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色んな種族

ゼディスはなんとか逃げ切った。


敵の女エルフ将軍エイスはゼディスが出てから、逃げ切れるか逃げ切れないかギリギリのところで兵士に連絡したらしい。


『自分の部下にならないか』と誘ってきたのだからたっぷり時間をかけてくれるのかと思ったら、意外とシビアな女性のようで……。


馬の蹄が何度も響き渡り、そのたびに身を隠していた。

それもそのはず敵の王位継承権を持つフィリップ将軍の首を持っているのだから……。


たしかフィリップ将軍は王族ではあるが王の従兄の息子にあたり、軍の功績を重ねている。

もっとも、先ほどの感じから本当の功労者がエイスなのは間違いないだろう。


(それにしてもいい身体してたなー)


エイスを思い出すとヨダレが出そうになる。ボンキューボンって感じで……。

だいたいエルフは人間より小柄で女性が多く魔法に長け、さらに瞬発力もあり寿命も長い……。


(人間よりいいとこだらけだ……さらに普通は胸は薄い方が多いのにあの将軍は突然変異か?)


逃げ切ったと思い、エイスのことを思い浮かべている。

夜が明けてきた頃、ようやく一つの町に辿り着くラー王国の防衛都市。

ここ一ヶ月の戦争で落されそうになっていた場所だ。


「さてと……」


フィリップの頭の入った布を投げ捨てる。

本来なら報奨金が出るかもしれない頭だが、その辺の狼に食わせる目的だ。


これで本当にフィリップが死んだか、真相は闇の中。

もしラーの王国で打ち取ったことになれば戦争は大きくなっていく。だが、ラー王国が打ち取ったのに騒がなければユニクス王国も疑問がわく。

うやむやなまま、戦争を大きくする気にもなれないだろう。

その為に首を持ってきたのだから……身体があっても絶対本人だとは言えない……あんなデブでも……。


鼻歌交じりに町の門番に挨拶する。


「おはようございまーす」

「え…あぁ、おはよう…」


うつらうつらしていた門番は傭兵一人に気にも留めていないようだった。

スパイだったらどうするんだろうと思ったが そんなことを言ったらきりがない。

それに先日まで戦争をしていて追い返したばかりだ。

ユニクス王国が攻めてこれない状況になっているのはこの都市の領主は理解しているのだろう。


門をくぐると、獣人が頭から突っ込んできた。

モロに鳩尾に頭が入り吹き飛ぶ。


「ゼディス様ぁあっぁ」

「ぐはぁあ!!」


女性の犬の獣人が跨っている。


この世界は多種族で成り立ている。

人間、エルフ、ドワーフ、獣人、魔族。

獣人はワーと呼ばれる。

もともとは人間から変身能力を得た一族でワーウルフ、ワーラビット、ワータイガーなど多種多様である。

しかし、現在では人間の姿になるものはいない。

なる必要が無いからだ。筋肉も瞬発力も人間を遥かに凌ぐ、一部の魔法も使える。

神聖系は使えない……もっともエルフも神聖系は使えない……理由はあるがとりあえず置いておく。

なので、人間に戻ることを忘れ獣人の姿のままでいるのが一般的になっていた。

昔はその姿が忌み嫌われていたらしいが徐々に町に増えていってそのうち普通の存在となっていたからだ。


で……彼女のその瞬発力と筋力のある体当たりを食らったら悶絶するのはあたりまえである。


「まぁ!! 大変! まさか敵に拷問を受けてこんな傷ついているなんて!!」


ワードック……ゴールデンレトリバーの彼女は立ち上がり、青い顔をして口元に手をやりオタオタしている。


「明らかにお前のせいだろ!」


咳き込みながら立ち上がるゼディス。

だが、ワーレトリバーの横の女の子ドワーフがさらに鳩尾にコークスクリューを叩き込んだ。


ドガッ!!

「んぐはぁっ!!」


「勝手に私たちを庇って捕まるな!!」


涙目のドワーフっ娘は殴った拳を震わせている。

もっとも、ゼディスは腹を押さえてビクビクと痙攣している状態だが……。


「ドキサちゃんもすごーーぉく心配していたんですよ」

「黙れ! ショコ! 心配などしていない!!」


ワーレトリバーがショコ、ドワーフっ娘がドキサ。

二人は同じ傭兵で駆り出された仲間だった。

もっとも、ここ数週間、戦争で一緒だっただけだが身代わりに捕まったことで心配していたんだろう。


まだ、ビクンビクンと動けないゼディスを二人は見る。

だんだんと冷や汗が出てくる。


「ま……まぁ……こいつが悪いわけだし……」

「ドキサちゃん……」

「とりあえず……宿屋で休ませよう……そうだ、敵兵に捕まって疲れてるんだろう……」

「絶対違うと思います……」


ドキサはゼディスの首根っこを摑まえ引きずる。

身長的にドワーフは低いので担ぐか引きずるの選択肢になるのだが……。


ショコはため息を吐きながら、ドキサの後を付いていく。

本来ならショコもゼディスにダメージを与えていたのだが……それはそれ、これはこれ……。







ドワーフは身体が丈夫でちんちくりん……魔法は神聖魔法のみ使える種族である。

ただ、手先が器用で鍛冶師が多い。一部の獣人などに引けを取らないほど力が強い。

人間に次ぐ人口の多さ、男女比率は5:5で人と同じである。



ゼディスは宿屋で目を覚ます……戦争前に泊まっていた宿屋だろう……

まだ、鳩尾が痛い……記憶ははっきりしている。


神聖魔法で治すことも可能だがマナがもったいない。

体内にあるマナという力を使って魔法を使うのだが、使うと回復まで時間がかかる。


部屋がノックされ、返事も待たずに髭面のドワーフの男が入ってくる。

同じ傭兵の小隊にいた名前は……え~っと。


「ドンドランドだ。いい加減覚えろ」


名前を覚えていないのが顔に出ていたのだろう。

鳩尾を殴りながら、名乗る。


「す……すまん。ドワーフは何かあると鳩尾を殴る種族なのか……?」


ぐぬぬ、と唸りながら尋ねる。


「そんなわけあるまい。そんなことより、良くお前さん生きて帰ってこれたな。噂では敵将軍にドラキュラがいるって話だったが? 会わなかったのか?」


ドラキュラの名は恐れられている。

まさに頭から人を貪り食うぐらいのイメージになっている。


「あぁ会った。エイス……エルフだった」

「なるほど。エルフか」


エルフはあまり好まれない種族である。美しく賢いため他種族を蔑んでいる者が多いからだ。

とくにドワーフとは仲が悪くエルフからすると「泥臭い」。

ドワーフからすると「ヒョロヒョロのツタのよう」と罵り合うのは日常の出来事だった。


その為、ドラキュラがエルフだと聞いてドンドランドは「嫌なやつはだいたいエルフだ」と納得していたのだった。


「だが、俺の見立てだとタダのエルフじゃねぇな……」


ゼディスが少し声を落しドンドランドだけに聞こえるように話す。


「……どういうことだ……?」


それにつられドンドランドも小声になる。

敵に聞かれないようにするが如く……。


だが、ゼディスは語るわけではなく、ジェスチャーでボンキューボンっと手で描く。

どんだけスタイルがいいかを表している。

ドンドランドが生唾を飲み込む。


「そんなに……か?」


コクリっと頷き、


「あれは突然変異だな……」

「いいや、そうとは限らんぞ。ワシが見たエルフもこう」


っとジェスチャーしようとしたところで、ドワーフっ娘ドキサがゼディスにドロップキックをかました。


「扉をあけっぱなしで、何、真剣にセクハラトークしとるんじゃぁ!!」

「しょ……小隊長……」


ドンドランドは扉を閉めていなかったから丸聞こえだった。

そして傭兵小隊の隊長はドキサだった。

だから、身代わりにゼディスが残ったことに腹を立てていたし悔やんでもいた。


小隊は12人一組である。

隊長、副隊長、ほか兵士10人から成り立つ。

傭兵隊なので隊長と副隊長だけ正規兵である。


「まったく、傭兵だからってやりたい放題だな……とくにゼディスは……フィンバロネスがお呼びだぞ」


バロネスは男爵の女性版爵位である。


副隊長のショコがゼディスに近づく……。


「気を失ってますけど……」

「……」


ドロップキックの威力が重すぎた。


「とりあえず、まだ本調子じゃないんだろう……寝かせてやれ……」

「いやいやいや、あんたのドロップキックのせいだろ」


ドンドランドのツッコミを無視して、ドキサは両手を腰に当て笑いながら出て行った。






一日で二度も気絶させられたゼディスが起きたのは夕方だった。

ドキサに連れられフィン邸に連れてこられている……イヤだと言ったのだがズルズルと……

傭兵が男爵に呼ばれてもろくなことがない。


道すがらこの町の状況をみると5割は人間、3割はドワーフ、2割は獣人である。

エルフと魔族は見当たらない。

もっとも魔族が人間社会になじむことはなく全ての種族の敵と見て大方間違いない。


そして女性の割合が高い。7:3で女性の方が多い。

これはこの町に限ったことではない。

もともと人間以外の出生率は女性の方が圧倒的に多いのだ。

ドワーフは6;4、獣人は7:3、エルフに至っては9:1。

ただ魔族だけはエルフの逆で男が多いらしいが詳しくは知られていない。


フィンという女性にあったことはない。

この都市の発展具合からいえば十分に優秀なのは想像に難くない。


門の前にくると、二人の門番がドキサとゼディスを止める。


「フィンバロネスに呼ばれてきた第11番隊10隊のドキサだ。」


ドキサの階級は低い……だが、実力は相当なものだと知られている。

ただそれを嫌うものが多く決死隊で敵物資を襲うという役を回されたわけだが……。


門番はすぐに確認を取ると「どうぞ」といって道を開ける。

屋敷の大きさは半端ない……門から庭園を通り玄関に着くまで5分弱……。

広い家に住みたいがここまで広いと面倒そうだ。


ノックすると、しばらく間があってから扉が開く。

使用人が扉まで来るのに時間がかかっているのだろうと推測できる。


中には執事とメイド二人が立っていた。

全員人間である。

執事は恭しく頭を下げ、


「お待ちしておりました。ドキサ様……フィン様がお待ちかねです」


それだけ言うと踵を返し屋敷の中案内し始めた。

心なしかドキサが緊張しているように感じる……。


大きな階段を上りすぐの扉で立ち止まる。


「こちらがフィン様の執務室になります」


案に身だしなみと心の準備をしろ……と言うことなのだろう。

ドキサとゼディスの様子を見てからノックをする。


「フィン様、ドキサ様がおいでになりました」

「入れ……」


執事が扉を開けると、赤髪の長身の女性が立って窓の外を見ていた。

ドレスではなく軍服のようなものを着ている。


後姿でもわかる……彼女は獣人だった……それもドラゴンの……。

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