいたいのだが……」「お断りします。」
「即答か! 落ち着け少女よ!」
「ワーバードさんが落ち着いた方がいいですよ?」
「この力は世界を救う力なのだ! 誰かが受け継がなければならない」
「知らない人から、モノをもらっちゃいけない、って言われてますので」
「うむ、その通りだ」
それじゃぁ……といってゴブリン退治もする必要が無さそうなので帰ろうとすると、ワーバードさんが縋りついてきた。
「待って! 少女よ! タダ! タダで平和にする力が!」
「美味しい話には裏があります」
「ホント! ホントにないから! 君に勇者の資質があるからだから!」
「すみません。宗教にも興味が無いので……」
「そういうのじゃないんだって! そうだ! 少女、君の村に案内しなさい。そこで君のご両親と相談させてもらおう」
怪しい人だと思ったが、どっちにしろ近い村なので、ワーバードが空から探せばすぐに見つかってしまうので案内することにした。実際、ゴブリンを倒したのは彼だし、お礼をするのが筋というモノだろう。
村に着くと村長さんが出迎えてくれた。なんだかんだで心配していたようだ。それからワーバードは村長さんと私の両親と話をしていた。
その夜、両親と村長に呼び出されワーバードさんの前に連れて来られ、母に言われる。『勇者の力を受け継いでもいいし、受け継がなくてもいい。あなたが決めなさい』っと……。
「その前に質問していいですか?」
色々な疑問があった。疑問があるまま決めるのは愚行というモノ。もし答えられないなら、受け継がないつもりだった。いや、そもそも自分には荷が重いと思っていた。
ワーバードさんも理解していたのだろう。答えられることは答えると言ってくれた。
「で、何が聞きたい?」
「まずは、名前を教えてください。名前を名乗らない時点で礼儀が無いと思われますよ?」
両親も村長も、勇者の力を受け継いでいる者に失礼ではないかとオタオタしている。
「そうか……それは申し訳ない。私の名前はギデリアント・ウルフ。冒険者の戦士だ。」
ギデリアントさんは、自分の非礼をわびて自分の名前を名乗った。
鳥なのにウルフかぁ……と思う。けど名前は自分で決められないので仕方ないだろう。彼のセンスではないのだから……。
「では、改めまして、私の名前はヴランディシュ・ショコ・ラトラです。
では、改めて質問をさせてもらいます。まずは、なぜ私なんですか? 世界には私より力があり、私より知恵のあるモノがたくさんいますし、正義感を持っている者もいます。」
「簡単だな、偶然だ。」
「偶然……で選ぶのはどうかと思います。でしたら、申し訳ありませんが他を当たってください。」
「残念だが、もう私の命はあとわずかなんだ。寿命だ」
「失礼ですが、そこまでのお歳だとは思えません」
お世辞抜きに見た目は若い。とても寿命など信じられるわけもない。
「勇者の力の効果だ……若さが持続する。襲われたとき年を取っていた、では話になるまい?だから、寿命が尽きるその時までは若さを保つんだ」
「なるほど。では、もし誰かに受け継がないで死んだらどうなるのですか?」
「さぁ、どうなるかは知らない……が、どこか知らない赤ん坊に受け継がれるんじゃないかな?ラー王国のお姫様は光に包まれながら生まれ、勇者の力を持って生まれたに違いない、って言われているらしい。」
たしかにそんな話を聞いたことがあった。王都の方では一時期、その話で持ちきりだった、と村に来た商人が言っていた。
「なら、アナタが選ぶよりも、神に委ねた方がよろしいんじゃないですか? 会ったばかりの私を選ぶより?」
「それなら、俺が君を選んでも一緒だろ? 神が選ぶか、俺が選ぶかの差だ。これでも勇者の力を受け継いでいるんだ。俺の感はそこそこ当てになる」
「では、もし、私がその力を受け継いだら、私は何をしなければならないのですか?」
力を得る権利がある、ということは何かしらの義務が生じるハズだ。何もしなくていいというなら、この男は信用できない。
「何もしなくていい」
「そうですか……残念ですが、やはり私はアナタを信頼するに値しないと判断します」
「ただ、私は君が何もしないとは思えない。この力を得たとき君はこの力を開放することをおそらく拒むと思っている。要するに使わない。できれば、そうして欲しい。もし、どうしても、力が必要になった時に初めて使えばいいと思っている。」
「……。それは悪魔の囁きですね。誰もが『いざ』って言う時には力が欲しい。それで力を開放してしまったら、その力に飲み込まれてしまう」
ワーバードは十代の少女を見る目ではなかった。
「そこまで理解してるなら、なおさら君にもらってほしい。そして、出来れば一生使わないでほしい。闘うための力だ。」
私はそこで再び考える。たぶん自分はそんなに意志の強い人間ではない。必ず困ったことがあったら、勇者の力を使ってしまう。
「もう一つ、お聞きします。勇者様から直接、力を受け継いだのですか?」
「獣神ジャンガード様から直接ではない…私の前に、ヒースという女性の獣人……ワーラビットから受け継いだ。私の師匠だった。その人から言われたんだ。受け継がせるなら『自分の感を信じなさい』ってね」
獣人の寿命は種族によってバラバラだ。だが、どの種族でも百年以上は生きる。平均すれば四百年前後だと言われている。計算すれば彼の言っていることに嘘はないが、子供を騙すなら、当たり障りのないことを言うかもしれない。
「本当にその力を受け継いで、私の好きにしていいんですね?」
「あぁ、好きにしてくれてかまわない。世界征服でも何でもしてくれ。ただ、使いこなすとなると容易ではないぞ?」
ワーバードは受け継いでくれそうだとニヤリと笑う。
「最後にもう一つ質問してよろしいですか?」
「なんだ?」
「その力を受け取った後、アナタはどうなるのですか? 勇者の力の特権で若さを保っていたわけですよね? その反動が来るのではないのですか?」
「ちゃんと考えてるんだな……俺は師匠から受け継いだときは、そんなこと考えもしなかった。もっとも考えたとしても取り越し苦労だ。安心してくれ、寿命で死にはする……が、特権というか……もう、ここから年を取ることはない……この姿のまま……だ。」
「少しさびしいですね。普通に年を取れないというのは……。」
「お前、本当に子供か?」
ワーバードは呆れていた。
結局、私は彼のいう『勇者の力』というのを受け継いだ。何か力みたいなものが胸の真ん中あたりに感じることが出来た。だが、これを操るのは相当な訓練が……いや、もっと凄いショックでも与えないと目覚めないのだとわかった。
「どうだ?」
「これは、ちょっとやそっとじゃ、使えませんね。封印しようと思っていたのでちょうどいいです」
村長は自分の村から勇者の卵が産まれたことを喜んでいた。両親は複雑そうな顔をしていた。嬉しいような悲しいような……当然だと思った。勇者になること自体は嬉しいだろうが、自分の娘が乱世に巻き込まれる可能性が高いことが嬉しいわけがない。
それからしばらくは、村ではいろいろ話題になったが、特に力が目覚めることはなかったので忘れ去られていった。
それから数年で、ワーバード、ギデリアントは村で息を引き取った。それまでに彼から、私は多くのことを学んでいた。
そして彼の死を機に私は王都に行って働くことにした。母は『目指せ! 玉の輿!』と言って嬉々として送り出してくれた。この時には、一通りの武器、防具の扱いもできるようになっていた。
王都では、メイドとして働いていたが、優秀だということで王宮に仕えるようになるまで、そう時間はかからなかった。十代半ばで王宮メイドになっていた。このまま、メイド長になろうと思っていた。
そんな、ある日、バカな貴族の騎士に惚れられてしまう。金でモノを言わせ、色々な女性を囲っていたらしい。私もそんな女性の一人になるように迫られた。最悪なのが、このバカ貴族の名前がヴランディシュ。ヴランディシュの名前を使わなくなったのはこの頃からだ。
出来るだけ丁寧に断ったのだが、その後から、自分の周りのメイドたちに嫌がらせをするようになってきた。メイドの同僚たちはビクビクする毎日を過ごすことになってしまったのだ。
そこで私は彼を咎めた。……咎めた、だけでも問題だったが、我慢出来ず腕の骨を折ってしまった。そのため、ゴルラ中隊長に呼び出され聴取という名の鉄拳制裁を食らった。メイドに手を上げるなど正気とは思えなかったが、それですべて水に流してもらえてよかったと、同僚は喜んでいた。
メイドが貴族の手を折ったとなったら、場合にもよるが首を刎ねられる可能性もあったらしい……。バカ貴族が訴えてくることも嫌がらせをすることも無くなった……無くなったのだが、私はゴルラ中隊長の部隊に配属されることになる。
意味がわからなかった。メイド長を目指していたら、部隊配属に回されるなど聞いたことがない。断る暇もなかった。ドワーフの女の子がちょこちょことやってきて『お前の上官だ』といって首根っこを引っ掴まれて連れて行かれた。
その日のうちに、いきなり実戦投入。ユニクス王国とのフロントラインに配置されている。意味がわからないまま、敵と切り合う日々。なんでも当時のゴルラ中隊長が、戦線が手薄になりつつあり、兵士を探していたらしい。それでぶん殴ってみたら使えそうだと判断して、引きずり出したとか……私としては堪ったもんではない!
味方もかなり倒されていて、生き残っているだけで副隊長に就任していた。隊長はドワーフっ娘のドキサちゃん。本来はドキサ隊長と呼ばなければいけなかったのだろうが、連れて行かれて、即最前線! とても軍の規律を習う暇すらなかった。しかも傭兵部隊。どっちにしろ規則など守らない連中が多かったし、死人も多かった。金だけで切り合う連中なので報酬は必ず後払い。
そんな中、ゼディス様と会う。初めて会った時から、運命の矢で射ぬかれたような衝撃だった。自分はこの人の為に生まれてきたのだと思えるほどに……。それなのに、ユニクス王国に奇襲をかけたときに、彼を助けるどころか助けられる失態を晒してしまう。彼が一人で足止めするといった時、私も残るつもりだったがドキサちゃんに再び首根っこを引っ掴まれて撤退したのだ。あのときはドキサちゃんを睨み付けようとしたら……その時のドキサちゃんの顔を多分一生忘れない……歯を食いしばって、私を引きずっていた。撤退を完了したとき奥歯が割れて、吐きだしていた。
あの時、勇者の力を使えれば……と思ってしまったことが情けなかった。結局、持っている力は使いたくなってしまう。大切なモノを守るためなら……正しく使うなんて不可能だ。戦争自体が正しくないのに、そこに力を使うのだから……。小さな力は間違っても取り返しがつくが、大きな力は取り返しがつかない。
ゼディス様が帰って来るまでの間、訓練を怠らなかった。ゼディス様が帰ってきたときに足手まといにならないように、そして守れるように……。彼は帰ってきた……ただ、次があるかわからない。後悔しないようにするにはどうしたらいいか、今も結論は出ていない。
「見つけました! どうやらこの奥のようです」
ショコは伯爵の息子・デンが入ったであろう大きな洞窟を発見した。
彼らがこの洞窟に入ったのは最近のように見受けられる。洞窟というよりは山の裂け目のようで、ところどころ木漏れ日が刺しこんできていた。




