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王都との別れ

 直線状に飛んでくる炎の矢は確実にゼディスの心臓に向かっている。後ろに飛び退いたのは失敗だった。地面に着地する前に届いてしまう。ロングソードで受け止め、炎の矢の軌道を変える。が、その一撃でロングソードは真ん中からバキンと音を立て割れてしまう。その場にいた、人間も魔族もそれで終わりだと思っていたが、グンデルの反応は違っていた。


「何ですと!? 私の一撃をただのロングソードで受け流した!!」


 魔力を大量に注ぎ込んだ炎の矢が、ロングソードで防がれたことに驚いている。折れたとはいえそんなもんで受け流せるような攻撃ではない。すぐさまエペで間合いと詰め、凄い速さの連続の突きを繰り出す。折れたロングソードでそれを素早く防ぐゼディス。

 見ていた兵士たちは大いに沸く!まさか折れていてもエペの連続攻撃を防げるとは思っていなかったのだろう。ひょっとしたら、勝てるのではないかという期待を持たせているようだ。


「まさか、私の力がこの程度だとは思っていませんよねぇ?」

「もちろん……勘弁してもらいたいけど……この程度でセンマ級ってことはないわな~」


 エペの突きのスピードがどんどん上がっていく。兵士たちの歓声がだんだん引いていく。もはや目で追えないスピードになっている。それでも、そのスピードについていくゼディスにも息を飲む。


「やはり只者ではありませんね。なぜ、アナタがセンマ級という言葉をしっているのですか?」

「ちょっとばかし長生きでね……。」

「他の階級もご存じ……ということですか?」

「魔界の階級は全部知ってるよ。最近のじゃなければ……」


物凄い速さの攻防が繰り返されているのに、会話は平然と行われている。ただ兵士たちには距離があるのと剣のせめぎ合いの音で聞こえない。グンデルの踏み込んだ重い一撃でゼディスが大きく後退し、距離が開かれる。


「素晴らしい力ですよ。それに炎の矢を防いだ方法が私にはわかりかねます。どうでしょう、手を抜いて差し上げますから、一つ私にご教授願えませんか?」

「ネタがバレたら、手を抜いてもらっても俺が即死だよ」

「交渉決裂ですか……なら、自分で確かめさせていただきます」


 エペの先から連続して炎の矢を放つ。先程、受け流した方法を見極めようという作戦だ。折れたロングソードをかざし、受け流していく。しかも刃のない部分で……ぶっつけ本番でオーラを使用しているのだ。正確に言えば、炎の矢が飛んできた一撃目から……。

 本来なら、戦いの中で試し試しオーラを習得していく予定だったが、すでに一撃目で致命傷になりかねないので仕方なかった。次に折れた刃のない部分で受けるのもアルスの剣が魔力で距離を伸ばせるなら、オーラでも伸ばせるハズという考えで受け流している。オーラが魔力を切ったり受けたりできるのは、シルバ達がやってのけたから出来るだろうという無茶ぶりである。あるが、そうしなければ現状、切り抜けられない状況なのは間違いない。かなりギリギリを強いられている。


「なにか、そのロングソードに力を与えていますね?魔力付加(エンチャントウエポン)? しかし、それで炎の矢が防げるとは思えませんね~?」


 右手にロングソードを持っているために、グンデルは左側に回り込むような形で炎の矢でけん制しつつ間合いを詰めていく。そして、一気に切り込んできて、連続の突きと、ときたま炎の矢を織り交ぜ攻撃してくる。速さと距離と威力が増す。実際、見ている人間、魔族にも被害が及んでいるが、そいつらを気にしている余裕はない。

 ギンギンと音を立て剣を交えてはいるが防戦一方、その時、背中から炎の矢が刺さった。誰かが攻撃に割り込んできたのかと思ったが、どうやら違うらしい。


「な……に!?」

「あぁ、言ってませんでしたっけ? 私、エペの先から炎の矢を出しているんじゃないんですよ。半径20m範囲でしたら、どこからでも炎の矢が出せるんです。」


 わざと炎の矢をエペの先からしか出さなかったのだ。何度も繰り返し見せることで、そこからしか炎の矢が撃てないと刷り込んでいく。そして正面に攻撃に集中し、防御に専念せざる状況が出来るまで待っていた。

ゼディスは両膝を付きその場に座り込む。背中の感触から大きく裂け、血が溢れ出しているのがわかるが、諦めるわけにもいかず、折れたロングソードをグンデルに向ける。

 ゼディスの周りに大量の炎の矢が空中に並べられていく。100本以上は取り囲んでいるだろう。それだけでグンデルの魔力量が普通の魔族より超越していることがうかがえた。


「もう、勝負はつきましたね。色々聞きたいこともありましたが、そこまで気にする必要はっぁあ!!

ぐはっ!?……この距離で…………!?」


 グンデルは自分の喉に触れると、熱い液体が流れていることが確認できた。首を切られている。ゼディスの攻撃だと理解したが、彼のロングソードの間合いには入っていないはずだった。

 そのまま、ゼディスはグンデルの首を右から左へ刎ね飛ばした。オーラにも切れ味と距離を伸ばすことが出来る。通常は淡い光を帯びるのだが、使い方次第ではそれを抑えることもできるようだ。ゆえにグンデルは最後までオーラの存在を認識できなかった。

 もちろん、グンデルと同じようにゼディスもワザとロングソードの距離で闘っていた。伸ばせることがバレないように、そして最大まで油断したときを狙うために……。必ず、ゼディスが気づかないような技を使ってくると踏んでいた。そして、一撃で殺さず嬲り殺しにするだろうとも……。


「やられたフリ……だったわけなんだがな。俺を舐めきっていてくれて助かった。」


 グンデルの頭と心臓を切り裂いて確実にトドメを刺しておく。相手の司令官を倒したことで歓声が沸き兵の士気が上がる。魔族たちは撤退に切り替わる。今回の闘いはこのまま幕を降ろすことになる。他の場所でも魔族たちは総崩れになり、敗走兵となっていくが、元から帰る場所などなく撃ち滅ぼされていった。飛べる魔族だけが逃げ去り、他は全滅となったが、おそらく魔族の本国としては痛手ではないのだろう。




 魔物を完全に撃退するまでに、3日かかった。ちなみにゼディスの傷は1日で治った。て、いうか自分で治した。魔力さえ回復すれば何とでもなる……のだが、そのあと兵士の傷を治すのに追われていた。別に『王国の神官じゃないのにな』とも思ったが、無視すると居心地悪そうなので仕方ない。ときたま『死人を生き返らせてくれ~』って言う人もいたが『無理です』と言って断った。これ以上肉体が無くなるのは勘弁してもらいたい……というか、死んじゃうから……。王、王妃、王子たちは全員無事。強かったらしい。国民が称賛しているから、結構活躍したのであろう。当然、将軍たちも活躍していたようだ。外から援軍に駆けつけたシルバ、レクサ、エデット、フィンも称賛されている。


(……あれ? 今回の勝利の立役者は俺のハズなのに?)


 かなりのゴタゴタで名前の知られていないゼディスは忘れ去られていた。まずは誤解を解き、小隊から除隊して、あとで盛大なパーティーがあるから『そこで表彰される』と言われていたんだけど、けが人が多くて、そっちの治療に駆けずり回っているうちにパーティーは終わっちゃって、終結させた立役者は今回のパーティーを『辞退』したことになっていた。おかげで街の人たちはゼディスの存在を知ることはなく、将軍か王族が魔族の指揮官を倒したのだろうと推測していた。

 そしてようやく、王の前に呼ばれた。呼ばれた理由が多すぎてわからない。久しぶりに王への謁見の間へ通されたので礼儀作法を忘れていた。とりあえず、王の前でお辞儀して跪けばいいだろう……怒られたら、その時考えようと判断。大体、間違っていなかったか、大目に見てもらえたようだ。


「このたびのそなたの働きは大変、見事であった。」


 どの働きだろう?マンティコア退治は……ギルドだとして、第一王女復活、7魔将撃退……はあんまり関係ない、魔族司令官撃退、兵士の介護、城下町の再興の手伝い……も薄いか。

 どれでもいいか……と思って、適当に「有難うございます」と頭を下げる。

 それにしても、将軍が2人帰ってきたので現在6人、鼻髭クルンクルンのおっさん(名前忘れた)と、イカツい白髪白髭の老人……たぶん、高齢だと思うがガタイがすごくいい、エデットのおっさんといい勝負だ。


「そこで、そなたに爵位を取らせようと思うのだが……」

「お断りします。」

「ほう、なぜかね?」


 宮廷魔術師のおっさんがいう……そう言えば、いまだに名前知らない。よく、悪役の代表として名前が挙がるのに……。


「領土の管理が出来ないからです」

「それなら安心したまえ、管理者はこちらで信用できるものを用意する」


 まず、宮廷魔術師が信用できない場合はどうするんでしょうか? という質問は置いておいて。


「それに、私には目的があります。出来ればそちらを支援していただきたい!」

「なんだね? 王様にでもなりたいのか? それはちょっと虫が良過ぎるというモノだぞ」


 ケタケタと笑う宮廷魔術師。


「じつは、私は7魔将と闘おうと思っているのです。そこで7人の勇者の力を引き継いだ者たちを仲間にしたいと思っているのですが、力を貸していただけないでしょうか?」

「何を馬鹿なことを!」


 王様が隠していた7魔将の存在は結局のところは無駄足になってしまった。エデット将軍からの報告と、今回の大規模な攻撃により白日の元となっていたからだ。それならそれで、話が早いというわけでシルバーニを仲間に引きずり出そうという作戦に切り替える。

 意外にも喰ってかかってきたのは、大司祭。だけれど、王はあっさり承諾する。ある意味、織り込み済みの話だし。


「余はシルバーニ第二王女を旅に出してもよいと考えておる。サイアン大司祭、では7魔将を放っておくというのか?」

「そ……それは、しかし、一国の王女が冒険者などと一緒に旅なんて……」

「よいではありませんか、サイアン大司祭」


 その意見に賛成してきたのは、宮廷魔術師。こちらとしては、宮廷魔術師は賛成すると思ってはいた。なにせ王位継承権第2位がいなくなってくれるに越したことはないだろう。ここで派閥争いが役に立ってくれる。

 赤の将軍、エデットが口を挟む。


「彼はAランク冒険者ですから実力的に問題ないかと思われます。それに他にも勇者の力を受け継いだ者たちと同行するらしいです」


 他の将軍も『Aランクなのか』と感心する。するが、Aランクになったのは昨日の話。冒険者ギルドに行ってマンティコアの部位を大量に渡して、Bランクになり、そのまま王宮へ直行でAランクという荒業。知られたら縛り首になりそう。王妃が率先してやってるので問題ないとは思いますが……。

 他の勇者の力を受け継いだ者たちは……ドキサとか? 覚醒してないのでまだ弱いのは黙っておく。

 サイアン大司祭もさすがに唸る。それでも王女を冒険に出す理由には足りない気がする。いや、はっきりいえば、みんなシルバーニをどこの馬の骨ともわからない男に同行させることを望んでいるわけではない。

 髭クルンクルンの将軍が反対する。


「どこの馬の骨ともわからない男に同行させるのはいかがなモノかと思います。」


 みんなが言いたかったが言えなかったことをズバッという。その通りなんだが、凄い。今回それなりに活躍したゼディスを『馬の骨』と言ってのけた。


「そうですね。私も反対です。もしシルバーニ様を7魔将と闘わせるなら、軍を動かすべきです。少なくとも1大隊程度は……」


 宰相がその話に乗ると他の将軍からは多くの反対意見が出る。たしかに王女だが、大多数で行くのは戦争のときだけだ。じゃなければ敵に居場所を教えているようなものだ。暗殺されるなり夜襲をかけられるのがオチということに気づけない。戦争はプロでも、冒険者としては二流の将軍たちだ。なぜ7人の勇者が7人だけ(・ ・)だったのかを考えていないのだろう。

 結論からいえば、シルバーニを城から連れ出すのは、反対多数で無理となってしまった。王が押し切るという強硬手段も無きにしも非ずだが、魔物に攻められたこの時期にそんなことはできない。7人の勇者を仲間にするのを失敗した。

 時間をかければ、王都内で勢力を強めていき、引き出す手もあったが、残念ながら今回は時間制限ありなので諦めるしかなかった。次があるかはわからないが……。


 さらに数日後、娼婦の館で情報収集もしておいた。今回の魔物の攻撃により、王都全体は大打撃を受けたが、その中でも、娼婦の館『ゴールデンタワー』は武防具の取引を行っていたため、被害額をかなり補填できたらしい。魔族の狙いは噂ではシルバーニを狙ったものではないかということだ。それから強力な魔物がほとんどいなかったため、様子見ではないかというのが一般的な見方となっている。


 結局、目的が達成されないまま、フィンの馬車でフィン領まで帰ることになる。馬車に乗るとフィンと見知った顔がいる。シルバーニだ。


「どうなってんだ? お見送り?」


 指さし、フィンに尋ねる。


「家出です。父と喧嘩しました」

「と、いうのが、建前らしいです。王妃様の入れ知恵だとか……あの人も何を考えているんだか……」


 厄介ごとに巻き込まれたと、フィンはため息を吐く。「迷惑はかけません」とキリッとした顔で言うが、すでに迷惑なのは本人は気付いていない。


「大丈夫かね~?」

「ダメだろうな~。できればゼディスは二度と王都に行かない方がいいだろうな。たぶん王女誘拐犯だ」


 それでも、7人の勇者の内の一人を確保できたからいいかと思う。もう王都に行けないけど……。

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