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神聖ドードビオ王国

 転移魔法陣からフィン領付近に着く……正確にはゴブリンの洞窟前。パカパカと馬車を進ませていくと、すでに待ち合わせ場所に、いつものメンバーがいた。ギリギリで着いた感じだ。予定通り……本当に予定通りかどうかは置いといたとして……。ドキサを含め四人。

 馬車からゼディスとシルバ、フィンが降りる。


「ずいぶん、豪勢な登場の仕方だな」

「エルフ!?」


 シルバーニがエイスの姿を見て驚く。フィンも驚いている。……いや、いや、お前の方が希少種だから……。

 まずは、それぞれが自己紹介をしていく、ドキサ、ショコ、ドンドランド……エイスとシルバーニの紹介のときは一触即発の雰囲気になる。忘れていたが、敵国同士だった。もっとも帰還兵から休戦の手紙を受け取っているらしいが……。

 先に手を動かしたのはシルバだった。握手を求める……。少し迷った挙句、エイスも応じる。どちらにしろ、ココに来た時点で一緒に冒険するのは確定だから仕方がない。フィンも一応、自己紹介をしておくが彼女は冒険に参加しない。自領があるので身動きがほとんど取れないからだ。


「困ったことがあったら行ってくれ。力になる。もちろん、宿泊なども用意しよう。」

「王様にシルバのことを謝っておいて!」

「それは私の力を超えている」


 まぁ、そうだろうなぁ、と思いながら諦める。これから屋敷で相談するか聞かれるが先を急ぐということで、フィンだけ馬車で帰っていく。


「ワシとしては、そこまで急ぐ必要はないと思うんじゃが?」

「ところが、超急用がある。ついてきてくれ。」


 今までの事情を説明しながら、転移魔法陣へと歩いていく。要するに、ほとんどの場所を魔族側に使えないようにしなければならない。まだ、数か所なので相手に気づかれていないだろうから、相手が書き換える前に先手を打たなければならない。操作方法の説明や、実際に移動してみたりする。で、書き換えていく。これを手分けしてやるのだが、エールーン王国、つまり魔族の王国付近だけは手を付けないように忠告する。単体で見つかればそこで終わる可能性が高いからだ。それぞれの地域を確認し、待ち合わせ場所を相談する。


「待ち合わせ場所が難しい」

「なんで? ここでいいじゃん?」

「次の目的地で待ち合わせした方が効率が良いからじゃないんですか?」


 ショコの言う通りである。ただ、次の目的地を決めかねている。


「次の勇者の力を受け継いだ奴のところでいいんじゃないか?」


 エイスの言うことはもっともなのだが、今いないのは、賢者ローロット、大神官ゼティーナ、破壊王バーキュの三人の力を受け継いだ者。わかっているのは二代目大神官ゼティーナが神聖ドードビオ王国にいるということだけだ。逆に言えば、ここはいつでも行ける。


「それに他にもやらなければいけないことがある。まずは、お前たちに『オーラ』を習得してもらうこと」

「『オーラ』? なんですかそれは?」

「説明は後回しにする、やらなきゃならない事の確認を先に済ませる。それに、それぞれの引き継いだ武器を探さなきゃならない。シルバならアルスの剣のように……」


 おぉー! とどよめくが、折れた剣を見せるとビックリされる。そこでまた折られた経緯の説明をシルバがする。みんな、良い顔はしない。伝説の剣が折れているんだから、引き継いだ武器があったとしても勝てない可能性が高いと考えているのだろう。


「あとは、アルスの剣の修復。これも早めの方がいいだろう。シルバが戦力として数えにくくなる。これは同時にみんなの武防具を新調できる……が、その前に……」

「お金が足りないから冒険か?」

「ご名答。運がいいことに、今回、俺はAクラス冒険者になったので、大きな仕事ができることになる」

「結論をまとめますね。まずは冒険をしつつ、お金を貯め、武防具の新調します。その間に、伝説の武器、7人の勇者の情報を集め探す。という方法になります。導き出される答えとしましては二代目大神官ゼティーナがいるという神聖ドードビオ王国で冒険ギルドの仕事を受けるのがいいと思われますね」


 ショコが結論づける。うん、理にかなっているような気がする。

 ではまず、全員で神聖ドードビオ王国に行き、宿屋を取る。残念なことにお金が無いので二流の宿屋『光の一撃亭』に拠点を置くことにする。いつかは一流宿屋を目指すぞ! おー! という流れでそのまま転移魔法陣の書き換え作業に移る。

 かなり量が多く、一週間ほど書き換え作業にかかってしまう。やっとここからスタート地点だ。


「まずは、お金がない」

「一週間タダ働きですからね」

「そろそろ仕事を受けましょう」


 ドードビオ王国も大きい。まず目立つのは神殿とその隣にある巨大な噴水……その後にお城だ。『神聖』と付くだけあって、神官が政治的権力も持っている。大神官になると王と五分の権力があるとか。


「船頭多くして船山に登る」

「黙ってなさい!」


 エイスに頭をはたかれる。まずは『二代目大神官ゼティーナに会うか』という意見があったが、シルバが反対した。


「なんで? ゼティーナが仲間になったなら、戦力が増えるし、ドードビオでの生活も楽になるわよ?」


 シルバが王女だということを感じさせないドキサの言葉遣い。意識してそうしている。仲間という意識と、他にバレないようにという配慮がある。


「たしかにその通りですが、まず、神殿に入るのに寄付金を求められる可能性があります」

「あぁ、たしかに……。神様、お金、好きでしょうからね」


 エイスが見下したように納得する。エルフに信仰心はない。実際、神の奇跡を目の当たりにする機会があっても信仰しないのは、彼女たちが精霊使いだからだという説がある。彼女たちにとっては精霊も神も同格だから、崇めないのだと言われている。決して神を低く見ているわけではない。ただ精霊を人間が神以下に見ているのが解せないのだ、ということらしい。ようは人間のやり方が気にくわない。


「まぁ、たしかに貧乏人が直接ゼティーナに会うのは難しいでしょうね」

「世の中、お金よね~」

「金じゃなぁ~」


 ドワーフ、二人がため息を吐く。

 その午後、冒険者ギルドを探しに行く。ドードビオ王国でも冒険者ギルドは多い。『神の拳』『道の探究者』『光の剣』『白き騎士』……色々と取り揃えている。仕事もそのギルドで若干、偏りがあるらしい。たとえば冒険者ギルド『神の拳』の場合だと賞金首を探す仕事を基本的に取り扱っている。『道の探究者』は洞窟探索、財宝探索。なんとなく決まっているらしい。ゼディス達は『光の剣』に入ることにした。

 ギルドの中はそこそこの人数が仕事を探していた。掲示板には張り紙がたくさん貼ってあり、仕事自体も多そうだ。適当に探す。金になればいいし、このメンバーならそこそこ戦えるだろう。具体的にはマンティコア数匹ならいける。


「Aランクの依頼がありますね」


 ショコがビックリしたように指さした。『ドラゴン退治、同行者有り』。同行者が無い方が不思議だから当然だが、よくよく見ると、貴族のお坊ちゃんにドラゴンを退治させたいんだと……。死ぬつもりかね~。横からワーイグアナのおっさんが声をかけてくる。


「その仕事の主は、デアントゴン伯爵だよ。あの葉巻咥えたハゲのおっさんさ!」


 どうやら葉巻咥えたハゲで通じるくらい有名な伯爵らしいが、まったく知らない。イグアナのおっさんが言うには、金でモノを言わせやりたい放題らしい。今回も息子に金で武勲を上げさせようという腹積りらしい。無謀もいいところだ。さすがに受ける人間はいないだろうと思っていたら、案の定、ギルドの店員が張り紙を剥がす。


「?」


 剥がしたが、新しい紙に張り替えられる。ショコが確認する……いや、イグアナのおっさんとかいろんな人が確認していく。そして、大笑いだ。


「大変ですよ。ゼディス様! さっきのドラゴン退治の同行人の人が部下を連れてドラゴン退治に向かったまま帰らないから、連れて帰って欲しいという依頼に変わっています!」


 エイスとシルバが呆れている。ちなみにドワーフ二人組は大笑いだ。


「そんな馬鹿がいるとはな! ドラゴンの恐ろしさを知らんのか!? ワシなら7魔将と闘う方を選ぶわ!」


 もっともドラゴンにも強さのランクがある。下からドラゴンパピー、レッサードラゴン、ノーマルドラゴン、グレートドラゴン、エンシェントドラゴン。さらに色によっても強さが違う、下から白、緑、青、赤、黒、金。要するに一番弱いのはドラゴンパピーの白、一番強いのはエンシェントドラゴンの金となる。

 この依頼はドラゴンとしか書かれていないので、色も個体もわからない。まぁドラゴンと書いてあるので普通に考えればノーマルドラゴンと考えればいいのだが、その強さは王国の中隊レベルになる。

 中隊の説明をすると、小隊が10隊と隊長、副隊長それに補給隊が付いた人数である。およそ150人が中隊。通常のドラゴン一匹でそれなのに、冒険者がどうこう出来るレベルでないことは言うまでもない。せめて冒険者も100人単位で集めるならまだしも……。ちなみにエンシェントドラゴンは7魔将より上だという論争は今も続いているほどだ。

 その、依頼を取った者がいる、どんなアホだと思ったらシルバだった。


「放っておけません! 私たちで助けに行きましょう!」

「冗談じゃない! バカが勝手に死にに行ったんだ! 放っておけ!」


 エイスが机を叩く。二人は激しく睨み合う。

 そこに先ほどのトカゲ(イグアナだが)のおっちゃんが割り込んでくる。


「お嬢ちゃんたち、どっちにしてもAランクじゃなければ受けられないぞ?」

「Aランクです!」「Aランクだ!」


 ゼディスがAランク証をギルドに提出する。冒険者ギルド内でどよめきが起きる。ギルドの人が受け取ったAランク証を掲げて『Aランクです! Aランクです!』とアピールしている。何のアピールなんだ? ギルド内で拍手が起こる。状況がさっぱりつかめない。


「Aランクが珍しいんですよ」

「そーなんだろうけどなぁ……」


 ショコは納得しているが、ドンドランドは納得していない……。


「どーすんの? アンタ次第って感じだけど?」


 ドキサがローキックを入れて訪ねてくる。早くしろとの合図なんだろうけど、口で言え。


「まぁ、受けるけどな。」


 シルバがしたり顔でエイスを見下す。『ぐぬぬ……』と下唇を噛み、納得いかないと喰いかかってくる。


「なんで、そんなボンボンを私たちが助ける必要があるの?!」


 『まったくだー!』『金持ちなんてくそくらえー!』という声援が飛ぶ。冒険者たちはAランクの話に興味津々らしいので、聞き耳じゃなくて囲んでいる。


「依頼金がいいのと、只のドラゴンなら、俺たちはそれくらいクリアしないとならないだろ? 今後のことを考えれば……」


 7魔将と闘うのだ。エンシェントドラゴンと闘うのはともかくとしてノーマルくらいは倒せないと話にならない。それを聞いて、エイスもコクンと頷いて納得する。他のメンバーも異論はない。

 それよりも、周りの冒険者が『ドラゴンくらいだってよ!』と言い『おぉぉ!!』と言って拍手するのが気になる。なにか? この国では何かあると拍手するのか?


 ドラゴンからの救出依頼をギルドの受付に提出する。Aランク証も確認されている。まさか、受ける者がいるとは思っていなかったのだろう。受付の人が喉を鳴らす。


「あんまり割のいい仕事じゃないが、Aランクのアンタがたが決めた結果だ。文句を言うのは筋違いってもんだね。まずは、デアントゴン伯爵様のお屋敷に行きな! これが紹介状だ」

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